私の名前は
友達と一緒に遊びに行ったり買い物したり、ホントに普通のJK(笑)だ。……学校の成績は、悪くはないかな? 良くも無いけど。
そんな私は今、[人理継続保障機関フィニス・カルデア]と言うとこの施設にいる。何でそんなとこにいるのか、実はよくわかってない。
いや、だって、気がついたらここの廊下で寝てたし。
何でも、霊子ダイブの影響で半覚醒状態で移動して、結果廊下で寝てしまったらしい。よくわかんないけど。
他にも、魔術とか、レイシフトだとか、よくわからない単語を聞きながら、説明会の会場、つまりここまで連れて来てもらった。
付き添ってきてくれたのは、私が目を覚ましたときに、フォウっていうリスっぽい謎の生物と一緒にすぐそばで気にかけて見守っていてくれた、マシュ・キリエライトという少女と、ここで働く技師のレフ・ライノールさんだ。ふたりとも、ちょっと変わってるけど、親切な人たちでホント助かったよ。因みにフォウは、レフ教授が近づいた途端、どこかに行ってしまった。
それで今私は、所長だという女性の説明をその他多くの、……自分が48人目で最後のメンバーらしいので、おそらく47人と、付き添ってきてくれたふたりと一緒に聞いてるわけだけど。
なんだか段々眠くなってきた。こういうのって、聞いてるうちに眠くなってくるんだよねー。あ、あと、霊子ダイブとかいうヤツも関係してるのかも。
……あ、ダメだ。段々瞼が重くなってきて…。
…………。
……。
…。
バチイィィン!
乾いた音と頬の痛みに、私の意識は覚醒した。私の目の前には所長、確かオルガマリー・アニムスフィアって言ったっけ。その怒った顔があった。これって、もしかしなくても、私のせいだよね?
「あなた…!」
所長が私に向かって何か言おうとした、その時。
「すみませーん! 遅れましたーーっ!!」
入り口の扉が開いて、黒髪の女の子が入ってきた。年齢は私と同じくらいかな? 左手には何故か、ほうきを持っている。
ぞくりっ
背後からの禍々しいオーラにそちらへ向き直れば、そこには顔を真っ赤にして、先程とは比べものにならないほどの怒りの表情を見せる所長。それを見た私は戦慄を憶える。
「あなたたち、このミッションをなんだと思っているの!? 事の成否に人類史の未来がかかっているって解ってるの!?
……もういいわ! あなたたちは即刻、この場から出て行きなさい!!」
オルガマリー所長は、それはもうお怒りだった。
「はあ…、オルガマリーさんを怒らせちゃいました」
廊下に追い出された私たちは、途方に暮れた。これから何をどうすればいいのやら。
「あの、えりさん。さすがに遅刻はいけないと思いますよ?
それに先輩も、最前列であんなに堂々と居眠りしたら、所長でなくても怒ると思います」
デスヨネー。
因みにマシュは、私のことを「先輩」と呼ぶ。何でも私は、今まで出会った人たちの中で、もっとも「人間らしい」かららしい。
……あれ? てことは、この子は人間らしくないって事?
「えーと、私の顔に何か着いてますか?」
「……あ、ううん。まだ名前、聞いてなかったなぁって思って」
ついついその子の顔を見つめていた私は、咄嗟に話を取り繕った。
「あっ、確かにそうですね。えーっと、私は桂木えりっていいます。
何でも、一般枠のマスター候補のひとりが精神的に参ってしまわれて、一般枠の補欠として私が選ばれたみたいです」
うわー、なんだろう。このぐだぐだ感。とは言っても、私も一般枠の穴埋め要因らしいんだけど。
おっといけない。私も自己紹介しなくちゃ。
「私は藤丸立香。48番目のマスター候補で、最後のひとりって事みたい。何だか霊子ダイブってヤツのせいで、記憶があやふやになってるけど」
「わぁ、それは大変ですねー」
私の愚痴を、心配そうに聞いてくれるえり。うん、普通に人間らしい子だよね?
「あの、先輩。先輩を部屋にご案内しようかと思うのですが…」
えっ、私の部屋?
聞くと、マスター候補と呼ばれる人たちには、基本ひとりにつき一部屋提供されるらしい。
どうせ私は、よくわかってもいない作戦から外されたんだ。部屋でゆっくりと心の整理でもしよう。
私はマシュの先導で、部屋に向かうことにした。どうやらえりも、ついて来るみたいだ。
しばらく進んでいくと、一枚の扉の前で立ち止まる。
「ここが先輩の個室です。
私はファーストミッションに参加しないといけませんので、これで失礼します」
「うん。ありがとう、マシュ」
私がお礼を言うと、マシュはペコリとお辞儀をしてから去っていった。
……さて、ここが私の部屋かぁ。
期待を込めて中に入ると、そこには
「き、キミは誰だ!? ここは空き部屋で、僕らのサボり場だぞっ!」
ええっ!?
淡い赤毛の頼りなさそうなお兄さんが、なんか訳のわかんないことを仰ってる。
「落ち着けロマン。普通に考えれば、最後の候補者がやって来たって事だろ。
あと、ボクはロマンに連れ込まれただけだからな?」
手に携帯ゲーム機を持った、寝癖のある黒髪に眼鏡の少年が、極めて冷静なご意見を述べた。アレは確か、PFPの後継機の、PFー
……で、この人たちは結局誰なの?
「あーーっ、にーさま! それにロマンさん!」
意外なとこから答えが出た。えりのお兄さんっていうのは、多分黒髪の少年の方だろうな。さっき彼も、赤髪のお兄さんを「ロマン」って呼んでたし。
「なんだ、えりも一緒か。と言うことは、やっぱりファーストミッションから外されたな?」
「やっぱりってなんですかー!?」
「遅刻したうえに説明会にほうきを持参するようなヤツを、安心してミッションに参加させる気になると思うのか?」
「ううー…」
えりが悔しそうに唸ってる。でも確かに、私もえりの姿を見て疑問に思ったもんなー。
「ええっと、えり君。彼女はやっぱり、桂木君が言ったとおり…」
「うぇ!? あ、はい。立香さんは、最後のマスター候補の方です」
「はぁ~、やっぱりそうか~。このサボり場ともオサラバかぁ…」
うわぁ、なんかダメそうな人だぁ。
「あ、自己紹介がまだだったね。僕はロマニ・アーキマン。ここ、カルデアの医療部門のトップさ。みんなからは、Dr.ロマンって呼ばれてる」
ロマンってニックネームだったのか。でも、この、ぽやっとした雰囲気は、確かに[ロマン]って感じだ。
「ボクは桂木桂馬。そこにいる桂木えりの兄だ。
えりのたっての希望と、精神的安定に繋がるなら、というロマンの後押しもあって、特例として同伴することになった」
特例って…。あ、そうか。えりの前の人って精神的に参っちゃったんだっけ。そりゃあ特例、認めるしかないよね。
「……くっ! こんなとこにいる間にも、ギャルゲーは日々、発売されているんだぞっ!
いくら定期的に供給してくれる契約とはいえ、普段ボクが攻略する数から考えれば微々たるものっ!
ウガアァァ! ボクにギャルゲーをやらせろぉ! ギャルゲーはボクの食事なんだ! 空気なんだ! 命なんだーーーっ!!」
な、ナニゴト!?
「スミマセン。にーさまはゲーム発売日の午前中には、三本はクリアしちゃうほどの極度のギャルゲーマーなんです。
それに6本同時プレイしたり、バグだらけでクリア不可能と言われたゲームをクリアしたり…」
何!? その強キャラ!?
……ん? 午前中に三本クリア? もしかしてそれ、前に[クロノスの目覚め]で取り上げてた…。
「ひょっとして、桂馬くんがあの[落とし神]?」
「ん? 何だ。ボクのこと知ってるのか?」
「知ってるも何も、前にテレビで…」
そんな私の左肩に手を置くえり。振り返ると、えりが首を横に振る。
「にーさまはあの番組、見てませんでしたから」
えりの呆れたような表情に一旦桂馬くんを見て、私は悟った。おそらくはゲームに熱中していて、番組の存在自体に気がつかなかったんだろうと。
その後、気を取り直した私は自己紹介を済ませた。
「ところで藤丸君もここにいるって事は、同じく追い出された口かい?」
「ええ、まあ…。
あと、私のことは名前で呼んでください。苗字だと、男の子みたいなんで」
周りが大人ばかりならそんなに気になんないけど、同年代の子がいると、やっぱりちょっとね…。
「りょーかい。それで追い出されたって事は、説明はほとんど聞いてないんだろう?
よければ、僕が説明してあげるよ?」
「えっ、いいんですか? ありがとうございます、Dr.ロマン」
「どういたしまして。あと、敬語じゃなくていいからね」
Dr.ロマンは、優しく親切で、人当たりがいい人だ。……さっきはダメそうな人とか思ってごめんなさい!
Dr.ロマンの説明で判ったこと。それはカルデアっていう組織は、シバって機械で未来を観測して、100年先までの人類存続を保障する機関だっていうこと。
ところが少し前から、シバで観測できない特異点というものが現れたらしい。その原因を調査するために集められたのが、38人のマスター適性を持った魔術師たちと、私やえりみたいな、適性を持った10人の一般人候補者だということだ。
「私、そんな特別な
「『普通の女の子』か…」
あれ? 一瞬、桂馬くんが寂しそうな顔をしたような?
「……にーさま。今、ちひろさんの事を思い出しませんでしたか?」
「さあな」
ちひろ? 誰だろう。
「ん? ちひろって誰だい?」
Dr.ロマンも同じ疑問を浮かべたみたいだ。それに答えたのはえり。
「ちひろさんは私とにーさまのクラスメイトで、にーさまの恋人です」
「へー、そうなん…」
私は頷きかけて。
「「ええーーーっ!?」」
Dr.ロマンと声をハモらせ驚いた。
「か、桂木君って、彼女いたの!? 言っちゃあなんだけど、キミってキモオタ系だから、てっきりぼっちだとばっかり…」
ヒドっ! ……いや、確かに私も思ったけどっ!
「ボクだって、リアル女子と恋愛するなんて思わなかったさ」
えーっと、そういう意味で言ったわけじゃないんだけどね?
そんな私たちの会話の最中に、アラームの様な音が鳴り響く。それはDr.ロマンの腕に取り付けられた機械から。
その機械をポチッと押すと、空間上にモニターの様なものが浮かび、先程会ったレフ教授が映し出される。
す、凄い。まるでSFみたい。
『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?
Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下に若干の変調がみられる。不安からくるものだろう』
「やあレフ、判った。麻酔でも打ちに行くよ」
『今、医務室だろう? そこからなら2分で着けるはずだ』
そして通信が切れる。……えーと。
「あのー、ここ、立香さんの部屋ですよね?」
「ここからだと5分はかかるんじゃないか?」
桂木兄妹のツッコミに、Dr.ロマンの顔が引きつる。
「ま、まあ、Aチームは問題ないみたいだし、少しくらいの遅刻は許されるよね?」
……再び訂正。この人はダメそうなんじゃない。ダメな人だった。
「さて、と。話に付き合ってくれてありがとう、立香君。今度落ち着いたときにでも医務室に来てくれ。その時には美味しいケーキでもご馳走するよ」
わぁ、Dr.ロマンはやっぱりいい人だ、……って、なんて現金なんだ、私は。
「……えーと」
「もちろん、えり君もどうぞ。桂木君も」
「あ、ありがとうございます、ロマンさん!」
気を利かせてくれたDr.ロマンに、えりは大喜びでお礼を言う。一方の桂馬くんは。
「ボクは甘いものが苦手だ」
「ははは、それじゃあ桂木君には、お煎餅と梅昆布茶でもご馳走するよ」
随分渋いチョイスだね!? てか、そこは普通に緑茶じゃないの!?
「ハァ…。まあ、気が向いたら行ってやるよ」
いいんだ!?
「さあ、いい加減に行かないと流石に不味いかな。
それじゃあ…」
そこまで言いかけた時、突然部屋の明かりが消えた。
「な、何!?」
「停電、ですか?」
だけどこれがただの停電でないことは、その後に流れたアナウンスによって知ることになった。
ロマンが桂馬を引き込んだのは、もしもの時の共犯者を作るためです。ちょっとあくどい。
作中に出てくる「クロノスの目覚め」は、神のみに出てきた「ガイアの夜明け」ネタの番組名です。立香もその番組を見ていた設定ですね。
前回に引き続き出てきた「PFー