ルートは残ってるはずだ…
「あなたは…」
「レフ教授」
「レフさん、生きてらしたんですか!?」
私達は口々に言う。
『レフ教授だって?』
こっちの様子がわからないDr.ロマンは、私達の言葉を聞いて驚きの声をあげる。そりゃそうだよね。だってレフ教授は、爆発の中心部…に……? え、あれ? それじゃ、なんで生きてるの?
「…レフ。レフー!」
私がそんな疑問を浮かべる中、所長がレフ教授に向かって走り出した。
『……えり、気をつけろ』
「え? にーさま?」
えりが持ってる携帯電話から聞こえる、桂馬くんの声。かなり緊張感のある声だ。
「レフ、生きていたのね! あなたがいなかったら私…」
「やあ、オルガ。キミも大変だったようだね」
所長とレフ教授との会話。しかし今の私には、嫌な予感しか感じない。
『今から言うことは、ゲームではかなり高確率な可能性だ』
桂馬くんは相変わらずのゲーム理論だけど、今は馬鹿にする気は起きない。
「そうなのよ、レフ! 予想外のことばかりで頭がおかしくなりそうだった! でも、あなたがいればなんとかなるわよね!」
「勿論だとも。……本当に予想外のことばかりで、頭にくる!!
……ロマニ、キミにはすぐに、管制室に来るように言ったのに」
……え? それってどういう…。
『レフ教授は…』
「キミもだよ、オルガ。爆弾はキミの足元に設置したのに、まさか生きているなんて。いや、生きているというのは違うな。キミはもう死んでいる。肉体はとっくにね」
まさか、レフ教授は…。
『今回の事件の黒幕だ!』
私が予想したとおりのことを、桂馬くんは言った。
「キミは生前、レイシフトの適性がなかっただろう? 肉体があったままでは転移が出来ない。キミは死んだことで初めて、適性を手にしたのだ」
レフ教授は残酷な真実を所長に突きつけていく。
「だからキミの意識は、カルデアに戻った時点で消滅する」
所長が、消滅!?
「だが、それではあまりにも憐れだ。生涯をカルデアに捧げたキミのため、今どうなっているか見せてあげよう」
そう言ってレフ教授が左手を突き出すと、所長の近く…セイバーが消滅した辺りに光り輝いていた結晶が舞い上がり、その掌に納まり吸収されるように消滅した。
レフ教授がパチリと指を鳴らす。すると更に後ろの空間に、赤く燃えるカルデアスが映し出される。
「うそ…、あれ、ただの虚像でしょう!?」
「いいや、本物だとも。キミのために時空を繋げてあげたんだ。聖杯があればこんな事も出来るからねぇ」
この人は、本当にレフ教授なの? ほんの僅かな間だったけど、それでも私が知ってる彼は、こんな底意地の悪い事をする人じゃなかった。
「よく見たまえ、アニムスフィアの末裔。これがお前達の愚行の末路だ」
そう言って手を振ると、所長の体が浮かびあがった!
「ちょっと、何を…」
「最後にキミの望みを叶えてあげよう。キミの宝物に触れるといい」
所長の体はカルデアスに向かって進んでいく。
「やめてっ! だってカルデアスよっ!」
「ああ。ブラックホールと何も変わらない。いや、太陽か。どちらにしろ、人間が触れれば分子レベルで分解される。生きたまま、無限の死を味わいたまえ」
「所長!」
「オルガマリーさん!」
私とえりが声をあげる。
「に、にーさま。どうすれば…」
えりは、桂馬くんと繋がっている携帯電話に縋った。
『……えり。オルガマリーを助けたいか?』
「とーぜんです!」
『そうか。実はボクも同じ気持ちだ。ボクは、人が死ぬ展開は嫌いだ。だから…』
そこで桂馬くんは一呼吸置き。
『行けっ!
「!! はいっ!
一瞬。何を言ってるのか理解できなかった。でも、次の瞬間、えりが羽衣に覆われると和服っぽくて和服じゃない、袖無しの濃紺の衣装に換わっていた。
「え? えり…さん?」
マシュもあまりのことに戸惑っている。ディアナとフォウは気にもとめていないけど。
そんな私達を更に驚かせるように、えりは空中へと跳び上がった!
「え、ええーーーっ!?」
「まさか…。飛行の魔術は特定の条件が揃った上で、高度な魔術制御が必要となる難しい術だと聞いています。それがあんな…」
私は純粋に飛んだことに驚いたけど、魔術の世界的にも異常な光景だったみたい。
と。そこで、今まで無言で成り行きを見守っていたディアナが口を開いた。
「……もう、隠しておく必要も無いでしょう。立香さん、マシュさん。あれこそが、あなた方が知りたがっていた秘密です」
「え…?」
「えりさんの今の肉体は人間のものになっていますが、元々は悪魔でした。……そう。エルシィさんが自ら望み、桂木さんと本当の家族になるために人間となった姿が、今のえりさんなのです」
ようやく、腑に落ちた。えりはエルシィだったから、地獄の道具が使えるし記憶だって残っていたんだ。桂馬くんやディアナが隠してたのも、えりを守るため。
私は飛んでいったえりを見る。えりは今まさに所長を助けようと手を伸ばしていた。
「オルガマリーさん! 手を…!」
えりの呼びかけに、所長は左手を伸ばす。えりはその手を、左手でしっかりと掴んだ。
「あわわ、私も引っ張られて…。羽衣さん!」
えりが叫ぶと羽衣が伸びて、地面から突き出した大きな岩に巻きついた。もう片方の端は、えりの胴体に巻きついて固定をしている。
「あうっ…、手が滑って…。オルガマリーさんも、しっかり手を…」
「いや…」
「え?」
「いや、いやよ! 私はまだ死にたくない! 誰もまだ私を褒めてくれない…、認めてくれてない…、まだ何も成し遂げてない…。誰も私を評価してくれなかった…!」
所長…。
「何を言ってるんですか。私、オルガマリーさんのお陰でここまで来られたんですよ? 確かに戦ったのはマシュさんやディアナさん、キャスターさんですけど、私や、多分立香さんも、オルガマリーさんが心の支えになってたんです。だから…、他の誰も認めなかったとしても、私はオルガマリーさんがすごい人だって認めます!」
「!!」
所長が目を見開いて驚いてる。所長にとっては思ってもみない言葉だったんだろう。でも…うん。えりの言うとおり。私も所長が心の支えになってたって、自信を持って言える。
「……桂木えり」
所長が小さく微笑む。だけど。
「「あ…」」
その瞬間力が弛んだのか、所長の手とえりの手が離れてしまう。
「「所長!!」」
私とマシュが叫ぶ!
「まだですっ!」
そう言ったえりの掌に瓶が現れて、瞬く間に一抱えほどの大きさになった。
「勾留ビン!!」
瓶のフタを開けて言った途端に、物凄い勢いで所長を引き寄せていき、すぽん!と瓶の中に納まってしまう。すかさず蓋を閉めると、瓶は元のサイズへと戻った。
「駆け魂…じゃなくて、オルガマリーさん勾留…も違くて、回収完了です!」
えりのセリフを聞いて、私とマシュも安堵した。
『こ、これは…』
「逃げた駆け魂…
『……そう。……いいえ、それでも希望がある。ありがとう、えり』
所長が素直にお礼を言った。小さな瓶の中だから顔は見えないけど、その言葉は今までと違って丸くなった気がする。
「……何故だ。悪魔だと? 何故悪魔が人間の味方をする。何故我々の邪魔をする!」
「私はもう、悪魔じゃありません! 確かに魔力量や能力は残ってますけど、この体はもう人間のものです!」
「だとしても! 何故、元
元…、同胞!?
『レフ! キミは一体、何者なんだ!?』
Dr.ロマンが、レフ教授に尋ねる。
「……ああ、そうだ。確かに、改めて自己紹介が必要だったね。私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様達人類を処理するために遣わされた、2016年担当者だ」
『なるほど。ソロモン72柱のひとり、悪魔の大公爵だったって訳か』
「それで、えりさんを元同胞って…」
マシュが理解したように呟いた。いや、私も同じ気持ちだけど。
『そして、過去介入の経験者として言わせてもらおう。お前がやったのは未来を消失させたんじゃない。過去に介入して、人類史を焼却したんだ』
『なるほど。かつて桂木君が介入して世界が消失した、それと同じことを引き起こしているというわけだね』
世界が、焼却された…? それじゃあ、私の家族は? 友達は? 先生達は?
「……どうやら、私の説明の手間は省けたようだ。もっともカルデアは、カルデアスの磁場のおかげで影響を免れているようだがね。まあ、それも時間の問題だろう」
『つまり、それまでの間に歴史の修復をすれば、世界の修正能力で人類は復活するって訳だ。ゲームでもよくあるパターンだな』
「あ…」
桂馬くんの言葉に、私は希望を見出した。まだ、終わってなんかないんだ。
「ほう。まだ抗うというのか。本当に人間というのは諦めの悪い生き物だ。……おや?」
突然、辺りが揺れ始めた。
「地震…?」
「……違います。これは…!」
「どうやらこの特異点も限界か。セイバーめ。聖杯を与えられながら、この時代を維持しようなどと」
!? それじゃあセイバー…アーサー王は、人類史を守るために敢えて特異点を残してたって事?
「さて、立ち去りたいところだがその前に、貴様だけは始末させてもらおう。……桂木えり!」
なっ!?
レフ教授は胸の前で、左の掌を上に向けた。するとそこに、さっきの結晶と同じ色の光が現れる。何をする気かわかんないけど、あれはヤバいものだって、心の中で訴えている。
「生憎だが、
「ぐぁっ!?」
本当に、突然だった。今まで何もなかったところから、突然小柄な女の子が現れたかと思うと、大きな鎌でレフ教授の左腕を切り落とした。その掌に灯っていた光はやがて、再び結晶へと変化する。女の子はそれを拾い上げて言った。
「これは、私が預かっておこう。何、安心するがいい。時が来たらカルデアに届けてやる。リスクの分散というやつじゃな」
この子、カルデアの事も知ってる? 何? サーヴァントか何かなの? ううん、それよりも。
「えりが、妹?」
そう。この子は確かに言った。「私の妹」って。
「うむ。
そう言って上空のえりを見る。そのえりは、物凄く戸惑った表情で女の子を見つめ返して言った。
「リミュエルお姉さま…、私のこと、覚えてるんですか?」
……あ。そうだ。エルシィとしてのえりは、一部の人を除いて記憶が無くなってるんだ。だけどあの子はエルシィって呼んでる。それにえりは、リミュエルお姉さまって呼んだ。つまりあの子は、悪魔ってこと…。
「……まあな。だが、詳しく説明する時間はない。それについてはまた今度じゃ」
そう言うとその子、リミュエルは踵を返して立ち去ろうとする。
「……待て。お前は悪魔じゃないのか? それが何故、私の邪魔をするのだ」
「……ふん。我ら新悪魔は、
斬られた腕をおさえながら尋ねるレフ教授にリミュエルは、それこそ斬って捨てるように言うと、現れた時と同じ様に忽然と消えてしまった。
『リミュエルのあの声にあの口調、もしかして…。いや、今はいいか』
桂馬くんは何か気になることがあるみたいだけど、今は答えを出すことを止めたようだ。
「……く、今は撤退するべきか」
レフ教授は悔しそうに言うと、体が宙に浮かび、そしてカルデアスに繋がった空間が閉じると共に、その身も消え去ってしまった。
その直後、更に揺れがひどくなる。
「地下空洞が崩れます! いえ、それ以前に空間が安定していません! ドクター、すぐにレイシフトを実行してください!」
『ああ、わかってる。でもごめん、そっちの崩壊の方が早いかもだ。とにかく、意味消失さえしなけれ……』
と、ここでザザッと異音がして、カルデアとの通信が途絶える。だけど、通信手段はもうひとつあった…!
『エルシィ! 羽衣の結界でみんなを……』
桂馬くんの連絡もそこで途切れ、その直後に地盤が隆起して、私とマシュが跳ね上げられた。
「マシュさん!」
「立香さんっ!」
そんな私達を、飛び上がったディアナがマシュを抱え、そしてえりが私の手を掴みとって助けてくれる。
「羽衣さん!」
えりは桂馬くんに言われた通り、羽衣で結界を張って…。そこでわたしの意識は、ぷつりと途切れた。
前回のあとがきの宣言とは裏腹に、随分と時間がかかってしまいました。でも書き始めてから3日で完成したという。