望めばなんでもできる!!
私は洞窟の中を駆け抜ける。所長、先輩、そしてディアナさんと共に。
そして辿り着いたのは大きな大空洞。目の前は岩盤が小高い丘の様に盛り上がった、大きな台座のような物があります。
「何、これ?」
「超抜級の魔術炉心じゃない! これが大聖杯だっていうの!?」
先輩の疑問に答えたのは、やはり所長でした。と、そこへ。
「ほう…。面白いサーヴァントがいるな」
私達に、……いえ、おそらくは
黒いバトルドレスに黒い甲冑、くすんだ金髪に金の瞳をした、剣を携えた女性の姿があった。
「あれがセイバー?」
「なんて魔力なの!」
先輩と所長の言葉を聞き、私は盾を、ディアナさんは弓矢を構える。
「盾か…。構えるがいい、名も知れぬ娘」
ディアナさんを無視して語るセイバー。
「その守りが真実か、確かめてやろう!この剣で!!」
そう言い、剣を構え。
「……私は無視ですか」
隣りに立つディアナさんは、物凄く不機嫌になっていた。……ええと、ドンマイです。
セイバーが振るう剣を、私は何とか盾で捌いている。しかしその威力は、途轍もなく強力なものです。
「---ふっ!」
「! ちぃっ!!」
ディアナさんが矢を放ち、気づいたセイバーが一端身を引く。そしてその間に私は立て直しを図る。
私達は先程からそれを繰り返していた。先輩は少し離れたところで、防御壁を張った所長と共にいる。
ハッキリ言って、ディアナさんには大変助けられています。ここまで攻防が続けられるのも、ディアナさんの援護あっての事。もし私ひとりだったら、恐らくもっと疲弊していたはずです。
セイバーが数度剣を叩き込み、私は今までと同じく盾で捌いていく。しかし今度は、ディアナさんが矢を放つまでもなく、セイバーは大きく距離を取った。
「……ふん。このままでは埒があかぬか」
そう言って剣を大上段に構え。
「なら、この攻撃には耐えられるか?」
刀身へと魔力が収束してゆく。これは、宝具の解放!?
「---卑王鉄槌。極光は反転する…」
「させません!」
ディアナさんが矢を射ますが、それは黒い魔力の奔流によって弾かれてしまう。
「光を呑め!
「マシュさん!」
ディアナさんが素早く私の後ろに位置取ると、盾に魔力を纏わせた。けれども鈍い音と共に魔力は弾け飛び、セイバーが放った攻撃は、私の盾一枚によって耐えている状態になってしまう。
「くっ、ミネルヴァの結界ならマシュさんの助けになったのでしょうが…」
ミネルヴァ。ローマ神話におけるユピテルの娘で、ディアナの妹とされる女神。この場合はユピテルの姉妹の一人という事でしょうか。
「マシュさん、何とか攻撃を凌ぎきってください。そうしたら私が…」
……え。いえ、確かにそれなら。しかし、ディアナさんのお陰で多少余力のあった私ですが、この攻撃に段々と力が奪われていくのがハッキリと分かります。
やがて。少しずつ身体中の力が入らなくなり、徐々に圧され始める。ディアナさんは次の一手の準備をしています。彼女の力を借りることは出来ません。
しかし
いけない。このままでは、うしろにいるディアナさんも巻きこんでしまう。それに、わたしが倒れたら、所長やセンパイの、いのちだって…。
そんなのは、いやだ。わたし、は、せん…ぱい……を…………。
…………。
……。
ふと、意識が浮上する。
崩れ落ちそうだった私の体を支えるために、腰に回された左腕。そして盾を掴む手に添えられた、令呪の浮かんだ右の手。
「……せん、ぱい?」
「大丈夫。私も力を貸すから…」
そう言って、先輩はにこりと微笑む。そして右手の令呪が一画輝き、私へと力が注がれる。
「はい、マスター! 見ていてください!」
そう。今の私なら必ず出来る。根拠はないけれど、何故だか確信は持てる。
私は盾へと意識を集中させる。
---宝具ってのは本能だ。本能が呼び起こされるような事が起これば、自ずと目覚める。
---私が言いたいのは、闘いに赴くための意思、という事です。
キャスターさんやディアナさんが仰っていた事。今はハッキリと言える。
たとえ新米で出来損ないだとしても。私は。私はどんな敵のどんな攻撃だろうと、この盾で! この英霊の宝具で! 先輩を、みんなを護りたい!
その想いに応えるかのように、盾は輝き、眼前には光の城壁が現れて黒き輝きの奔流を押し留める。……これが、
「な…、その盾は…!!」
何かを確信したかのように、驚きの声を発するセイバー。私は構わずに全力で抗うと、セイバーの攻撃を徐々に押し返してゆき、やがてセイバーへと跳ね返した。
自らの攻撃を喰らい、ダメージを受けるセイバー。しかし私も、力のほとんどを使い果たし、先輩に支えられてようやく立っている状態。宝具である壁も、徐々に解除されていく。
そんな中、セイバーは再び魔力を高め、剣を大上段に構え。
「
二度目の宝具開放に入る。けれど。
「私の役目はここまでです」
そう言って私は、先輩にもたれかかるようにして横に移動した。
「ええ、よく持ち堪えてくれました」
そう応えてくれたディアナさんは、ロングボウに銀色に耀く矢を番えていた。これが、ディアナさんの宝具…。
「我が一矢、当たること違わず…!」
ディアナさんは短く言葉を紡ぎ。
「
矢を解き放つ!
「くぅっ!」
セイバーは咄嗟に身を躱す。しかし、次の瞬間。
「カハァ!?」
「……え。いつの間にか、矢が当たってる?」
矢が胸を貫き、短く声を洩らすセイバー。その様子を見て、先輩が疑問を述べた。
「……神話において、ディアナと同一視されるアルテミスは弓の名手だったそうです。その腕前は百発百中。狩りの女神ともされています。
その逸話が昇華された宝具。それがディアナさんの、命中するという結果を造り上げてから放つ因果逆転の矢。その名も[
……全てディアナさんから聞いたことですが」
私の説明に先輩はなるほどと頷く。そこへ。
「なんだ、俺の出番は無しかよ」
「皆さん、無事ですか~?」
大空洞の入り口から、キャスターさんとえりさんが現れた。その様子を見たセイバーは小さく笑い、独白するように言葉を紡いだ。
「……守る力の勝利か。穢れなきあの者らしい。結局どう運命が変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるというわけか…」
「どういう意味だ? テメェ、何を知ってやがる」
思わせぶりなセイバーに、キャスターさんが訊ねますが、それには答えず。
「いずれ貴方も知る。アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー、聖杯を巡る戦いは、始まったばかりという事だ」
そう言葉を残し、光の粒子となって消えていった。
「おい! それはどういう…!? ちぃっ!」
そしてまたキャスターさんも、徐々に光へと還り始めている。
「嬢ちゃん達、後は任せた。次があったら、そんときゃランサーとして呼んでくれ」
そう言い残して、キャスターさんもまた消滅していった。
「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。……私達の勝利、なんでしょうか?」
私は実感の湧かないまま、先輩に現状を説明する。するとその時、カルデアからの連絡が入った。
『みんな、よくやってくれた。どうやらそこは映像が繋がらないらしくて、喜ぶ君たちを見られなくて残念だよ』
緊張感のないドクターの声に、私は先輩と一緒に笑みを浮かべてしまう。
そしてえりさんに目を向けると、彼女はキャスターさんが消滅したことが悲しかったのか、沈んだ表情をしています。
次いで所長を見ると、何やら深刻な表情で考え込んでます。一体どうしたのでしょう?
「所長?」
先輩が声をかけるとハッとした表情をしてから、軽く笑顔を浮かべる。
「よくやったわ。マシュ、
「「え…」」
私と先輩の声が被る。所長は先輩の事を藤丸って…。
「何よ。名前で呼んでほしかったんでしょう?」
「あ、はい!」
嬉しそうに答える先輩。どうやら所長も、先輩の事を認めてくれたみたいです。
「……それからアーチャー・ディアナ。貴女のお陰で、セイバーを無事に倒すことが出来ました。お礼を言います」
「いえ。それが私の使命ですから」
「そして、桂木えり」
名前を呼ばれて、落ち込んでいたえりさんがビクリと震え、所長を見た。
「敵アーチャーを無事に倒すことが出来たみたいね。
本当ならキャスターにも声をかけたかったのだけど、それはもう適わないわ。なので貴女に言います。二人とも、ありがとう」
「あ…、オルガマリーさん」
えりさんは感極まったのか、うっすらと涙を浮かべています。
そして再び所長へ顔を向けると、所長もこちらを見て優しく私に語りかけた。
「マシュ。未熟でもいい、仮のサーヴァントでもいい。そう願って盾を開いたのね」
私は小さく頷く。所長はちゃんと、私の想いを理解してくれていた。それが私には、とても嬉しかった。
「貴女は真名を得ても、英霊そのものになる欲が全くなかった。だからきっと宝具も、貴女に応えたんでしょうね。……ハァ、とんだお伽話ね」
「は…?」
お伽話、ですか?
「ただの嫌味よ。気にしなくていいわ」
……よくわかりません。
「でも、真名が無いと宝具を使うのも不便でしょう? いい
あ…。
「はい。ありがとうございます」
私はお礼を言うと、この英霊を象徴する盾を撫でながら、仮とはいえ、この宝具の名前を呟いたのだった。
パチ、パチ、パチ……と。ゆっくりと鳴り響く、拍手の音。
「いや、まさかキミ達が、ここまでやるとは思わなかったよ」
私達はその音と声の出所、魔術炉心の上へと視線を向ける。
「計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」
そこにいたのは。
「あなたは…」
「レフ教授」
「レフさん、生きてらしたんですか!?」
そう。魔術炉心の上に佇んでいたのは、爆発に巻き込まれたはずのレフ教授だった。
すみません。2022年中に書き上がらなかった上に、いつもより短いです。
とりあえず近いうちにもう一本書き上げて、特異点Fでの活躍は終わらせたいですね。緑川理香を何とかしてあげないと、終わるに終われないので。