レイシフトしたらマスターだった件
フォウの鳴き声で私が目を覚ましたとき、そこは燃えさかる街の中だった。
そんなわたしの元に、上空から複数の何かが降ってきた。そこに、さっきまで息も絶え絶えだったマシュが大きな盾を持って現れて、その何かから私を守ってくれる。……って、一体何事ーーー!?
……ゴメン、取り乱しました。って、誰に謝ってるんだろ? でもとにかく、黒いアーマー? に身を包んだマシュが、同じく黒い盾を使って、飛来する、多分矢だと思うけど、攻撃から私を守ってくれる。
やがて攻撃が止んで。
「マシュ、コレって一体…。それにマシュの、その格好は?」
「あ…、これは…」
少し恥ずかしそうにするマシュが、何か言い出すその前に。
『きゃああああ…!』
女の人の悲鳴が聞こえた。
「マスター、指示を。私と先輩の二人で、この事態を切り抜けます」
私に指示を仰ぐマシュ。……というか、マスター?
マシュ、速いな!? 同時に駆け出したのに、あっと言う間に姿が見えなくなった。カルデアで話してたときは、こんなに運動が出来るようには思えなかったんだけど?
ようやく追いつくと、マシュは骸骨の化け物と戦ってた。どうやらマシュが圧倒してるみたいで、一安心。私は近くにいた女性に声をかける。
「あの、大丈夫ですか、……って所長!?」
そう。そこにいたのは、所長のオルガマリーさん。
やがてマシュの戦闘も終わって、こっちに駆け寄ってきた。
「所長、お怪我はありませんか」
「どういうこと!?」
マシュが安否を尋ねると、所長が疑問を返してきた。
「ここは特異点F、2004年の冬木市です」
2004年の冬木…。それじゃあやっぱり、私はレイシフトしちゃったんだ。
「信じ難いことだとは思いますが、私は…」
「デミ・サーヴァントでしょ! そんなの、見ればわかるわよ!」
デミ・サーヴァント?
「私が聞きたいのは、どうして今になって成功したかって事よ!」
「……カルデアには、事前にサーヴァントが用意されていたのは、ご存じかと思います」
……マシュが言うには、死の直前に英霊が現れて、能力と宝具を譲り受けたらしい。特異点の原因を、排除するのを条件に。そしてマシュはサーヴァントと融合して、デミ・サーヴァントになったそうだ。
そうか。お陰でマシュは助かったんだ。その英霊には、感謝しても足りないよ。
「それで」
所長がこっちを見る。しかもジト目で。
「補欠採用した一般枠がマスターに?」
「マスター?」
そう言えば、さっきもマシュがマスターって…。
「……ええっ!? 私がマシュのマスター!?」
驚いて、所長に右手を伸ばしかけて気がついた。手の甲に、赤い紋様があることに。
「その令呪が、何よりの証拠よ」
言われて私は、手の甲の令呪をしげしげと見つめる。すると突然、手首に巻いた機械からアラームが流れる。私が慌てて操作をすると、地面に紋様が現れて、虚空に一人の人物の上半身の映像が浮かびあがる。
『やっと繋がった。もしもし、聞こえるかい?』
「Dr.ロマン!」
そう、私のマイルームでサボってた気のいいお兄さん、Dr.ロマン事ロマニ・アーキマンさんだ。
『立香君! マシュ! やっぱりレイシフトに巻き込まれたのか…』
Dr.ロマンは、喜びと憂いを混ぜたような複雑な表情で言う。そこへ。
「どうして貴方が仕切っているの、ロマニ!」
私達に割り込んで、映像の前に佇む所長。
『所長! 生きていらしたのですか!?』
「どういう意味よ!」
いや、あの惨状を見たら、よく生きてたなぁって、私だって思う。
「医療セクションのトップが、どうしてその席に座ってるのよ! レフはどうしたの!?」
するとDr.ロマンは、一瞬言葉に詰まって。
『レフ教授は、あの爆発の中心部に…』
レフ教授が…? 私はショックを受けたけど、所長はその比じゃないんだろう。見るからに意気消沈をして、項垂れてしまってる。
『僕が作戦指揮を任されているのは、僕より上の階級がいないためです』
「じゃあ、マスター適正者達は!? コフィンに乗っていた46人は、どうなったの!?」
『全員が危篤状態です…』
そんな…。
『……が』
……え?
『すまない。ボクが勝手に、コールドスリープさせた。このまま死なせるよりマシだと思ったからな』
突然、Dr.ロマン以外の声が聞こえる。その声を、私は知ってる。
「桂馬くん?」
『ああ。立香達も無事で良かったよ』
そう言う桂馬くんの声はだけど、少し沈んで聞こえる。
「ちょっと、コールドスリープ、……凍結保存ってどういうこと!? 何を勝手に…!」
『じゃあ、46人が死んでも良かったのか?』
「っ! それは…!」
所長が言い淀む。でも良かった。言葉はキツいし上から目線だけど、人が死んで平気でいられるような人じゃなかったんだ。
「私に46人の命なんて、背負えるわけないじゃない…」
……ないよね?
『それに考えてもみろ。カルデアは国連も絡んでる機関だ。ならお前が指示したならともかく、一般人のボクが人命優先で勝手にやったことを、魔術師とはいえ強く批判は出来ないんじゃないか?』
「……そうね。表面的には黙らざるを得ないでしょうね」
表面的にはって、それじゃあ裏じゃ?
『……もちろん、擁護くらいはしてくれるよな? 人理継続保障機関[フィニス・カルデア]所長、オルガマリー・アニムスフィア?』
「……庶民風情にいいように
……わかりました。貴方の身の安全は、我々が保証します」
凄いよ、桂馬くん。所長と対等に渡り合ってる。
「けれどひとつ、聞かせてくれないかしら?」
『……何だ?』
「どうして貴方は、46人を助けようと思ったの? それこそ貴方には、関係のない人達でしょう?」
……それはそうだ。私はマシュを助けたかったから行動したし出来たけど、それがなかったらきっと、マイルームに閉じこもってたと思う。
『……ボクは、人が死ぬ展開が嫌いだ。だからこれ以上、人を死なせたくなかった。それだけだ』
これ、以上…。そうだ。Dr.ロマンが言ってたじゃない。自分より上の階級がいないって。つまり、Dr.ロマンより上の人はみんな…、ううん。多分下の人も、大勢死んだんだ。
……桂馬くんの声が沈んでた理由、ようやくわかったよ。
『桂木君、替わるよ』
『ああ。ロマン、後は頼む』
桂馬くん、かなり辛そうだ。
「彼、かなり無理をしてるみたいだけど、大丈夫なの?」
『所長がそれを言いますか』
「何ですって!?」
『ああ!? すみませんっ!!』
余計なことを言って叱られる、Dr.ロマン。でも、どういうことだろう。所長は何か、無理をしてるって事?
そんな私の疑問はお構いなしに、所長とDr.ロマンはカルデアの立て直しについて話し始めた。
……。
…………。
暇なので、とりあえずフォウと戯れてよう。
それからしばらくして。
『……通信が回復次第補給を要請して、カルデア全体の立て直し、といったところですね』
「結構よ。納得はいかないけど、私が戻るまでの間カルデアを任せます」
どうやら話は纏まったみたいだね。
『……にしても、英霊と人間の融合デミ・サーヴァント。このタイミングで成功するとは』
成功? そう言えば、所長もそんなこと言ってたよね?
「ではこれより、藤丸立香、マシュ・キリエライト両名と、特異点Fの調査を…」
「あっ! ちょっと待ってください!」
私は慌てて声をかける。
「どうかしたのですか、藤丸」
「私のことは立香って、……ってそうじゃなくて。Dr.ロマン、えりは無事なんですか?」
そう。あの時管制室には、私とマシュの他にえりもいた。だったらえりも、この特異点に来てる可能性があるはずだ。
「まさか、桂木えりも特異点Fに来ているというの!?」
「はい。レイシフトの直前、私の他にえりも、マシュの手を握ってました。だから可能性はあると思います」
所長に訴えるように言った後、Dr.ロマンに向き直り。
「それで、えりは無事なの?」
『残念だけど、最初に通信が繋がったのが立香君達なんだ』
「そう、なんだ…」
えり…。
『落ち込まないでくれ。連絡が取れないだけで、何かあったと決まった訳じゃないんだ。もちろんこちらも、えり君の捜索を継続してるから』
「……はい、そうですね。Dr.ロマン。えりを、お願いします」
『ああ、任せてくれ』
所長がカルデアとの通信を切ると、マシュが所長に尋ねる。
「よろしいのですか? ここで救助を待つという案も…」
「……今回の事で、協会からどれだけの抗議があるか。手ぶらでは帰れないわ!」
そうかぁ。所長も色々大変なんだ。さっきDr.ロマンが言ってたのって、こういうことなのかな?
「……悪いけど、付き合ってもらうわよ! マシュ! 藤丸!」
うん。私は別に、構わない。……けど。
「了解しました」
「私のことは立香って…、あ、いえ、はい! 了解しました!」
マシュの返事の後、抗議しようとして諦めた。だって所長の目、怖いんだもん。
と、そこで再び鳴るアラーム。所長は苛立ちながら通信を開き。
「しつこいわね! 一体なn…」
『今すぐそこから逃げてください!』
それはDr.ロマンからの警告。そして。
「敵影反応あり! これは…」
盾を構えたマシュが言った。
「サーヴァント!」
私達は走る。サーヴァントから逃げるために。
「……ど、どうしてこんな所にサーヴァントが!」
「聖杯戦争です」
私が投げかけた疑問に、マシュが応える。
「2004年のこの街で、聖杯戦争と呼ばれた儀式が確認されています。
あらゆる願いを叶えると言われている魔法の釜、聖杯。冬木の魔術師は聖杯を完成させ、その起動のため七騎の英霊を召喚しました。
七人のマスターが競い合い、最後に残った者、勝者が聖杯を手にする。
……その結末までは記録されていません。成功したのか、失敗したのか」
そんな大きな出来事が、日本の地方都市で起きてたなんて…。
「どうあれサーヴァントの活動は、人々に知られることなく終わったはずでした」
だから私は、……ううん、歴史上には、そんな話は噂にも上がらなかったんだね。
「でも、だったら何で…」
そう。だったら何で、ここはこんな事になってるの? こんな酷い状況だったら、歴史に残らないはずがない。十数年前の出来事なら、当事者の記憶には鮮明に残ってるはずの悲惨さだ。
そんな疑問が頭の中を駆け巡ってたけど、状況は一変してそれどころじゃなくなった。
川に沿って延びる土手下の遊歩道。その進行方向に鎖が張り巡らされていて、行く手を阻んでいる。
私が手を伸ばすと。
「ダメよっ!」
所長が静止をかけた。その瞬間、鎖がまるで生きてるかのように、私を絡め取ろうとする。慌てて身を引いた私は、尻餅をつく。……痛い。
『あら、残念。新鮮な獲物を逃がしてしまいました』
突然声が聞こえたかと思うと、土手の上の少し離れた場所に、ローブを目深に被った背が高くてプロポーションのいい女の人が、忽然と現れた。右手には柄の長い、鎌のような、槍のような、そんな武器が握られている。
「サーヴァントです! でも、マスターの姿が…」
マシュが盾を構えて、私達の前に出る。
「ここはもう、狂った世界よ! マスターのいないサーヴァントがいても、おかしくないわ!」
狂った世界。そうか。本当の、実際に起きた聖杯戦争じゃ、こんな事は起きなかったんだ。もしかしたら、少しは何かあったかもしんないけど、きっと隠蔽できるくらいの出来事だったんだろう。
でも、この世界は狂ってしまったために、こんな災害が起きちゃったんだ。
ローブ姿のサーヴァントは土手の上を、こちらに近づいてくる。そして気がついた。土手の上にはいくつもの石像があることに。
「あれって…」
「元人間よ」
そんな…!
サーヴァントは石像の一体に近づくと、その首をもいだ! 石像からは勢いよく血が噴き出す。
それじゃああの人は、今まで生きて…。
「ご心配なく。一体減ってしまいましたが、三体加わることになりましたから」
そう言って、頬についた血を舐め取るサーヴァント。
「……闘うしかありません」
盾を構えたマシュは、そう宣言した。
今回はアニメ【First Order】と余り変わりません。通信で桂馬が関わったとこくらいですかね、ハッキリと違うところは。