特異点F ~元・ポンコツ悪魔の人理修復~   作:猿野ただすみ

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あいつは頭はほぼからっぽだが、言われたことは結構ちゃんとやる。


元・ポンコツ悪魔@がんばる

~えり~

私達は今、聖杯の下に向かっている。キャスターさんによると聖杯は、円蔵山の中腹にある洞窟の最奥にあって、それをセイバーのサーヴァントが守っているそうです。

私達は柳洞寺と言うお寺に続く階段を登り、途中を林の中へ分け入っていった。途中オルガマリーさんが(トラップ)の底なし沼に嵌まったりもしたけど、概ね順調に進み、今は洞窟の入り口の前までやって来ました。

 

「大聖杯はこの奥だ」

 

キャスターさんが言います。

 

「天然の洞窟に見えますが…」

「これって元からここに在ったんでしょうか?」

 

マシュさんの言葉を引き継いで、私は疑問を口にした。

 

「これは半分天然、半分人工よ。魔術師が長い年月をかけて広げた、地下工房ね」

 

はわぁ、魔術師さん凄いです。……なんて思ってたら、突然フォウさんが唸り声を上げた。

 

「おう、言ってる傍から信奉者の登場だ」

 

キャスターさんが言い放つと、洞窟入り口の向かいの崖の上に、ひとりの男の人が現れました。

 

「おい、アーチャー。相変わらずセイバーを守ってんのか?」

「信奉者になったつもりはないがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」

 

煽るように言ったキャスターさんのセリフには乗らずに、その人、アーチャーは淡々と返します。

 

「何からセイバーを守ってんのか知らねえが、ここらで決着着けようや」

「悪いがそこまで暇では…ない!」

 

そう言い返しながら、何処かから取り出した弓に矢を番えてこちらに放つ。……って、ええーっ!?

 

「エイワズ!」

 

あ…、キャスターさんのひと声で、矢が消滅しました。こんなのきっと、ハクアでもムリ。キャスターさん、やっぱり凄いです。

キャスターさんは敵のアーチャーに語りかけながら、攻撃を仕掛けます。アーチャーはそれを避けて、後退して距離を取った。

 

「今の内に行け! セイバーはあの中だ!」

 

キャスターさんの言葉に、みんなが一斉に振り返った。

 

「行くわよ!」

 

オルガマリーさんが言います。でも…。

 

「えり?」

 

立香さんが声をかけてきた。私は意を決して言う。

 

「私は、ここに残ります」

「「「「えっ!?」」」」

「ああん?」

 

みんなが驚いてるけど、当たり前ですよね。私は代表でオルガマリーさんを見て、理由を言った。

 

「私は一時的でも、()()()()()()()()()()()()()()

 

そう。キャスターさんとは、魔力量が多くて安定している私と契約した。いくらカルデアからの供給があるとはいえ、立香さんはマシュさんに専念させた方がいいって言うオルガマリーさんの意見でこうなった。

 

「だからマスターとして、キャスターさんと一緒にいます」

「貴方、こんな時にそんなわがまま…」

 

オルガマリーさんが文句を言っている、その途中で。

 

「戦闘中に余所見など、愚の骨頂だな」

 

その声に振り向いた瞬間目に映ったのは、先程の矢が放たれたところでした。

 

「させませんっ!」

 

ヒュッ、と私の顔の横を、何かが通り過ぎる。それは、ディアナさんが放った矢でした。ディアナさんの矢はアーチャーの矢に命中して、相殺して消え去った。

 

「みなさん、行ってください! ディアナさんも、みんなをお願いします!」

「しかし!」

『えりの言うとおりにしろ!』

 

そんな私を援護してくれたのは、なんとにーさまでした。

 

『残念だが、こういう時のえりは頑固だ。議論している暇はない。お前達はさっさと行け!』

「……藤丸、マシュ、アーチャー、……行くわよ!」

「っ! はい!」

「了解、です」

「……仕方がありませんね」

 

---えりさん、気をつけてくださいね。

 

ディアナさんが最後に念話でそう付け加えて、みんなが洞窟の中に向かって駆け出した。

 

「させるか!」

「させないのはこっちだぜっ!」

 

こちらへ向かうアーチャーに対し、キャスターさんが杖の先細っている方を地面にトン、と叩きつけると火が生み出され、アーチャーへと向かっていった。炎に飲まれたアーチャーは身を翻す。

 

「行くぜ、……()()()()!」

「……! ハイ、()()()()()()()さん!」

 

私はディアナさんから聞いた、キャスターさんの正体を口にした。

 

「やっぱり気づいてやがったか」

 

キャスターさんはニヤリと笑い、駆け出す。私も羽衣のアシストを受けながら、その後を追いかけた。

 

 

 

 

 

柳洞寺の境内。キャスターさんとアーチャーが闘っている。

上空へとジャンプしたアーチャーが、地上にいるキャスターさんへ矢を放ち、それをキャスターさんは、木の根と思われるものを複数召喚し、盾として防ぐ。

アーチャーは寺の屋根に着地をし、ドリルの様に捻れた槍のようなものを矢に変型させて、再びキャスターさん目がけて放った。

……って、この矢はかなりヤバいですよ!?

そんな私の危惧も、キャスターさんが発動させたルーンの結界によって消える矢を見て、杞憂へと変わる。

ルーンは上空にも布かれていて、私達を結界内へと閉じこめた。

でもこの術式って、新地獄で見た気がします。確か昔、遙か西の方の門番さんが使ってた術だって、習った気が…。

 

「---俺の師匠にゃ、冥界の門を呼ぶ術があってな。それの応用、パクリってやつさ」

 

ええっ! それじゃキャスターさん…、クー・フーリンさんって、その門番さんのお弟子さんだったんですか!?

なんて驚いている間に、アーチャーは双剣を構え、キャスターさんは杖を槍のようにしてお互いが打ち合っている。……あれ? お二人はアーチャーとキャスターですよね? セイバーとランサーじゃありませんよね?

 

『……おい、えり。聞こえるか?』

 

羽衣製のケータイから、にーさまの声が聞こえる。カルデアの通信は立香さん達の方で使うため、ここへ向かっている途中でケータイを繋いでおいたのだ。……にーさまが。私の頭で、そこまで要領よく出来ませんから。

 

「にーさま、何ですか?」

『現状を詳しく説明しろ。携帯からじゃ、そっちの様子がわからん』

 

ああ、それはそうだ。

 

「ええと、現在柳洞寺の境内で、キャスターさんとアーチャーが闘ってます。キャスターさんが張った結界で外に出られないようにしていて、アーチャーは双剣、キャスターさんは杖を槍のようにして打ち合ってます」

『なるほど。……アーチャーには何か特徴はないか? クー・フーリンは槍を得意とした、アルスター物語群の英雄だが、アーチャーに該当する英雄は思いつかない。だから、せめて情報が欲しい』

 

あ、それでキャスターさん、あんな戦い方を。……それにしても、アーチャーの特徴、かあ。

 

「そーですね、アーチャーは弓と矢を、何もないところから出現させてました。洞窟前で射た矢は二本とも同じもので、こちらで使った強力なものも含めて、かなりの魔力…、魔術の世界で言うと神秘でしたか? それが込められていました」

『……神秘の込められた武器を、使い捨てだと? ……いや、しかし同じ武器が二つ…?』

 

にーさまが何かぶつくさ言っている。

 

『えり、アーチャーが今使っている武器はどうなんだ?』

「あ、あの双剣にも神秘が込められてるみたいです。……そういえば、アーチャーが放つ矢は最初、剣とか槍みたいな感じで、それを矢に変形させてますね」

『武器の変形…。込められた神秘…。どうやら武器そのものが宝具、って訳ではないみたいだが…』

 

え? でもさっきの捻れた矢は、充分強力な武器だったと思うんだけど?

 

『もしかして、武器の創造能力か? いや、だが創造武器に神秘を込められるものなのか?』

 

確かに。羽衣使って武器を作っても、羽衣の能力以上の能力は発揮できない。つまり創造武器に、創造者の能力を超えた神秘は付与できないはずです。

 

『……そうか、複製能力か! アーチャーは宝具クラスの武器を、能力も含めて複製してるんだ!』

「ええっ!? そんな能力、ムチャクチャです!」

『だが、それなら納得出来るんだ。自分の能力で複製したのなら、それを改造出来ても不思議じゃないし、使い捨てにしても、また次を複製すれば済むことだ!』

「それは、そうですけど…」

 

それにしたって、かなり特別な能力です。しかも自分の魔力量を無視しての神秘の付与って、悪い人達に狙われそうな能力ですよ?

 

『しかしそうなると、あの手は使えないか? いや、やりようはあるな。

……えり、悪いがキャスターに念話で確認をとって欲しい』

「はい?」

 

 

 

 

 

キャスターさんとアーチャーが打ち合いを続けている。やがてキャスターさんが、アーチャーの双剣の片方を弾き飛ばす。ここぞとばかり詰め寄るキャスターさん。

だけど飛ばされたはずの剣は弧を描き、アーチャーの元に戻ってくる。それをアーチャーが手に掴もうとして。

 

「させません!」

「何!?」

 

私は羽衣を飛ばして、再び剣を弾き飛ばした。キャスターさんとアーチャーは共に後ろに下がり、距離をとる。

 

「どうやら、ただのマスターではないようだな」

 

そう言って私を睨みつけるアーチャー。そしてその間に割り込むキャスターさん。

 

「仮初めとはいえ、俺のマスターに手出しできると思うなよ!」

 

キャスターさんが再び、杖を槍のように構え対峙する。アーチャーは再び戻ってきた剣を掴み、やはり構えをとる。

二人は同時に飛び出し、お互いに攻撃を繰り出し、それを防いだりいなしたりを繰り返す。

そしてあるタイミングで、キャスターさんが杖でアーチャーの足下を狙うように薙いだ。アーチャーはそれを一歩下がって躱し、次の一歩でキャスターさんとの距離を縮める。

大振りで隙が出来たキャスターさんに剣を振るおうとして、だけどその動きが止まる。次の瞬間、キャスターさんの右拳がアーチャーの顔面目がけて飛んでくる。アーチャーは慌てて双剣を交差させて、その腹で拳を受け止めた。その際、アーチャーは数メートル後ろへ飛ばされる。

そして。いつの間にかキャスターさんが手に握っていた数個の石を、アーチャーの顔に投げつけた。その石は閃光を放ってアーチャーの視界を奪う。

 

---マスター!

 

このタイミングだ! キャスターさんの指示が出るまでもなく思った私は、にーさまの作戦どおり令呪に願う。

閃光が収まって。

 

「何!?」

 

アーチャーが驚きの声を上げる。その視線の先にいるのは、青い、タイツの様な衣装に姿の変わったキャスターさん。アーチャーは視線を私、正確には左手の甲に移す。

私の左手の甲には、一画を失った令呪がある。

 

「まさか、そんな事が有り得るのか?」

 

有り得ないものを見た、という表情を浮かべているアーチャー。

 

「おう! 余所見だなんて、愚の骨頂じゃあなかったのか、アーチャー!!」

 

その声にアーチャーは視線を戻す。キャスターさんはニヤリと笑い、大きくジャンプをする。その手には、血のように真っ赤な槍が握られていた。

 

「その心臓、貰い受ける!」

「チィッ!!

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)…!」

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!」

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

キャスターさんが槍を投げ、アーチャーが七枚の光の盾を展開する。

そして次の瞬間、アーチャーが目を見開く。どうやら気づいたようだ。キャスターさんが投げた槍が、()()()()()()()()()()()()()()()

羽衣の衣装を解除して元の姿に戻ったキャスターさんは、上空の結界を蹴って急降下、アーチャーの真後ろに着地して、間髪入れずに杖をアーチャーに叩きつけた。

 

「かふっ!」

 

アーチャーから小さく声が漏れる。

 

「これで仕舞いだ!」

 

続け様に発動させた術で、植物で編まれた大きな腕を召喚、その手に掴まれたアーチャーは地面に叩きつけられ。

魔術的な作用があったんでしょう。大きくダメージを受けたアーチャーは、光の粒子となって消えていった。

 

 

 

 

 

「どうやら上手くいったみたいです~」

 

私は安堵のため息を吐く。

 

「ああ。嬢ちゃんの兄貴の策、上手く嵌まったな」

 

そう。にーさまの作戦は、アーチャーの混乱に乗じてクー・フーリンさんがランサーになったと思わせるもの。その為に()()()令呪を一画消費させた。もちろん無駄遣いじゃなくて、キャスターさんを一時的に強化させている。

後は()()()()()宝具を使うように見せて、キャスターさんから聞いた魔力の盾を使わせて一時的に動きを止め、その隙を突いて攻撃・撃破をするという筋書きだ。

 

「……ランサークラスで召喚されてたら、こんな搦め手は好まないが。だがまあ、今はキャスタークラスだし、何よりあのアーチャーに一泡吹かせられたんだ。こんな愉快なこたぁねえ」

 

……キャスター…、クー・フーリンさんは、あのアーチャーと何か因縁があるんでしょうか?

 

「さて、と。こんな場所でのんびりしている訳にもいくまいよ。聖杯の下ではまだ、赤毛の嬢ちゃん達が頑張っているはずだ」

 

あ、そうです! 立香さんにマシュさん、ディアナさん、オルガマリーさんが頑張ってるはずです!

 

「キャスターさん、行きましょう!」

「おうよ」

 

私達は洞窟に向かって駆け出した。




底なし沼はプリヤ2weiのオマージュです。
しかし、影の国の女王を門番扱いするえりって…。
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