絶世の美女が俺の恋人に!? 前世は王女様とその従僕。いや、全部マッチポンプだから!   作:里奈使徒

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第27話「ブレインウォッシュの効果とはⅢ」

 家に帰ると、押し入れから小箱を取り出した。

 

 手の中に、ロマンスグレーの髪が数本。

 あの男から奪い取った、たった一つの武器だ。

 

 洗脳機械を起動する。

 

 低い振動音。無機質なメッセージが流れる。

 

『起動中……システムチェック完了』

『洗脳対象のDNA情報を入れてください』

 

 草乃月涼彦の髪の毛を挿入口に入れた。

 ロマンスグレーの髪が、機械の中に吸い込まれていく。

 

『対象を認識中……DNA解析中……』

『対象を認識しました』

『草乃月 涼彦(51歳・男性・血液型AB型)の情報を取得しました』

 

 よし。

 

『洗脳する内容をインプットしてください』

 

 液晶画面の上に、ホログラム式のキーボードが浮かび上がった。

 

 手が止まる。

 

 首筋がまだ痛い。触れると、指の跡が残っているような気がする。

 

 葉巻の煙。冷たい目。

 そして突然、首に食い込んできた指。

 

 息ができなかった。視界が暗くなって、本当に死ぬと思った。

 

 思い出すだけで、手が震える。

 

 草乃月涼彦。あいつはマジでやばい。

 俺を虫けらみたいに扱って、父さんまでクビにすると言い放った。

 

 あのまま放っておいたら、本当に殺される。

 

 だから洗脳する。俺の味方にする。

 

 洗脳内容は、小説『ヴュルテンゲルツ王国物語』に登場するキャラクターだ。

 

 ヴュルテンゲルツ王国の第九十八代国王。帝国の謀略で暗殺される悲運の王。

 切れ者で、国益のためなら非情な手段も取る。でも根っこには民への愛がある。

 

 草乃月涼彦を国王にすれば、俺は「国を救った英雄」「最も信頼できる忠臣」になる。

 敵から味方へ。180度の転換だ。

 

 それと、もう一つやりたいことがある。

 

 手島さんや馬場さんたちを登場させよう。

 

 父さんの小説『明日への扉』に登場する、主人公を支えた同僚たち。実在の人物をモデルにしているとはいえ、あくまでフィクションだ。だが今回は、現実の彼らの状況を調べて、より説得力のあるキャラクターに仕上げなければならない。

 

 民を思い国に尽くす、忠臣の中の忠臣として描く。

 国王も足を向けて寝られないくらい、恩を着せたことにしよう。

 

 ただ、手島さんたちのエピソードだけでは足りない。

 

 草乃月涼彦のつまみは80%まで回す予定だ。元の記憶の大部分を上書きする。

 ほとんど記憶喪失では周囲に気づかれてしまう。

 キャラクターの肉付けのために、追加の情報が欲しい。

 

 そういえば、父さんの小説には手島さんや馬場さん以外にも同僚が登場していたはずだ。

 

 椅子から立ち上がり、本棚に向かう。窓際に置かれた古い木製の本棚。父さんの蔵書と俺のラノベが雑然と並んでいる。

 

 『明日への扉』を取り出し、ページをめくる。

 

 あった。「石橋」という名前の登場人物。

 

 父さんの小説では実名がそのまま使われている。非公開作品だから、偽名にする必要がないのだ。

 小説の中の石橋さんは、利根川問題で板挟みになり苦悩する人物として描かれていた。

 

「家族のために会社に残るか、正義のために手島たちと共に戦うか」

 

 最終的に家族を選び、手島さんたちから離れていく。それを「裏切り」と感じる同僚もいれば、手島さんや馬場さんのように「仕方ない」と理解を示す人もいる。

 

 ある一節で目が止まった。

 

「石橋の妻は生まれつき心臓が弱く、定期的な治療が必要だった。特に最近は症状が悪化し、根本的な治療には莫大な費用がかかるという。石橋は家族のため、理想を捨てても生きていく道を選んだ。それを責めることは誰にもできない」

 

 石橋……まさか、同級生の石橋君のお父さんなのか。

 

 石橋君には借りがある。武道で佐々木たちに暴行されたとき、助けてくれた。いつか恩を返したいと思っていた。

 

 さらにページをめくる。石橋さんの息子についても触れられている。

 

「石橋には高校生の息子がいた。父親に似て真面目で優しい性格だが、最近は学校で何かあったらしく、元気がない。石橋は息子のことを心配していたが、妻の病気と仕事の板挟みで、十分に話を聞いてやれずにいた」

 

 石橋君のことだ。間違いない。

 

 確認してみよう。

 

 本を机に置き、パソコンを開く。画面の光が暗くなりかけた部屋を青白く照らした。いつの間にか窓の外は薄暮に変わっている。

 

 馬場さんのFacebookアカウントを検索する。父さんから聞いたアカウント名で検索すると、すぐに見つかった。

 

 プロフィール写真は、父さんから見せてもらった人と同じだ。投稿を確認してみる。

 手島さんとの近況報告。趣味の園芸の話。

 

 そして——あった。

 

 石橋さんのこと、複雑に思ってる人もいるみたい。でも私は理解してる。家族のためなら仕方ないこともある。

 

 やはり父さんの小説は事実に基づいていた。

 

 もう少し調べてみよう。

 

 馬場さんの投稿から「石橋さん」という名前を辿る。

「石橋 心臓移植 支援」で検索すると——あった。

 

『石橋真照さんの奥様を救う会』という支援ページ。

 

 クリックする。

 ページを開くと、詳細な情報が記載されている。

 

 患者情報:

 - 石橋美奈子さん(42歳)

 - 診断名:拡張型心筋症

 - 治療方針:心臓移植手術

 - 手術予定地:アメリカ・コロンビア大学病院

 必要費用:

 - 手術費用:2800万円

 - 渡航・滞在費:200万円

 - 合計:3000万円

 現在の状況:

 - 達成金額:920万円(30.7%)

 - 支援者数:324名

 - 募集期限:残り3ヶ月

 家族構成:

 - 夫:石橋真照(45歳)会社員

 - 息子:石橋武志(17歳)高校生

 

病状の詳細:

「石橋美奈子さんは5年前に拡張型心筋症と診断され、これまで薬物療法で症状をコントロールしてきました。しかし今年に入り心機能が著しく低下し、国内でのドナー待ちでは間に合わない可能性が高いと医師から告げられました。海外での移植手術が唯一の選択肢となっています」

 

 経済状況:

「夫の真照は会社員として懸命に働いておりますが、3000万円という治療費には到底及びません。これまでの治療費や生活費で貯金も底をつき、親族からも借金をしている状況です」

 

 ベッドに横たわる女性。痩せた頬、点滴に繋がれた腕。でもカメラに向ける笑顔は穏やかだ。

 隣で手を握る中年の男性。目元に深い皺が刻まれている。

 そして制服姿の石橋君。笑おうとして、笑いきれていない顔。

 

 必要費用——3000万円。

 

 途方もない。

 

 現在の達成金額は920万円。3分の1にも届いていない。

 募集期限まで残り3ヶ月。

 

 支援者のコメント欄を読んでいく。

 

「真照さんとは同じ職場で働いています。いつも家族思いで真面目な方です。美奈子さんもとても優しい方で、一日でも早く元気になってもらいたいです」

「武志君のお母さん、早く元気になってください。応援しています」

「わずかですが支援させていただきました。多くの方の善意が集まりますように」

 

 324人。324人もの人が、石橋家を救おうとしている。

 でも足りない。全然足りない。

 

 画面がぼやけてきた。

 

 石橋君、お前こんな状況だったのか。

 

 学校では何も言わなかった。いつも通りに振る舞っていた。

 俺がいじめられていたときも、助けてくれた。自分だって大変だったのに。

 

 石橋真照——45歳、会社員。

 草乃月財閥の社長専属運転手。父さんの元同僚で、年齢も一致する。

 今日、俺を救ってくれたのはこの人だ。間違いない。

 

 あの車の中で、草乃月涼彦に首を絞められていたとき。意識が遠のく中で、声が聞こえた。

 

「社長、そろそろ時間が……」

 

 あの一言がなければ、俺は死んでいた。

 

 石橋さんは、妻の病気で苦しんでいる。あのクソ社長の下で働き続けなければならない。

 それなのに、赤の他人の俺を救ってくれた。

 

 父さんの小説。馬場さんのFacebook。今日の車内。支援ページ。

 

 すべてが繋がった。

 

 石橋君の父親は、今日俺を救ってくれた人だ。

 そして石橋家は、3000万円という医療費に押し潰されそうになっている。

 

 涙が止まらない。

 

 階下から母さんの声が聞こえた。「ご飯よー」といういつもの呼び声。返事をしなければ。でも今は声が出せない。

 

 俺は部外者だ。本当のところはわからない。

 でも草乃月涼彦が非情な人間なのは、身をもって知っている。あの男に首を絞められ、父さんをクビにするとまで言われた。

 

 そんな人物の下で——

 

 よし、決めた。

 

 石橋夫妻も小説に登場させる。国に尽くした忠臣として。

 

 涙を拭い、「ヴュルテンゲルツ王国物語」の原稿ファイルを開く。

 

 キーボードを叩く。手が止まらない。

 

 ストーンブリッジ卿:王国の古参騎士

 - 年齢:45歳

 - 身分:下級貴族出身だが、功績により男爵位を授与

 - 性格:実直、忠義、家族愛に深い

 - 経歴:若い頃から王国に仕える。数々の戦功を立てるが、決して驕らず常に民のことを考える

 

 ストーンブリッジ夫人:病弱だが気高い貴婦人

 - 年齢:42歳

 - 出身:平民出身だが、優れた人格で貴族社会にも慕われる

 - 病状:先天性の心の病(心臓病を中世風にアレンジ)

 - 人柄:病気に苦しみながらも夫を支え、領民のことを案じる聖母のような存在

 

 ストーンブリッジ家の功績:

 『ヴェルガーナ撤退戦』での活躍:

 帝国軍の大攻勢により、王国軍は総崩れとなった。多くの貴族たちが保身のために戦線を離脱する中、ストーンブリッジ卿は最後まで殿軍を務める。

 主人公ショウと共に民間人の避難を援護し、自らは重傷を負いながらも任務を完遂。

 この戦いでストーンブリッジ夫人は、負傷兵の看護に奔走。自身の病気を押して献身的に働く姿に、兵士たちは深く感動した。

 

 『利根川の毒水事件』(現実の利根川河川敷問題をファンタジー風にアレンジ):

 悪徳商人が工場から毒水を川に流し、下流の村々で病人が続出。

 多くの貴族が商人からの賄賂で口をつぐむ中、ストーンブリッジ卿は真実を追求。

 国王(草乃月涼彦)に直訴し、商人の悪行を暴く。

 この件で左遷されるが、最終的には正義が証明される。

 

 ショウとの関係:

 ショウが平民出身で周囲から軽んじられていた頃、ストーンブリッジ卿だけは彼の才能を認めていた。

「出自ではなく、心根の美しさこそが人の価値を決める」として、ショウを息子のように可愛がる。

 ストーンブリッジ夫人もショウを実の息子のように思い、病床からも彼の身を案じている。

 俺は感情を込めて新しいエピソードを書き込んでいく。

 

 『ショウ救出作戦』:

 ショウが敵の罠にかかって絶体絶命の危機に陥った時、ストーンブリッジ卿が単身救出に向かう。

「我が息子同然の若者を見捨てるわけにはいかん」

 重傷を負いながらもショウを救い出し、その後の治療で夫人が献身的に看護する。

 

 『最後の忠言』:

 国王が悪臣にそそのかされて民を苦しめる政策を進めようとした時、ストーンブリッジ卿は命懸けで諫言。

「陛下、民こそが国の礎でございます。民を見捨てれば、国も滅びましょう」

 この忠言により、国王は目を覚ます。

 

小説を書き換えていく。もともとドラマティックに国を思う志士たちのように記載はしていたが、今度はより具体的で感動的なエピソードを盛り込む。

 

 石橋君にお礼したい。

 

 見て見ぬ振りをしたり、いじめに加担したりする中で、彼だけは俺を救ってくれた。

 

 今日も、あの車の中で俺を救ってくれたのは石橋君の父親だった。「社長、そろそろ時間が……」あの一言がなければ、俺は草乃月涼彦に殺されていただろう。

 

 ストーンブリッジ家を見るがよい。

 病弱な妻は懸命に夫を支え、国も支えた賢母だ。

 そんな愛する妻を失いながらも……

 いや、まだ亡くなってはいない。病気と闘っているのだ。

 

 国王は、ストーンブリッジ夫妻の忠義に深く感動し、末代までその恩は忘れないと誓った。

 

 国王の誓い:

「ストーンブリッジ卿、そして愛する夫人よ。

  そなたたちの忠義と献身は、この国の宝である。

  余は誓おう。ストーンブリッジ家の恩は決して忘れまい。

  夫人の病気も、王国最高の医師団に治療させよう。

  そなたたちの息子も、我が子同然として育てよう」

 

 筆が乗る。

 

 夢中になって書き続ける。現実の石橋家の苦悩を、理想の物語に昇華させていく。

 

 病気の母親は、献身的な貴婦人として。

 苦労する父親は、忠義一筋の騎士として。

 いじめられる息子は、将来を嘱望される若き騎士として。

 

 全てを美しい物語に変えていく。

 

 そして、その物語の中で国王は、ストーンブリッジ家に絶大な恩義を感じている。

 

 草乃月涼彦にこの記憶をインストールすれば……

 帝国の手により、側近に次々に裏切られる。

 確執はあったが、最終的に娘を託された。

 

 洗脳が終われば、俺への敵意は完全に払拭されるだろう。

 それどころか、石橋君の母親の病気も治してくれるかもしれない。草乃月財閥が経営する草乃月病院なら、最高の医療を提供できるはずだ。

 

 書き上げた原稿を読み返す。完璧だ。現実の草乃月涼彦を理想の国王に変える物語として、これ以上のものはない。

 

 完成した原稿をUSBメモリにコピーし、洗脳機械の別のポートに挿入する。

 

『データ認識中……』

 

 メッセージが流れ、画面には物語の内容が高速でスクロールされていく。

 

『小説「ヴュルテンゲルツ王国物語」の情報のインプットが完了しました』

『新規キャラクター「ストーンブリッジ卿」「ストーンブリッジ夫人」が追加されました』

『対象キャラクター「ヴュルテンゲルツ国王」の人格データを抽出しました』

 

 機械が新しい設定を認識してくれた。

 

 続けてメッセージが流れる。

 

『洗脳するデータ量を設定してください』

 

 空中につまみが現れた。元の記憶と洗脳する記憶を調整するためのものだ。

 俺はめいっぱいつまみを右に回す。80%の位置まで。

 

 草乃月涼彦の権力は危険すぎる。ショウに恩を感じまくった国王になってもらわないと。

 

『設定を確認します』

『対象:草乃月 涼彦』

『洗脳内容:ヴュルテンゲルツ国王の記憶(0歳~50歳まで)』

『記憶比率:洗脳記憶80%、元記憶20%』

『効果時間:永続』

 

 ここで重要なことを思い出した。

 国王の情報は、麗良とアリッサにも共有しておかなければならない。

 

 もし麗良が草乃月涼彦の豹変ぶりに困惑したら、レイラとしての記憶と齟齬が生じてしまう。アリッサも同様だ。主君であるショウの父親代わりの存在を知らなければ、不自然になる。

 

 俺は一度処理を中断し、追加設定を行うことにした。

 

 空中に浮かんだキーボードを使い、慎重に入力していく。

 

「追加洗脳対象の設定を行います」

『追加対象の設定モードに移行します』

 

 新しいメニューが表示された。これまで使ったことのない機能だ。

 

『追加対象のDNA情報、または既存対象名を入力してください』

 

 既存対象なら簡単だ。

 

「草乃月 麗良」

「関内 愛里彩」

 

『既存対象を確認しました』

 

『草乃月 麗良:レイラ・グラス・ヴュルテンゲルツとして認識』

『関内 愛里彩:アリッサ・ビーデルとして認識』

 

 機械が過去の洗脳履歴を記憶している。便利だ。

 

『追加する情報の種類を選択してください』

 

『A: 新規記憶の追加』

『B: 既存記憶の修正』

『C: 人物認識の追加』

 

 Cを選択する。

 

『人物認識追加モードです』

『対象人物の情報を入力してください』

 

「ヴュルテンゲルツ国王(草乃月 涼彦)」

「ストーンブリッジ卿(石橋 真照)」

「ストーンブリッジ夫人(石橋 美奈子)」

 

『認識情報を設定中……』

 

 画面に詳細設定画面が表示される。

 

『草乃月 麗良への追加認識:』

『- ヴュルテンゲルツ国王:実父、レイラ王女の父親として認識』

『- ストーンブリッジ家:父の忠臣、王家に仕える古参騎士として認識』

 

『関内 愛里彩への追加認識:』

『- ヴュルテンゲルツ国王:主君ショウが仕える王として認識』

『- ストーンブリッジ家:同僚騎士、ショウと共に王に仕える忠臣として認識』

 

『記憶置換率を設定してください』

 

 今度は小さなつまみが表示された。追加情報専用のもののようだ。

 5%の位置に設定する。既存の記憶を大きく変えるのではなく、新しい人物認識だけを追加するためだ。

 

『設定内容を確認します』

『追加対象1:草乃月 麗良』

『追加内容:人物認識(ヴュルテンゲルツ国王、ストーンブリッジ家)』

『記憶置換率:5%(該当情報のみ)』

 

『追加対象2:関内 愛里彩』

『追加内容:人物認識(ヴュルテンゲルツ国王、ストーンブリッジ家)』

『記憶置換率:5%(該当情報のみ)』

 

 完璧だ。これで三人同時に洗脳できる。

 

 麗良は父親が突然優しくなっても、「父上が前世の記憶を取り戻した」と自然に受け入れるだろう。

 アリッサは草乃月涼彦を「ショウの主君である王」として崇敬するようになる。

 そして石橋家への支援も、国王の恩義として当然のこととして行われるはずだ。

 

『複数対象への同時インストールを実行しますか?』

『対象数:3名』

『処理時間:約15分』

『注意:同時処理中は機械への干渉を避けてください』

『これでよろしいですか? インストールを開始します』

 

 後は、いつものように空中に映し出されたキーボードのEnterキーを押すだけだ。これで洗脳が完了する。

 

 ふう……いまだに緊張するな。

 

 震える指をEnterキーの前に置く。

 

 これでよし。

 

 準備は整った。

 

 深呼吸をして、最終的な決断を下す。

 

 Enterキーを押す。

 

『複数の対象者へインストールを開始中……』

 

 画面に進行状況を示すバーが表示される。

 

 10%……20%……30%……

 50%……60%……70%……

 80%……90%……100%

 

『対象者へのインストールを完了しました』

 

 やった。

 

 草乃月涼彦は今頃、ヴュルテンゲルツ国王として目覚めているはずだ。そして石橋家への恩義を深く心に刻んでいるだろう。

 

 あとは結果を待つ。

 

 洗脳機械の電源を切り、再び四重のラップで包んで押し入れの奥に隠した。

 

 証拠隠滅だ。

 

 これで草乃月涼彦も俺の味方になったはずだ。いや、正確には国王としての記憶を持った草乃月涼彦が、忠臣ショウを深く信頼しているということだ。

 

 石橋君の母親も救われる。

 手島さんたちも復権する。

 すべてがうまくいくはずだ。

 

 ——そう信じて、俺は眠りについた。

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