命かけても手に入れな!!
「私では敵いません。逃げて下さい」
私はマスターに告げる。
今までこのサーヴァントと闘っていて思い知らされたのは、私はこの、名前も知らない英霊の力を譲り受けただけだということ。私はこの力を、使いこなせてはいなかった。
相手は曲がり形にも本物の英雄。私なんかでは到底歯が立ちません。
……でも。それでも。せめてマスターが逃げる間だけでも、私は身を挺してでも、あのサーヴァントを止めてみせる!
そんな覚悟を決めた、その時。上空から一条の蒼い閃光が、サーヴァント目がけて飛来する!
「くっ!?」
サーヴァントは咄嗟に避け、地面に突き刺さったのは、一本の魔力で編まれた矢。突き刺さった矢は、すぐに霧散して消えた。
「みなさーん、だいじょーぶですかー?」
上空から聞こえたその声は…。
「えり!?」
そう、桂木えりさん。見上げるとそこには、白い大きな翼を背中から生やしたセーラー服姿の女性が、左手に弓を持ち、えりさんがその女性にしがみ付く姿があった。
女性が私達の前に降り立つと、魔力の矢を弓に番え敵サーヴァントに対峙する。その隙にえりさんは私達に駆け寄り。
「ハァ~、良かった。皆さん無事でした~」
安堵のため息を吐きながら言った。
「ちょっと、桂木えり! あの女性はまさか…!」
「ああ、はい。私が呼び出した、アーチャーさんです」
所長の問いかけに、えりさんはこともなげに言った。
「漂流者が呼び出したサーヴァントですか」
敵サーヴァントは目を細めてアーチャーさんを見つめる。一方のアーチャーさんは、敵サーヴァントを…、いえ、おそらく敵の武器を見て、僅かに顔色を変えた。
「……そうですか。貴女は…」
「おや、私の正体をご存知なのですか」
え…、敵サーヴァントの真名を!?
「貴女をその様にしたのは、出典を異にする私の妹なので…」
瞬間、敵サーヴァントの殺気が膨れ上がる。
「そうでしたか。貴女は、私に呪いをかけた、あの女の…!」
「カルデアの皆さん。本当は共に闘うつもりでしたが、ここは私とマスターに任せてもらえませんか? 直接ではありませんが、彼女とは因縁があるもので」
「何を…!?」
反論しようとしたのでしょう、所長が声を荒げますが、すぐに言葉が詰まってしまいます。でも、それも致し方ない事です。言葉こそ伺いを立てているようですが、その実、一切の反論を拒否する雰囲気を纏っていたのですから。
「……ッ! 仕方がありません。その代わり、必ず勝つと約束しなさい!」
「……そうですね。
……え? それって。ふと先輩を見れば、同じく疑問を浮かべた表情になっている。
「さあ、始めましょう。英雄に討ち取られた、呪われし怪物よ」
「ええ、いいでしょう。あの女の代わりに、貴女を八つ裂きにしてあげます!」
お互いが語り終えた瞬間、アーチャーさんが矢を射ましたが、敵サーヴァントは武器を、下から上へ振り上げながら矢を弾き、その武器をアーチャーさんの頭上へ振り下ろした。けれどアーチャーさんは、弓を消して右手に魔力を纏い、手刀を刀身と柄との基部に当てて軌道を逸らしながら一歩踏み込む。
「くっ!」
敵サーヴァントは後ろへ飛び退きながら、生み出した鎖でアーチャーさんを絡め捕ろうとしますが、魔力を放出して鎖を弾き飛ばします。しかし一転、一瞬動きの止まったアーチャーさんに向かって、踏み込みながら横薙ぎに武器を振るった。さすがにこれは逸らせなかったのか、今度はアーチャーさんが後ろへと飛び退く。その折、右手で拳をつくり、腰だめに構え。
「
着地と共に拳を繰り出すと、拳圧のかかった魔力弾が放出される。敵サーヴァントはこれも弾こうと武器を振り上げ…。
「
瞬間、魔力弾が閃光を放ち、私達の視界を奪った。
「目がッ! 目がァァァ!!」
先輩は目を押さえながらうずくまっています。が。
「ちっ、小癪な真似を!」
相手はサーヴァントゆえ、私もデミ・サーヴァントだったために眼を焼かれることもなく、光が治まれば正常に戻る。アーチャーさんは…、位置を変えずにいます。
アーチャーさんは再び弓を構えますが。
「遅いですよ!」
敵サーヴァントが武器を突き出し、アーチャーさんの胸を…!
「アーチャー!?」
どうやら、咄嗟に目を庇ったらしい所長が叫ぶ。
でも、確かにまずいです。あのサーヴァントは言っていました。傷を受ければどんな神秘でも直すことが出来ない、不死殺しの槍だと。
いえ、そもそも胸を穿たれたら最悪、霊基が破壊され消滅してしまう。
けれども、そんな予想を覆すことが起きました。
パアァァァン!
なんとアーチャーさんは消滅するのではなく、爆ぜてしまったのです!
「な…!?」
これには敵サーヴァントも、驚きを隠せずにいます。そして。
---降り頻るは我が矢弾…
その声に気付き見上げれば、いつの間にか矢を番えたアーチャーさんが上空にいた。
「
放たれたそれは、無数の光の矢となって、敵サーヴァントに降り注ぐ!
「アアアアアアアアア!」
敵サーヴァントは雄叫びにも似た悲鳴をあげ。矢が降り止んだ後、光の粒子となって消えていった。
「え、あれ、どうなったの?」
ようやく視覚が回復してきたのか、眼をしばしばさせながら先輩が尋ねてきた。
「ええと、アーチャーさんが勝ちました、けれど…。あの爆ぜたアーチャーさんは一体…」
「それは私の羽衣人形です!」
そう言って私達の目の前に、えりさんの姿が突然現れた。
「桂木えり!?」
「えええ!? 一体どうやって!?」
所長も先輩も驚いています。斯く言う私も、驚かずにはいられません。
「えーと、それは…」
「その疑問は後回しです」
えりさんの横に降り立ったアーチャーさんはそう言って、ぐるりと辺りを見渡しながら。
「見ているのでしょう? いい加減、姿を見せたらどうですか!」
アーチャーさんが声を張り上げる。すると。
「いや、ワリィ。本当は手助けするつもりだったんだが、因縁がどうとか言ってたから静観させてもらったわ」
そう言いながら、フードを目深に被りスタッフを手にした、声からするとおそらく男性のサーヴァントが姿を現した。
彼はキャスターのサーヴァント。この聖杯戦争で唯一負けていない、最後の生き残り、ということでした。
キャスターさんの話によると、今回の聖杯戦争はある日を境に、全くの別物にすり替わっていたそうです。街の人達は消え、当然マスターも。
そんな中、真っ先に闘いを再開したのがセイバーのサーヴァント。次々と降していき、残ったのはキャスターさんただ一人。しかも倒されたサーヴァントは、セイバーの配下として復活しているそうです。
「ランサーはアーチャーの嬢ちゃんが倒して、ライダーとアサシンはオレが既に倒した。バーサーカーは何故か動かねえからほっとくとして、残りはセイバーとアーチャーの二人だ」
アーチャー…。おそらく先程、先輩を狙ったのがそうなのでしょう。
「セイバーを倒せば、聖杯戦争は終わる」
「そうすればこの特異点も消える、という訳ね?」
「そういう事になるな」
所長が確認を取り、キャスターさんはそれを肯定した。
「……わかりました。それでは一旦その話は置いておくとして…。次は貴女達の番よ」
そう言って所長は、えりさんとアーチャーさんに向き直る。
「桂木えり。そして、そのサーヴァント・アーチャー。貴女達は何者なの?」
その視線はかなりきついものだった。
『僕も、是非とも知りたいね。魔術の才能がないえり君が使う、高度な魔術。
そして。どうしてこの少女が、サーヴァントとして呼び出されたのか』
「え? どういうこと?」
通信越しのドクターに疑問を投げかける先輩。
『彼女は鮎川天理。高い魔力値のためにマスター候補に挙がったものの、レイシフト適性が無かったために外された、一般人の少女。そして何より、桂木君の家の、お隣さんだよ』
「「「えええ!?」」」
そ、それは驚きです! つまり彼女は、現代、もしくは未来の英霊という事でしょうか!? けれど言われてみれば、彼女の衣装は日本の女子生徒の制服として採用されている、セーラー服です。
「そうですね。お話するのは構いませんが、少し込み入ってますので、ここではちょっと…。どこか身を隠せる場所を見つけて、そこで改めて、ということでどうでしょうか」
「え、あ、ええ、いいでしょう。どのみち休息は必要です」
体裁を取り繕った所長は、気恥ずかしさを誤魔化すためでしょうか、コホン、と軽く咳をした。
私達は冬木の街を歩いて行く。とは言っても、あてもなく彷徨っているわけではありません。身を隠すのに適した場所を探しながらも、セイバーがいると思われる聖杯が眠る地、円蔵山へと向かっているのです。
「……にしても、珍しいな。アンタ、マスター適性がないのか?」
陥没し断裂した道で、所長を引き上げたキャスターさんが言った。……そう、所長にはマスター適性が無かった。レイシフト適性はマスター適性のある者の中にしか存在しない。その為所長は、カルデアから指揮をする事に甘んじなければならなかったのです。
「魔術師としては一流なのに、マスター適性だけが無いとはなぁ。……何かの呪いか?」
「どうでもいいでしょ!」
キャスターさんと所長のやり取りを見ていて、私の気持ちは段々と沈んでいく。別にお二人が悪いとかではなく、私自身の問題で。
「マシュ?」
「どうかしたんですか?」
先輩とえりさんが、私の様子を気にかけてくれたんでしょう。なら、応えない訳にはいきません。
「先輩、えりさん。私はまだ、宝具が使えません」
「「宝具?」」
「サーヴァントが扱う武器の事よ」
お二人の疑問に、所長が答えてくれます。
「でも、マシュは…」
「いえ、この盾は、まだ真の姿を見せてはいません」
私には、この盾の真名を開放出来なかった。
「ハァ…、融合したサーヴァントがわからないって言うから、そうじゃないかと思って…」
「いいえ、それは関係ありません」
「え?」
アーチャーさんの発言に、所長は意表を突かれたようだった。
「おう、アーチャーの嬢ちゃんが言うとおりだぜ。
宝具ってのは本能だ。本能が呼び起こされるような事が起これば、自ずと目覚める」
そう言ってキャスターさんは右手を挙げて、先輩を指差すようにピタリと止める。
本能を、呼び起こす…? まさか!?
私は慌てて先輩の前に躍り出て、盾を構える。更にその前に所長が飛び出し、両手を広げて私達を庇ってくれた。えりさんは訳がわからないのか、オロオロとしているだけです。
数秒ほど膠着状態が続き、そして。
「……フッ」
キャスターさんは軽く笑い、霊体化して姿を消してしまった。
「フゥ…。あのキャスターは、思考が体育会系のようですね」
愚痴ともつかない事を呟いてから、アーチャーさんはこちらへと視線を移す。
「……ですが、彼が言うことも間違ってはいません。そうですね、もう少しわかりやすく言えば、闘う意志でしょうか」
「闘う、意志…」
私に闘う意志は、あるのでしょうか。
「あの、ディ…、アーチャーさん。盾使いのマシュさんに闘う意志っていうのは、どうなんでしょーか?」
……ディ?
「……どうもまだ、説明のしかたが悪かったようですね。私が言いたいのは、闘いに赴く為の意志、ということです」
闘いに赴く為の意志…。なるほど、確かにそれなら理解が出来ます。……ただ、今の私には結局、それに思い当たる想いに見当がつかないのですが。
「まだ何をもって闘うのか、それが定まっていないようですね。ですが、それは貴女の心の内にあるもの。貴女自身にしか見つけることは出来ません」
そしてアーチャーさんは軽く微笑み。
「けれど焦る必要はありませんよ。必要に迫られれば、自然と答えを得られるものですから。
……そういう意味では、あの
そう諭してもらった。お陰で私は、少しだけ心が軽くなりました。
それにしても、「ドルイド」と言ったアーチャーさん…。もしかしたら、キャスターさんの正体に気づいているのかも知れません。
「ほら、お喋りはそれくらいにして、先へ進むわよ。とにかくベースとなる場所を見つけなくちゃ、落ち着いて体を休めることも出来ないわ」
確かに、所長の言うとおりです。みんなもこの意見に納得したのでしょう。文句も出ずに歩き始めました。
そして。しばらく坂道を進んだ所に、大きな庭のある大きな建物が現れました。おそらくこの建造物は。
「学校…ですか?」
「うん、学校だね」
先輩が頷きながら答えてくれます。
「そうね。他に良さそうな建物はないし、ここをベースとしましょう」
所長に言われ、私達は学校の敷地へと足を踏み入れるのでした。
というわけで、キャスニキの活躍の場は無くなってしまいました。
アーチャーがランサーに言った言葉に違和感を感じた【神のみ】読者(もしくは視聴者)の方、それはわざとです。