ViVid Strike!ーアナザーストライクー   作:NOマル

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獣の覚醒

季節は冬。雪が降った事により、家の屋根や地面が白く彩られている。

それは、この孤児院でも同様だ。やや古ぼけたな印象のある建物。その庭には、二人の少女がいた。防寒着に身を包み、薪割りをしている。白髪の少女が、薪を土台に置き、茶髪を一つに束ねた少女が、鉈でそれを割る。

 

「ふんっ!」

 

真っ二つに割れず、途中で引っ掛かるも、叩きつけて強引に割った。

 

「それにしても、フーちゃんは全然笑わないんだね」

 

白髪の少女――――リンネは、不意に問いかける。基本、目の前にいる少女は、笑みを溢さない。良い子ではあるのだが、どこか表情が固い。まともな笑顔を見たのは、“彼”と出会ったあの時だけかもしれない。

 

「ワシらは不幸な孤児じゃ。明るい未来なんぞ待っとらん。何が楽しくて笑うんじゃ……」

 

ぶっきらぼうに、不機嫌丸出しの顔で答えるフーちゃんこと、フーカ。

希望なんてない。幼いながら、自らの未来に失望していた。

 

「楽しい事もあるよ。ご飯がおいしかった、とか」

「芋と雑穀と萎れ菜っ葉ばっかりの貧乏飯が?」

「奉仕活動で、一生懸命働いた後の水がおいしいとか」

「働かんで済むなら、その方がええの」

 

励まそうと言葉を投げ掛けるも、突き放す様に投げ返すフーカ。これにはリンネも困惑を隠せない。

 

「薪持ってきたぞ~」

「あっ、ありがとう“アッくん”」

 

そこへ、一人の少年――アッくん――が、新しい薪を数本抱えて戻ってきた。よっこらせ、と集めてきた薪を地面に置き、一息つく。

 

「あ~腹減ったな~」

 

だらけた様子で呟くアキラ。そんな彼の姿を見て、何か閃いたのか、リンネは口を開いた。

 

「あっ、週に一回のお菓子の時!」

「賞味期限の怪しい廃棄品じゃろ」

「なあ、なんで俺の方を見てその話題になったんだ?」

「えっと……なんとなく?」

「あっ……そう」

 

首を傾げ、曖昧な様子で答えるリンネ。

この少女に、自分はどんな風に思われているのだろうか?

 

「飲み食いの事しか頭にないんか、お前は」

「私、食べるの好きだよ?フーちゃんもアッくんも好きでしょ?」

「そりゃあ、まあ……」

「オレ肉がいいな、肉」

「贅沢言うな、この大食らい」

「なんだよ、ちょっと言っただけじゃねぇか」

「ならその涎を拭けっ!」

「はいはい」

 

妄想でもしたのか、口の端から溢れ出る唾液を服の裾で拭き取るアキラ。面倒そうに顔をしかめるフーカ。

二人の様子を見て、リンネは思わず微笑む

 

「それでね。フーちゃんが不機嫌なのは、いつもお腹が空いてるからだと思うの」

 

すると、リンネは服のポケットから、お菓子の入った包み紙を取り出す。

 

「これあげる。取っといたの」

「い、いらん!」

「いいよ。私、お腹空いてないもん」

「無理するな!」

「いいから」

 

ぐぅ~……と、お腹の虫が鳴る。恥ずかしそうに、顔を赤らめる二人。

 

「それじゃあ、これ」

 

二人の間に、手を差し出す。掌には、同じお菓子が乗っていた。

 

「アッくん、これは……?」

「俺も取っといたんだよ。だから、フーカとリンネにやる」

「いや、お前の分が……」

「そうだよ、アッくんの分がなくなっちゃう」

「いや、俺もう食ってるから」

 

遠慮がちな二人に対し、アキラはクチャクチャと咀嚼しながら答える。頬を膨らませながら、味わっていた。

 

「ほら、二人も」

「……なら、もらうぞリンネ」

「いいよ、フーちゃん。アッくん、私も貰うね」

「んっ」

 

フーカはリンネから、リンネはアキラからお菓子を一つずつ貰い、それを口に入れる。

それぞれ菓子を味わい、頬を綻ばせる二人の少女。甘い一時を過ごしている側で、アキラはこっそり、後ろを向く。

すると、口から何かを吐き出した。それは、小さな輪ゴム。先程、アキラが口にしていたのは、お菓子――――ではなく、この輪ゴムだったのだ。

手持ちにあったのは、一個だけ。半分に割り、フーカとリンネに与えるつもりだったのだ。リンネも同じ事を考えていたが、これはこれで好都合。

舌に残る不味い感触に顔をしかめ、後ろを向く。幸せそうに、お菓子を食べている二人の幼馴染。一人になってしまった自分を、優しく受け入れてくれた。無論、引き取ってくれた院長にも感謝している。

だが、それと同じ位、アキラは二人に恩を感じていた。こんな可愛らしい笑顔を見れたのなら、自らの空腹など、我慢できる。

 

(……腹、減ったなぁ)

 

本音を言うと、少し厳しいが……。

 

「よし、次はワシがやる。それであいこじゃ」

「ありがとう、フーちゃん」

「そんじゃあ肉くれ、肉」

「だから贅沢過ぎるんじゃお前は!」

「いいじゃん!言うだけならいいじゃん!一度でいいから美味しい分厚い肉を頬張りたいって思ってもいいじゃん!」

「言うな言うな!想像したら余計に腹が減ってくる!」

「豚の丸焼き、鳥の照り焼き、牛のステーキ、食べたいな~~!食べたいな~~!食べたいな~~~~!!」

「わざとじゃろ!?お前わざとじゃろっ!?絶対わざとじゃろっ!?」

 

からかうアキラに、怒るフーカ。それを端から眺めるリンネ。またやってるなぁ、と思いながらも、その表情は優しい笑みを浮かべていた。

 

 

貧しい環境ではあるが、親しい友達と過ごす楽しい時間。こんな温かい日常が、ずっと続けばいい。

 

 

ーーーーワシは、そう思っておった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「――――うっ……」

 

懐かしく感じる昔の夢が終わりを告げ、少女は目を覚ました。

腹部の痛みに顔を歪ませながらも、上半身を起き上がらせる。

 

「ここは、どこじゃ……?」

 

明かりが少ない、闇の中。地面から伝わる冷たいアスファルトの感触。壁にもたれながら、周囲を見渡す。

人一人いない、廃れた工場の様だ。所々が錆び、窓ガラスもひび割れている。

 

「く、そ……なんじゃ、これ……!」

 

自らを拘束する、白い糸。手首だけでなく、胴体を覆う様に縛られている。わたあめの様な見た目だが、その強度は普通の縄以上だ。

歯を食い縛り、千切ろうとするも、びくともしない。

格闘する事一分。無駄だと悟り、力を緩める。

 

 

グジュ……と、生々しい音が耳に届いた。同時に、何やら血生臭い匂いが鼻孔を刺激する。思わず顔をしかめるフーカ。

怪訝に思い、後ろを振り返る。

錆びかけているドラム缶が何本も並べられており、その向こう側から音が聞こえる様だ。

恐る恐る、忍び足で、近づいていくフーカ。端まで寄り、ゆっくりと覗き見る。

 

「っ!!?」

 

目を疑う光景だった。

 

人の腕らしき部分が、何本も重ねられていたのだ。腕の他にも、足、胴体、頭など、部分的に分けられ、無造作に置かれていた。まるで、“食料を食い散らかした”様に。

どれもこれも、引きちぎった様な、或いは溶かされた様な痕跡が見られ、肌は血塗られ、地面にも滴る。

 

「うっぐ……っっっ……!!」

 

あまりにも凄惨な状況に、一気に吐き気が襲いかかる。だが、何とか堪える事が出来た。

すぐに目を反らし、ドラム缶に背を預けるフーカ。顔は青ざめ、汗も少量出ている。息を整え、落ち着きを取り戻す。

 

「はぁ……はぁ……」

 

深呼吸し、俯いていた顔を上げる。

 

――――“ソレ”と、目が合った。

 

「うわぁああ!!?」

 

真っ赤な眼で、こちらを見据える蜘蛛の怪物。ドラム缶の上から飛び降り、ジリジリと、フーカの側へにじり寄る。もう一匹は、天井から伸びている糸に捕まり、逆さまの状態でいた。

二匹とも、獲物であるフーカから目を反らさず、口からは涎を垂らしている。

 

「く、来るなっ!こんのっ蜘蛛野郎っ!!」

 

叫びながら、クモアマゾンの顔面に蹴りを入れた。鈍い音と共に、僅かな悲鳴を漏らす怪物。よろめいた姿を見て、フーカは立ち上がり、逃走する。

 

(こんな訳の分からん連中に食われてたまるかっ!早くこっから抜け出して――――)

 

だが、その行く手を阻まれる。

もう一体のクモアマゾンが、糸から手を離し、フーカの目前に着地。両手の爪を広げ、通せんぼする。

悔しさで歯軋りするフーカ。すると、急に後ろへ倒れてしまう。

 

「がっは……!?」

 

後ろのクモアマゾンに糸を引っ張られ、地面に背中と後頭部を強打。激痛に悶え、歯を噛み締める。

 

「ぐっ、うう……!」

 

――――食事の時間だ。

 

そう言わんばかりに、二体のクモアマゾンは、フーカの元へ集う。更に涎を流し、口を開ける。

 

じりじりと迫り来る恐怖。睨み付けるも、何の効果もない。抵抗しようにも、身動きが取れない。このままでは、自分もこの化け物達の腹に収まってしまう。

 

今の自分は、実に無力だ。それ故、幼馴染の少女と決別する結果となってしまった。

 

脳裏に、その時の光景が浮かび上がる。

 

「ちくしょう……ちくしょう!!」

 

怒りに任せ、無念の叫びを上げる。

 

 

 

――――工場内の、扉が開かれた。

 

「っ!?」

 

大きな音を鳴らし、蹴破られた様に、吹き飛ばされる鉄扉。ひしゃげており、もう使い物にならないだろう。

 

「…………」

 

“青年”は、突き出した足を地面に下ろし、歩き出す。ごく自然な動作で、工場の中へと、足を踏み入れた。

ある程度歩くと、立ち止まり、視線を横へ向ける。その先には、“二匹の怪物”。その怪物に襲われそうになっている一人の少女。

 

「……見~~つけた」

 

薄く笑いながら、視線の先へと向かう青年。ゆったり、ゆっくりと、歩んでいく。

 

地面に横たわりながら、怪訝な表情を浮かべるフーカ。自分を助けに来てくれたのか?それとも、違う意図があるのだろうか?青年の様子を目にし、頭の中が疑問で埋まる。

クモアマゾンはというと、警戒心丸出しで青年の方を向いていた。唸り声を漏らし、赤い眼光を向ける。

 

「二匹、か」

 

青年の腰に、“あるもの”が現れる。

何もない所から形成される様に、服の上から、青年の腰に装着するベルト。何年も使い古されているのか、年季が入り、所々に傷が入っている。

黒い帯に、動物の様な顔を模した銀色のバックル。発光体と思われる瞳は、垂れている。

下部分には、バイクのハンドルの様な部品が、まるで口を思わせるかの様に、二本付属されていた。

 

その姿を露にした途端、重い電子音が鳴る。鼓動する様に、繰り返し鳴らされる音。

 

すると、青年はベルトにある左側のグリップを握る。

 

そして、捻った。

 

 

ALPHA(アルファ)

 

 

電子音声が鳴り、青年は口を開く。

 

 

「――――アマゾン」

 

 

そう、呟いた。

 

 

【BLOOD・AND・ WILD!W・W・W・WILD!!】

 

 

突如、凄まじい小爆発が巻き起こる。青年を中心に広がり、工場内が熱気で満たされていく。その余波を全身に浴びるクモアマゾン。フーカは地面に横たわっていた上、クモアマゾンが盾になってくれたおかげで、影響をあまり受けずにいた。

 

やがて、高熱の波動は収まった。工場の所々に火が付き、煙が立ち込める。その煙の中から、足音が聞こえる。

 

その姿が、露となった。

 

エメラルドグリーンの垂れた複眼。血を思わせる紅の体色。銀色のプロテクターの様な胸元で、全身には無数の傷跡が刻まれている。黒い両手足――そして背中――には、鋭利なヒレが生えていた。

 

ピラニアを彷彿とさせる、謎の生命体――――アマゾンアルファは、ゆっくりとした足取りで、獲物に狙いを定める。

 

「狩り、開始」

 

 

◇◆◇◆

 

 

徐に、少年は重い瞼を開く。霞んでいる視界が、段々と鮮明になっていく。

 

「――――ああ、そうか。俺……」

 

気怠そうに、体を起こすアキラ。起こし終え、深いため息をつく。

あの“衝動”を体験するのは、実に一年ぶりくらいだろうか。胸の内から沸き上がる、激しい衝動。

 

そう、“喰いたくなる”のだ。人、つまりは人間を。

 

「ったく……イリスの奴、厄介なもん拾ってきやがって」

 

片手で顔を覆い、横目で、部屋の片隅を見る。

例のベルトは、そこにあった。放り投げた為、乱雑に置かれた様に見える。

 

「一体、なんだってんだよ。これは……」

 

舌打ちをし、徐々に苛立ってくる。見ていれば、尚更だ。

自棄になり、アキラはそのベルトを掴み、外に持ち出す。

 

「こんなもん、とっとと捨ててやる」

 

両手で持ち、銀色のバックルを正面に持っていき、忌々しげに睨み付ける。ふん、と鼻を鳴らし、大きく振りかぶった。

 

 

 

――――グルル……!

 

 

 

投げようとした瞬間、動作を停止してしまう。

 

「――――くっ……!」

 

何かに耐えるかの様に、俯いて歯を食い縛る。ベルトを持つ手は震え、やがて徐に、手を下げた。

 

 

捨てられなかった。

 

 

“自分の中の自分”が、そうさせたのだ。

 

 

――――グルルルッ……!!

 

 

「黙れ……黙れよ……!」

 

 

――――グルルルッ!!

 

 

「黙れぇっ!!」

 

 

脳内で騒ぐ唸り声をかき消す様に、大声で叫ぶ。収まったものの、獣の声は反芻し、深く残っている。

肩を上下させ、荒い呼吸を行う。興奮と苛立ちが収まりそうにない。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

心の檻に封じられた、もう一人の自分。長い間、何の音沙汰もなく、アキラに主導権を渡していた。

 

だが今、檻から出ようとしている。無理矢理、こじ開けようと……。

 

――――出セ……。

 

「やめろ……」

 

――――ココカラ、出セ……。

 

「やめろ……!」

 

――――オレヲ、出セ……!

 

怨嗟の声で、心が埋め尽くされていく。脳裏に甦る、忌まわしき記憶。

 

 

 

外の世界を知らず、箱庭の様な小さい部屋にいた自分。

 

 

 

信じていた者に騙され、信じてくれた人を死なせてしまった。

 

 

 

醜い姿を見せ、大切な幼馴染を恐怖させてしまった。

 

 

 

 

“信じていた家族”に見捨てられ、“あの悪魔”から一年半にも及ぶ、実験という名の残虐な拷問の数々を受けた。

 

 

 

忌々しい記憶が、少年の中に秘められた憎悪を掻き立てていく。

 

「悔しい……憎い……殺シテヤル……!」

 

ベルトを両手に持ち、バックルと目を合わせる。

 

――――サァ……喰エッ!!

 

「――――ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

雄叫びを上げ、ベルトを腰に巻いた。そこからの動作は早く、巻いた瞬間に、ハンドルに手をかけ、素早く回す。

 

OMEGA(オメガ)!】

 

「アマゾンッッッッッ!!!」

 

【EVO・EVOLUTION】

 

少年の体が、緑色の爆炎に包まれた。熱風が巻き起こり、辺り一面を吹き飛ばしていく。その爆発は、森林に大きな影響を及ぼし、木々や葉に火が飛び散る。

 

やがて爆発は、吸い込まれていくかの様に、収まっていく。

 

その中心にいたのは、“異形の存在”。

 

光沢を放つメタルグリーンの体色に、流れる様な赤色のラインが走っている。胸にある、橙色の厚いプロテクター。黒の両手足と背中に備えられた、鋭利に研ぎ澄まされた、ヒレを思わせるカッター。

 

「――――」

 

赤き眼光を秘めし、吊り上がった複眼。景色全てが、血に染まって見える。胸の底から沸き上がる、荒々しい衝動。それを今、押さえ込む鎖はない。

 

自分の中の自分が、解き放たれた。

 

 

「グルァアアアアアアア!!!」

 

 

地を蹴り、空高く跳躍。瞬く間に森を抜け、町に入る。だが、その姿を肉眼で捉えられる者は、誰一人としていない。

 

「うわっ!」

「なに、今の……?」

「なにか、通り過ぎた様な……」

 

高速で走り抜け、ビルとビルを飛び交い、“獲物”のいる場所へと向かう。他の者には目もくれない。向かうは、一つ。

 

その異形は、唸り声を上げ、跳躍する。

 

 

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