ViVid Strike!ーアナザーストライクー   作:NOマル

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過去の痛み

 

――――暗闇に包まれた視界。顔に何か被されているせいか、何も見えない。

 

「あ、あの……誰か、いないの……?」

 

か細い声で呟く少年。微かに震え、恐怖に怯えているのが分かる。

 

「誰か…誰か……助けて……」

 

コツ、コツ、と誰かが歩み寄る。沈黙に包まれているせいか、足音が異様に響き渡る。

 

「だ、誰……?キ、キバーラ?ゼラムさん?」

 

自分の姉とも言える存在。“彼女”の名前を、確かめる様に呼ぶ少年。そして、もう一つの可能性に気づく。

 

「も、もしかして……“ネク兄ちゃん”?来てくれたの!?ネク兄ちゃん!!」

 

自分が最も慕っている、兄の様な存在。すがる様な気持ちで、彼の名を呼ぶ。

 

「――――残念(ざ~んねん)。誰も来ていないよ~?」

 

耳元で呟かれる、悪魔の囁き。耳にした途端、一気に希望が打ち砕かれた。

不意に、顔を覆っていた袋が取られる。その幼い顔には数ヶ所の殴打した後、擦り傷等があり、泥や血で汚れていた。子供にしては、見るも痛々しい姿。

袋を取り払ったのは、ローブを身に纏った男。顔を覆っている紫色のバイザー付きのマスクに、少年の怯える姿が反射して写る。

 

「お友達だと思った?来もしない奴等の事を未だに信じてるのか。健気だねぇ」

「き……来てくれる……絶対、来て、くれる……!」

「そんな事言って。もう半年も経ってるんだぞ?だと言うのに、何の音沙汰もない。本当、間抜けな連中だ」

「うるさいっ!!」

「おっとっと」

 

威嚇する様に叫ぶ少年。体は椅子に縛り付けられ、身動きが取れない。両手足を覆う様に、鎖で厳重に縛られている。胴体も同様、背もたれに付く様に拘束。加えて、ろくに食事を得られていない体で、拘束を解く力はなかった。悔しげに歯を食い縛り、もがきながら身を捩るも、ただただ鎖が鳴るだけで終わる。

 

「威勢だけはいいね。まあ、まったく恐るに足りんが」

「何を……するんだ……」

「さあ、何をするんだろうな?ああ、安心したまえ。殺しはしないよ……今の所はね?」

 

小声で呟く男の言葉に、顔を青ざめる。睨み付けてはいるものの、少年の心は恐怖に染まりつつあった。

 

「そうだ!何なら、私の元に来ないか?君なら歓迎するよ。まあ、この状態は致し方ないと思ってくれたまえ。まだ敵同士なのだからな」

「ふざ、けんな……くたばれ、くそやろう……!」

「口が悪いなぁ。躾がなってない。あいつらの代わりに、私が矯正してあげるとしよう。なんせ、あいつらは君を真っ先に捨てて、“新しい家族”の方に付きっきりだろうしな」

「ネク兄ちゃんは……みんなは、助けに来てくれる……」

「そうか?それじゃあ――――おやおや、これは何かなぁ?」

 

どこか芝居染みた口調で、男は懐から写真を数枚取り出す。それを少年に見せた。

自分がよく知る、姉と兄の姿。その他に、見知らぬ四人の少女が写っていた。写真のどれもが、とても親しげにしている。幸せそうな、家族の写真。そこに、当然ながら自分の姿はない。

少年の表情が、固まった。

 

「ほぉらよく見てごらん?この二人の事だろう?おかしいなぁ?君がこんな目に遭っているというのに、随分と楽しそうにしてるじゃないか。ああ、言っておくけど、これは今朝撮ってきたものだよ?お二人は今、新しい家族と仲良くしてるみたいだねぇ?」

 

そこで言葉を失い、少年は項垂れる。目の前が、真っ暗になる様な感覚。同時に、男の言葉が脳裏に残る。

 

「私も、見せようか迷ったのだよ?これはあまりに辛すぎる。だが、こうでもしなければ君は信じてくれないだろう?」

 

二人は、自分を見捨てたのか?

助けに来てくれないのか?

自分は、いらないのか?

 

少年の心は、絶望に満ちていく。

 

「だが、薄情な奴等だよなぁ?あいつらにとって君はただのペットだった訳だ。古くなったら、バッサリと切り捨てる」

「ち、違う……」

「君の事はもうどうでも良いのだろう。じゃなかったら、もっと早く助けにくる筈だ。だが未だに来ない、という事は、“そういう事”だな」

「そんな訳ない……」

「これで分かったろう、アキラ君?」

 

――――あいつらは、君を“捨てた”んだ。

 

 

その言葉を皮切りに、少年は茫然自失となる。もう、助けは来ない。否定したくても、理解させられてしまう。拷問によって弱りきった、幼い心と小さな体は、もう限界だった。

瞳からは、涙が数滴、いや滝の様に溢れだした。

 

「違う、違う……絶対に違う」

 

視界が霞み、景色がぼやけて見える。頬から伝わる温かな感触を感じた。ポタポタと、涙が地面に溢れ落ちる。

 

「嘘だ、嘘、嘘だ……嘘だぁ……」

 

嗚咽と共に、膝上に溢れ落ちる滴。塞き止めていたものが、溢れだしていく。

 

「ああ、可哀想に……捨てられてしまったんだねぇ。分かる、分かるとも。私も“家族を取られた”身だ。君の気持ちは痛い程に理解できる」

 

慰める様に、声をかける。

男は少年の肩をポンポンと叩いた後、前に歩み出す。そして、壁にかけていた、柄の長い両口ハンマーを手に取る。

 

「だが現実とは、残酷なものだ。信じていた者に裏切られるというのは、身も心も痛い思いをする」

 

両手で持ち上げ、ゆっくりと振り上げた。その視線は、少年に向けられている。

それに気づき、少年は恐怖に怯える。

 

「そう――――こんな風にね」

 

少年めがけて、ハンマーを振り抜いた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

アキラは飛び起きた。

 

「っ……はぁ……はぁ……!」

 

一瞬、嘔吐する様な感覚に見舞われたが、何とか堪える。肩を上下させ、荒い呼吸をしていた。顔は汗だらけ、体も同様で、衣服が濡れていた。片手で顔、“額の部分”に触る。

 

「久々に嫌なもん見ちまった……」

 

忌々しげに吐き捨て、舌打ちをする。頭を乱暴にかいた後、重々しく息をついた。

寝台から立ち上がり、そのまま洗面所へと向かう。恐らく、皆はまだ眠っているのだろうか。何しろ、日が昇りかけている時間に目覚めてしまった。その為、廊下は静寂に満ちている。

洗面台で顔を洗った後、大きく息を吐いた。

 

「……いつ振りだろうな、あの夢は」

 

鏡を見ながら、そう呟く。今、バンダナは“外している”。その状態で鏡を目にしている為、嫌でも“ソレ”が写ってしまう。

“ソレ”を見て、忌々しく顔を歪ませるアキラ。悔しそうに歯軋りし、台にもたれている腕も震えている。

 

「くそっ……」

 

そのままじっとしていると、足音が聞こえてきた。誰かが、こっちへと向かってくる。

アキラは慌てて、バンダナを頭に巻いた。

 

「あら、アキラ君。早起きね」

「ああ、おはようございます」

「うん、おはよう」

 

扉を開けたのは、院長だった。微笑みながら、朝の挨拶を交わす。

 

「どうしたの?こんなに汗かいて」

「ちょっと、寝汗かいちゃって……」

「あら大変、これじゃあ風邪を引いてしまうわ。着替えはあったかしら?」

「大丈夫です。自分の着替えはありますよ」

「そう?なら、いいんだけど……」

 

そう言い、アキラは上半身の服を脱ぎ、タオルで汗を拭う。そして、予め持ってきていた服を着替えた。

 

「それにしても、中が綺麗になってますね。改装したんですか?」

 

改めて、院内を見てからそう述べるアキラ。

小さい頃に住んでいた時と比べると、まるで新築かと思う位に変化していた。床や壁は勿論の事、窓ガラスも透き通っており、設備も充実されている。

 

「でも、これだけの改装を行ったんなら、お金の方は……」

「実はね、改装資金は“ある人”が全額負担してくれたの」

「ある人?」

「そう、“キバーラ”っていう人よ」

 

その名を耳にし、アキラは動きを止める。

 

「あなたが院を去ってから、数ヶ月経った頃かしら。わざわざ足を運んで頂いて、資金援助をしたいって言って下さったの」

 

キバーラのいる地域とは何ら関わりのない場所に位置するこの孤児院。そこへ寄付をしたいとのこと。表向きはキバーラ一人だが、実際はゴースト族総出での資金援助。ゼラムはもちろんの事、アキラと縁のあるゴースト族が快く引き受けてくれた。人間社会にて、かなりの地位を獲得しているゴースト――仕事の際は人間に擬態している――もおり、援助は充分に行える。

これには、流石の院長も不思議に思った。理由を尋ねてみると、「家族が世話になった御礼をしたい」との事。

その家族は誰か?聞くと、キバーラは名を口にした。

 

「アキラ君、キバーラさんには会った?長い事、顔を会わせてなかったのでしょう?」

 

院長は、アキラにそう問いかける。それに対して――――。

 

「はい、会いました」

「そう……良かったわね。家族の方と会えて」

「“あいつ”は家族なんかじゃありません」

 

冷たく、そう言い放つアキラ。

一瞬にして、院長は口を止めてしまった。

 

「え、アキラ君……?」

「俺にとっての家族は、院長先生と院の人達と、子供達だけです」

 

それだけ言うと、アキラはその場から離れる。垣間見た、少年の瞳に宿る、黒い感情。

去っていくアキラの後ろ姿を目にしながら、院長は暫くその場から動けずにいた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

窓から庭の方へと出る。空はまだ薄暗いが、もうじきに夜が明けるだろう。その証拠に、日の光が微かに覗き込んでいた。

それを目にしながら、アキラは首にかけたタオルを強く握り締める。

 

「何が家族だ……!」

 

歯を噛み締め、タオルを地面へと思い切り叩きつけた。見るからに、怒りを露にしているのが分かる。

自分が受けた苦しみは、自分にしか分からない。赤の他人に分かる訳がない。

かつての家族からの言葉は、自分にとっては腹立たしいだけだ

 

「勝手な事ばっか言いやがって……!」

「アキラ?」

 

声をかけられ、即座に顔を向ける。

寝巻き姿のイリスが、そこにいた。アキラの様子に戸惑いを隠せず、恐る恐ると言った風に、話しかける。

 

「どうかした?」

「あぁ、悪い……ちょっと苛ついてて」

 

醜態を晒してしまった。深く反省しつつ、何とか落ち着きを取り戻そうとするアキラ。深呼吸し、無理矢理だが、気持ちを切り替える。

 

「よしっ!もう大丈夫だ!」

「う、うん……」

「さぁて、腕を振るって、チビ共の朝飯でも作ってやりますか!」

(いや肉焼くぐらいしか出来ないじゃん。たまに焦がすし)

 

院へと戻るアキラの姿を見て、イリスは言い知れぬ不安を抱えていた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

ミッドチルダに位置する、大型ショッピングモール。休日だからか、多くの人々が行き交い、建物内を埋め尽くしている。一人の客、友人と来ている客、家族連れなど、色々な様子の客人達がいた。

 

買い物を楽しんだり、会話に花を咲かせたりと、賑やかな雰囲気を出しており、客観的に見て、とても平和な光景だった。

 

 

 

そんなショッピングモールに、異変が起きた。

 

突如、半透明なドーム状の結界が発現したのだ。それは大型ショッピングモールを容易く包み込み、モール内の客人達を閉じ込めた。

 

「な、なんだあれ?」

「えっ?何なの?」

「お、おい!出られないぞ!?」

「壁か、何かか……?」

「お母さん、あれなぁに?」

「さ、さぁ……お母さんにも分からないわ」

 

異変に気づいた客達。一人、また一人と動揺が伝染していき、不安が募りつつある。

 

戸惑いを隠せずにいる客人が踏みしめている地面。何の変哲もない大理石に、ひびが入る。それは蜘蛛の巣の様に広がり、地面が上向きに膨張。

その異変に気づき、客人達の視線が、その盛り上がっている地面に向けられる。

 

今度は何だ?殆どの人々がそう思い、様子を窺っていた。

 

そして――――地面から“手が生えた”。

 

それに驚くも、まだ終わりじゃない。その手は二の腕まで伸び、肘を曲げて地面に掌を付ける。

そのまま力を入れ、やがて片手の主――――“獣”が姿を現した。

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