その奇跡に魅せられて。 作:あああああ。
「ん…。ふわぁ……」
目を覚ました俺はゆっくりと身体を起こす。寝汗が気持ち悪いな…。なんて思いながら被っていたタオルケットを剥ぐ。
「あっ、やっと起きたん?」
まだ視点が合わず、目を擦りながら声のした方を向く。するとそこには、こちらを見て女神の如く微笑む少女の姿があった。
うつ伏せで寝転がっていて、豊満な胸が体重でむにーっと潰れている。…エロいなぁーとも思ったが、それよりも眠い。あと、返事をしないと何か言われそうだ。
「おはよ…」
「はい、おはよーさんっ♪ ぐっすり寝とったねぇ?」
「隣で寝てる誰かさんのお陰で疲れてんだよ…。寝汗が気持ち悪りぃ…」
「ふふっ…」
何時もは二つ結びにしてある髪を解いたまま、少女はゴロンと転がって腹の辺りに抱き付いて来た。そのまま幸せそうにふにゃりと笑うのだ、無理やり引き離そうにも躊躇ってしまう。結局離れる事は諦め、時間を確認……したいけど動けないんだった…。
「今、何時だ?」
「ん〜? もうすぐ六時になる頃やと思うで?」
「…なら…」
「あぁ〜! 二度寝は行けないんよ? それに今日から学校があるやん!」
「…始業式って、今日だっけ?」
壁に掛けられたカレンダーに目をやると、今日の日付に『始業式! 絶対に遅刻しない事!!』と水色のペンでデカデカと書かれていた。カレンダーなんて普通は見ないし、正直書いてても意味無いと思う。今回も言われて見た訳だし…。
「やっぱり忘れとったねぇ〜…。もぅ! 始業式がある日くらいは自分で覚えとかんとアカンよ!」
「…別に、覚えてなくてもお前らが教えてくれるから良いだろ」
「ウチらが声を掛けてあげれない時だってあるかも知れんやろ?」
「…“かも”なら良いじゃん…」
「もー! 良いから二度寝しようとせんの!」
「痛い…」
まだ時間に余裕があるから二度寝をしようと試みるが、横腹辺りを割と強めに抓られる。そもそも抱き付かれてるせいで寝転がる事すら出来ない…。
抓られた痛みでだいぶ目が覚めた俺は抱き付いたままの少女を引き剥がしながら起き上がる。
「おぉー? やっと起きる気になったん?」
「起きねぇとずっと抓ってるつもりだろ。それに風呂入って弁当作んねぇと…」
いや、その前に風呂が先か。まだ眠くて溢れて出た欠伸を噛み殺しながらベットから降りて、ぐーっと身体を伸ばす。少し腰の辺りが痛い。丸まって寝ていたのと、昨日の行為が響いたみたいだ…。
俺に続いて少女もベットから降りて小さく欠伸をし、真似するように背伸びした。
「……」
「ん〜? どうかしたん?」
「…先にお前が風呂に入るか」
「えっ? あっ……」
「あと、なんか着ろよ。せめて下着くらいはさ?」
「〜〜ッ!?/// 」
漸く自分が“全裸”だった事に気付いたようで、赤い絵具をぶち撒けた様に顔を真っ赤に染めてベットからシーツを剥いでそれを纏った。そして昨晩の事や全裸のまま抱き付いていた事も思い出した様で、更に顔を赤く染め上げた。
「し、しおっちが休ませてくれんかったからやんっ!!///」
「誘って来たのはお前だったけどなー。それに、お前が物欲しそうな顔で強請って来ただろ? そんなの見たら休ませる気も失せるっての」
「ぁ、う〜……っ!///」
もうこれ以上は耐えられないのか、少女はベットに倒れ込んで枕に顔を埋めてしまった。
「…ほんと、お可愛いな」
ことわざに『頭隠して尻隠さず』ってあるが、今回は『顔を隠して耳を隠さず』って所か。赤くなった耳や首筋は枕だけじゃ隠し切れてない。そんな所がまた加虐心を唆られるのだが…それは夜のお楽しみと言う事で。
「ほら。とっとと風呂入ろうぜ、希?」
「ゔぅ〜…、しおっちのばーか、えっち、狼さん…///」
「はいはい、どーせ俺はバカで変態な狼ですよー。…それと、その首元の痕…どーしよっか?」
「〜〜〜ッ!!!///」
▽▼ ▽▼ ▽▼
「あのさ、まだ恥ずかしい訳?」
「ぁ、当たり前やん…! うち…昨日、自分から……///」
「自分から思い出したのに何で恥ずかしがるのさ…。と言うか、今更恥ずかしがる様な事じゃねぇだろ」
「そうやけどぉ…///」
風呂に入って、弁当を作り、朝飯を食べて…軽く一時間は経っている。が、未だに希の顔から赤みは引いていない。俺達がこんな“関係”になったのは去年からだと言うのに何がそこまで恥ずかしいのだろう?
ちなみに俺が首元に付けた跡や歯型はファンデーションで隠してある。こんな事が少し前にもあって、その時は希と買いに行ったのだが、コンビニの店員(女)が…
「若くて良いわねぇ〜」
…と、ニヤニヤしながら言って来た。希はマフラーで首を隠していたが、俺は隠して居なかったから『首元の赤い痕』と『男女二人』と言う事で察したんだろう。それ以来、希はあのコンビニの周囲を歩く事すら恥ずかしがる様になった。
「もうすぐ学校着くぞ。そんな調子でちゃんと仕事出来んの? 一応生徒会の副会長だろ?」
「誰のせいだと思っとるん!?」
「誘って来たお前の自業自得」
「ぅっ…!///」
「自滅しやがったな…」
今日は始業式。式自体は九時から始まるのだが、希は生徒会役員なので早めに登校して式の準備をしないといけない。…とは言え七時だと早い気がする。いや、早過ぎる。こんな時間じゃ教師以外居ないだろう。…いや、一人は居るか。
まだ人通りの少ない階段を登って、桜並木の校門を潜る。やっぱり此処の桜には圧倒されるな。雑誌やテレビで取り上げられる様な花見の名所なんかよりずっと綺麗だし近くで見れる。
「…と言うか、良い加減に切り替えろっての」
「わかっとるもん!」
「解ってんならもう少し速く歩こうな?」
漸く顔から熱が引いた希は小走りで下駄箱まで向かう。その途中でこちらを振り返って、「あっかんべー!」と舌を出して下瞼を引き下げた。そして、楽しそうに笑って──
「はよ行かんと、エリチに怒られちゃうで〜!」
──なんて生意気な口を叩いた。
「…お前の歩幅に合わせてやってたんだけどな」
取り敢えずアイツの頬を抓ろう。それも割と本気で。…なんて事を考えながら、俺も希の後を追ったのだった。
この時の俺は、まだ知らない。これから先を変える出会いの事を。
少しずつ変わってゆく自分の事。
…そして何より、巻き込まれる面倒事に悩まされる事を…。