絶世の美女が俺の恋人に!? 前世は王女様とその従僕。いや、全部マッチポンプだから!   作:里奈使徒

15 / 30
第14話「恋の予感? 第二のヒロイン、関内 愛里彩との出会い」

 夕方の陽射しが校舎の窓を黄金色に染める中、俺は一人で校門をくぐった。

 

 久しぶりの一人下校だ。

 

 ここ数週間は麗良と一緒に帰ることが多かったが、今日は違った。放課後、麗良の携帯に次々と電話がかかってきたのだ。

 

「申し訳ない、ショウ。どうしても外せない重要な会議が入ってしまった」

 

 麗良は困ったような表情を見せながら、それでも瞳の奥には鋭い光を宿していた。

 

 最近じゃボディガードの黒岩さんも、俺の護衛ではなく麗良につきっきりだ。麗良は「臨時でボディガードを雇ってやる」と言ってきたが、俺は断った。

 

 知らないごつい奴と一緒では気を遣ってしょうがない。

 

 大丈夫、俺はもう安全だ。紫門たちも退院したらしいが、俺に直接手を出してはこなかった。あれだけ麗良に脅されたからね。

 

 ようやく普通の高校生活に戻れたのである。

 

 鼻歌を歌いながら駅に向かう。西日が街路樹の影を長く伸ばしている。改札をICカードでタッチして通り抜け、ちょうど滑り込んできた電車に乗り込んだ。

 

 車内は夕方のラッシュで混んでいた。スーツ姿のサラリーマン、買い物袋を提げた主婦、部活帰りらしい学生たち。俺は手すりに掴まり、ドアに寄りかかる。

 

 家まで三駅。携帯を取り出して暇をつぶそうとしていると、次の駅で電車が止まった。ホームから新たな乗客が乗り込んでくる。

 

 女子生徒が数人。堀恋高の制服だ。

 

 堀恋高等学校。芸能科があって多数のアイドルやタレントを輩出している高校だ。この郊外の路線ではほとんど見かけない。

 

 確かに、どの子もレベルが高い。

 

 特に、グループの中央にいるツインテールの子は、可愛さが群を抜いていた。

 

 身長は160センチ程度。スレンダーで上品な体型をしている。髪は美しいアッシュブラウンで、長い髪を左右に分けて結んだツインテールスタイル。前髪は少し長めで、片目にかかるように流されている。

 

 何より印象的なのは、その瞳だった。大きくて美しい紫がかった瞳は、まるで宝石のアメジストのように輝いている。少し垂れ目がちで、どこか憂いを帯びた表情が大人っぽさと可憐さを同時に演出していた。

 

 肌は陶器のように白く透明感があり、薄いピンク色の唇が印象的だ。

 

 まさに人気アイドルグループでセンターを務めていてもおかしくない逸材。可愛らしさと美しさ、そして少しの危険な魅力を併せ持つ美少女だった。

 

 車内の男性陣も彼女に気づいて、何度もチラ見している。

 

 いかん、いかん、あんまり見ているのは失礼だよな。

 

 慌てて目を逸らそうとした、その瞬間。

 ツインテールの子と目が合った。

 

 瞬間、彼女がニコッと微笑んできた。

 

 心臓が跳ね上がった。

 

 その笑顔は天使のように純粋で美しかった。少し恥ずかしそうに頬を染めながらも、確実に俺を見つめている。

 

 俺? もしかして俺に微笑んだの?

 

 動揺する俺のもとに、その天使が近づいてきた。すたすたと歩いてきて俺の前でピタッと止まり、上目遣いに見上げてくる。

 

「え、えっと、お、俺に何か用ですか?」

 

「白石さんですか?」

 

 彼女の声は鈴を転がすように美しかった。

 

「あ、はい、そうだけど、なんで俺の名前……」

 

「ふふ、名札つけたままですよ」

 

 慌てて名札を外し、カバンにしまい込む。浮かれすぎて気づかなかった。

 

「はは、失敗失敗。それで俺に何か用ですか?」

「お話がしたいなって思って。白石さん、タイプなんですよ」

 

 爆弾発言だった。

 

「うへえ、俺がタイプ? 嘘だあ?」

 

「ふふ、そんなに卑下しなくてもいいですよ。かわいい顔してます」

 

 顔が熱くなる。

 

「それに、その制服、南西館高校ですよね? 頭いい高校ですよね。私、頭のいい人って好みなんです。少しお話してもいいですか?」

「も、も、も、もちろん」

 

 こんな可愛い子に逆ナンされるなんて。頑張って進学校に入学してよかった。

 

 天使との歓談がスタートした。

 

 この天使の名前は、関内愛里彩ちゃん。アイドルグループ【LASH】のボーカルを務めているという。女子中高生を中心に人気急上昇中で、特に愛里彩ちゃんは一番人気らしい。

 

 確かにね。この子は、絶対に売れるよ。

 

 実際に話してみると、愛里彩ちゃんは会話の天才だった。男の言ってほしい言葉、くすぐられたいポイントを完璧についてくる。

 

「白石さんって、真面目そうで素敵ですね」

「いえいえ、きっと勉強も頑張ってるんでしょ? 私、努力家の人って尊敬しちゃいます」

 

 明るくて、社交的で、何より凄く可愛い。ああ、いつまでも会話していたい。

 

 愛里彩ちゃんと楽しく談笑していた時、それは突然起こった。

 

 キキキキー!

 

 電車が急ブレーキをかけた。車内が大きく揺れ、吊り革が一斉に傾く。立っていた乗客たちが将棋倒しのようによろめいた。

 

「うわっ!」

 

 慌てて手すりを掴む。愛里彩ちゃんもよろけて転びそうになっていた。反射的にもう片方の手で愛里彩ちゃんの肩を掴む。

 

「危ねえ。愛里彩ちゃん、大丈夫?」

「ええ、ありがとうございます。優しいんですね」

 

 彼女の肩は細くて華奢だった。

 

「あ、ごめんね。思わず肩を掴んじゃった」

 

 手を離そうとする俺に、愛里彩ちゃんが微笑みかける。

 

「いいんですよ。むしろ守ってもらえて嬉しいです」

 

 その瞬間だった。

 

 愛里彩ちゃんの細い指が、俺の手首を掴んだ。

 驚くほど強い力だった。

 

 何を——

 

 考える間もなく、俺の手が引っ張られる。

 彼女のスカートの方向へ。

 そして——

 

 柔らかい感触が、掌に伝わった。

 

 時間が止まった。

 

 愛里彩ちゃんの顔を見る。さっきまでの天使のような笑顔が、消えていた。

 代わりに浮かんでいたのは——冷たい、計算し尽くされた表情。

 

 その瞳が、一瞬だけ俺を見た。

 勝ち誇った、残酷な光。

 

 次の瞬間、表情が一変した。

 

「いやああああ!」

 

 耳をつんざくような悲鳴が車内に響いた。

 

「こいつ、痴漢よ、痴漢! 私のお尻を触ったの!」

 

 愛里彩が俺を指さし、大声で叫ぶ。その演技力は見事だった。本当に被害を受けた女性そのもののリアクションだ。

 

「な、な、何言ってんだ! 触ったって、あんたが無理やり——」

「ね? 皆さん見てたでしょ? この人が私のお尻を触ったの」

 

 愛里彩が俺の言葉を遮り、周囲に同意を求めた。

 

 その時、俺は気づいた。愛里彩の連れの女子たちが、いつの間にか俺たちの周りから離れていた。他の乗客から見えにくい位置に「壁」を作っていたのが、今は崩れている。

 

 俺が愛里彩のお尻に手を当てている瞬間だけが、乗客たちに見えるようになっていた。

 

 完璧な計算だった。

 

「こいつ、痴漢か!」

「取り押さえろ」

 

 周りの乗客が俺を取り押さえに乗り出した。筋肉質なサラリーマンが俺の両腕を掴み、別の男性が足を押さえる。

 

「放せ! 誤解だ!」

 

 必死に抵抗するが、力の差は歴然だった。

 

 電車が次の駅に滑り込む。ドアが開いた途端、俺は強制的にホームへ引きずり出された。

 

 地べたに押さえつけられる。冷たいコンクリートが頬に当たり、蛍光灯の白い光が目に刺さった。駅のアナウンスが、どこか遠くで響いている。

 

「冤罪だ。この女が俺をはめたんだ。俺の手をわざと掴んでお尻に当ててきたんだ」

 

 俺は必死に訴えるが、誰も耳を貸さない。言い訳して逆ギレしているようにしか見えないのだろう。

 

 騒ぎに気づいて野次馬がどんどん集まってくる。ホームの端から端まで、人の壁ができていた。

 

「何があったんだ?」

「痴漢だって」

「最低だな」

「学生のくせに」

 

 片方の意見だけ聞いて勝手な奴らだ。真実は冤罪なのに。

 

 そして、俺は見てしまった。

 

 野次馬たちに紛れて、一人の男が立っていた。

 腕を組み、満足そうに口元を歪めている。

 

 その顔を見た瞬間、血の気が引いた。

 

 紫門だった。

 

 すべてが繋がった。

 愛里彩が俺に近づいてきた理由。完璧すぎる「偶然」の出会い。仲間たちの不自然な動き。

 

 俺は、紫門の巧妙な罠にはめられたのだ。

 

 あの女、紫門の仲間かよ。

 

 愛里彩は天使どころか、とんでもない悪魔だった。その美貌と演技力を悪用した卑劣な罠だった。

 

「俺はやっていない。信じてくれ」

 

 必死の訴えも空しく響く。

 

「うぐっ、ひぐっ……嘘よ。ずっと私をいやらしい目で見てた。すごく怖かった」

 

 愛里彩は連れの友人の胸を借り、むせび泣きながら非難を続ける。なんと上手い嘘泣きか。

 

 愛里彩の連れも「そうそう」とうなずき、俺を罵る。

 

「この人、電車に乗った時からずっと愛里彩ちゃんを見てました」

「気持ち悪い視線を送ってたんです」

 

 彼女たちも明らかにグルだった。

 

 状況証拠は俺を痴漢と決めつけている。目撃者は全員、愛里彩の味方だ。か弱き乙女の涙ながらの訴えと、地面に押さえつけられた無様なモブ男子高校生。どちらが信用されるかは火を見るより明らかだった。

 

「ちくしょう、放せ」

 

 振りほどこうと暴れるが、二、三人がかりで押さえつけられている。

 

 俺がもがいていると、群衆の中から紫門が現れた。

 

「手伝いますよ。お仕事帰りの方のお手を煩わせるわけにはいきません」

 

 紫門は好青年の仮面を被り、さわやかに言う。まるで正義の味方のような佇まいだった。

 

「あ、その制服、同じ高校の……」

 

 取り押さえていたサラリーマンが気づく。

 

「はい、同じ学校の生徒として本当に悲しいです。僕が責任を持って、彼に罪を償わせます」

 

 完璧な演技だった。サラリーマンたちから俺を引き渡された紫門は、手慣れた様子で腕固めを仕掛けてくる。

 

「くっく、ざまあないな」

 

 群衆に聞かれないよう、耳元で紫門が囁く。

 

「くそ、紫門、こんな真似をして麗良さんが知ったら——」

「無駄だ。お前の犯罪現場は、ばっちり携帯で撮らせてもらった」

 

 紫門が携帯を振ってみせる。画面には、俺が愛里彩のお尻に手を当てている瞬間の写真が映っていた。

 

「これを麗良に見せたらどうなるだろうな~」

 

 どうもなりはしない。お前がキンタマを再び潰されるだけだ。俺と麗良の絆を舐めてもらったら困る。

 

 そうとは知らず、紫門は勝ち誇った顔で話を続ける。

 

「こんなに簡単にひっかかりやがって。親父のコネを使うまでもなかったな」

「なんだって?」

 

 嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

「相変わらずバカな奴だ。俺がただ大人しくしていたと思うかよ」

 

 紫門の表情が邪悪に歪む。

 

「親父に頼んで麗良の父親に話を通した。『娘さん最近おかしくないですか』ってな」

「まさか——」

「そうさ、近頃とみに忙しいのは、麗良が父親とやり合ってるからなんだよ」

 

 衝撃的な事実だった。

 

 麗良が最近忙しくしているのは、ビジネスの拡大だけではなかった。父親との権力闘争に巻き込まれていたのか。

 

 草乃月家の内部分裂。それは麗良の立場を大きく揺るがす事態だ。

 

「そんなことより白石、お前はおしまいだ。虎の威を借る狐も終わりだ」

 

 いや、それは心配していない。洗脳の効果は絶大だ。それより、麗良が父親とやり合っているというのが気になる。もしかして草乃月財閥の権限が麗良から失われつつあるのか。

 

 それなら、俺を守る力も弱くなってしまう。

 

「この屈辱は、万倍にして晴らしてやるからな」

 

 紫門が殺気を込めて俺を睨む。その目には、入院中に味わった屈辱への復讐心が燃えていた。

 

 駅員室に向かう途中、紫門は巧妙に身体で隠しながら俺の鳩尾に拳を叩き込んできた。

 

「痛え、くそ」

 

 息が詰まる。痛みで身体が九の字に曲がる。

 

「しっかりしろよ、白石。駅員さんに迷惑かけるなよ」

 

 紫門は周囲に聞こえるように優しい声をかけながら、実際は冷酷に俺を痛めつけていた。

 

 そして俺は、手錠をかけられたままパトカーに押し込まれ、警察署に連れて行かれた。

 

        *

 

 警察署の取調室は殺風景だった。グレーの壁、蛍光灯の白い光、向かい合うように置かれた机と椅子。窓はなく、時計だけが無機質な音を刻んでいる。

 

「座りなさい」

 

 中年の刑事が椅子を指差した。

 

「君の名前は白石翔太、南西館高校二年生で間違いないね」

「はい」

「今日の午後六時頃、環状線の車内で女子高生にわいせつな行為をしたという申告があった。どうだね?」

「やっていません。冤罪です」

 

 俺は必死に説明した。愛里彩が俺の手を無理やり自分のお尻に持っていったこと、明らかに計画的な罠だったこと、紫門との関係について。

 

 しかし、刑事の表情は懐疑的だった。

 

「君の話では、被害者の女性が自分から君の手を自分のお尻に当てたということだね?」

「そうです」

「なぜそんなことをする必要があるんだ?」

「それは……」

 

 紫門の復讐だと説明しても、信じてもらえるだろうか。

 

「動機が不明確だな。それに、目撃者の証言では君が一方的に触ったということになっている」

 

 刑事が分厚いファイルを開く。

 

「被害者の関内愛里彩さん、17歳。堀恋高校の生徒で、アイドル活動もしている。彼女の証言によると、君は電車に乗った時からずっと彼女を見つめていた」

「それは……かわいかったから、つい……」

「ほら、認めたじゃないか」

「違います! 見つめていたのは確かですが、痴漢はしていません」

「こちらを見なさい」

 

 刑事が携帯の画面を俺に向けた。俺が愛里彩のお尻に手を当てている写真。

 

「これは現場にいた同級生の小金沢紫門君が撮影したものだ。さらに、複数の目撃者が君の行為を目撃している」

 

 刑事が証人の証言書を読み上げる。

 

「『確かに男子学生が女子生徒のお尻を触っているのを見ました』」

「『女の子が「やめて」と言っているのに、男の子は手を離そうとしませんでした』」

 

 全て嘘だ。愛里彩の仲間たちが用意した偽証だろう。

 

「君以外の全員が君を痴漢だと証言している。どう説明するんだ?」

「そ、それは……」

 

 どう反論すればよいか思いつかない。絶望的な状況だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。