仮面ライダーW Aの娘   作:Gurren-双龍

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本当は後半も一緒に投げたかったけど書けなかったのでとりあえず投げます。書けたら後半も投げるよ。
書き納めです。(無理矢理)


Aの娘/アンタには聞いてない

なんで金を盗らレまくった?騙されタからだ。

なんデ女ヲ何回も盗られた?騙されタカラだ。

なンデこんナモノ持ってる?騙サレタカらダ。

そウ、騙さレタ。ダガ、最高だコれは。

 

「はは……は、は……」

 

目の前の()()は、奪ワレた何物よりも、素晴ラシい。

 

「ヒャッッッッッッハァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!」

 

こレナら、全部。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「ん?またか?」

 

夕暮れ前。さっき淹れたばかりの、何もしてないサイフォンの中のコーヒーがまた揺れた。

地震。ここ最近、小さくはあるが地震が頻発している。津波が起きる大地震の前触れとは思いたくないが、最近ニュースでもそういったことを聞くだけに、否定しきれない。

 

「あぁ、まただね。()()()()

「あぁー……まあ、少ししたら収まるだろ」

 

今のところ物が倒れた、などの地震によくある被害は受けてない。しかしここは風の街、風都の【鳴海探偵事務所】。地震の影響はむしろ別にある。

 

ギュインギュイン!

ギャウンギャウン!

ギューギュー!

ギェーアー!ギューン!!

 

「きゃあぁぁぁぁ地震よ地震ー!!」

 

形状が動物故なのか、やたらこういった自然現象に敏感になりがちなメモリガジェット達(とファングメモリ)、そして何故かそれ以上にやかましく慌てる亜樹子──鳴海探偵事務所の所長、照井亜樹子(旧姓・鳴海)──が、スリッパ片手にガジェット達共々騒いでた。もちろん俺──鳴海探偵事務所の探偵、左翔太郎──とフィリップ──俺の相棒──は、慌てる奴がいるのでそれを見守る担当になってるも同然。

 

「落ち着いてアキちゃん。これは震度2にすら達してない、微弱な揺れだ。物が倒れたりはしない」

「そそそ、そんなこと言ったってぇ!!」

「ったく、野生動物もビックリの慌てっぷりだな。ミックを見習ってくれよ」

 

指さす先には、堂々とした佇まいのグレーの毛並みがトレードマークの、品種はブリティッシュ・ショートヘアの猫のミックが、地震にも動じず昼寝を敢行していた。

 

「なんですってぇ!?」

「ってぇ!?何すんだ亜樹子ォ!!」

 

【地震は怖い!!】と描かれたスリッパで頭を叩かれた。いつものツッコミだが痛い。

 

「地震よ地震!最近大震災が近いとか言われてるんだから、気にするでしょ!?」

「まあ……気持ちは分かるけどよ……」

「ふむ。防災や地震対策か。興味深い。早速検索してみよう」

「おいちょっ、待てフィリップ!この状態の亜樹子と二人きりにすんな!」

 

しかし声は届かず、相棒は部屋に籠ってしまった。部屋にいるのは、半ばヒステリック気味な所長と、それを止めなくちゃ行けない俺だけ。

 

「あーちきしょう!!誰でもいいから助けてくれえぇぇ!!」

「やめなさい!」

「いたぁっ!?」

 

魂の叫びが届いたのか、誰かが亜樹子に制裁を加え、俺はこの猛獣から解放された。

 

「全く、()()ったらみっともない!」

「ってて……誰、って春奈(はるな)ちゃん!」

「えっと……ただいま……?」

 

俺に入った救いの手の持ち主は、照井夫妻の娘、照井春奈(てるいはるな)。そして彼女を迎えに行っていた俺のもう一人の相棒にして助手、ときめ。学校が終わり、ときめが迎えに行ってたが、丁度よく帰ってきてくれた。

 

「あぁ、おかえり()()()。それといらっしゃい、春奈」

「お邪魔しまーす……フィリップさんは?」

「生憎と調べ物に没頭しててな……と、そういや二人共、地震は大丈夫だったか?」

「ちょっと揺れたけど、大丈夫だったよ」

「あのくらいで慌ててたらみっともないよ」

 

ちょうどそのみっともない奴を、お前がどついたんだがな。

 

「でも突然どうしたの春奈ちゃん?今日は竜君……パパが早く帰るから、お家にそのまま帰っていいって言ったのに……」

「パパは……ちょっと暑苦しいから……」

「あー……旦那さんってそういえば……」

「まさか、アイツが振り切りようのない親バカになるとはな……」

 

照井竜。亜樹子の夫にして春奈の父親であり、風都警察署の超常犯罪捜査課の課長で警視という立場を持ち、仮面ライダーアクセルの変身者である。クールで何事も真面目に完璧にこなす……認めたくはないが、ハードボイルドそのものな男である。俺も何度か助けられたり、共闘したことがある。頼りになる戦友の一人だ。が……娘の春奈が産まれてからは、当の本人から鬱陶しく思われるくらいの親バカに成り果てていた。どうしてこうなっちまったのやら。

 

「そ、それは……パパなりに春奈を大事にしてるのよ!」

「宿題一個出来ただけで撫でられたり抱き着かれるのはもう疲れた!!」

「ぶっ!!」

 

せっかくのコーヒーを思わず吹き出す。いやほんと、どうしてこうなっちまった。

 

「ん?おじさんコーヒー飲んでるの?」

「誰がおじさんだ誰が!!……なんだ、飲むのか?ガキの癖に」

「そういうアンタなんてただのオッサンじゃない!!」

「また言いやがったなテメェ!」

「やめなさい翔太郎くん!!」

「痛てぇ!!何すんだ亜樹子ォ!!」

 

【うちの娘になにしとんねん!!】と書かれたスリッパが、またしても俺の頭を撃ち抜く。痛てぇ。フィリップがいたら「また脳細胞が死んだね……」とか言いそうだ。

 

「また脳細胞が死んだね……」

「なぁ!?って……戻ってたのかフィリップ」

「検索は完了した。とりあえず、棚が倒れないようにつっかえ棒をしたり、揺れ防止のシートを敷くことが現実的だね。可能なら、建物ごと改築した方が一番良いのだが」

「そんなお金はありません!」

「やっぱりね……」

 

そもそもここはテナントのように建物に置かせてもらってる事務所なので、金があっても出来ないのだが。

 

「……」

「ん?どうした春奈。コーヒー淹れてやるよ」

「ガキって言ったのにコーヒー淹れるんだ?」

「俺がお前くらいの頃にはもう飲んでたな、って思い出したんだよ。気にすんな」

「ふーん……ミルクと砂糖もお願い」

「はいよ」

 

心做しか、フィリップが地震や防災に関する知識を話した途端に、春奈が黙り込んでしまった気がした。

 

「ときめ、ちょっと来てくれ」

「ちょうど良かった……所長さんも聞いて?」

「どうしたのときめちゃん?まさか、春奈ちゃんが何かした?」

「私にじゃないけどね……地震の後、ちょっと考え込んでるような気がして……」

「……やっぱりな」

 

当たりだ。やはり何かある。しかも、単に地震が怖いとかじゃないだろうな、これは。問題はどうやって聞き出すか、だな……

 

「は、春奈ちゃん!?何かあったの!?」

「あーもう亜樹子……ちょっと待てっての」

「な、なんでもない!」

「あ、ちょっと春奈ちゃん!?」

 

案の定、亜樹子が慌てて聞いたせいで春奈は逃げてしまった。こういう時、中々答えようと思っても答えられないもんだ。

 

「春奈ちゃん……」

「大丈夫だ亜樹子、いつの間にかミックもいねえし。多分着いてったんだろうよ。」

 

そうでなくてもスタッグフォン4号機(黄色)がある。安全や居場所の発見は問題ない。

 

「どどど、どうしよう!?春奈ちゃんが春奈ちゃんが!」

「アキちゃん。ここは翔太郎に任せた方がいい。さて……翔太郎?」

 

いつもの調子で、相棒が聞いてくる。

 

「任せろ。フィリップはもう一度検索してくれ。キーワードは、『地震』。そして『小学生』だ。春奈が思い詰めるってなると、友達絡みかもだしな」

「なるほど。早速やってみよう」

「ときめ。小学校近くの不審者の有無と、どこで見つかってたか調べてくれ。亜樹子は待ってろ。家でもいい」

「わかった。任せて」

「春奈ちゃんを、任せたわよ!!」

「あぁ、行ってくる」

 

愛用の『WIND SCALE』のブランドの帽子とバイク──ハードボイルダーのキーとコーヒーを手に、不安を抱えた少女を追うとしよう。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「どうしよ……」

 

話した方がいいのか分からなくて、逃げ出してしまった。……ママやパパが心配するだろうなぁ……スタッグフォン(ケータイ)はあるから話は出来るけど……

 

「でもなんて言えばいいのかな……」

「ウニャァウ……」

「え?ミック?」

 

音に振り向くと、そこには見慣れた猫が足元に来ていた。事務所から追いかけて来たのだろうか。

 

「ニャウゥ……」

「あっちを見ろ、ってこと?」

 

ミックが鳴き声を上げながら振り向いた先から、エンジンの音とライトが届いてきた。誰だろうか。少しして、私の目の前に止まった。よく見ると、見慣れたバイクだった。

 

「よう、思ってたより遠いとこまで来てたんだな、春奈」

「おじさん……」

 

バイクから降り、ヘルメットを外した人物は、さっき逃げ出した事務所の人の一人、左翔太郎おじさんだ。それを見たミックはもう用はないのか、どこかに行ってしまった。

 

「まだそんな歳じゃねえっての……ったくほら、これ」

「水筒?あ、もしかして……」

「さっき逃げたから飲めなかったろ?まだあったけえし、もうすぐ夜だ、飲むにはちょうどいいだろ」

「ふーん……ありがとう」

 

蓋を開けると、香りの良いまだ温かいコーヒーが入っていた。もう夕方で太陽も沈む頃だけど、明るさはちょうど良い。なのでミルクが入ってるのがよく分かる。

 

「答えんのは飲んでからでいい……困ったら大人に言っちまっていいんだ、春奈」

「……」

「こんな言葉がある。『男の仕事の八割は決断、あとはオマケみたいなもんだ』」

 

座ってコーヒーを飲み始めた私の隣に、おじさんが座り込みながらことわざみたいなことを言った。

 

「……何それ?」

「俺の師匠……お前のお爺ちゃんの言葉だ」

「……私、女だよ」

「関係ねえ。決めちまうまでが大事で大変なのは、誰だって同じだと思うしな」

「……」

「俺はお前から言うのを待つことを『決めた』。それだけだ」

 

なんだか、隠してもバレてるみたいでちょっと悔しい。でも、話してもいいかなって思えた。

 

「ねえ。翔太郎おじさんは、探偵なんでしょ?」

「あぁ」

「探偵は、悪いことをした奴も、居なくなった誰かも、見つけてくれるんだよね?」

「それが仕事ならな」

「じゃあ……言うよ」

 

決めた。私も決めた。話す。話しても何とかしたい。水筒に蓋をして、立ち上がる。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

春奈が立ち上がる。話してくれるのだろう。意を決したように、口を開いた。

 

「私の友達……みっちゃんのお父さんが居なくなったんだって」

「家出とかじゃなく、か?」

「うん……工事とか街の色んなとこを直したりしてる人でね、あんまり帰れないけど、凄いことをしてる人だって。でもね、いきなり居なくなったって電話が来たんだって……それも、昨日の地震の後に居なくなったらしいの……」

「……昨日の地震か」

 

ここ最近頻発している地震。日に一回、どころか何回も起きてるのは俺自身も身をもって知っている。確かに行方不明者の事も聞いていたが、まさかこんな身近で、それもあんな弱い地震でとは。これはもしや……

 

「みっちゃんね……泣いてたの……私、何も出来なくて悔しくて……」

「だよなぁ……泣いてる人が目の前にいるのに何も出来ねえなんてさ……」

 

思わず拳を握る。もう心は決まった。

 

「だからお願い、みっちゃんのお父さんを助けて!」

「……いいぜ。もし良かったら明日……そのみっちゃんとお母さんにも言ってくれるか?」

「うん!!」

「よし、それじゃあ……いい加減帰るか」

 

予備のヘルメットを春奈に渡し、スタッグフォンを亜樹子に繋ぐ。

 

『あ、翔太郎くん!?どうだった!?』

「今から連れて帰る。家か?事務所か?」

『えっと、ご飯ももうすぐだし家で待ってるよ』

「わかった。そっちに行く。それと亜樹子……仕事だ。明日話すが、春奈からの依頼だ」

『えぇっ!?私聞いてない!?』

「というわけだ、今から連れて帰る」

『ちょっと待ってもっと話を──』

 

切った。あとは口で話せば良いだろう。

 

「さて、帰るか。ヘルメット付けろよ」

「う、うん。ママはなんて言ってた?」

「『私聞いてない!?』だってよ。いつもの事だ」

「ぷっ、ほんとにいつも通りだ」

「だな。さて、腹も減ったな。多分亜樹子も飯作って待ってるだろ」

「……ご飯はいつもパパだよ」

「……まだ料理苦手なのかアイツ……」

 

母親として大丈夫なのか、という感想は抱いたが、まあ結婚当初よりは腕が上がってる……はず。ともかく、そこは照井家次第か……俺もそんなに料理するわけじゃねえしな。……ときめが出来るかは見たいな……

 

「さて、行くぞ」

「うん」

 

春奈がしっかりとしがみついたのを確認して、愛機を発進させる。さて、『地震』・『小学生の父親』・『行方不明』、か。中々まとまりのないキーワードだ。これは、骨が折れそうだ。

 

「ねえ、おじさん」

「おじさんじゃねえっての。なんだ?」

「ありがとう。これでみっちゃん助けられる」

「まだ何もしてねえけどな。ったく、小学生が一人でしょい込むんじゃねえぞ?」

 

そんなとこまで、父親と祖父に似なくていいと思うからな。

 

「ほんと?じゃあ、もう一つ言っていい?」

「おう、なんだ」

「……コーヒー不味かった。あんなの豆が泣く」

「なにぃ!?」

 

これは後で知ったが、春奈は照井のコーヒーを三日に一回飲む上、照井監修の元コーヒーの淹れ方を覚えてるらしい……まだまだ照井には及ばないのか俺は……

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

翌日。春奈の友達のみっちゃん──本名は『坂野 三葉(さかの みつば)』──とその母親の『坂野 芳恵(よしえ)』さんが、事務所を訪れた。案の定、亜樹子のママ友の一人でもあり、照井も入学式で面識があるそうだ。行方不明となったのは、三葉ちゃんの父、『坂野 明久(あきひさ)』さん。春奈の言う通り、風都の土木関係の方だった。明久さんが廃ビルの解体の足場の組み立てをしている時に例の地震が来て、仲間が明久さんの方を見ると彼は姿を消していたらしい。

 

「さて、まずは明久さんの職場だが……なんでお前まで来てんだ()()

 

俺の探偵としての基本、足で情報を得ること。いつものように関係のありそうな人に聞き込みをしていくのだが……何故かこの通り、春奈が横にいる。

 

「だって、これは私からの依頼だもん。私が行かなくてどうするの」

「そう言ってもお前まだ小学生なったばかりだろうが。いざ危ねぇって時に守れるかわかんねえから帰っとけ」

「嫌!私からお願いしたことを他の人ばっかりに任せるのは嫌!」

「その考え方は良い事だが今だけは捨ててくれぇ!!」

 

流石に小学一年生を連れて来れるような感じではないため、帰らせておきたい。この子に何かあれば、照井や亜樹子に申し訳が立たない。

 

「大丈夫だよ翔太郎。私もいるし」

 

ときめが一緒に来てることだけが唯一の救いか。春奈は()()()にも懐いてる。大人しくしてくれるはずだ。

 

「いやだってよ……っていうか、亜樹子は今日来てねえのか!?」

「今日はPTA総会なんだって」

「じゃあ三葉ちゃんと一緒にいれば良かったじゃねえか春奈!友達の側にいてやるのも大事だぞ?」

「私は一緒にいてあげることよりも!動いて助ける方に決めたの!!」

「……そうかよ。なら、俺達の言うことを聞けよ?でないと危ねぇからな」

「分かった」

 

流石に俺の本気が伝わってくれたのか、あっさり頷いた。ときめがいるからなのかもしれないが、すごく助かる。

 

「さてとここか……」

 

会社の事務所内に入り、依頼を受けて従業員の行方を探してることを伝えると、長年の評判が幸いしたのか、快く迎えてくれた。現場にもすぐに案内してもらえることとなった。

 

「ええ、ここです。この廃ビルの解体作業に取り掛かろうとしてたんですが、知っての通り坂野さんが消えてしまいまして」

「ほぉ……」

 

現場に怪しい部分は見当たら……ん?

 

「アレ?足場組んでるって聞いてますけど、続けてないんすか?」

 

それどころか、一部が崩れている。

 

「あぁそれがね……実は地震の直後、足場が突然一部吹き飛ばされてね。坂野さんもいなくなっちゃったし、これ以上何か起きてもいけないから今は取り止めてるんだ」

「なるほどぉ……」

 

何故吹き飛んだのか。ここで語られない以上はここの人達も分からないのかもしれない。他を当たるか。

 

「……」

「どうしたの春奈ちゃん?」

「あそこ……誰かいるよ?」

「何?」

 

春奈の指さす先には、確かに誰かが立っている。黒のパーカーにジーンズで、背格好は至って普通の男だろう。実は現場を見てたのか?

 

「……」

「おい、あんた何か知ってんのか?」

「……何故だと思う?」

「あ?」

 

しかし帰ってきた答えは、問いだった。しかもイマイチ要領を得ない。

 

「何故俺がこんなとこにいると思う?」

「……お前が事件の瞬間を見てた、とか?」

「何故俺がここを見に来ようとしたと思う?」

「……事件の瞬間なら分からねえが、今の場合は……また何か起こるかも、って気になった、とかか?」

「何故俺が──」

「だぁぁぁさっきから質問ばっかじゃねえか!!いい加減こっちの質問に答えろ!!」

 

いい加減耐えかねて怒鳴り返すと、相手の口が止まった。流石に我慢弱すぎたかこれは。もう少し待てば良かったか。

 

「……」

「あ、おい待て!!」

 

そのまま物陰に隠れて逃げてしまった。流石に逃がすわけにも行かないと追おうとしたその時──

 

「うぉっ!?」

「きゃっ!?」

 

突然、地面が揺れ出した。地震だ。だが足を取られるような大きなものでは無い。しかし、男から目を逸らすには十分な隙を作ってしまった。

 

「ちっ……逃げられたか」

 

男の姿は既に無く、痕跡らしきものも見つからない。

 

「クソ、なんだったんだアイツは……」

「……何か関係はあるかもね……」

「……」

 

しかし何かに繋がる可能性のある存在であることは間違いない。ときめに探りを頼むとしようか。……と思ったが、その前に春奈のことだ。また俯いてる。

 

「どうした、春奈」

「……なんですぐ捕まえようとしなかったの?」

「……そうだな、慌てたら逃げられちまうからだ」

「でも何もしてないから逃げられたじゃん!」

 

よほど気に食わなかったのか、春奈は滅多に聞かない大声で怒りを露わにしてきた。まだ調査は始まったばかりだが、春奈は案の定焦っていた。動き出せたからこそ早く解決させようと急いでいる。気持ちは分かる。だが──

 

「まだアイツは完全に逃げたわけじゃねえ。それに、アイツが犯人とも限らねえ」

「どう見てもあの変な人だよ!見ればわかるでしょ!?」

「いーや、まだ分からねえ」

「……ッ!オッサンなんて知らない!」

「あ!ちょおい待て俺はオッサンじゃ──!」

 

既に走り去ってしまった。その気になればすぐ追いつけるが、今は追わない方がいいかもしれない。

 

「……どうするの、翔太郎?」

「あれでも亜樹子と照井の娘だ……()()何か見つけるかもな」

 

事実、それに救われたこともある。まあ、あの時は亜樹子が「流石私の娘ね!!」と騒いだ記憶のが強いが。

 

「いやそうじゃなくて……所長さんになんて言うの?」

「……ときめ、春奈を頼む。それともし、あの黒ずくめを見つけたらコイツで頼む」

 

メモリガジェットの一つ、スパイダーショックをときめに渡す。普段は腕時計型で、メモリを差し込むことで、ドーパントでも千切るのに苦労する強度の糸を出したり、小型発信機を射出する機能もある。追跡と身を守る上でも役立つはずだ。

 

「分かった。翔太郎は?」

「俺は他の場所であの男を見た人がいたかどうかと……もう一つ、調べてくる」

「了解」

 

ここからは別行動。さて、もしかしたら……かもな。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「……」

「あの、課長……梅昆布茶飲みます?」

「──」

 

視線の先には俺の部下、真倉(まくら)刑事がやや引き気味で質問を──

 

「俺に質問をするな」

「は、はいすみませんでしたァ!!」

 

返事してすぐ、彼は持ち場に戻った。と言っても刃野刑事の肩を揉みに行っただけだが。また頼まれたのだろう。

いかん、また苛立っている。いやしかし……

 

「大丈夫ですよ課長。その為に我々も動いてますし、翔太郎の奴だっているんですし」

「……確かに、左達のことは信用している。だが……!」

 

刃野刑事が諭そうとしてくれるのはありがたいが、春奈ちゃんの周りで起きた事件なんだぞ……!落ち着いていられるか……!!しかもさっき、ときめから来た連絡では一緒に捜査に動いてるそうではないか……!!危なさすぎる……!!

 

「クッ……やはり俺もすぐに……!」

「あー待ってください課長!その前にこれを!」

「ん?これは?」

「いや何、実はあの会社の元従業員で、以前逮捕された奴がいたって聞いたんで、資料集めたんですよ」

「仕事が早いな刃野刑事。ご苦労」

 

早速手渡された資料を確認する。ふむ。以前逮捕された時の罪状は窃盗か。そして逮捕されたのは六年前。む?六年前……?確か、警視庁の特殊状況下事件捜査課との合同捜査の前後くらいだったか。その時の事件は確か……

 

「……待て、まさか」

 

もしやこの男の狙いは──!

 

「あとは任せる」

「え!?課長!?」

 

驚く真倉刑事の声は振り切っていく。奴の狙いは──俺の家族……!

 

「無事でいてくれ……()()……!!」

 

メモリ、ドライバーはもちろん、応急処置キットも持った。絶望は俺のゴールではない事を証明してやる。




次回、仮面ライダーW

「アイツらさえ……アイツらさえいなけりゃ……!」
「お母さんが言ってた……私に助けてって言った人は、絶対助ける!!」
「これが『血は争えない』、か……興味深い」
「「『さぁ……お前の罪を数えろ!!』」」

これで決まりだ

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