ViVid Strike!ーアナザーストライクー 作:NOマル
今日の宿泊場所に向け、イリスは目印を頼りに進んでいく。
その後を、フーカはアキラを背負いながらついていった。
「ど~こっかな~~?」
「おい……まだなんか……!?」
「う~ん、もうちょっとだと思うんだけど……」
「そ、そうか……」
「分かんないけどね」
イリスの言葉に、フーカはガクッ!と転びかける。会ったばかりの少女に呆れながら、フーカはアキラを背負い直す。
その際、彼の吐息が首筋にかかった。背筋に、電流が走った様な感覚に襲われる。
「っ!?」
「ん?どうかした?」
「いや、何でも、ない……」
そっぽを向くフーカ。頬が微かに赤くなっている事に気づかず、イリスは再度、前を向く。
「そういえば、まだ名前言ってなかったね。私の名前は、イリス」
「あ?ああ……ワシはフーカ・レヴェントン。フーカでいい」
「うん、フーカ」
改めて、自己紹介を互いに行う。
「なぁ、イリス」
「何?」
「その、なんじゃ……こいつとは、どれくらい一緒にいるんじゃ?」
おずおずと、小さめの声量で尋ねるフーカ。突然の質問に、イリスは目を丸くする。
「どれくらい……う~ん、一年近くになるかな?」
「そうか……その、こいつとはどこで知り合ったんじゃ?」
「そうだね~」
アキラが自分の前から姿を消してからおよそ二年が経過。その間、何をしていたのか?
ふと気になり、フーカはアキラの旅仲間らしいイリスに問いかけた。
「初めて会った時は、よく覚えてる。何ていうか……“運命を感じた”的な?」
「えっ……?」
「まあ、そんな大した出会いとかじゃなくてね。初めて会って、なんか意気投合して、そんじゃ一緒に旅しようぜ!みたいな感じで、今に至る訳です!」
「いや全然分からんぞ!?」
「あっ!もしかしたらあそこがそうかも」
「って聞かんか!」
話をはぐらかし、フーカを軽く無視して、イリスは目的地らしき場所を発見。
森林の中、ポツンと建てられている、小さな山小屋。一階建ての山荘にも見える。
表情を明るくし、イリスは山小屋に駆け寄る。ドアノブに手をかけ、そのまま扉を開けた。
「ごめんくださ~~い!って、誰もいないよね」
中は暗闇に包まれており、奥行きが見えない。イリスに続き、フーカも徐に入る。
手入れがされておらず、埃やら蜘蛛の巣やらが、あちこちに蔓延っていた。
「なんじゃこりゃ……汚いのう」
「そりゃあ、一年以上も放置してればこうもなるって」
「一年でこんなにか――――ん?」
耳元で、声が聞こえる。少し横目で見ると、気絶していた筈の幼馴染が、パッチリと目を覚ましていた。
「でも、雨露くらいはしのげるだろ」
「……おい、お前いつから目ぇ覚めとったんじゃ?」
「“ど~こっかな~~”って言ってたとこ」
「とっとと降りんかっ!」
「ぐおっ!?」
背負った状態から、仰向けで地面にダイブ。背負われていたアキラは、少女の体重がのしかかり、背中に受ける衝撃が倍増。呻き声を漏らし、その場でのたうち回る。
「いっづ……!フーカお前、何すんだいきなり!」
「やかましいっ!起きとったんなら自分で歩け!」
「んだよ、助けてやったってのに」
「ふん!余計なお世話じゃ」
プイッと顔を反らすフーカ。やれやれと言わんばかりに、アキラは未だに痛む尻を擦っていた。
「おい、どこ行くんだ?」
「どこって、バイト先の寮に帰るんじゃ」
「て言っても、今日はもう遅いよ?暗い森の中じゃ寒いし、迷うし、その上飢え死にしちゃうかも」
「飢え死にって、大袈裟じゃな」
「別に大袈裟でもねぇよ。実際、樹海に迷い混んで生死をさ迷った事あるし」
「マ、マジか……?」
「「嘘だけど」」
「じゃと思ったわ!」
大声で怒鳴り付けるフーカ。しかし、アキラは聞く耳もたず、寝床を確保する為、軽く床を掃き、その上に寝袋を敷く。イリスも自分の分の寝袋を取り出す。そしてもう一つの寝袋を、フーカに手渡す。
「はい、フーカの分」
「あっ、いやワシは……」
「いいからいいから。ね?」
「…………」
念を押す様に言われ、フーカは渋々、それを受け取るのであった。
「すまんの……」
「気にしないの。アキラの友達だっていうんなら、私にとっても友達だし」
ニコニコと、笑顔を絶やさないイリス。人懐っこい彼女に戸惑いながらも、フーカは微笑む。
「そういえば、やっぱアキラとフーカって知り合いとかなの?」
「ん?ああ、まあ幼馴染というか」
「同じ孤児院で育った
「へぇ~、そうなの」
興味津々と言った感じで、二人に質問するイリス。それから二人は、交互に話し出す。
院のみんなは元気にしているか。今まで、どんな風に過ごしてきたか、等。
寝袋に入りながら会話していると、イリスはニヤニヤしながら質問する。
「それでそれで?お二人の間にはもっとないの?」
「「何が?」」
「ほら、幼馴染の関係から、男女の関係にランクアップした、とか」
「「何で?」」
「何でって、お互いに意識し合うみたいな事は――――」
「「ない」」
「あっ、そうですか」
即答で否定するアキラとフーカ。
これ以上は無意味と判断し、イリスは閉口する。
「はあ……今回の喧嘩で、クビになるのは間違いないのぅ……」
「お前さ、昔っから喧嘩っ早いよな。もうちょっと自制しろよ」
「お前に言われちゃあ、おしまいじゃな……」
「んだよ」
双方、ぶっきらぼうな口調で語り合う。だが、気兼ね無く話せているのは確かだ。
寝転びながら、イリスは傍観している。
「何だかんだ、やっぱ仲良しなんじゃない二人共」
「ただの腐れ縁じゃ」
「まあな。あと、“二人”じゃない――――“三人”だ」
その言葉に、フーカは固まる。
イリスは首を傾げ、アキラは横目で、フーカを見据えている。
「三人?もう一人いるって事?」
「なあ、フーカ……リンネは、どうしてる?」
「…………」
「フーカ?」
「リンネは……あいつは……」
それ以上、言葉が紡がれる事はなかった。逃げる様に、フーカは寝袋に潜り込む。
「すまん……これ以上は言えん」
「……そうか」
寂しげな背中を見て、アキラはそれ以上、何も言わなかった。やがて、明かりを消す。
(幼馴染、か……ちょっと羨ましいかも)
真っ暗となった小屋の中。イリスはふとそう考え、そのまま眠りに落ちた。
「――――アキラ、起きとるか?」
「……なんだよ?」
不意に、小声で話しかけられた。
横目で見ると、フーカが寝転びながらこちらを見ている。
「どうした?」
「いや……その、この町には、どれくらいいるんじゃ?」
目を反らしながら、ボソボソと問いかけるフーカ。怪訝に思いながらも、それに答える。
「ん~、今の所は、どっか行く予定ないからな。しばらくはいるつもりだけど」
「ふぅん……そうか」
「なんだよ急に?」
「別に……。にしても、こんな小屋よく知っとったのぉ」
「院を出た後、“先生”からもらってな」
「先生って、“おっちゃん”の事か?」
「おう」
この小屋は、“アキラを引き取った人物”が、別荘として利用していたもの。亡くなる前に許可を得て、アキラは一時期、住居として住んでいた。
「それと、院のみんなにちゃんと会いに行けよ?心配かけたんじゃからな」
「分かってるよ」
「ならいいんじゃ」
用件だけ述べ、フーカは背を向ける。何だったんだ?と思いながらも、そろそろ睡眠に入る。
「ああ、そういえば」
「なんだよ?」
「お前、寝る時“ソレ”取らんのか?」
もう一度、こちらに顔を向けるフーカ。指差しているのは、アキラが頭に巻いているバンダナ。久しぶりに会った際にも、気にはなっていた。
しかし、これから寝るというのに、外さないのだろうか?
バンダナを指摘されると、アキラは更に目深に被り直した。
「……別にいいだろ」
「ふ~ん…」
そう言い、こちらに背を向ける。確かに人の自由だ。それ以上は何も言わず、フーカは眠りにつく。
アキラは暫く、額部分を押さえていた。
◇◆◇◆
警備隊から逃げ延び、路地裏に逃げ込む不良達。息も絶え絶えで、壁にもたれかかる。二人は、フーカと口論になった男達。もう一人は、同じ不良仲間。この男だけ、二人とはまた違う疲労感を見せていた。
「はぁ……はぁ……!」
服は汗で濡れ、皺が出来るくらいに胸を押さえている。息も荒く、何かに耐えている様に見えた。
「くそっ!お巡りに見つかるなんて」
「全部あのガキのせいだ!今度会ったら、タダじゃおかねぇ……!」
苛立ちが募り、近くにあった空き缶を乱暴に蹴り飛ばす。カラン、と音を鳴らし、最後には、“何か”にぶつかった。
「あっ?何だありゃ?」
影に隠れて、姿は見えない。目を細めてみても、全貌がはっきりとしない。
――――突然、“ソレ”はこちらに顔を向けた。
町から射し込む灯りによって、その全貌が明らかとなる。
「う、うわぁっ!?」
「ば、バケモン!?」
昆虫特有の鳴き声を鳴らし、こちらに歩み寄る一体の怪物。毛皮が生えており、節足動物の様な足が数本伸びている。
一言で言うなら、“蜘蛛”。それに似た怪物だ。
腕に、特徴的な腕輪を着けていた。顔にも見えるソレは、赤く発行していた。
突然、怪物が口元から白い糸を射出。勢い良く飛び出し、不良の一人の首に巻き付く。
「ぐえっ!?」
糸を掴み、そのまま素早く後退する。不良の男も必死に抵抗するが、有り得ない程の怪力には敵わない。前のめりに倒れ、そのまま引き摺られていった。
「うわぁあああああ!!」
「あっ、あっあぁぁぁぁ……!」
「や、やめろっ、おい、やめ――――」
グジュ――――と、肉が裂ける音が鳴った。断末魔が、その場に鳴り響く。
目の前で行われている“怪物の食事”。それを目の当たりにし、もう一人が逃げ始める。足がおぼつき、腰を抜かしてしまった。そのまま後退り、逃走する。
トスッ、と何かにぶつかる。慌てて振り返ると、表情が固まった。
「お、おい……お前……」
「腹……減った……」
「おっ、お、お前も……!?」
仲間である筈の男が、そこにいた。しかし、かつての面影が微塵も残されていなかった。
何故なら、そいつも“腕輪を付けた怪物”だったからだ。
――――肉、喰イタイ……。
もう一人の断末魔が、鳴り響いた。
今宵も、獣が、肉を貪り食らう。