私達は今、聖杯の下に向かっている。キャスターさんによると聖杯は、円蔵山の中腹にある洞窟の最奥にあって、それをセイバーのサーヴァントが守っているそうです。
私達は柳洞寺と言うお寺に続く階段を登り、途中を林の中へ分け入っていった。途中オルガマリーさんが
「大聖杯はこの奥だ」
キャスターさんが言います。
「天然の洞窟に見えますが…」
「これって元からここに在ったんでしょうか?」
マシュさんの言葉を引き継いで、私は疑問を口にした。
「これは半分天然、半分人工よ。魔術師が長い年月をかけて広げた、地下工房ね」
はわぁ、魔術師さん凄いです。……なんて思ってたら、突然フォウさんが唸り声を上げた。
「おう、言ってる傍から信奉者の登場だ」
キャスターさんが言い放つと、洞窟入り口の向かいの崖の上に、ひとりの男の人が現れました。
「おい、アーチャー。相変わらずセイバーを守ってんのか?」
「信奉者になったつもりはないがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」
煽るように言ったキャスターさんのセリフには乗らずに、その人、アーチャーは淡々と返します。
「何からセイバーを守ってんのか知らねえが、ここらで決着着けようや」
「悪いがそこまで暇では…ない!」
そう言い返しながら、何処かから取り出した弓に矢を番えてこちらに放つ。……って、ええーっ!?
「エイワズ!」
あ…、キャスターさんのひと声で、矢が消滅しました。こんなのきっと、ハクアでもムリ。キャスターさん、やっぱり凄いです。
キャスターさんは敵のアーチャーに語りかけながら、攻撃を仕掛けます。アーチャーはそれを避けて、後退して距離を取った。
「今の内に行け! セイバーはあの中だ!」
キャスターさんの言葉に、みんなが一斉に振り返った。
「行くわよ!」
オルガマリーさんが言います。でも…。
「えり?」
立香さんが声をかけてきた。私は意を決して言う。
「私は、ここに残ります」
「「「「えっ!?」」」」
「ああん?」
みんなが驚いてるけど、当たり前ですよね。私は代表でオルガマリーさんを見て、理由を言った。
「私は一時的でも、
そう。キャスターさんとは、魔力量が多くて安定している私と契約した。いくらカルデアからの供給があるとはいえ、立香さんはマシュさんに専念させた方がいいって言うオルガマリーさんの意見でこうなった。
「だからマスターとして、キャスターさんと一緒にいます」
「貴方、こんな時にそんなわがまま…」
オルガマリーさんが文句を言っている、その途中で。
「戦闘中に余所見など、愚の骨頂だな」
その声に振り向いた瞬間目に映ったのは、先程の矢が放たれたところでした。
「させませんっ!」
ヒュッ、と私の顔の横を、何かが通り過ぎる。それは、ディアナさんが放った矢でした。ディアナさんの矢はアーチャーの矢に命中して、相殺して消え去った。
「みなさん、行ってください! ディアナさんも、みんなをお願いします!」
「しかし!」
『えりの言うとおりにしろ!』
そんな私を援護してくれたのは、なんとにーさまでした。
『残念だが、こういう時のえりは頑固だ。議論している暇はない。お前達はさっさと行け!』
「……藤丸、マシュ、アーチャー、……行くわよ!」
「っ! はい!」
「了解、です」
「……仕方がありませんね」
---えりさん、気をつけてくださいね。
ディアナさんが最後に念話でそう付け加えて、みんなが洞窟の中に向かって駆け出した。
「させるか!」
「させないのはこっちだぜっ!」
こちらへ向かうアーチャーに対し、キャスターさんが杖の先細っている方を地面にトン、と叩きつけると火が生み出され、アーチャーへと向かっていった。炎に飲まれたアーチャーは身を翻す。
「行くぜ、……
「……! ハイ、
私はディアナさんから聞いた、キャスターさんの正体を口にした。
「やっぱり気づいてやがったか」
キャスターさんはニヤリと笑い、駆け出す。私も羽衣のアシストを受けながら、その後を追いかけた。
柳洞寺の境内。キャスターさんとアーチャーが闘っている。
上空へとジャンプしたアーチャーが、地上にいるキャスターさんへ矢を放ち、それをキャスターさんは、木の根と思われるものを複数召喚し、盾として防ぐ。
アーチャーは寺の屋根に着地をし、ドリルの様に捻れた槍のようなものを矢に変型させて、再びキャスターさん目がけて放った。
……って、この矢はかなりヤバいですよ!?
そんな私の危惧も、キャスターさんが発動させたルーンの結界によって消える矢を見て、杞憂へと変わる。
ルーンは上空にも布かれていて、私達を結界内へと閉じこめた。
でもこの術式って、新地獄で見た気がします。確か昔、遙か西の方の門番さんが使ってた術だって、習った気が…。
「---俺の師匠にゃ、冥界の門を呼ぶ術があってな。それの応用、パクリってやつさ」
ええっ! それじゃキャスターさん…、クー・フーリンさんって、その門番さんのお弟子さんだったんですか!?
なんて驚いている間に、アーチャーは双剣を構え、キャスターさんは杖を槍のようにしてお互いが打ち合っている。……あれ? お二人はアーチャーとキャスターですよね? セイバーとランサーじゃありませんよね?
『……おい、えり。聞こえるか?』
羽衣製のケータイから、にーさまの声が聞こえる。カルデアの通信は立香さん達の方で使うため、ここへ向かっている途中でケータイを繋いでおいたのだ。……にーさまが。私の頭で、そこまで要領よく出来ませんから。
「にーさま、何ですか?」
『現状を詳しく説明しろ。携帯からじゃ、そっちの様子がわからん』
ああ、それはそうだ。
「ええと、現在柳洞寺の境内で、キャスターさんとアーチャーが闘ってます。キャスターさんが張った結界で外に出られないようにしていて、アーチャーは双剣、キャスターさんは杖を槍のようにして打ち合ってます」
『なるほど。……アーチャーには何か特徴はないか? クー・フーリンは槍を得意とした、アルスター物語群の英雄だが、アーチャーに該当する英雄は思いつかない。だから、せめて情報が欲しい』
あ、それでキャスターさん、あんな戦い方を。……それにしても、アーチャーの特徴、かあ。
「そーですね、アーチャーは弓と矢を、何もないところから出現させてました。洞窟前で射た矢は二本とも同じもので、こちらで使った強力なものも含めて、かなりの魔力…、魔術の世界で言うと神秘でしたか? それが込められていました」
『……神秘の込められた武器を、使い捨てだと? ……いや、しかし同じ武器が二つ…?』
にーさまが何かぶつくさ言っている。
『えり、アーチャーが今使っている武器はどうなんだ?』
「あ、あの双剣にも神秘が込められてるみたいです。……そういえば、アーチャーが放つ矢は最初、剣とか槍みたいな感じで、それを矢に変形させてますね」
『武器の変形…。込められた神秘…。どうやら武器そのものが宝具、って訳ではないみたいだが…』
え? でもさっきの捻れた矢は、充分強力な武器だったと思うんだけど?
『もしかして、武器の創造能力か? いや、だが創造武器に神秘を込められるものなのか?』
確かに。羽衣使って武器を作っても、羽衣の能力以上の能力は発揮できない。つまり創造武器に、創造者の能力を超えた神秘は付与できないはずです。
『……そうか、複製能力か! アーチャーは宝具クラスの武器を、能力も含めて複製してるんだ!』
「ええっ!? そんな能力、ムチャクチャです!」
『だが、それなら納得出来るんだ。自分の能力で複製したのなら、それを改造出来ても不思議じゃないし、使い捨てにしても、また次を複製すれば済むことだ!』
「それは、そうですけど…」
それにしたって、かなり特別な能力です。しかも自分の魔力量を無視しての神秘の付与って、悪い人達に狙われそうな能力ですよ?
『しかしそうなると、あの手は使えないか? いや、やりようはあるな。
……えり、悪いがキャスターに念話で確認をとって欲しい』
「はい?」
キャスターさんとアーチャーが打ち合いを続けている。やがてキャスターさんが、アーチャーの双剣の片方を弾き飛ばす。ここぞとばかり詰め寄るキャスターさん。
だけど飛ばされたはずの剣は弧を描き、アーチャーの元に戻ってくる。それをアーチャーが手に掴もうとして。
「させません!」
「何!?」
私は羽衣を飛ばして、再び剣を弾き飛ばした。キャスターさんとアーチャーは共に後ろに下がり、距離をとる。
「どうやら、ただのマスターではないようだな」
そう言って私を睨みつけるアーチャー。そしてその間に割り込むキャスターさん。
「仮初めとはいえ、俺のマスターに手出しできると思うなよ!」
キャスターさんが再び、杖を槍のように構え対峙する。アーチャーは再び戻ってきた剣を掴み、やはり構えをとる。
二人は同時に飛び出し、お互いに攻撃を繰り出し、それを防いだりいなしたりを繰り返す。
そしてあるタイミングで、キャスターさんが杖でアーチャーの足下を狙うように薙いだ。アーチャーはそれを一歩下がって躱し、次の一歩でキャスターさんとの距離を縮める。
大振りで隙が出来たキャスターさんに剣を振るおうとして、だけどその動きが止まる。次の瞬間、キャスターさんの右拳がアーチャーの顔面目がけて飛んでくる。アーチャーは慌てて双剣を交差させて、その腹で拳を受け止めた。その際、アーチャーは数メートル後ろへ飛ばされる。
そして。いつの間にかキャスターさんが手に握っていた数個の石を、アーチャーの顔に投げつけた。その石は閃光を放ってアーチャーの視界を奪う。
---マスター!
このタイミングだ! キャスターさんの指示が出るまでもなく思った私は、にーさまの作戦どおり令呪に願う。
閃光が収まって。
「何!?」
アーチャーが驚きの声を上げる。その視線の先にいるのは、青い、タイツの様な衣装に姿の変わったキャスターさん。アーチャーは視線を私、正確には左手の甲に移す。
私の左手の甲には、一画を失った令呪がある。
「まさか、そんな事が有り得るのか?」
有り得ないものを見た、という表情を浮かべているアーチャー。
「おう! 余所見だなんて、愚の骨頂じゃあなかったのか、アーチャー!!」
その声にアーチャーは視線を戻す。キャスターさんはニヤリと笑い、大きくジャンプをする。その手には、血のように真っ赤な槍が握られていた。
「その心臓、貰い受ける!」
「チィッ!!
「
「
キャスターさんが槍を投げ、アーチャーが七枚の光の盾を展開する。
そして次の瞬間、アーチャーが目を見開く。どうやら気づいたようだ。キャスターさんが投げた槍が、
羽衣の衣装を解除して元の姿に戻ったキャスターさんは、上空の結界を蹴って急降下、アーチャーの真後ろに着地して、間髪入れずに杖をアーチャーに叩きつけた。
「かふっ!」
アーチャーから小さく声が漏れる。
「これで仕舞いだ!」
続け様に発動させた術で、植物で編まれた大きな腕を召喚、その手に掴まれたアーチャーは地面に叩きつけられ。
魔術的な作用があったんでしょう。大きくダメージを受けたアーチャーは、光の粒子となって消えていった。
「どうやら上手くいったみたいです~」
私は安堵のため息を吐く。
「ああ。嬢ちゃんの兄貴の策、上手く嵌まったな」
そう。にーさまの作戦は、アーチャーの混乱に乗じてクー・フーリンさんがランサーになったと思わせるもの。その為に
後は
「……ランサークラスで召喚されてたら、こんな搦め手は好まないが。だがまあ、今はキャスタークラスだし、何よりあのアーチャーに一泡吹かせられたんだ。こんな愉快なこたぁねえ」
……キャスター…、クー・フーリンさんは、あのアーチャーと何か因縁があるんでしょうか?
「さて、と。こんな場所でのんびりしている訳にもいくまいよ。聖杯の下ではまだ、赤毛の嬢ちゃん達が頑張っているはずだ」
あ、そうです! 立香さんにマシュさん、ディアナさん、オルガマリーさんが頑張ってるはずです!
「キャスターさん、行きましょう!」
「おうよ」
私達は洞窟に向かって駆け出した。
底なし沼はプリヤ2weiのオマージュです。
しかし、影の国の女王を門番扱いするえりって…。