特異点F ~元・ポンコツ悪魔の人理修復~   作:猿野ただすみ

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危ないことするなよ


FATE(フェイト) 元・ポンコツ悪魔 冬木にて、斯く彷徨えり

~えり~

……ええと、ここはどこなんでしょうか?

立香さんと一緒に、マシュさんの手を握っていたところまでは覚えてるんですけど、いつの間にか気を失ってて、気がついたら燃えさかる街の道の真ん中でした。

 

「立香さーん! マシュさーん!」

 

取り敢えず呼んでみましたが、返事はありません。どうやら私一人みたいです。

ぶるり、と体が震える。どう、しよう。ここにはにーさまも、立香さんもマシュさんも、オルガマリーさんもロマンさんもレフさんもいません。私一人じゃ…。

いえ、弱気になっちゃだめ! 私は、みんなのいる世界を救うって決めたんだ。こんな所で挫けるわけにはいきません!

そうと決まれば、まずやることは…、え~とぉ…。そうです、「情報」です! にーさまもよく言ってたじゃないですか!

ええと、こういう時は確か…、あ、ありました。電柱。大概側面部分には、住所が表示してあるんですよねー。

うーんと、ここは…、[美山町]? あ、下にアルファベットで…、F、U、Y、U、K、I…。えっと、ふ、ゆ、き? あっ、冬木市! カルデアで小耳に挟んだことがあります! 2004年の冬木市が特異点化したので、その調査のために私達が集められたとか。

……えっ!? ということは、ここは2004年の冬木市? 私、レイシフトしてしまったんですか!?

 

「……ええーーーっ!?」

 

私は思わず叫んでしまった。

 

 

 

 

 

……ふう、ようやく落ち着きました。にーさまがいないと、私一人じゃ立ち直るのにも時間がかかってしまいます。とはいえ、嘆いてても仕方がありません。

とにかく、レイシフトしてしまったんですから、本来の目的を遂行した方がいいんでしょうか。解決は無理でも、原因の調査くらいはしないとマズいですよね。

あと、もしかしたら立香さんとマシュさんも、こちらに来ているかもしれません。それなら、なるべく早く合流したいです。特にマシュさんは、あの大怪我です。何とか延命をして、カルデアに送り返してあげないと!

私は、自分の持ち物を確認することにした。

左手には箒、羽衣さんは纏っていて、ガルデアの制服のポケットには、電源をオフにした駆け魂センサー。それに特殊技術で、羽衣の中に勾留ビンを数個、隠し持っている。……なんだか、駆け魂隊に戻った気分です。それならいっそ…。

私はヘアバンドを外したあと、羽衣でリボンを作り、髪をまとめてポニーテールにする。そして頭の左側に、駆け魂センサーを髪留めとして着けた。

久々の桂木エルシィバージョンです。衣装が、あの頃の普段着や舞校の制服じゃありませんが、さすがにこの服を替えるわけにもいきませんし。

ではさっそく、調査開始です!

……この時の私は緊張感で、精神が昂ぶっていたのかも知れません。何しろ、左手の甲の痛みに気づいてなかったのですから。

 

 

 

 

 

で!

歩き始めたものの、何を調査したらいいのか、皆目見当がつきません(涙)。いえ、特異点の原因を調べるのはわかるんですけど、どう調べたらいいのかがわかりません。何か切っ掛けでもあればいいんですが。あるいはカルデアと連絡が着けば。

生憎と、カルデアの連絡ツールも、羽衣で作った特殊なケータイも繋がりません。しばらくは、あてもなく歩き続けるしかないんでしょーか。

 

ガシャリ

 

ん? なんの音でしょう?

先の十字路を折れた右側から聞こえた音。私は慌てて駆け出し、角を曲がるとそこには、剣を持った一体のスケルトンさんが。ドクロウ室長の擬体、リアルタイプだったらこんな感じだったのかなぁ? って、それどころじゃありません!

スケルトンさんは私に向かって剣を振り上げました。

 

「は、羽衣さんっ!!」

 

私は羽衣を使って、慌てて防御壁を作って剣から身を守る。一撃を凌いで、慌てて走り出す私。だけど。

 

ガチャッ

ガシャリ

 

わらわらとスケルトンさんたちが集まってきた!? と、とにかく逃げます!

 

ガシャガシャガシャ…

 

「追いかけてこないでくださ~い!!」

 

無駄だとわかってても叫ばずにはいられません!

ガムシャラに走ってると、先方に小さな路地が見えました。うう~、他のスケルトンさんが居ませんように!

祈りながら路地へ飛び込みます。その願いが通じたのか、そこには誰も、何も居ませんでした。

私は慌てて羽衣で全身を覆い、姿と気配を消します。そこへ追いついたスケルトンさんたちはだけど、私を見失い去っていきました。

ふう…、取りあえずは一安心ですね。しばらくはこのまま移動することにします。

 

 

 

 

 

それからどのくらい歩いたでしょうか。途中何度もスケルトンさんと遭遇しましたが、羽衣のお陰で見つからずに済んでます。

そして。

 

「ここって…?」

 

一軒の家が目に止まる。そこは若干古びてはいるものの、オシャレな洋風のお屋敷です。だけど、気になったのはそこではなくて。

 

「僅かに感じる魔力…。これは、結界でしょうか?」

 

そうです。おそらくは、入り込んだ者を逃がさない、トラップタイプのもの。そして、こんな事が出来るということは、ここは魔術師の家、なんでしょう。

……中からは、人の気配はしません。息を潜めている可能性もあるけど、街の様子からすると、本当に誰も居ないんじゃないかなって気がする。

……よし、入ろう! ここが魔術師の家なら、この異変の原因が何かわかるかも知れません! それにこれくらいの結界なら、羽衣の機能で誤魔化すことも出来ます! ……多分。

私はそう、自分に言い聞かせて、屋敷の中に入ることにした。

扉には鍵がかかっていたけど、羽衣で鍵を作り、解錠して中へ入る。一階から順に二階の部屋までを回ってみたものの、魔力付与した品は見つかったけれど、肝心の異変の原因解明の鍵になるようなものは見つからなかった。

落胆しつつ一階まで降りてきたとき、違和感を感じた。なんというか、魔力の流れがおかしい気がしたのだ。きっとハクアだったら、入って直ぐに気づいたんだろうけど、落ちこぼれの私は今まで気がつかなかった。

落ち込みそうになるのをぐっとこらえて、魔力の流れを頼りに辺りを調べ直し、私は地下へ続く階段を見つける。

ゴクリと唾を飲み込み、階段を降っていく。そして辿り着いた先の部屋に入ると、その中央には魔法陣が描かれていた。……この様式からすると、召喚のためのものでしょうか? 私が確認しようと近づこうとした、その時。

 

ピロロロ、ピロロロ…

 

突然ケータイの着信音が、……って、ケータイ!?

私は慌ててケータイを取り出し、耳に当てる。

 

「も、もしもし?」

『……ああ、ようやく繋がったか』

「にーさま!!」

 

ああ、にーさまの声です。夢なんかじゃありません。

 

『えり、お前は無事なのか?』

「はい! 今、魔術師の家の中を調べていて、地下室で魔法陣を見つけたところです」

 

私が説明をすると、にーさまは、ふむと呟いて言った。

 

『そこはおそらく、霊脈の上なんだろう。だから霊的、魔力的に安定して連絡が着いたんじゃないかな』

「なるほど。確かに魔術師なら、霊脈の上に家を建ててもおかしくありませんね」

 

霊脈の力を使って魔術の効率や効力を上げる。私達が羽衣を使うのと、理屈はおんなじですね。

 

「……ところでにーさま。ロマンさんたちは無事ですか?」

 

私が尋ねると、にーさまはしばらく沈黙をして言った。

 

『……ロマンは無事だ。だけど、多くの職員が爆発や火災に巻き込まれて、亡くなった』

 

胸がズキリと痛む。もちろん亡くなった方達に対してもだけど、にーさまが今、どんな思いでいるのかを考えると、余計にその思いが強くなる。

にーさまは優しい人だ。それ故に、人が傷つくのは嫌いでもある。

……いえ、確かににーさまはよく、バリゾウゴンを浴びせたりしてますけど、本当に心を傷付ける様なことはしてませんし、怪我させる様なこともしません。だから、人が死ぬようなことはきっと嫌なはずです。

実際、にーさまの声は若干沈んでます。にーさまもそれに気づいたんでしょう。軽く咳払いをして話を続けた。

 

『ええと、立香とマシュ、あと、オルガマリーは無事だ。三人はえりと同じく、特異点Fに居る』

「そうですか。良かっ…、って、ちょっと待ってください! マシュさんって大けがしてたんですよ!? それなのに無事って、どーいう事なんですか!?」

『横から話を聞いてただけだが、マシュは英霊と同化する半英霊(デミ・サーヴァント)になることで、命を取り留めたらしい』

 

英霊と同化…。

 

「命を取り留めたのは良かったですけど、その方法って結構乱暴な気がします」

『ボクもそう思う。だが今は、それを問い詰めてる場合じゃないからな。

まあ、それは置いておくとしてだ。立香達と連絡をとった後、カルデアはえりの捜索をしていたが中々見つからない。それで試しにと、ボクがこれで連絡を取ることにしたってわけだ』

 

あわわっ!? 私、カルデアじゃ行方不明だったんですか!?

 

「でもにーさま、ケータイで通信なんて、よく信用されましたね?」

 

自分で作っといてなんだけど、普通に考えたら有り得ないことですから。

 

『黙って見てろって言っただけだ。今もダ・ヴィンチが、興味深げに見てる』

「あ、あはは、そうですか」

 

まあそこは、さすが天才、というかなんというか…。

と、そこで、手首に着けた機械からアラーム音が流れる。慌ててスイッチを押すと、ロマンさんの姿が映し出された。

 

『ああ、ようやく繋がった。えり君、無事…、なのはもう確認済みか。とにかく良かった』

『えり、こちらは切るからな?』

「はい、にーさま。ロマンさんも無事で良かったです」

『ありがとう、えり君』

 

カルデアは大変なはずなのに、ロマンさんは私に優しく微笑んでくれた。

 

『さて、実は急を要するんだけど、所長、マシュ、立香君達は謎のサーヴァントに補足されて、川の方に向かって移動中だ。

えり君も出来るだけ早急に、みんなと合流してほしい…』

「待ってください!」

 

私は被せ気味に言った。

 

『どうかしたのかい?』

「ロマンさん、見えますか? この魔法陣なんですけど、ひょっとしてサーヴァント召喚のものじゃないでしょーか?」

『ええと、……今確認した。確かにそれは、英霊召喚用の魔法陣だね』

 

やっぱり!

 

『それで、えり。お前はどうしたいんだ?』

 

にーさまの姿が割り込んできて、私に質問する。私はもう一度、魔法陣を見てから。

 

「私、この魔法陣を使って英霊の召喚をしてみようと思ってます」

 

私が答えると、にーさまは顎に手を当てて考え込む。そこへ再び、ロマンさん現れ。

 

『待つんだ、えり君! その魔法陣を使って召喚をしたら、令呪の回復は出来ないぞ? 確かにカルデアの召喚システムは、聖杯戦争の英霊召喚システムを基にしてるけど、その細部は異なってるんだ』

 

すると今度は、ダ・ヴィンチさんが割り込んできた。

 

『それならいっその事、[システム・フェイト]と接続してみたらどうだい?』

『なっ、レオナルド!?』

『そんな事可能なのか?』

 

何だか向こうは大わらわみたいです。

 

「あの、それで実際の所、どうなんでしょうか?」

『もちろん可能さ。そもそもレイシフト先で拠点を作るとき、簡易的な召喚システムを作れるようになってるからね。

ただし正式な接続じゃないから、そちらで呪文の詠唱をしなきゃならないんだけど。……前に予備知識として、レクチャー受けたはずだよね?』

 

そ、そういえばそんな気も…。でもそんなの、覚えてませんよぉ。

 

ピロリン…、ピロリン…

 

ふぇ? またケータイが。今度はメール?

慌てて開くとそこには、法則性を持った文章が羅列していた。これって、例の呪文ですか?

 

『えり、それを読み上げろ』

「にーさま…。はい!」

 

 

 

 

 

『……よし、接続完了。これでカルデアの英霊としての召喚が可能なはずだ』

「ありがとうございます、ダ・ヴィンチさん」

 

お礼を言ってから、私は魔法陣を向き、何となく左手を前に突き出し…、あれ? 左手の甲に痣のようなものが。そういえばさっきから、ズキズキと痛かった気がします。

……あ、ひょっとしてこれが令呪でしょうか? だったら、この召喚の魔法陣で、きっと召喚できるはずです!

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公…」

 

私は、にーさまから送られてきたメールを読み上げていく。

 

「……汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

呪文を唱え終わると、魔法陣から眩い光が立ち上る。これはやっぱり、英霊召喚の魔法陣!

光が治まると、魔法陣の中央には一人…の……、え?

 

「サーヴァント・アーチャー、召喚に応じ参上しました。

……貴女が私のマスターですか?」

 

その女性(ひと)はニッコリと微笑み、私に向かってそう聞いたのでした。




オマケ劇場


~third person~

えりは人理修復の手がかりを得るため、家の中を探し回っていた。そしてある部屋に入ると。

「……この箱は何でしょう?」

部屋の片隅に置かれた、大きな箱。調べてみると、魔術で厳重に鍵がかかっていた。

「これは、何か手がかりがあるかも…」

そう思ったえりは、魔術を読み解き鍵を開ける。……かかっていた魔術はえりが知るものとは違うが、彼女が知る一世代前の術に近かったため、何とか解析できたのだ。
えりはゆっくりと、箱のフタを開ける。すると中から。

『いやー、やっと出られましたよー。助けていただき、ありがとうございます』

そう言いながら、輪っかの中にペンタグラム、両脇に羽根の飾りがついたステッキが飛び出してきた。

「えっ、ええーーーっ!?」

予想外の出来事に、えりは開いた口が塞がらない。

『私はカレイドステッキのマジカルルビー、いわゆる魔法のステッキです!』

ルビーはえりの顔の前に、自分の顔(?)を近づけてくる。

『というわけでお近づきの印に、(ルビーちゃんにとって都合のいい)魔法少女、なってみませんか?』

後付けされた機能によって、本音ダダ漏れで聞いてきた。

「え、えーっとぉ…、羽衣さん、お願いッ!!」
『えっ、ちょ…!』

バタン!

えりはルビーを、羽衣でぐるぐる巻きに封じて、箱に閉じこめる。

「再封印完了ですっ!」

封印の術を念入りにかけ直してから、えりは言った。

「これは、開けてはいけないパンドラの匣だったようです…」

そう言って汗を拭い、くるりと踵を返し。

「さて、捜索を続けましょー!」

何事も無かったかのように、調査に戻るえりだった。





というわけで、えりと愉快型魔術礼装との出会いでした。
ちなみにルビーが無事だった理由は、箱にかけられた封印とルビーが持つ第二魔法の一部を行使出来る能力、そしてあくまで魔術礼装だから。これが上手く噛み合ったという、ご都合設定です。
あと、本来この魔術師の家はクレーターとなっていて存在しませんが、この小ネタのために、この話の中では消失してないことにしました。
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