パンデモニウム   作:通りすがりの投稿者

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第1話

 覚醒は突然だった。

 心地よいまどろみから目覚めるように、ふと気づけば訪れていた目覚め。

 肌を愛撫するように、優しく柔らかに吹き抜けていく風はひんやりとした涼しさと芳醇な香りを孕んでいた。

「……ん?」

 はて、ここはどこで。自分は、何をしていたのだったか?

 あたりを見渡せば、生い茂る木々が視界を遮り。頭上へと目を向ければ、重なる梢の隙間から無数の星々が煌く夜空が垣間見える。

 ひどくクリアな視界に違和感を覚えて、メガネへと手を伸ばし――

「ん? んぅ……ぬ?」

 慣れ親しんだはずのメガネは手に触れることが無く、ぺたぺたと自分の顔を確認するようにまさぐる。

 おかしい。

 何かが、おかしい。

 髪をかきあげ、ひと房摘み上げてしげしげと確認する。

 よく手入れされているのだろうなと思わせる、艶やかな黒髪はさらりとして手櫛の通りも実によい。

 だが、自分の髪はこんなにも長かっただろうか?

 自分の胸元へと目を向ければ、実に豊かな双丘が目につく。

 試しに揉んでみれば、心地よい柔らかさが指先に伝わり。同時に味わう、胸を揉まれる感覚。

 これは、確かに本物の生身の自分の胸らしい。

 このあたりで、状況の認識がひそやかに追いついてきて、そっと股間へと這わした手が触れるべきものに触れることができずに、ただ股間を撫でるだけに終わった時には自分の状態を否が応でも認めざるをえなくなっていた。

 つまるところ、自分は女になっているらしい。

 

 

 衝撃の事実にフリーズしていた意識が再起動したのはどれだけの時間がたってのことだか。

 気がついたら、性別が女に変わっていたのも驚きだが、見知らぬ森の中にいるのもまた驚くべきことだろう。

 今の自分が置かれている状況がなんなのか、さっぱりわからない。

 最後の記憶では、自宅のベッドに潜り込んで眠りについたはずなのに。

 とりあえず、ありえそうな可能性をあげるとしたらこれは夢であるというもの。

 伝統的な確認方法として頬をつねってみるが、痛い。

 つまり、これは夢でない。

 明晰夢の類であれば、夢であることを自覚した時点で夢見ていることに気づけるというから、まず間違いないだろう。

 となると、気がついたら誰か別の人間の体に憑依かそれに類する状況になっていると考えるべきなのだろうか?

 ぺたぺたと、体をまさぐり所持品やら服装を確認する。

 絶対領域を形成する、丈が短い黒のワンピースと同じく黒のオーバーニー。そして、おそらくは革素材のブーツ。

 胸元を飾るのは蒼い宝石が嵌めこまれたペンダント。

 なにやら既視感を感じるのは気のせいだろうかと首を捻りつつも、キャンプや登山といった装備ではないのだから自殺志願でもない限り、この軽装ぶりからして近くに人家や道路でもあるのだろうと判断を下して、改めて周囲を眺め。

「……む?」

 何かがおかしい。

 しかし、何に自分は違和感を覚えている?

「あっ、いや……まさか……」

 周囲を眺める。

 ここが森の中であることがよく見える。

 頭上を見上げて、星々の煌く夜空であることを確認して、あたりを眺める。

 実に、よく見える。

 夜とは思えないくらいに、よく見える。

 見えすぎている。

「夜目が効くというレベルじゃないな」

 呟きとともに、かちりと歯車が噛み合ったような気がした。

 先ほどの既視感を確認するべく、胸元のペンダントを持ち上げてそのデザインを確認し。ぴらりとワンピースーの裾を摘みあげて、しげしげと眺めて同じように確認する。

 

 

 あぁ、と納得の思いが湧き起こる。

 

 

 この体は、着せ替えを楽しみ。絶対領域を作って悦に入っていたキャラじゃないか――と。




令和元年の内に、記念投稿。
元年に投稿できるなど、人生に何度もないですよね。
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