絶世の美女が俺の恋人に!? 前世は王女様とその従僕。いや、全部マッチポンプだから!   作:里奈使徒

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第6話「小説をネット公開してみた」

 『ヴュルテンゲルツ王国物語』の執筆は順調だった。

 現在いじめの真っただ中にいるので、ネタには困らない。

 

 ……自虐だ。

 

 ありとあらゆるいじめを誇張して小説に盛り込んでいく。

 

 靴を隠された。

 小説では、先祖伝来の甲冑を盗まれ、危うく戦で死にそうになった。

 

 上履きの中に虫の死骸を入れられた。

 小説では、嘘の告げ口で処刑された友人の生首を投げつけられた。

 

 自転車のタイヤをパンクさせられ、ついでにサドルを盗まれた。

 小説では、馬車で移動中に御者を殺され、危うく崖から転落しそうになった。

 

 エトセトラ、エトセトラ……。

 ショウが危機に陥るネタがいくつも湧いてくる。

 

 ただ、『ヴュルテンゲルツ王国物語』は国盗り物語だ。学校生活だけでは足りない知識がある。

 

 そこで父さんの小説を参考にさせてもらった。

 

 父さんの小説は、サラリーマンの生きざまがテーマだ。派閥争いや市場調査など、俺の小説に足りない政治・経済の視点を補ってくれる。キャラもリアルで参考になった。

 

 父さんは今まで恥ずかしかったのか小説の内容を黙っていたが、俺に見せてからはやたらと感想を聞いてくるようになった。正直に面白いと伝えると、「具体的にどこだ?」としつこく聞いてくる。

 

 そんなに感想が欲しいならネットに公開すればいいのにと言うと、それは駄目らしい。実名で書いていて、仕事内容にもノンフィクションが含まれているから、公開するとコンプライアンス違反になるそうだ。

 

 でも俺は、ネット公開に憧れていた。父さんのようにリアルすぎて公開できない事情があるわけでもない。俺の小説なら、実名を変えれば問題ないはずだ。

 

        *

 

 俺の小説を誰かに読んでもらいたい。その気持ちが日に日に強くなっていた。

 

 でも、ネットには怖い人もいるという。作品を酷評されて、立ち直れなくなった作者もいるらしい。

 

 ……まあ、でも、一度くらい挑戦してみてもいいかもしれない。

 

 そんな気持ちで、小説投稿サイトを探し始めた。

 

 調べてみると、様々な投稿サイトがある。その中でも『小説家王に俺はなる』は、人気が出れば出版社から書籍化の打診もあるらしい。コミカライズ、そしてアニメ化までされることもあるのだとか。

 

 夢が広がる。

 

 投稿する前に、実名をすべて仮名に変えた。クラスメートの名前はもちろん、学校名も架空のものにした。

 

 早速ユーザー登録し、投稿してみた。

 

 心臓がうるさい。

 

 さあ、いかに?

 

 宝くじの当選番号を見ている気分で結果を待つ。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 感想は来なかった。

 

 数日経ったが、ポイントは0。ブックマークなし。PVはたった二人、それもアクセス解析を見ると、最初の一、二話だけで終わっている。

 

 一、二話って……まだ冒頭の冒頭もいいところだ。ここから面白くなるのに。

 

 なぜアクセスが止まる!

 どうして続きを読んでくれないんだ!

 

 さらに数日待ってみる。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 感想は来なかった。

 

 宣伝が足りないのか?

 

 投稿のたびにつぶやいて、後書きに書いて、活動報告で投稿の報告までしているのに……。

 

 業を煮やした俺は、次の行動に移る。

 

 感想をもらえない場合はどうすればよいか、ネットで片っ端から調べた。

 

 そして、見つけた。

 感想をもらえるサイト『辛口道場』だ。

 

 ここに投稿すれば、初心者でも高確率で感想をもらえるらしい。ただ、プロ志望向けのサイトで、シビアすぎるという評価もある。

 少し感想欄を覗いたけれど、確かに辛辣なコメントがあった。

 

 ……若干不安ではある。

 だ、大丈夫、俺の小説は面白い。

 

 辛口コメントもあったけれど、面白いというコメントもあった。具体的なアドバイスも書かれていたし、自分のためにもなる。

 

 それにだ。俺はとにかく感想が欲しいんだ。なんでもいい、反応をくれ!

 

 もう無視されるのは嫌だ。

 

 ええい、ままよ!

 早速、投稿してみた。

 

 心臓がばくばくする。

 しばらく待つ。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 今度は感想が返ってきた。

 

 感想きたああああ!

 

 さすがに噂通り早い。投稿して数時間だよ。

 手が震える。クリックして感想欄を開く。

 

 評価は……ひどかった。

 

 投稿者:転生人子

 一言

 暗すぎる。憂鬱になった。

 一話の主人公へのいじめで切りました。

 

 投稿者:画欧ab

 一言

 胸糞展開はお腹一杯、ストレスがたまる。

 

 投稿者:名無し

 一言

 つまらん。

 読む価値無し、ここから読むには料金がいるぞ。

 

 あ、あ……うっ、うああああああ!

 辛辣な意見が続く。

 

 確かに『ヴュルテンゲルツ王国物語』は、今の俺の心情を露骨に表している。救いようのない話が結構ある。

 

 でも、まだ序盤じゃん。最後まで読んでほしかった。これは勧善懲悪物だぞ。最後は胸糞展開を解消するように作っているのに。

 

 暗いとかつまらんとか容赦なさすぎる。序盤だけ見て評価しないでほしい。

 

 感想者へ返信する。

『ここから面白い展開が待っています。つまらないとか評価する前に最後まで読んでくれませんか?』

 

 しばらくして、返信が返ってきた。

 

 投稿者:名無し

 一言

 お前は類人猿か? ここの規約を読め!

 

 はあ? なんだそれ!

 

 思わず椅子から立ち上がった。

 

 類人猿って、意味分からん。小説に関係ないだろうが!

 

 精神がゴリゴリ削られる。

 

 猿って、猿ってなんだよ。

 俺は人間だ。

 このやろう! てめえ屋上来い!

 

 それからこの『名無し』とやりとりを繰り返したが、向こうの方が口が達者で言い負けてしまう。他の感想者からも『暗い』『つまらん』のオンパレードだ。

 

 ……ネットって、ここまでひどいのか?

 

 俺がこの小説を書くのにどれだけの時間と労力を費やしたと思っている!

 

 俺の苦労、俺の努力、分かって言ってんのかよ!

 それをつまらん、つまらんってひどすぎる。

 

 感情のまま、さらに返信する。

 

『寝る間も惜しんで書いた作品を、こき下ろすように非難されるのは、我慢できません!』

 

 しばらくして返信が返ってきた。

 

 投稿者:画欧ab

 一言

 どんなに心血を注いだ作品でも駄作になることもあれば、鼻歌交じりに書いたものが傑作になることもある。それが、この世界だ。努力を示すのではなく結果を示せ。批判が嫌ならネットに公開しなければいい。

 

 なんだよ、それ!

 嫌なら見なければいいだろ。悪口を書いて楽しいのか。人を批判ばかりして、それで満足なのかよ。人は褒められて成長するんだ。

 

 思いの丈をぶつけるため、活動報告に投稿する。

『何が嫌いかより、何が好きかで語るべきでは?』

 

 すぐに返信が返ってきた。

 

 投稿者:名無し

 一言

 いや、それパクリだから。通報する。

 

 おお、おう、ぐはっ!

 

 なんでだよ……。

 くそ、くそ、くそ。

 

 ああ言えば、こう言う。なんでそんなに悪意を持ったコメントができる。

 

 活動報告で思いをぶつけ……はあ~もう、いいや。

 

 力が抜ける。

 なんか疲れた。

 ただでさえ学校でストレスが溜まっているのに、ここでもストレスを溜めたくない。

 

 俺はすぐに『辛口道場』から投稿作品を削除した。

 

 ちくしょう、ちくしょう。

 なんでいつも俺はこんな目に遭う。

 ぽたぽたと涙がこぼれる。

 

 悔しい。

 悔しい。

 

 掴んでいたマウスを壁に投げつける。

 ガシャンと音が鳴り、電池が飛び出す。

 コロコロと転がる。

 

 ……落ち着こう。

 深呼吸して、無理やり自分をリラックスさせる。

 

 もともとこの小説は、ネットに載せるものではない。評価で一喜一憂してどうする。小説を書く目的を履き違えるな。ストレス解消のために書いているのだ。

 そうだよ、嫌なことは忘れて元の自分に戻るべきだ。

 

 小説を書こう。

 机に座り、パソコンを起動する。

 マウスを元に戻し、エディタを立ち上げる。

 

 次は二章だから帝国の常勝将軍との初会合……。

 

 キーボードを打つ手が止まる。

 あれ、変だ。

 

 画面を見つめる。真っ白なエディタ。点滅するカーソル。

 言葉が浮かばない。

 

 あんなに楽しかったのに、今は楽しくない。ショウやレイラが、遠い存在に感じる。

 

 キーボードを打つたびに、言われた批判を思い出す。

 

 つまらん、つまらんと何度も言われ、人格否定までされた。

 

 怖い。

 

 ネットの中でもいじめられるのは、耐えられない。

 小説を書くのは、しばらく休もう。

 

 それから数日、抜け殻のように過ごした。

 学校でのいじめも相変わらずだし、これからどうやってストレス解消すればいいのやら。

 

 ……そうだ。

 

 小説を書くのは無理だけど、読むのはいいか。執筆に集中していたから読むのは控えていた。気になる作品をいくつかブックマークしてある。

 本当は、ゲームも漫画も小説も読む気分じゃない。でも、何かしていないと悪い方向に頭が回ってしまう。

 

 久しぶりに『小説家王に俺はなる』にログインする。

 

 えっ!?

 目を疑う。

 

 感想欄のところに赤字がある。「あなたに感想が届いております」の文字が光っている。

 

 まじで!?

 

 『辛口道場』ではない。『小説家王に俺はなる』の感想だ。催促したわけでもないのに、感想をくれた人がいる。

 

 嬉しい。

 

 すぐに感想欄を開こ——。

 手が止まる。

 また酷いことが書かれていたら……。

 見ない方がいいかな?

 

 ネットに公開するのはもう懲り懲りだ。見知らぬ人から攻撃されるのは辛い、辛すぎる。

 いや、でも批判じゃなくて応援のメッセージかもしれない。

 

 胸がざわつく。

 でも、希望にすがりたい。

 最後だ。これが最後。不愉快なコメントだったら作品自体削除してしまおう。

 

 恐る恐る感想欄を開く。

 

 指先が震えている。画面がぼやける。目を凝らして、一文字ずつ読んでいく。

 

 投稿者:黒兎

 良い点

 主人公の心理描写がリアルで良い。

 世界観は一見陰鬱ではあるが、深く読み込めば希望があるのが分かる。今後の展開に期待。

 一言

『辛口道場』から来た、黒兎よ。ずいぶんひどいこと言われたみたいね。

 投稿が止まっているようだから、ショックを受けているのかしら?

 まあ、小説を書く者にとってある種の洗礼みたいなものよ。誰もが通る道、気にする必要はないわ。

 他が何を言おうが、面白かった。私は、続きを読みたい。

 P.S.文体から察するに、あなた小説を書き始めて間もないでしょう? よければアドバイスをしてあげる。気が向いたらメッセージを寄こしなさい。

 

 最後まで読んで、しばらく動けなかった。

 

 画面を何度も見返す。「面白かった」——その四文字が、目に焼きついて離れない。

 

 息が震える。視界が滲む。

 

 おおおおおお!

 嬉しい。嬉しい。嬉しいよ……!

 

 胸が熱い。目の奥も熱い。

 たった一つの感想で勇気をもらえる。陳腐かもしれないが、今まさにその気持ちだ。

 

 黒兎さん、ありがとう!

 小説を書くのをやめるのは、やめだ。

 

 俺は何を勘違いしていたのだ。ポイントとかアクセス数とか関係ない。俺の小説を見てくれる人がいる。読者が一人でもいてくれるなら、俺の小説を面白いと言ってくれる人が一人でもいるなら、それでいいじゃないか!

 

 俺は、黒兎さんのために書き続ける。

 やるぞ!

 

 その日、久しぶりに執筆を開始した。

 筆がのる。

 気がつくと、一万字を超えていた。

 

        *

 

 相変わらずクラスでのいじめはひどかった。味方はいない。クラス全員から疎外され、暴力を受けた。

 

 いいんだ。

 

 授業中に後ろから消しゴムを投げつけられようが、廊下をすれ違いざまに頭を小突かれようが、気にしない。

 

 大丈夫、卒業すればこの地獄は終わる。

 

 地獄のような日々でも、小説を書き、黒兎さんから感想をもらえれば元気が湧いた。

 

 小説と、黒兎さんと、大事な家族。それらが俺を支えてくれた。ぎりぎりのところで、俺は踏みとどまっていた。

 

 黒兎さんとのやりとりは、大きな支えになった。

 

 彼女——感想の文体から女性だと思う——は、俺の小説の良い点を的確に指摘してくれる。改善点についても、否定的にならず、建設的なアドバイスをくれる。

 

 俺は素直にそれを取り入れ、物語を深めていった。レイラ王女の心境、シモンの心理操作、王宮内の人間関係——丁寧に描写するほど、黒兎さんの感想も熱くなっていった。

 

 やりとりを続けるうちに、俺の文章は少しずつマシになっていった気がする。最初はぎこちなかった描写も、次第に自然で読みやすくなる。

 

 何より、書くことが再び楽しくなった。

 

 黒兎さんという読者がいることで、俺は一人じゃないと思えた。現実では孤立していても、物語の世界には理解者がいる。それだけで十分だった。

 

 小説を再開してから、学校でのいじめに対する耐性が少し上がった。以前なら一日中引きずっていた嫌な出来事も、「これも小説のネタにしよう」と考えることで、客観視できるようになった。

 

 紫門たちの行為も、シモンたちの陰謀として物語に組み込むことで、現実の辛さを少し和らげることができる。

 

 作家の心境とは、こういうものなのかもしれない。現実の体験を創作の糧にすることで、辛い現実にも意味を見出していく。

 

 執筆を再開してから二ヶ月が経った頃、『ヴュルテンゲルツ王国物語』は大きな転換点を迎えた。

 ついに、ショウがシモンの正体を暴く場面にさしかかったのだ。

 

 王宮の大広間で繰り広げられる法廷劇。証拠を突きつけられ、追い詰められていくシモン。真実を知って愕然とするレイラ王女。民衆の怒り。

 

 俺は紫門への怒りをすべてこの場面にぶつけた。シモンが受ける制裁は、俺が紫門に味わわせたい報復そのものだった。

 

 この場面を書いている時、我を忘れて没頭した。気がつくと朝になっていて、一晩で二万字も書いていた。

 

 翌日、黒兎さんから感想が届いた。

『圧巻よ! 今まで描いてきた主人公の苦悩が、すべてこの場面のために存在していたのね。読んでいて鳥肌が立ったわ』

 

 身体が震えた。嬉しくて、嬉しくて。

 

 しかし、物語はまだ終わらない。シモンを倒したことが実は帝国の罠だったという展開が待っている。

 

 真の敵は、もっと巨大で強大な存在だった。

 ショウの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。

 

 そして俺の現実の戦いも、思わぬ形で新たな局面を迎えることになる。

 

 紫門が、俺の変化に気づき始めていた。

 

 小説に夢中になり、以前ほどいじめにダメージを受けなくなった俺。それが気に入らないのか、紫門の目つきが変わってきた。

 

 獲物が逃げようとしている——そんな焦りが、あいつの目に見えた気がした。

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