『旧題』 バイオハザード~インクリボンがゴミと化した世界~ 作:エネボル
ジョー・ナガトの手記 ???
《速記文字による》
死ぬ前に一度は酒を試してみたい。
そう思って俺は、友達が店に隠していたボトルの一本を拝借した。
しかし飲んではみたが、さして美味いモノだとは思えなかった。
だが、“酔う”という感覚自体は悪くない。
そして酒を喰らいながら微睡み時間を潰していると、何故か古い過去の情景が脳裏を過った。
――――例えば俺達一家が、この街に引っ越しをした日の出来事とか、だ。
ガキの頃。不思議な事に引っ越しをしたその日に俺は、この初めて訪れた筈の街『ラクーンシティ』に対して、強い忌避感を感じた。
またその事が原因で、激しく泣き叫んだ日もあったと、親父が語っていた。
ふと、そんな出来事を思い出した。
今更だが、俺にはその日の出来事が、現在の状況を示唆してのける一種の虫の知らせのように思えた。
しかし本当に予兆が真実だったとしても、当時の俺に何が出来たのかっていう話になるのだが……まぁ、ままならないのが『人生』だ。
つまりこの状況はまさに、神が俺に与えた試練なのだろう。
そう考えると俺は心底、神と呼ばれる存在がクソに思えた。
知っての通り、このラクーンシティには現在、無数の
冗談のような話だが、生憎とこれが“真実”だ。
そして俺は今、まさに腹を空かせて至る所で呻き声を上げる怪物達の真っただ中に居る。
まさに『泣けるぜ』という台詞しか出てこない。
あぁ、本当に泣けるぜ……クソったれ。
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この街に蔓延るようになった動く死体の事を、いつしか『感染者』と呼んだ。
奴らには昼と夜の区別が無く、ひたすら餌を求めてグルグルと無軌道に這い回り、白痴のように呻き散らす……故に、その姿はまさしく『不気味』。
――――とはいえ、今となってはそんな奴らに対する不気味さにも慣れた。
もはや目障りで、不愉快で、心底
正直まともに相手してやる事、それ自体に飽いたというのが偽らざる本音であるし、何より俺もそろそろ他の連中に倣い、この辺でゲームセットする事を考えるようになった。
最初の頃はこのクソみたいな試練を乗り越えてやろうと気を張ったが、余りにも色々な事があり過ぎた。しかもこの先、俺にはこの世界で生き続ける事への希望を見出せる気がしない……そんな考えが頭に張り付くようになった。
――――加えて、俺の
天使の放った核の炎で、文字通りの滅菌処理。
『バイオ・ハザード』でおなじみの
それを思うと、これ以上の抵抗が余りにも無為に感じられてしまった。
此処で素直に終わりを迎えておくのも一興かもしれない。
そしてもし俺に次の『生まれ変わり』なんてモノがあるとしたら、その時はもう少し平和な世界であって欲しいと心の底から願う。
最低でもゾンビが街を闊歩しない世界が良い……と思ったが、俺は既に神を見限っていたなと思い出した。
あぁ、まさに夢も希望も無い。クソったれ……!
思い出したら、また腹が立ってきたぜ。
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酒の所為か、知らぬ間に少し意識が飛んでいた。
あと、外がうるさい……。
その所為で目が覚めた。
それにしても、こんな状況でうたた寝をするなんて我ながら図太くなったもんだ。それとも、これがアルコールの魔力って奴か?
――――まぁ、それより問題は、先程から派手に銃をぶっ放してやがる外の大馬鹿野郎だ。
発砲音からして得物はハンドガン。しかしロングマガジンでも使ってやがるのか、発砲のリズムが妙だ。連射の回数も多い気がする……まぁ、威勢が良いのは大変結構。
しかし気張った結果、いざ自決をするってタイミングで弾を切らしそうな間抜けの予感がした。
『銃弾は最低でも一発は残しておきましょう』とは、ここ数日以内に生まれたこのラクーンシティの新しい標語だ。そして俺は、この街の数少ない生き残り……。故に、それをよそ者に対して教える事は、俺に課せられた義務かもしれない。
酩酊した頭で俺は、なんとなく一度くらいは忠告をくれてやっても良いかもと考えた。
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