絶世の美女が俺の恋人に!? 前世は王女様とその従僕。いや、全部マッチポンプだから! 作:里奈使徒
俺には、誰にも話していない秘密がある。
この秘密は、俺の人生を根底から変えてしまった出来事だ。家族にも、親友にも、誰にも話したことがない。話したところで、誰が信じてくれるだろうか。
あれは今から七年前——俺が小学校四年生だった時の話だ。
その日は、いつもと変わらない平凡な一日だった。授業を終えて、一人で下校していた。友達は塾や習い事で忙しく、俺だけが早く帰る日だった。
住宅街の細い道を歩いていると、空の様子がおかしいことに気づいた。まだ午後三時頃なのに、急に薄暗くなってきた。
「雨が降るのかな?」
そう思った瞬間、突風が巻き起こった。竜巻のような激しい風が俺の周りを渦巻く。
空を見上げた。
巨大な円盤状の物体が、ゆっくりと雲の隙間から現れた。SF映画で見たことのある、典型的な空飛ぶ円盤——UFOだった。
「うそ……だろ……」
UFOは静かに降下してきて、俺の目の前で空中に停止した。足がガクガク震える。逃げなければと思うのに、体が動かない。
UFOの底部が開いた。まぶしい光とともに、一つの人影が降りてきた。
宇宙人——それ以外に表現のしようがない存在だった。
身長は俺よりも少し高い程度。全体的に細身で、手足が異様に長い。肌は灰色がかった色をしていて、顔は逆三角形。目は顔の三分の一を占めるほど大きく、真っ黒だった。
映画で見たことのある、典型的な「グレイ」と呼ばれるタイプの宇宙人だ。
「うわああああああ!」
叫び声を上げて逃げようとした。でも、足がもつれて転んだ。
宇宙人の細い指から、青白い光線が発射された。光線が俺の体に当たった瞬間、全身が硬直した。意識ははっきりしているのに、体が全く動かない。
そして、あれよあれよという間に、俺はUFOの中に運び込まれた。
*
俺を連れ去った宇宙人、仮にAとする。
Aは俺をスクリーンの前に座らせると、片言の日本語で話し始めた。
「恐怖、する必要、ない。害、与えない」
カタコトだが、意味は理解できた。でも、恐怖しないでいられるわけがない。
「ぼ、僕を、どうするつもりですか?」
「調査、する。地球人、興味深い、生物」
Aの説明によると、彼は地球の住民を調べ、興味深い個体を「採取」していたらしい。
「地球の感覚で言えば、密漁に当たるかもしれませんね」
Aは突然、完璧な日本語で言った。俺の脳波を読み取って、日本語を学習したらしい。
「あなたには興味深い特徴があります。脳波パターンが一般的な地球人とは異なります。特に想像力と創造性に関する部分が活発です」
確かに俺は、小説や漫画を読むのが好きで、自分でも物語を考えることがあった。
「創造性の高い個体は、高値で取引されます」
Aの口元が歪んだ。笑っているらしい。背筋が凍った。
人身売買——地球上でも最も忌むべき犯罪が、宇宙規模で行われているということか。
「やめて! 僕を売らないで! 家に帰して!」
Aは首を振った。
「残念ですが、それはできません」
目の前が真っ暗になった。家族の顔が頭に浮かんだ。父さん、母さん、妹の美咲——もう二度と会えないのか。
このままドナドナの如く地球とお別れするんだと嘆いていたら——
突然、UFOが激しく揺れた。
「何!?」
Aが慌てて操縦席に向かった。スクリーンには、接近してくる別のUFOの映像。俺たちのUFOよりもはるかに大きい。
轟音とともに、別の宇宙人が強引にUFO内に乱入してきた。
新たに現れた宇宙人は、Aとは全く違った。身長は2メートルを超え、筋肉質な体格。肌は青みがかった色で、額には角のような突起がある。
彼らの言語は理解できなかったが、明らかに親子の会話だった。語調といい、身振り手振りといい、地球の親子喧嘩と変わらない。
そう、この筋肉質な宇宙人は、Aの親だったのだ。
Aの親、仮にBとする。
BはAを見るや、雷のような怒声を上げた。
「#*&%$@#!」
おそらく「馬鹿息子!」という意味だろう。そして、容赦なくAをタコ殴りにし始めた。
宇宙人同士の喧嘩は迫力があった。Aが宙に舞い、UFOの壁に激突する。金属の壁がベコンと凹んだ。さらに数発殴った後、BはようやくAから手を離した。
Aは床に這いつくばり、鼻から青い血を流していた。
Bが俺に向き直った。さっきまでAを殴っていたのが嘘のように、眉を下げて困った顔をしている。
「本当に申し訳ありませんでした、地球の少年よ。息子が大変失礼なことをしてしまいました」
Bは深々と頭を下げた。
「息子がしたことは宇宙法に違反する重大犯罪です。無許可での知的生命体の拉致は、最低でも禁錮50年の刑に処せられます」
50年! 地球の刑期よりもはるかに重い。
「どうか、どうか息子を許してやってください。示談という形で解決していただけないでしょうか」
当時の俺は、まだ小学校四年生だった。大人の、しかも宇宙人の複雑な事情なんて理解できるはずもない。
でも、Bの必死な様子は伝わってきた。息子を愛する親の気持ちは、宇宙人も地球人も変わらないようだった。
「わかりました。許してあげます」
俺がそう言うと、Bの肩から力が抜けた。Aは床から起き上がり、俺に向かって土下座した。
「本当にありがとうございます。一生の恩です」
そして、示談の具体的な手続きが始まった。
「示談を成立させるためには、被害者への賠償が必要です。通常は金銭での賠償ですが、地球では我々の通貨は使用できません。そこで、息子の私物の中から何か価値のあるものを選んでいただきたいのです」
Bの案内で、UFOの別の部屋に移動した。倉庫のような空間に、無数の装置や道具が並んでいる。
「では、順番にご紹介しましょう」
Bが最初に手に取ったのは、手のひらサイズの赤いボタンだった。
「地球破壊爆弾です。このボタンを押すと、地球を木っ端微塵にできます」
「ええええ!?」
思わず後ずさりした。
「次はこちら。キラーマシーンです。対象に向けてトリガーを引くと、分子レベルで分解できます」
「怖すぎます……」
他にも次々と紹介された。時間停止装置、記憶消去銃、重力操作装置、次元移動装置——どれもこれも、使い方一つで人類が滅亡しかねない代物ばかりだった。
はっきり言って、どれも要らなかった。危険すぎる。
「僕には必要ありません。普通に地球に帰してくれるだけで十分です」
何度も断ったが、Bは首を横に振る。
「それでは宇宙法上、正式な示談になりません。必ず何らかの賠償を受け取っていただく必要があります」
どれも危険だが、選ばないわけにはいかない。
地球破壊爆弾は論外だ。間違って押してしまったら終わりだ。キラーマシーンも危険すぎる。人を殺せる道具なんて持ちたくない。
その中で、俺の目に止まったのは——比較的小さな金属の箱だった。
「これは何ですか?」
「
他の道具が「破壊」や「消滅」ばかりなのに対し、これだけは違った。壊すのではなく、変える。
間違って押しても地球は爆発しない。誰かを分子レベルで消し去ることもない。
「これにします」
「ああ、いい選択ですね。この装置なら、地球を破壊するようなことはありません」
Bがうなずいた。
「使用方法は簡単です。対象のDNAサンプル——髪の毛、唾液、血液などをセットし、希望する思考パターンを設定してボタンを押すだけです」
比較的安全——といっても、人の心を操るという点では十分に危険な代物だった。
でも、他の選択肢と比べれば、確実にマシだった。少なくとも、間違って人類を滅亡させる心配はない。
小学生の俺には、それが精一杯の判断だった。
この時の俺は、まだ知らなかった。
この機械が、どれほど恐ろしいものなのかを。