ViVid Strike!ーアナザーストライクー 作:NOマル
翌日、日差しを浴びながら、目を覚ます。寝袋を片付け、イリスは一人、外に出る。
「ん~~……!今日もポカポカ良い天気だ」
「おはようじゃ」
「あっ、おはようフーカ。結構早起きだね?」
「バイトの都合で、早起きせにゃならん事が多いからな」
「そっか」
どうやら、フーカも早起きしたらしい。テントから出て、二人は日の出の光を体に浴びる。
「それにしても、意外だね」
「何がじゃ?」
「てっきり、幼馴染同士でくっつくかと思ったのに」
「ちょ、まだ言うんか!?」
昨日と違い、顔を仄かに赤くするフーカを見て、意地悪な笑みを浮かべるイリス。
「あれれ?なんか慌てちゃってる?昨日あんな事言ってたけど、心の中ではもしかして――――」
「いやいやいやいや違うんじゃ!お前さんが急に、変な事言い出すからっ!?」
「そんなに慌て出すと、余計怪しいぞ~?」
ぐぬぬ、と口を閉じるフーカ。これ以上開口すれば、余計な事まで口を滑らせてしまうかもしれない。イリスのペースにはまってはならないと、顔を背ける。
「何度も言わせん事じゃ!あいつは、ただの幼馴染!それ以外に何もありゃせん!」
「ふ~ん……じゃあ私の思い違いか」
腕を組み、そっぽを向くフーカ。からかい終わったのか、イリスは追及を止めた。そしてふと、昨日の事を思い出す。
「ねぇ、昨日の事なんだけど、もう一人の幼馴染って……」
イリスが、次の話題を振る。その途端、フーカの表情が変わった。強張り、どこか暗い。
「――――いや、やっぱ何もない」
「……すまんの」
「ううん。私も軽々しく聞いちゃって、ごめんなさい」
流石に踏み込み過ぎたか。空気を読んで反省し、イリスは口を閉じる。
「その、なんじゃ……お前さんは、どう思っとる?」
「ん~、アキラの事?」
「お、おう」
「そうだねぇ……“――――”」
「えっ?」
イリスの言葉に、フーカは固まる。
すると、テントから欠伸が聞こえた。
「あっ、起きたかな?寝坊助さん?」
「ぁぁ……おふぁああ~~……よ」
まだ寝ぼけているのか、欠伸混じりの挨拶をする。イリスは苦笑し、朝食の準備に取りかかる。
「ほら、フーカも食べてってよ」
「いや、ワシはもう」
「いいからいいから」
イリスに強引に押し切られ、朝食を共にする事に。パンと焼きベーコンとスクランブルエッグというメニューで食事した。
フーカとイリスが舌鼓を打つ中、アキラはというと、まだ寝ぼけている。
「もう~ご飯くらいちゃんと食べなよ」
「ああ、うん……ちゃんと……食べる……」
「はぁ、しょうがないな」
見てられなくなったのか、イリスは自分の分を平らげ、アキラの食器を掴む。そして、そのまま食べさせた。
「はい、あ~ん」
「あむ……」
「ほら、目を開けて。ちゃんと食べる」
フーカは目を丸くし、アキラの介護をするイリスを見ていた。
「のぅ、時にイリス」
「ん?」
「こういう事は、しょっちゅうあるんか?」
「いや、いつもじゃあないかな?彼、たまに寝付きが悪い時があるから」
仕方なくやっている、というイリス。しかし、楽しそうにも見え、母性らしき感情を思わせる。
(やはり、さっき言っとった事は……)
先程、イリスが言っていた事を思い出すフーカ。少し、“焦り”を感じた。
(――――いや、な、何を考えとる!?)
首を振り、思考を中断して、食事を続けるフーカ。
やがて朝食を終え、食器を洗い、後片付けを行う一同。
「じゃあな。ワシはここで」
「もう行くのか?」
「ああ、早う顔出さなきゃいかんからの」
「確か、下宿先に行くんだったか?」
もう少し引き留めようとしたが、フーカは構わずに、踵を返す。
「ほらっ」
「んっ?」
鞄からハンバーガー――町に来る途中で購入した――を二個ほど取り出し、投げ渡す。一瞬戸惑うも、何とかキャッチするフーカ。
「一応それでも食っとけよ」
「ああ、悪いのぅ」
「腹を壊したりはしないと思う」
「どういう事じゃコラ」
「まあ大丈夫だって」
「まったく」
軽食を受け取り、ポケットにしまう。
「またね、フーカ。今度はもっとお話しようね?」
「おう、また来るけんの」
バイバイ、と手を振るイリスに、手を振り返すフーカ。
「ちゃんと院の先生に挨拶しに行っとくんじゃぞ?分かっとるか?」
「分かってるっつうの」
念を押す様に言われ、投げやり気味に言い返すアキラ。
そして、フーカはその場を後にした。
◇◆◇◆
人一人いない、とある草原。太陽が照り、草花が風で揺れている。実に、穏やかな空間。
だが、そこに異変が起きた。
突然、バチバチと、電流が迸る。やがて強くなり、その場が一気に強風で吹き荒れる。それだけでは終わらない。
空間が、歪み始めた。小さな点が、唐突に現れ、段々大きくなっていく。穴が広がっていく最中、その奥から、“ソレ”がやって来た。
“ソレ”は、空間の穴から飛び出し、急速に停止する。屋根が付属している、大型の二輪バイク。そのバイクが草原に到着したと同時に、空間の裂け目が狭まり、何事もなかったかの様に、元通りとなった。
「――――到着っと」
バイクに搭乗している一人の青年。深緑色のフード付コート、やや傷が入っている黒のジーンズ。
青年は、被っていたフードを脱ぎ、バイクから降りる。
色素のない、肩まで伸びた髪。端正な顔立ちだが、格好のせいか、どこか無気力な印象を与える。
すると、唐突にバイクが輝きだした。光に包み込まれ、瞬く間に収縮。気がつけば、掌サイズの端末に変化した。
「さて、行こうか」
荷物を肩に背負い、青年は歩き出した。
◇◆◇◆
朝食を食べ終えた後、後片付けを行うアキラとロア。沸かしておいたお湯で食器の汚れを流し、布巾で拭き取る。
あっという間に終わり、少しのんびりとする二人。
「院の方には、少し休憩してから行くとするか」
「アキラが、お世話になった所?」
「ああ、そうだ」
小さい頃、偶然にもフーカと“もう一人の幼馴染”――――リンネと出会い、その流れで、孤児院に住む事になった。話しにくい事情を無理に聞く事をせず、院長は快く受け入れてくれた。他の子供達とも仲良く過ごす事も出来、年下の子供達からは、兄の様に慕われる様になった。
やがて、自分が引き取られた時も、度々会いに行っていた。
そんな矢先、何の言葉も言わずに、院から姿を消してしまった。
「今更かもしれねぇけど……せめて顔くらいは出した方がいいのかもなぁ」
ポツリ、と感慨深く呟いた後、アキラは起き上がる。
「せっかくだし、何かお土産っぽい物を渡そう。うん、それがいい」
「お土産っぽい物?」
「という訳でイリス。何か、チビっ子達が喜びそうな物出して」
「それ、会った事すらない私に聞く?」
やや呆れて返事しながら、イリスは鞄の中を探る。
「う~ん……食べ物系はないし、あるとしたら、ガラクタばっかりだ」
「おい、人が作ったもんをガラクタ言うな」
「ごめんごめん。でも、本当にないよ?」
「マジかよ。なら、町で何か買っていこうか」
「お金は?」
「多分、大丈夫だろ。多分……うん、その筈」
と言いつつ、目を泳がせながら、財布の中身を確認する。まあまあ、貯えはないこともない。一先ずは、安堵する。
「ちょっと散歩してくるよ」
「あんま遠く行くなよ?」
「分かった~」
アキラにそう告げ、外に出るイリス。森の道を抜け、河原に辿り着いた。
川は涼しげなせせらぎを耳にしながら、近くの小石に座り、ゆったりと風景を眺める。
「んっ?」
何の気なしに、川へ視線を向けた。
すると、上流から“黒い箱”が流れてきた。擬音を付けるなら、どんぶらこ、どんぶらこ、であろうか。
やがて、その黒い箱は、岸にて停止する。
「これ、なんだろう?」
歩み寄り、イリスはその箱を拾い上げた。
何の変哲もない、金属製の箱。それをもったまま、じっと見つめる。
――――トクン、と、箱の中で、鼓動が鳴った。
◇◆◇◆
森を抜け、街中を歩くフーカ。
「まさか、またアイツと会う事になるとはの」
ポケットに手を突っ込みながら、息を漏らす。
町の不良達との喧嘩を買い、乱闘していた最中、予想だにしない再会を果たした。
長い間、顔を見ていなかったにも関わらず、瞬時に理解できた。自分の幼馴染だと。
リンネと仲違いしてしまい、自暴自棄となって喧嘩に明け暮れた生活を送っていたフーカ。
そんな彼女の前に、彼が現れた。もう一人の、幼馴染が。
「まあ、一発殴れたから、良しとするか」
いつかまた出会えたら、一発ぶん殴る。速攻で叶い、心がスッキリした。
「じゃが……イリスと一緒か」
知らぬ間に、自分の知らない相手と旅をしていた。一年近くも一緒だったとのこと。今朝も、親しげに接していた。
少し、モヤっとしてしまった。
すると、腹の虫が鳴る。
「さっき食べたばっかじゃのに……まったく」
懐からハンバーガーを取り出し、それを頬張るフーカ。パンの香りを嗅ぎながら、具材である肉をしっかりと噛み締める。
(じゃが……いつかは、リンネと三人で)
小さかった頃の様に、また楽しく過ごせたら。そんな儚い思いを抱く。
しかし、今となっては、叶うかどうかすら分からない。もう、二度と戻れないかも……。
重いため息をつきながら、完食する。更に、二個目を取り出した。
「おっと」
通行人とぶつかりそうになり、咄嗟に避ける。だが、ハンバーガーが手から溢れ落ち、地面に転がる。思ったより、派手に投げてしまった。
慌てて、拾おうとするも、そのまま路地裏の方に行ってしまった。曲がり角を曲がり、少し進む。ハンバーガーが失速し、漸く追い付いた。
「いかんいかん、こんな所まで」
何とか追い付き、ハンバーガーを拾い上げる。ほっと安堵し、改めて頂こうと、口を開けた――――
「――――なっ!?」
直後、それを目の当たりにした。
表情が驚愕に染まり、目を見開く。
頭上にいたのは、“怪物”だった。
毛皮で覆われた体から伸びる、人間と同様にある手足。それに加え、甲殻の節足が数本あり、まるで蜘蛛の様だ。
怪物――――クモアマゾンは、真っ赤に染まった目で、こちらを見据えていた。
正に、獲物を見つけたと言わんばかりに、壁から手を離して落下した。
「おわっ!!」
後退し、何とか回避するフーカ。
地面に着地し、尚も獲物から目を離さないクモアマゾン。震えた様な鳴き声を出し、じりじりと詰め寄ってくる。
「何なんじゃ、こいつは……!」
得体の知れない相手に対し、目を疑う。しかし、これは現実だ。嫌でも、そう認識させられる。
いつまでも驚いている場合ではない。フーカは、すぐに逃走を図る。
「ぐわっ!」
踵を返そうとする直前、首が圧迫される。それだけではない。右手首、腹も、“蜘蛛の糸”によって拘束された。
「なっ……もう一匹じゃと……!?」
苦痛に表情を歪ませながら、横目で後ろを見る。
前方にいる怪物と、ほぼ同じ容姿をした、蜘蛛の怪物がいた。こちらは、両手が鋭い爪となっている。もう一匹のクモアマゾンの口から出ている蜘蛛の糸。それは、フーカの体の自由を奪っていた。
突如現れた、二体の怪物。共通する点を述べれば、どちらも片腕に“腕輪”を装着しているという事だ。顔の様な腕輪は、目と思われる部分が、赤く発光していた。
尋常じゃない力で、締め上げられるフーカ。比較的動ける左手で外そうとするも、全く効果が見られない。
唐突に、左手を掴まれた。見れば、前方のクモアマゾンが、目前にまで来ていたのだ。
「くっ……!」
涎を垂らしながら、迫り来る牙。
せめてもの抵抗からか、目尻を上げ、睨み付けるフーカ。
すると、怪物の動きが止まった。
(ど、どうしたんじゃ……?)
クモアマゾンは、少し、空を見上げた。右、左と、見渡す。まるで、何かを探すかの様に。
「………………」
徐に、視線をフーカに戻した。
訳の分からない動作に戸惑うフーカ。
「がはっ!!?」
ドスッ!と、クモアマゾンの拳が、少女の体に深くめり込んだ。日々の喧嘩で食らった殴打よりも、ずっと強く、重い一撃。
まともに食らい、吐き気が襲いかかる。同時に、視界がぼやけてきた。
(あ……アキ、ラ……)
気絶し、前のめりに倒れるフーカ。それを受け、そのまま肩に担ぐクモアマゾン。
もう一体のクモアマゾンに、目で合図する。
――――“邪魔者”がやって来た。
安心して食事を行う為に、クモアマゾン達は、そこから離れる事にする。路地裏を進み、奥深くへと姿を消した。
気絶したフーカは、獲物として連れ去られてしまった。
その数分後。人知れず、信じられない出来事が起きた後の路地裏。そこに、一人の青年がやって来た。
「あれ?この辺だと思ったんだけどなぁ」
頭をかき、首を傾げる青年。手に持った端末に目をやりながら、周囲を見渡す。
「僕の存在に気づいて移動したか……。ああ、めんどくせ」
壁にもたれ、重いため息をつく青年。暫し空を見上げた後、壁から離れる。
「とっとと狩らないと」
ポケットに手を突っ込みながら、路地裏を進んでいく。向かう先は、“二匹の虫”がいる場所。
理由はただ一つ、“狩る為”だ。
そして“狩人”は、狩場へと赴く。
◇◆◇◆
小屋の中にて、アキラとイリスは向かい合って座っていた。両者の間に置かれているのは、謎の黒い箱。取っ手も、開閉口も見当たらない。
「な~んか、見るからに怪しいな」
「だよね~」
「そう思うなら拾ってくるなっつうの」
「いや~なんか気になっちゃって」
アキラは呆れながらも、その黒い箱を手に取り、全体を見てみる。
変わった形をしている訳でもなく、これといって高価な物とも思えない。ただただ得体が知れない。
中に何か入っているのだろうか?そう思い、揺すってみるも、音すらない。
「訳わかんねぇから、とりあえず保留で」
ポイっ、と箱を付近に放る。
「それより、買い物しとかなきゃな。この小屋、鍵ねぇから少し無用心だけど」
「だったら、私行こうか?」
「一人で?ほんのちょっとしか来てねぇのに、大丈夫か?」
「平気平気!任せといてよ」
えっへん!と、少し膨らみがある胸を張るイリス。とはいえ、ここに来る道中でも色々とあった為、不安がない事もない。
だが、自分から率先してくれているのだ。まあ、おつかい程度なら、大丈夫だろう。
「じゃあ、一応なんかお土産っぽい物を頼むよ」
「は~い」
「何かあったら連絡しろよ?財布と連絡端末は持ったよな?」
「大丈夫だって。じゃ、行ってきま~す」
手を振り、スキップしながら走っていった。
本当に大丈夫なのだろうか?と、今更ながら思うアキラ。まあ、そうそう面倒には巻き込まれないだろう、と自己完結する。
「さて……………………暇だ」
イリスが出ていって約五分経過。留守番をするはいいものの、何もする事がない。
寝転がり、天井を見上げる。
「…………」
チラッと、横にある箱に視線を向ける。
未だに謎が解けずにいる黒箱。中には何が入っているのだろうか?
「…………」
――――気になる。
「よし、
思い立ったのか、アキラは起き上がり、箱を自分の前に置く。イリスには、ああ言ったものの、気になって気になって仕方がない。
袖を捲り、気合いを入れる。半袖となり、左腕が露となる。
“二の腕に装着されている腕輪”。その目は青く発光している。
「ええっと、工具はどこだっけな~?」
辺りを見渡し、後方にある鞄を取り寄せようとする。
その際、右向きに体を捩り、後ろを向いた。その際、左腕にある腕輪が、黒い箱の頭上を通り過ぎる。
『
「はっ?」
『
「うおっ!?びっくりした~……!」
ガコンッ!と、重々しい金属音が鳴る。同時に、箱に隙間が出来ていた。
もしかして、開いたのだろうか?
恐らく、アキラが着けている腕輪に反応したのではないだろうか。とはいえ、当の本人は何が何だかさっぱりと言った所だ。振り返った途端に、何故だか箱が開いていた。
「まさか、マジでヤベェもんとかじゃねぇよな」
ごくり、と唾を飲み込み、恐る恐る箱を開けようとするアキラ。丁重に扱い、優しく、そっと、開けた。
「……何だこれ?」
緩衝材らしきものに埋まっているのは、黒い布で包まれた“何か”だった。何やら、輪の様な物。
怪訝そうに見つめながら、アキラはそれを取り出す。
「これ、もしかして……“ベルト”?」
何の気なしに、アキラは、その布を取ろうとする。
光沢を放つ黒いベルト。そのバックル部分にある、顔の様な銀色の装飾。二本のグリップも付属されており、その目はつり上がっている。
手に取った瞬間、“目と目が合ってしまった”。
「――――っ!?」
体の底から沸き上がる、異常な衝動。幼い頃、嫌と言う程味わってきた、“あの感覚”。体が、肉を欲しているという欲求。
「うわぁあっ!!」
思わず、そのベルトを乱雑に投げ捨てるアキラ。無造作に投げ捨てられるベルト。しかし、顔はこちらを見つめていた。
「ぐっ、っっっっ!!」
目を見開き、歯を食い縛りながら、必死に耐えるアキラ。胸元を握り締め、服に皺ができている。
「ぐぁああっ!!」
拳を地面に叩きつけ、何とか、落ち着きを取り戻した。
「はあ……はあ……はあ……はあ……!」
肩が上下し、荒くなっている呼吸。それを何とか整わせ、深呼吸する。ほんの一瞬の出来事だというのに、倦怠感が襲いかかる。
そして、意識を手放した。