私たちは3人で 作:ゴマフアザラシ
雑居ビルが建ち並ぶコンクリートジャングル、から少し外れた路地裏にある3階建ての廃ビル。ここが私の秘密基地だ。
誰も近寄らず、誰も入らず、記憶の片隅にすら残されていない所有者不明のこのビルは好き勝手するのにちょうど良かった。学校は嫌いだ。決められた時間に決められた場所で固定されるのが嫌だった。家も嫌いだ。父親は居ないし、母親は毎日毎日知らない男を家に連れ込んで遊んでる。しかも毎回相手が変わるし、中には私を性的な目で見るやつだって居る。気持ち悪いから帰りたくない。
そんな私がいつも入り浸っているのがこの廃ビルだった。心置き無くゆっくり出来て安心する。
「謝花」
「・・・あ、伏黒。また来たの?」
「まあな。ああ、これ進路希望調査のプリント」
「律儀だねえ。机の中にでも放り込んどいてくれればいいのに」
「再提出の期限が明後日だから持ってきたんだよ」
「えー、明後日も行く気無いから伏黒が適当に書いて出しといて」
「出すのは良いが自分で書けよ」
「わーい、やっさしー」
廃ビル、3階、1番奥の1番広い部屋。真ん中にポツンと置いてあるソファに寝転がってる私と、その前に仁王立ちしてるクラスメイト。正直シュールだし映画のワンシーンにありそうだな、なんてしょうもないことを考えた。
そういえば伏黒はどこの高校に行くんだろ。3年に上がって暫くした今でもそういった話を全然してなかった。
「伏黒と一緒の高校行こうかなー、どこ進学するの?」
「・・・東京の呪術高専。でもお前は来るな」
「え、ひど。マブダチじゃん私たち」
「いいから来るな。絶対にだ。・・・まず入学出来ないとは思うけどな」
「すっごいdisられるじゃん私。泣くよ?」
ぶーぶーと文句を垂れてみたけど伏黒の意見は一貫して「お前は来るな」だった。酷いなーまったく。まあ都内に行くのは面倒だし、普通に県内の何処かにしよう。乗り換え無しで行けて駅近の学校がいいな。適当に調べて適当に出しちゃおう。あ、定時制の通信でもいいかもしれない。そっちにしようかな。
プリントをペラペラしながら考えていたら、気づいた時には伏黒は居なくなっていた。そろそろ夕飯の時間だしお腹すいたのかな?わかる、私も少しお腹すいた。
「・・・お兄ちゃん、お姉ちゃん。何か食べたいのある?」
体を起こして軽く伸びをしてから呟いた。お兄ちゃんとお姉ちゃんには食事は必要ないんだけど、どうせなら一緒に食べたいからいつも3人で食事をしている。もちろん今日も。
ううん、という呻き声と共に私の背中が服ごと盛り上がった。最初に出てくるのはお兄ちゃん。その後にお姉ちゃん。どんな原理か分からないけど、私の服が破れることはない。不思議だよね。
「俺はなあ、なんでもいいんだよなぁァァ」
「アタシはそうね、ハンバーガーがいいわ!あのジャンクフード?っていうの癖になる!」
「夕飯にハンバーガー?いいね、1番高いやつにしよ!」
お兄ちゃん、妓夫太郎。前世では鬼
お姉ちゃん、梅。前世では鬼
末っ子、私。前世では鬼
私たちは前世では3兄妹の鬼だった。3人で1つで、3人で上弦の陸だった。お兄ちゃんとお姉ちゃんが鬼殺隊と戦って死んだ時、隠れてた私も一緒に死んだ。というか殺して貰った。・・・だって、終わりが無いのにこれ以上戦って傷ついて欲しくなかったから。
生まれ変わったのは私だけ。人間になったのは私だけ。お兄ちゃんとお姉ちゃんは、私がこの世に産まれた時から私の中に居た。だから母親に育児放棄されても生き延びることが出来たんだ。ある程度自分で動けるようになるまで2人が私の世話をしてくれてた。
私は2人がいないと生きていけない。2人も私がいないと生きていけない。私たちは3人で1つ。
今度はずっと、3人で。3人で幸せに生きるんだ。