「はぁ、はぁ・・・」
路地を曲がった途端見知らぬ場所にいたと思ったら、突然追われての全力疾走だ。
状況が飲み込めねえ・・・俺はどうしたんだ?
「ふぅ・・・まったく、キミはいったい何なんだい?いきなり現れたと思ったら・・・」
「いや、俺にも全然・・・ってフィリップ!?」
「?ふぃりっぷ?」
俺の手を引っ張っていった奴の顔を見てみると、その顔は仮面ライダーWに出てきた主人公、左翔太郎の唯一の相棒であるフィリップにそっくりだった。
「誰のことを言っているのかな?僕はふぃりっぷなんて名前じゃないよ」
「あ、ああ悪い。人違いだ、えっと・・・」
「ん?僕がキミに名乗る理由はないよね?」
なんだこいつは。腹立つな・・・だが現状を理解するためにもこいつから情報を聞かなくちゃならない。ここは我慢だ・・・
「俺は左間天翔だ。俺が名乗ったんだから、お前も名乗れよ?」
俺がそう言うと驚いたような顔をされた。なんだよ、文句は聞かねえぞ。
「・・・どうしてそんなことをするんだい?しかも真名まで・・・」
「うるせえ。俺はお前に用があるから聞いてるんだよ・・・ん?真名?」
真名ってなんだ?そう聞こうと思ったとき、
「僕の性は風、名は来、字は渡地、真名は・・・勇魔だ」
「お、おう。えっと、で、どれで呼べばいいんだ?」
「はぁ?・・・僕に真名を名乗らせておいて、どれで呼べばだって?そんな馬鹿げた事を聞かないでくれるかな?」
・・・ん?話がかみ合ってないような気がする。
「ええっと、まず真名って何だ?」
「・・・・・・・・・・・・はぁ?」
さっきよりも不思議そうな顔と返事だなおい。こちとらそんな事唐突に言われても理解出来るかよ。
「たった今、キミだって名乗ったじゃないか。名は左、性は間、字は天で真名は翔だろう?」
「へ?俺の性は左間で、名は天翔だけど・・・字や真名なんて無いし」
「・・・キミ、馬鹿なのかい?それとも・・・阿呆なのかい?」
「初対面の人間によくそんな罵倒できるな、お前!」
「それにその格好、まるで変た・・・変態みたいだよ?」
「言い直す気ゼロか!っていうか、お前の方がよっぽど変だわ!」
こいつの格好は中国史に出てきそうな町人の服装だ。今の時代、コスプレでもこういった衣装を着る人間は少ないだろう。
「なにを言っているんだ。この国でこの服装以外の人間がいるとしたら、それは皇族や高貴な身分の人間だけだよ。・・・あ、ひょっとしてキミは皇族だとか?」
「んなわけあるか」
「だよね。そんな上品な顔してないし」
「ぶん殴るぞてめぇ」
「後は・・・天の御遣いとか?」
「天の御遣い?」
なんじゃそりゃ。
「昔本で読んだことがあるけど、そんな伝説を。いずれ煌びやかな衣装を纏った天の遣いが舞い降りて、この世の中を平和に導いてくれるっていう」
「煌びやかな衣装ね・・・」
今の俺の服装は、灰色のパーカーにジーパンだ。お世辞にも煌びやかな衣装とは言えないだろう。
「んー、でもまあ、所詮伝説だし。そんな伝説になりそうな顔してないし」
「・・・なあ、そんなに俺の顔はブサイクなのか?もうお前俺の顔しか否定しなくなってきてるぞ?」
しまいにゃ、本当に泣くぞ。思春期な少年の心はデリケートなんだぞゴラ。
「そうそう。気になってたんだ、キミが持ってるそれは・・・いったいなんだい?」
「え?・・・な、なんだこれ!?」
俺が持っていたはずだったレンタルビデオ店の袋は、いつの間にか銀色のトランクケースのようなものになっていた。
「え?最初から持っていたじゃないか」
「・・・マジか。とりあえず開けてみよう」
トランクケースを開ける。するとその中には、よく見知ったアイテムが入っていた。
「・・・ダブルドライバーに、ガイアメモリ?」
仮面ライダーWに変身するために必要なツール、ダブルドライバーと、6本のガイアメモリだった。
ダブルドライバーはなぜか2つあったが。
「なんでこれが・・・」
「これ、なんだか凄そうだ・・・ねえ、これ、僕にくれないかい?」
「え?いや、それは―――」
返事をしようと思ったとき、草むらから男が飛び出す。さっきまで追ってきてた男達だ。
「追いついたぞ・・・このクソガキどもぉ・・・」
「またかい?いい加減しつこいなぁ、キミ達。だから女性にももてないんだよ」
「と、とことん馬鹿にしやがって・・・!もう怒ったぜ・・・痛い目に遭わせてやる」
そう言うと、その男は懐から何かを取り出した。あ、あれは・・・!
「あ、アニキ!アレをやるんですかい!?」
「勘弁して下せえ!アレになったアニキを止めるのは、本当に大変なんですって!」
「うるせえ!ここまでコケにされて黙っていられるか!!」
その手に持ったUSBメモリのようなものについているボタンを押す。
<溶岩!>
「え?」
俺は驚いた。なんとあのUSBメモリ―――ガイアメモリは、日本語で音声が出たのだ。
そして男はそのままメモリを腕に突き刺す。すると、その体が変貌し、まるで溶岩が人型に形作られた様な姿になった。辺りの温度が急激に上がる。真夏の日差しよりも熱く、火の中にいるかのような温度に。
これがマグマメモリ、いや溶岩メモリを使用した姿、あえて言うとしたら、ヨウガン・ドーパントである。
「な・・・!」
「ふふふ、驚いたか?これからてめえをこれで燃やし尽くしてやるぜぇ・・・」
そう言って男・・・ヨウガン・ドーパントはマグマのようなものをこちらに向けて投げた。
「くっ・・・なかなか興味深いね。その姿」
「そんな事言ってる場合か!逃げるぞ!」
「逃がすかぁ!!」
するとヨウガン・ドーパントは俺達の頭上を飛び越え、回り込んできた。
そしてそのままマグマを投げ、道を塞がれてしまった。
「これじゃあ・・・!」
「こっちだ!」
森の中へと逃げる。少しの間走り、岩の陰に隠れた。
「どうしたらいいんだ・・・!なあ、おい!」
「・・・ここまで、かな」
そう言ったこいつの目は、もう諦めの色に染まっていた。それを見て、俺も思う。
「(俺は、ここで死ぬのか・・・?)」
そう思ったとき、右手に握っていたトランクケースに気づく。そうだ・・・これは。
「・・・まだだ」
「え・・・?」
「まだ、終わりじゃねえ」
トランクケースを開け、言い放つ。
「天の御遣いと相乗りする勇気、あるか?」
何を言っているのだろう、この男は。
どう考えたって、この状況じゃどうしようもないことは分かりきってるじゃないか。
相手は得体の知れない、とてつもなく強い怪物。
対してこちらは多少体術を齧った程度の少年と、経歴不明の頭が悪そうな少年だけだ。
それなのに、まだこの男の目は・・・生きている。
これからの逆転を考えている。
「天の御遣いと相乗りする勇気、あるか?」
その目は純粋で、希望に満ち溢れていた。僕がかつて憧れ・・・諦めた目だ。
僕は基本人を信じない。欲に塗れ、溺れる大人達を見てきたから。
幼い頃、そんな人間を心から嫌悪し始め・・・今じゃ、どんな人間も信じないようになった。
けれども、彼は・・・少なくとも今の彼の目だけは―――
「・・・ああ!」
―――信じてみてもいいんじゃないか、そんな気がした。
「出てこいよぉ・・・じゃねえとこの森が全部灰になっちまうぜぇ?」
「ああ。出てきてやるよ」
俺はこいつと2人で並んで立った。
「灰になる覚悟が出来たのかぁ?」
「そんなんじゃねえ・・・な?勇魔」
「真名で呼ばれるのは好きじゃないんだ。風来と呼んでくれ、天翔」
腰にダブルドライバーを付ける。隣でも付けた音がした。
「んじゃ、行くか」
「そうだね」
<サイクロン!>
<ジョーカー!>
俺は紫色のガイアメモリのスイッチを入れる。
「「変身!!」」
そのまま俺はダブルドライバーの左側にあるメモリスロットにガイアメモリを差し込み、右側にいつの間にか刺さっていた緑色のガイアメモリを押し込んだ。そして・・・メモリスロットを開いた。
すると、隣に立っていた勇魔・・・じゃなくて風来は意識を失ったように倒れ、俺の身体を風が包み始める。
それと同時に体の右半身が緑色の、左半身が黒色の外装に覆われる。
これが仮面ライダーW サイクロンジョーカーである。
「『さあ、お前の罪を数えろ』」
今ここに、新たな仮面ライダーWが誕生した。