特異点F ~元・ポンコツ悪魔の人理修復~   作:猿野ただすみ

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今の自分じゃ満足できないのか…?


マシュ・キリエライト & ■■■■

~マシュ~

桂木えりさん。長い黒髪の、言葉づかいの丁寧な少女。初めて彼女と会ったとき、不思議な感覚が奔った。

適合者ということを除けば、至って普通の女の子。……確かにそのはずでした。

なのに何故か、私の勘が、彼女は危険だと訴えてました。

けれども同時に、彼女は信用できるとも訴えている。

 

『あの、どうかしましたか?』

『えりがあまりにもマスター候補らしくないから、ビックリしたんじゃないのか?』

『にーさま、ヒドいです~』

 

えりさんと彼女のお兄さん、桂木桂馬さんの会話を聞いているうちに、その感覚は霧散して消えたけど、一体あれはなんだったのか。未だに謎です。

その後、私は驚かされることになりました。それは、改めてえりさんの能力を測定したときのこと。

えりさんの魔術回路は20本と、平均的な魔術師と変わらないもの。けれどその質と魔力量は、今まで見てきたどの魔術師よりも遥かに優れてました。それはまるで、英霊が生きてそこにいるかのような…。

さらに、えりさんの属性がまた、規格外でした。それは五大元素には含まれず、[虚]や[無]のような架空元素でもない。[(うつつ)]と[(まほろば)]…、それがえりさんの属性、しかも二重保持者(ダブルホルダー)です。

最初、カルデアのスタッフたちは色めき立ちました。とんでもない資質の持ち主を発掘した、と。けれどそれは、すぐに落胆へと変わる事となります。

えりさんには、魔術の才能がなかった。どんなに資質に恵まれていようとも、魔術師としては落ちこぼれだったのです。

それでも魔術師にとっては、研究や、自身の血筋に取り入れるといった対象になるほどの、特異な資質。その情報を、カルデアは公表しないこととしました。その理由は所長です。

 

『我々によって巻き込まれた一般人を、これ以上魔術の世界に巻き込むことは得策ではありません』

 

その発言により、えりさんのデータの一部は最高機密となったのでした。

……魔術師は利己主義の集まりです。けれど所長は、その中でも人間じみているのでしょう。それが魔術師としていいことなのかはわかりませんが。

 

『もしもえりが酷い目に遭うようなら、こっちにも考えがあったが…』

 

ゲームをしながら淡々と言う桂馬さんでしたが、それとは裏腹に空恐ろしいものを感じました。桂馬さんは、魔術師たちに対抗する手段があるのでしょうか?

知れば知るほど、不思議な兄妹です。

 

 

 

 

 

藤丸立香さん。赤銅色の髪の左側を、シュシュでサイドアップにした、……先輩。先輩との出会いは、施設内の廊下でした。

私がPCタブレットで、青空の画像を眺めていたときのこと。傍らにいたフォウさんが突然走り出し、慌てて後を追った私は、廊下で眠っている先輩を見つけたのでした。

目を覚ました先輩に懐くフォウさんを見て、大変驚いたものです。

そのあと先輩に話を伺うと、どうも記憶が定かではないとのこと。合流したレフ教授が言うには、霊子ダイブの影響だろうという事でした。

そして先輩を、説明会の会場まで案内しましたが…。まさか寝てしまわれるとは思いませんでした。おそらくは霊子ダイブの影響が残っていたのでしょうが、それを知らない所長は怒り、先輩に平手打ちをしました。

さらにえりさんが遅刻してきたことで、所長の我慢の限界がきたのでしょう。二人揃って追い出されてしまいました。

先輩もえりさんも、落ち込んだ表情をしています。

私は先輩を、部屋へ案内することにしました。その間、お二人は仲良くお話をしていました。どうやら同じ日本からやって来たことで、意気投合したようです。

……そういえば、ドクターストップのかかった方も、日本出身だと伺いました。私はお会いしたことはないのですが…。

そもそも、適合者の発見確率がほぼ0と言われていた日本で、三人もの適合者が見つかったことが奇跡的なこと、いえ、異常なことです。

それ程にレイシフト適合者の数は少ない。そう考えたらこの偏りには、何か意味があるように思えてくる。

……そんなことを考えているうちに、先輩の部屋の前に到着です。

私はファーストミッションのため、別れの挨拶をして早々に立ち去りました。

 

 

 

 

 

そして今、爆発によって崩れた天井で下半身を押し潰された私のその目の前に、先輩とえりさんがいる。

 

「マシュ!?」

「マシュさん!?」

 

驚き、声をかける二人。

 

「待ってて! 今、助けるから!!」

 

そう言って、私を押し潰す巨大な瓦礫を退かそうと手を伸ばし。

 

「熱っ!」

 

先輩は小さく悲鳴をあげる。

 

「お二人は、逃げてください…。私は、もう、助かりませんから…」

「そんな、見捨てるなんて、できません!」

「そんなつもりなら、最初から来てないよ!」

 

そうおっしゃって、先輩はカルデアの制服の袖で掌をかくし、瓦礫の淵に手をかけて持ち上げようとする。けれど、何トンもある瓦礫はびくともしません。

 

「私に任せてください!」

 

そう言ってえりさんは、ポケットからハンカチを取り出し、……それが瞬く間に半透明の羽衣に姿を変えた!? もしかして魔術礼装なのでしょうか。

 

「羽衣さん、お願いします!」

 

そう声をかけると、羽衣の先端が瓦礫の隙間に潜り込み、押し退けようと力が加わります。けれどその時。

 

---中央隔壁封鎖します。館内洗浄まで……

 

アナウンスと共に、隔壁が降りてしまいました。もうこれでは、逃げることは出来ません。

なのに先輩は、自身も怖いはずなのに、私のことを元気づけてくれます。

えりさんは大きく動揺していましたが、それでも私に優しい言葉をかけてくれます。

そんなお二人に、私はお願いしました。

 

「先輩…、えりさん…。手を、握っててもらえますか?」

 

と。お二人は優しく頷いて、私の手を握ってくれました。

 

---レイシフト開始まで、3、2、1……

 

薄れていく意識の中、カウントダウンがハッキリと響いて、そして…。

 

 

 

 

~■■~

大きな音と共に、また部屋が揺れた。部屋の灯りは消えたまま。私はベッドで毛布を頭から被って、膝を抱えて震えている。

怖い、怖いよ…。どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの!? 私はスポーツが好きな、ごく普通の高校生なのに…!

 

 

 

 

 

ことの始まりは、テスト期間で部活が無かったある日のこと。たまには世間の役に立ってみよう、っていう、ちょっとした気まぐれと軽い気持ちで献血をした。そして献血車を出た後、声をかけられたんだ。

最初はなにを言ってるのかわかんなかったけど、どうやら平和維持のための人員を勧誘しているらしいことが判明した。

私は柄じゃないって断ったんだけど、その人が言うには、私にはその事業に必要な能力があるらしい。そんなこと言われたら、さすがに興味も湧いてくる。

でも、そうなると、しばらくは地元に帰ることが出来ないらしい。

私は、少し考えさせて欲しいと言って、連絡先を交換して家に帰った。そのあと、ひとり考えていたけど、やっぱり答えは出ない。だから私は、昔っからの友人に相談する事にした。

だけど、その時期が悪かった。彼女の通う学校では、学園祭の準備で大忙しだったから。クラスの出し物のカフェに力を入れてると語っている彼女に、結局悩みを打ち明けることは出来なかった。

そして散々悩んだ挙げ句、私は申し出を承けることにした。この町を離れたくないって気持ちも強い。……でも。

ここには、幼馴染みのアイツがいない。何年か前に出て行ったきり、返ってこないんだ。

アイツがいれば、私を繋ぎ止めていたかも知れないけど、今の私にはそこまでの理由がなかった。

 

 

 

 

 

そして私は、ここ、カルデアへとやって来た。

ここへ来て、初めて明かされた事実。それは魔術(魔法とは違うみたい)というものの存在。私にはその資質があって、それが世界を救うのに必要だと説明された。

もちろんこれは、私にとっては思ってもいなかったこと。そんな物語に出てくるような不思議な力が、実は私にもあったんだ。

最初はワクワクもした。幼い頃は魔法少女に憧れだってした。まあ、それよりも体を動かす方が好きだったけど。だから一通りの訓練だって受けた。

でも、それで思い知らされるのは、私はあくまで素質がある一般人だったってこと。どれだけがんばっても、そして短い期間では、たいした力はつかなかった。

お医者さんのロマンさんは、

 

『一般人にしては、上達は早いほうだよ』

 

って言ってくれたけど、私は私の実力のなさに落ち込んでしまった。

それからというもの、何をやっても上手くいかない。訓練にも身が入らない。強烈な不快感と、抗うことが出来ない脱力感が私を襲った。

そのうち訓練も受けなくなって、部屋から出ることも少なくなった。そんな私の元へ、ロマンさんがやってきた。

一緒に来た女医さんの診察を受けたあと、しばらくはロマンさんと、ただ雑談をして過ごす。そして一時間ほど過ぎて、ロマンさんは優しく言った。

 

『どうやら君は、心が疲れているみたいだ』

 

そう告げられた私は、ああ、やっぱりと思う。私にとってカルデア(ここ)は、私の理想とはかけ離れた場所だったんだ。

 

『ドクターストップだ。このあとどうするかはキミが落ち着いてから、キミの意向に添うことにするよ。だからキミは、心が安定するまでゆっくりしていればいい』

 

そう告げてニッコリと笑うロマンさんに、私はこくりと頷いた。

 

 

 

 

 

それからおよそ一週間。私の代わりの人がやって来た。

こっそりと覗き見ると、私と同じ年頃の女の子だ。雰囲気からすると、私とおんなじ日本人みたいだった。

彼女の隣には、眼鏡をかけた男の子がいる。多分、家族か恋人だろう。私みたいにならないために、特別に配慮されたのかも知れない。

そう思ったら、無性に腹が立ってきた。どうして私の時にはそうならなかったの? なんで私には、そういう人がいないの?

……ただの八つ当たりなのはわかってる。でも、一度芽生えたその想いは止められなかった。

それから私は、部屋からは一歩も出ていない。

 

 

 

 

 

そして今日。私は変わらず部屋に閉じこもっていた。すると突然の停電。そして大きな音が響き、部屋全体が揺れる。

 

「な、なに? なんなの!?」

 

---緊急事態発生。緊急事態発生。

中央発電室及び、中央管制室で火災が発生しました…。

 

そんなアナウンスが流れ始める。

火災…。やだ、怖い!

私はベッドの上に飛び乗り、頭から毛布を被って、膝を抱えてうずくまる。

いやだ。いやだよ。もう、こんなとこに居たくない!

……誰か、助けて。助けてよ、……ユウキ!




後半の彼女の正体、わかる人にはすぐにわかりますね。ヒントは、最後に出てきた「ユウキ」という名前。もう一つヒントを出すなら、彼女の友人の名前は「松宮宏子」です。
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