ViVid Strike!ーアナザーストライクー 作:NOマル
アナザーメモリーズの続編、という感じです。終わってない上にまだまだ序盤だというのに……。
少年は逃げていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
息を切らしながらも、弱々しく歩き続ける。人一人いない、森の中を、たった一人で。
――――喰エ。
脳内に響く、声。もう何度聞いただろうか。
耳を塞いでも、その声は伝わってくる。
「もう、嫌だ……イヤダ……」
涙を流しながら、少年は拒絶する。しかし、その声は尚も語りかけてくる。少年を誘う様に。
――――喰ラエ、全テヲ
――――喰ワレル前二、喰エ!
◇◆◇◆
夕焼け空。町の全てが橙色に染まっている。その町に位置する公園にて、二人の少女と、数人の子供グループが相対していた。
濃い茶髪をポニーテールにまとめている少女は、相手を睨み付けている。その後ろには、白髪の少女が、涙目で怯えていた。
「てめぇら生意気なんだよ」
「親無しの癖に逆らってんじゃねぇよ」
「聞いてんのか?えぇ?」
相手の一人が、茶髪の少女の胸ぐらを掴む。しかし、少女は怯える様子を見せず、睨むのをやめない。
「いいから通せ。ワシらは院の手伝いをしなきゃ飯が食えんのじゃ」
「ご、ごめんなさい……謝るから、もう……」
二人の少女は、孤児だった。それ故の差別。
事の発端は、ほんの些細な事だったのだろう。
「奢ってやるよ、貧乏人」
背の高い少年が、二人の少女の頭に水をかけていく。白髪の少女は更に怯え、茶髪の少女はその表情を怒りに歪める。
そして、目前の少年の股間に蹴りを入れた。
「なっ!?」
「てめぇっ!!」
四人がかりで、やってくる。対して、少女も顔を険しくし、迎え撃つ。
――――そこへ、介入する少年がいた。
公園を囲う様に設置されている金網。その破れている箇所から、少年は入ってきた。丁度、喧嘩が始まる中央を無理矢理通る。
そのせいで、少女達は一歩下がり、少年の一人が尻餅をついた。
「うわっ!」
「何すんだてめぇ!」
荒い声を聞き、少年は、おぼつかない歩みを止めた。そして、振り返る。
裾が破れ、所々が汚れている半袖の衣服。色素の薄い空色の短髪は乱れており、表情も乏しい上、瞳も曇っている。
何より目立ったのが、細い左腕に装着されている“腕輪”だ。まるで、動物の顔の様にも思える
「何だ、こいつ」
「きったねぇカッコ」
「こいつも親無しなんじゃねぇの?」
突き飛ばされたのが腹に立ったのか、今度は標的を少年に変える。背の高いグループに取り囲まれる少年。恐らく、二人の少女達と同年代だろう。
しかし、少年の表情が変わる事はない。
無のままだ。
「おい、何とか言えよ」
「――――減った」
「あぁ?」
「腹……減った」
一瞬、目を丸くする少年達。その後、大きく笑い出す。
茶髪の少女は、前に出ようとするも、親友を守る為、動けない。
白髪の少女も、助けたいものの、怖くて動けない。
目の前で、別の誰かが馬鹿にされるのを、黙って見ているしか出来なかった。
「おいおい、マジで親無しか!?」
「だっせぇカッコしてるし、絶対そうだよ!」
「それに見ろよ、これ」
「変なモン付けてやんの」
次々と少年を侮辱していく。しかし、それでも少年は表情の色を変えない。無反応なのが面白くないのか、相手の一人が、腕輪を目にする。
面白半分で、手を伸ばそうとする――――少年が、右手で叩いた。
「なっ、てめぇ!」
リーダー格の少年が、拳を振るう。その拳は、少年の頬を叩く。茶髪の少女は悔しそうに歯軋りし、白髪の少女はぎゅっと目を瞑る。
だが、少年は全く動じている様子はない。相手はニヤッ、と笑いながら、もう一度殴りかかる。
今度は、当たらなかった。当たる寸前、少年が受け止めたからだ。
「こ、こいつ!」
「……腹、減った」
「い、いぃでででっ!?」
手首を、握り締める少年。子供の力とは思えない程の握力。まるで、万力で固めているかの様に、じわりじわりと締め付けていく。
激痛に顔を歪ませる相手。その異変に気づき、他の三人も動き出す。
「このやろっ!」
「離しやがれっ!」
眼鏡をかけた少年が後ろから来る。だが、振り返る事なく、肘打ちで撃退。相手は顔面、特に鼻を強打し、倒れてのたうち回る。
少年は次に、掴んでいた腕をこちらに引き寄せ、そのまま回しながら、帽子を被った少年に、リーダー格の少年をぶつける。
すかさず、一番背の高い少年に飛びかかる。
「うおっ!?」
小柄な体躯からは考えられない突進に耐えきれず、地面に倒れる。少年は馬乗りになり、襟元を強引に掴む。
やや海老反りになり、勢い良く頭突きを食らわせた。
「がっ!?」
「腹、減った……!」
「あぐっ……!」
二発目を食らわせた後、乱雑に放る。後頭部を打ち、顔面と後ろの痛みに悶える背の高い少年。
立ち上がり、横に顔を向ける少年。先程、放り投げた二人の少年が、地面に投げ出されたままだ。
早歩きで近づき、近い位置にいた帽子の少年を、無理矢理起き上がらせる。動揺する相手の腹に、蹴りを入れた。ごふっ!?という呻き声を漏らし、相手は地面の上を少し滑る。
こうして、三人が倒れた。後は――――
「腹……減ったんだ……」
俯きながら、ブツブツと呟く少年。
その不気味な様子を見て、相手は痛む手首を押さえながら、尻尾を巻いて逃げようとする。
――――逃がさない。
「うぅ……ゥアアアアアアッ!!」
唐突に叫んだと思えば、駆け出し、あっという間に距離を詰める。スライディングで足払いし、転ばせた。
相手は四つん這いになり、尚も逃走を行う。少年は、まるで獣の様な叫びを上げながら、がむしゃらに這いずり回った。必死に獲物を捕らえようとする手が、何度も何度も空を切り、荒々しく地面に叩きつけられる。唐突に飛び上がり、相手に覆い被さる少年。
「うわっ、うわああ!!」
ジタバタともがくも、少年の力には敵わなかった。仰向けにさせ、相手の腹にダイブ。そのまま殴り付ける。
弱った所を逃さず、相手の左腕を右足で踏みつける。痛んでいる右腕を再度握り、右手で相手の頭を掴んだ。
「ひっ!」
「腹、減ったんだ……」
「あ、ぁぁ……!」
「肉、喰いたい……だから」
――――喰ワセロ。
水色の瞳が、赤黒く変色。その獰猛な唸り声に、萎縮してしまう相手。抵抗できなくなった所を見計らい、口を徐に開く。
徐々に、近づいていく――――
「だ、駄目ぇっ!!」
ピタッ、と止まった。
叫んだのは、白髪の少女。茶髪の少女は、驚きながら、振り返る。本人も、無意識だったのか、思わず口を押さえる。
しかし、そのおかげか、少年はようやく、目が覚めた。
瞳が、水色に戻った。
「あ、れ……?」
目の前には、ガタガタと震え、今にも泣きそうな顔をしている少年。明らかに怯えているのが分かる。
今度は、周囲を見渡す。少女達以外の少年達は、地面に倒れている。だが、自分に対し、恐れを抱いていた。確実に恐怖している。
腕輪に視線を落とした瞬間、少年は我に帰り、相手の体から退く。
「ぁぁ……俺、おれ……」
今、正に、自分は、“人間を喰おう”としていた。恐ろしくなり、その場に崩れ落ちる。
「お、おい、行こうぜ……」
「気味が悪ぃよ……」
「あいつ頭おかしいって」
「二度と関わるもんか……!」
四人組は、完全に恐怖を植え付けられたらしい。足早に、公園から立ち去っていった。
「あぅ……ぐっ、うぅ……!」
その場で踞り、唸り出す少年。
空腹で死にそうだ。肉、肉が喰いたい。
でも、人は喰いたくない。食べたくない。
息は荒くなり、苦しみを必死に耐える。
「あ、あの……」
「大丈夫、か?」
肩を震わせながら、少年は、ゆっくりと振り向いた。
先程の少女達。心配そうな面持ちで、少年に語りかける。
「……何でも、ない」
「そういう風には、見えんがの」
「もしかして、お腹、空いてるの?」
「……うん」
「お前、親は?」
「い――――ない……」
“いた”――――と言いかけたが、訂正した。自分には、もう家族と呼べるものはいない。
“あの人達”は、もう信用できない。
だから、ここまで逃げてきた。
「じゃあ……ワシらと来るか?」
突然の誘いに、戸惑う少年。だが、素直に頷けない。厄介払いされるだろう。
「迷惑に、なるだろ……」
「ワシから、院長に頼んでやる」
「きっと、大丈夫だよ」
任せとけ、と堂々と胸を張る茶髪の少女。白髪の少女の笑みは、とても愛らしく、どこか安心できる。
不思議な事に、空腹が収まった。腹が空いている事に変わりはないが。それでも、暫しの苦しみから解放された。
二人の姿が、少年の目には、とても眩しく見えた。その優しさが、ほんの一時の物でも、自分にとっては嬉しかった。
一度顔を反らし、腕で目元を拭う。再度、顔を向ける。
「いい、の……?」
「おうよ!」
「一緒に行こ?」
差し伸べられた手。少年は、その厚意に甘えた。手を掴み、少年は立ち上がる。
「そういや、名前まだ聞いとらんかったの」
公園から孤児院に向かう最中、自己紹介を行った。
「ワシは【フーカ】じゃ」
「私は【リンネ】」
「オレ――――【アキラ】」
明るい夕陽が、三人を照らしていた。
こちらも不定期更新となります。
ただでさえ遅いので、気を長くして待ってもらえたらなと思ってます。