---ボクの名前は桂木桂馬。又の名を落とし神。ギャルゲーとゲームヒロインをこよなく愛する高校生。
それはある日のこと。一人慎ましやかにPFPを嗜んでいると、一通のメールが送られてきた。
『落とし神へ
どんな女でも落とせるという噂を聞く。
まさかとは思うが、本当なら攻略してほしい女がいるのだ。
自信があるなら「返信」ボタンを押してくれ。
PS:ムリなら、絶対に押さないように!!
また一人、迷える者が現れたと、ボクは返信ボタンを押す。すると突然、空から一人のリアル女が降ってきた。
彼女の名前は、エリュシア・デ・ルート・イーマ。地獄から駆け魂を捕まえるためにやって来た、駆け魂隊の悪魔だという。
『かけたま?』
「かけ玉汁じゃないぞ? 駆け足の『駆け』るに『魂』で『駆け魂』だ」
立香の疑問に答える。
「先に言っておくが、駆け魂はさっきディアナが言っていた古悪魔、ヴァイスの魂の事だ。新悪魔達は脱走した古悪魔を駆け魂と呼んで、結成した駆け魂隊が回収していたんだ」
それだけ言うと、ボクは続きを話し始めた。
---ボクはエルシィ…、エリュシアの愛称だが、彼女の
命がかけられたボクは、ゲームではない、リアル女子を恋に落とさなくてはならなくなった。何故なら、駆け魂が潜む場所は女性の心のスキマだからだ。
予め言っておくが、駆け魂は女性の心のスキマに入り込み、負の感情を糧に力を蓄え、その女性の子供として転生を図ろうとしている。
それを阻止するには心のスキマを埋め、駆け魂を追い出してつかまえるしかない。そして、心のスキマを埋めるのには恋愛が一番! というワケのわからん理由で、ボクがバディーに選ばれたそうだ。
まあ、そんなワケでボクは、ゲーム理論を駆使して女の子達を恋に落としていったんだ。
『ヒュウ! ボウズ、見た目と違ってやるじゃねえか』
キャスターが感心したのか、ボクを誉める。嬉しくはないが。
『何言ってるのよ。こんなのただの、サイテー男じゃない』
オルガマリーの言葉が耳に痛い。流石にボクも、サイテーの事をしていた自覚はある。命がかかってなかったら、絶対にやらなかっただろうな。
『まあまあ、桂馬くんも命がかかってたんだから』
そう言いつつも、立香は苦笑いを浮かべている。人の心がわからんボクでも、思うところがあるのくらいは予想がつく。
「いいさ。女の子達を誑かしていたのには違いないんだ。だがお互いに救いがあったのは、攻略された女子からは、攻略の記憶が消えるって事だ。だから、お互いその事に振り回されることもない」
「それは、寂しくはないのかい?」
「……さあな」
ロマンの問いかけに、ボクは素っ気なく答えた。
---エルシィはボクの腹違いの妹として我が家に入り込んだ。ボクとエルシィが常に一緒に行動できるように、ドクロウが仕掛けたらしい。
ボクは駆け魂を持つ子を発見する度に、彼女達を恋に落として駆け魂を追い出していくことになった。
そして一学期の終業日、ボクの家に、母親と共に天理がやって来た。まあその時のボクは、天理の事なんてすっかり忘れていたが。
『そうです! あんな目にあったというのに、どうして忘れられるんですかっ!』
「話し始めてすぐに横やりを入れるんじゃない! 確かに悪かったとは思うが、思い出したんだからいいだろ!?」
『そういう問題ではありません! 天理は十年の間、どれだけ桂木さんの事を想っていたと!』
思わずヒートアップしそうになるが、その時。
『待ってください、ディアナさん! 天理さんが想っていたにーさまは…』
『……! そう、ですね』
えりのお陰で、ディアナの暴走は抑えられたようだ。
『えっと、どういうこと?』
「すまない、立香。今話すと話の流れがおかしくなる」
『……うん、わかった』
どうやらこちらの意図を汲んでくれたようだ。ボクには出来ない芸当だな。
---エルシィが天理に近づくと、一瞬だが駆け魂センサーが鳴ったそうだ。ボクは気づかなかったが。
因みに駆け魂センサーは、今、えりが髪留めとして使ってるドクロの奴だ。駆け魂が近くにいると知らせてくれる。
そんなこんなで翌日、隣の市に買い物に向かうと、天理と遭遇。おかしな挙動で危険な目にあったりして文句を言うと、突然雰囲気が変わり、よくわからないことを言って去っていったんだ。
まあ、今ならそれがディアナだってわかるが、その時ボクは、駆け魂の影響で天理の抑えられていた人格が現れたんだと思っていた。今までも駆け魂の影響で、おかしな行動や異常現象を起こすやつがいたからな。
だが天理は既に、他の駆け魂隊に攻略対象として登録されていた。そいつの心のスキマの埋め方は、願いを叶えること。
そいつは天理の心のスキマが、天理がボクに惚れていて、その愛憎だと勘違いした。そしてボクを殺そうとしたんだ。
ボクは殺されたくないし、ボクが死んだらエルシィも死ぬ。それでボクは天理、そしてもう一人の天理と手を組んだ。
逃走の途中、もう一人の天理との情報交換で、古悪魔がヴァイスと呼ばれていたこと、十年前の出来事、彼女は天理の別人格ではなく、ヴァイスを封印した存在だということ、そしてディアナという名前を知ったんだ。
因みに天理の中には実際駆け魂がいた。ディアナに取り付けられていて一緒に入ったらしいが、天理には欲望とかが無くて、駆け魂は成長できずに弱っていたそうだ。
それでボクたちは一芝居打って、ボクが駆け魂を追い出したように見せかけて、その駆け魂隊に回収させたってワケだ。
『そうでしたね。そのせいで、桂木さんを好いている天理はともかくも、体を一緒にしている私のファーストキスまで奪われたのですから』
一瞬にして空気が凍る。待て、ディアナ。ここでそんなこと言うか、フツー!?
『ちょっと待って。……ねえ、桂馬くん。恋に落とすって、どういうことするのかな?』
立香は笑顔で言うが、その目は据わっている。
「……その子の悩みを解決しながら距離を縮め、最後はキスをする」
ボクは努めて冷静を装って言う。
『……サイテーだね』
『サイテー男ね』
『ええ、桂木さんはサイテーです』
くっ、流石に今度は、何の擁護も無しか。えりとロマンは他人事のように目を逸らすし、キャスターは感心した様な視線を送っているが、流石に女性陣からの総スカンを喰らう気は無かったらしく、無言を貫いている。マシュだけは、よくわからないという顔をしているが。因みにダ・ヴィンチは、離れたところで笑いを噛み殺している。ダ・ヴィンチ、いつか倒す!
「……話、続けるぞ」
---後日、天理が隣りに引っ越してきたことで、ディアナから話を聞くことが出来た。曰く、自分は天界の住人、神であり、駆け魂を封印した者。そして駆け魂とは違い、愛によって力を取り戻すと。
まあ、ボクはしばらく、その話を置いておくことにしたんだが。まだ、それを裏付けるだけの情報が無かったからな。
そして夏休み、更に新学期からも駆け魂狩りの悪夢からは逃れられず、ある日ディアナから姉妹を探してくれと頼まれた。ディアナの話にもあった[ユピテルの姉妹]だ。ディアナが言うには、他の姉妹も駆け魂を着けられていた可能性が高い。なら、ボクが攻略した女性の中に姉妹がいるかもしれない、というワケだ。
しかも、女神がいる女性には攻略の記憶があるかも知れない、と。
「桂木君、それはどういうことだ?」
「攻略を受けた子は、地獄の技術で記憶を消される…、まあ記憶操作の方が近いみたいだが。だが女神がいる子には、その女神から記憶のバックアップがあるってことらしい」
ロマンの疑問に答え、更に話を続ける。
---この話を聞いたボクは、ゲームと攻略の合間、手が空いてるときに調べようと悠長に構えていた。だが、それが悲劇を生むことになってしまったんだ。
中間試験の二日目、ある攻略女子が女神の宿主だとわかったんだが、その子は
『にーさま。その方は有名人なので、変に隠さないでハッキリと言った方がいいと思います。後でバレた方が怖いと思いますよ?』
『有名人?』
立香が聞き返す。……確かに、えりが言う事にも一理あるか。
「……そうだな。その少女はクラスメイトの、中川かのんだ」
腹を決めたボクが、その名を告げる。
「『ええっ!? かのんちゃん!?』」
立香はともかく、ロマンも驚くとは思わなかったが。
『あの、先輩。中川かのんとはどなたなのですか?』
『かのんちゃんは日本のトップアイドルだよ!
……そういえば少し前、かのんちゃんが学校で告白したって噂が立ったけど…』
「……ボクのことだな。かのんには攻略の記憶が残って…、いや、戻っていたからな。刺されたのはそのあとだ」
今考えても、何故あの時引き止められなかったのかと悔やまれる。無事解決したとはいえ、刺されたことが無かったことになるわけじゃないからな。
---かのんに突き立てられた剣には呪いがかかっていて、引き抜くことも出来ず、更に最悪呪いによって、アンデッド化する可能性もあるという。不幸中の幸いだったのは、かのんの中の女神アポロのお陰で、多少時間に余裕があったことだが。
かのんの大ファンであるエルシィを彼女の代役に立て、エルシィの友人のハクアという悪魔にエルシィの代わりを頼み、ボクは他の女神を探すことにした。
ああ、かのんの代役の方は、今、えりが身に着けてる羽衣で髪を造り、錯覚魔法で誤魔化したそうだ。
ともかくボクは、何者かの意志でボクの近くに女神達が集められていると予測を立て、可能性の低い子を排除し、五人の候補の中から残り四人を見つけるために、再攻略を始めたんだ。
『えっ? なんでそんな事になるの!?』
立香の疑問に答えようとすると、そっとディアナが言った。
『それは、愛の力で姉妹の力を取り戻すためですね? もし姉妹達を見つけられても、またヴィンテージに襲われるかも知れないから』
『あ…』
複雑な表情で言うディアナに、立香は二の句が継げないでいる。
「そういう事だ。……続けるぞ」
---ともかく、ボクとしても余り言いふらしたくないから割愛するが、女神の一人、ウルカヌスによってかのんの剣は抜かれ、命の危機は脱した。だが防御の魔法で目覚めないかのんを目覚めさせるために女神探しを続行し、なんとかマルス、ミネルヴァまで無事に見つけることが出来た。
しかし最後の一人メルクリウスの宿主を攻略中に、ヴィンテージが動いてディアナ、……いや天理、そして最後の宿主とあと一人以外のボクの攻略女子が、全員拉致されてしまった。ボクの攻略相手の中に女神がいると、感づかれたらしい。
ボクは望みをかけて、何とか最後の女神を復活させ、更に駆け魂隊の活躍で、どうにかヴィンテージの野望を阻止したんだ。
……だがそれは、始まりのための結末だった。
一週間後、ボクは、ボクの魂は、女神達の力で十年前のボクの体へと飛ぶことになったんだ。
『過去ですって!? それはもう魔術ではなく、魔法じゃないの!』
「ボクにそっちの世界の常識はわからんが、相手は神や悪魔だぞ。人間以上の能力を持ってるのが当たり前だろ?」
『ぐ…』
ボクの反論に、オルガマリーは口ごもる。
「それに流石に、六人の女神が力を合わせて発動させたんだ。俄に出来ることじゃないのは確かだろ」
大体、ほいほいタイムスリップ出来るんなら、封印以外の方法でヴァイス達をどうにか出来たはずだからな。
……そう言やレイシフトって、どういう扱いなんだ?
---ハッキリ言って、このタイムスリップは繰り返しとか複雑に絡んでくるから、かなりザックリ割愛するぞ。
まずタイムスリップの目的は3つ。
・1つ、ある少女と会うこと。
・2つ、天理と会うこと。
・3つ、女神が宿る予定の子の心に、スキマを開けること、だ。
ただしこれらは、この事を意図した者から一切聞かされることなく、ボクは過去へと送られた。ただ、一緒に送られたオーブに導かれて、ボクが独断でやったことだ。
つまりボクがしたことは、女神を復活させたボク自身が、過去でその準備をしたってこと。
天理とはその準備のために協力関係になって、……その時にボクのことを好きになったらしい。だから天理が想っていたボクは、未来のボクだったってことだ。
『そうか。さっきのえりのセリフって…』
「ああ。そういう事だ」
過去、駆け魂に囲まれたときにボクを助けようとしたのは、ボクのことを想ってというのもあるだろう。だけどそれ以上に、未来のボクと再会する、という想いが強かったからじゃないのか? 天理には、ボクの答えはわかっていたはずなのに。
「……さて。ここでもう一度、ディアナにバトンタッチした方がいいかな」
『そうですね。その方がいいでしょう。この、大きな時の輪を相手取った事件の、その結末を語ることとします』
そう言ってディアナは一つ息を吐き、結末に向けて語り始めた。
Fate組の方、もう少しご辛抱ください。次回の途中で【神のみ】ダイジェストは終わる予定ですから。