ViVid Strike!ーアナザーストライクー 作:NOマル
町の中央にて、少女は道に迷っていた。
「えっと……あれ、おっかしいな……どこだろここ 」
見栄を張って町へ赴き、土産らしいものを買ってはみたものの、帰り道が分からなくなってしまった。道行く人々に聞こうとはするも、中々取り合ってくれない。
知らない町にて、一人立ち尽くす。一人で出来る、という所を見せたかった。しかし、結果はこの通り。大見得切るのではなかった、と後悔する。
「どうしよう……」
心細くなり、涙目で呟く。トボトボと歩いていると、何かにぶつかった。
「きゃっ!」
「おっと……」
背中から地面に倒れる直前に、イリスは体を支えられる。ぶつかったと思われる相手の青年は、イリスの手を掴んでいた。
「あっ、ごめんなさい!」
「いや、こちらこそ、すまなかった」
イリスは慌てて頭を下げる。対する青年は、怒る素振りも見せず、逆に謝罪を行う。
「君、一人か?」
「あっ、はい!買い物が終わった所で……でも、この街に来たの初めてで、道が分かんなくて……」
なるほど、と腕組みをする青年。暫く思考してから、イリスと向き合う。
「良かったら、俺が送ろうか?」
「えっ、いいんですか!?」
「ああ、このまま放ってはおけないからな」
青年はそう言うと、イリスと共に少し歩く。見ず知らずの人に対し、警戒が薄い様にも見えるが、この青年からは、脅威らしきものは感じられなかったのだ。
こうして辿り着いたのは、駐車場。そこに、バイクを停めていた。
「うわぁ~カッコいい~~!」
「ほら、後ろに乗って」
「うん!」
キラキラと眼を輝かせ、イリスは先に乗った青年の後ろに乗り、しがみつく。
「それじゃ行くよ。えっと……」
「私、イリス!お兄さんは?」
「俺は、【ゼラム】だ」
自己紹介を終え、イリスと共に、ゼラムはバイクを走らせる。
◇◆◇◆
――――ガギンッ!!
二つの刃が、ぶつかり合う。
唸り声を上げ、右手の刃を繰り出すオメガ。
冷静に対処し、右手の刃で受け止めるアルファ。
そのまま、競り合う両者。
「グルルルッ……!」
「前は怯えてばかりいた癖に、随分成長したもんだなぁ?」
「ラアッ!!」
先に離れたのは、オメガ。腕を払い、アルファの腹部に拳を入れる。しかし、アルファはそれを容易に受け止め、お返しと言わんばかりに、蹴りを入れた。
「グウッ!?」
腹を押さえ、後退するも、アルファは追撃を行う。拳を振るい、刃で切りつけ、蹴りを繰り出す。スペックではオメガの方が上。
だが、経験が物を言う。玄人相手に、素人は防戦一方。素早い猛攻に、オメガは成す術なく追いやられていく。
「ほ~ら、どうしたどうした!」
「ガッ、グッ、ヴヴ……!!」
やがて、背中が重機に触れる。壁際に追いやられ、焦りが募り始めた。それを見計らったかの様に、アルファは腕のカッターでオメガを切り裂こうとする。オメガは、咄嗟にそれを両腕で防いだ。
こちらが両手でやっと防いでいるのに対し、アルファは片手のみ。防御に徹している中、空いている片方の腕で、オメガを殴り付ける。殴打を受け、苦悶しながらも、受け止めている両腕に力を込めた。
「ヴァアアッ!!」
力を振り絞り、アルファの腕を払い、拳を二発、胸に叩き込んだ。
よろめく相手を睨み、オメガは追撃と言わんばかりに拳、刃を振るう。アルファは依然として余裕の姿勢を崩さない。
(ふぅん、まあまあかな……)
攻撃を受け流していく中、一人思考するアルファ。そんな事を露知らず、猛攻を繰り出していくオメガ。
不意に、両者の刃がまたもぶつかった。二人は鍔迫り合いながら走り出し、唐突に止まる。そして、互いに腕を振り切った。
すると、その刃は近くにあった鉄骨を、容易に切り裂いた。亀裂が入り、支えのなくなった鉄骨は、徐に倒れていく。
不幸な事に、その落ちていく先には、フーカの姿が。
「う、嘘じゃろっ!?」
表情が焦燥に歪み、その場から逃げようと立ち上がった。しかし、クモアマゾンから受けた暴行による傷が疼く上、今も尚自らの体を拘束している糸に自由を奪われている為、立った途端に倒れてしまう。
そうこうしている内に、鉄骨は地面へと迫っていく。
(まずい……!)
慌てて、アルファは駆け寄ろうとする――――が、足を止める。
それよりも早く、“動いた者”がいたからだ。
そうこうしている内に、フーカは逃げ遅れてしまい、鉄骨はもう目の前にまで来ている。
もう、駄目か……。迫り来る恐怖に、フーカは目を瞑る。
「フーカァッ!!」
危機に陥る幼馴染の姿を見た瞬間、オメガの体は動いていた。目にも止まらぬ早さで追い付くと、その鉄骨を受け止める。
歯を食い縛りながら、足を踏ん張り、持ちこたえるオメガ。
「ゥゥ、ァアアッ!!」
雄叫びを上げながら、鉄骨を放り投げた。肩を上下させ、荒い息を整えようとする。正に間一髪と言った所だ。
「ハァ……ハァ……!」
「わ、ワシ……助かっ……た」
徐に、瞳を開けるフーカ。視界に入り込んだのは、緑色の背中。横目で、こちらを見ている赤い複眼。守ってくれたのだろうか?その真意は分からない。
疲労と安心感により、急激に意識が遠のいていく。そして、そのままフーカは、気を失ってしまった。
「フーカ……」
見た所、大事はない様子。それに安堵するも、直ぐに自身の異変に気づいた。
まず目にしたのは、黒い刃の付いた両腕、両足。更に近くの重機に付属されているガラスを目にする。自分の姿が緑色を基調とした身体になっていた。
「な、何だよ、これ……」
「正気に戻った?」
声に反応し、振り返る。自身と似通った容姿の生物が、そこにいた。
「お前、何でここに……!?」
「戻った様だね。相変わらず、暴走する所は直ってないか」
驚愕するオメガに対し、アルファは呆れた様にため息をつく。そのまま歩き出し、アマゾンの血にまみれた腕輪を回収。
「そ、それは……」
「ここに来た理由が、コレさ。アマゾンを一匹残らず狩る。それが僕の役目だからね」
「あ、アマゾンが……この、町に……なんで」
「何でって、疑問に思う事ないだろ?現に、君の様なアマゾンだって、この町に来てるじゃないか」
指を指され、同様を隠せないオメガ。そう、自分は奴等と“同じ”。しかし――――。
「違う……違う……俺は……俺は人間だぁっ!!」
「そういう台詞、人間じゃない奴が言うんだよ。前にも言ったろ?」
相手にするのも面倒だ。そう感じ取れる様に、アルファはその場から去ろうとする。
「あっ、そうそう。そこの女の子、知り合いっぽいよね?じゃっ、後はよろしく~」
「お、おい!!」
ヒラヒラと手を振り、アルファは去っていった。
相手にされず、舌打ちで苛立ちを露にする。横目で、幼馴染である少女に視線を向けた。
「…………」
いつもの明るい雰囲気が鳴りを潜んだのか、安心しきった様に眠っている。こうして見ると、やはり可愛い。幼少の時もそうだが、成長して更に増している。
ふと、自分の両手を見つめる。人間とは違う、怪物の腕。元に戻ろうと思っても、どうしたらいいか分からない。だが、幼馴染をこのままにしておく訳にもいかない。仕方なく、オメガは行動に移す。
膝を落とし、両手を伸ばした。首の下、膝裏に添え、ゆっくりと持ち上げる。ここまでの動作だけで、精神的に疲労してしまう。少し触れただけで、壊してしまいそうな、そんな感覚に襲われた。
「…………」
一歩踏み出した時、もう一度振り返る。視線の先は、
一抹の不安が過るも、首を振って思考を終わらせる。
大事に抱え、オメガは高く跳躍し、戦場から去っていった。
辿り着いたのは街中――――に、ある自然公園。木の茂みに身を隠し、辺りを見渡す。流石にこの姿を見られれば、大騒ぎになるだろう。機会を窺い、オメガは優しく、フーカを下ろして、一本の木にもたれさせる。
「ん……」
ふと、寝返りを打つフーカ。体の位置が擦れ、地面に落ちる。
「うぶっ!?」
「あっ……」
痛みで起きてしまった様だ。やや寝惚けた様子で、気怠そうに起き上がるフーカ。
「ここは……?」
オメガは内心、焦り始めていた。こちらとしては、目を覚ます前に去ろうとしていたつもりなのに、と。このまま放っておくわけには――――そう思っていた矢先、ランニングを行っている一人の少女の姿が目に移った。
走る度に碧銀のツインテールが跳ね、真剣に取り組んでいる姿は、綺麗な顔立ちに合い、とても絵になっている。何より、“左右で色が違う宝石の様な瞳”が、とても印象に残った。
(――――っと、いけねぇ!早くここから逃げないと)
思わず見惚れてしまったが、すぐに我に帰るオメガ。どうやら少女は、自動販売機にてジュースを買う様子。フーカも、覚束ない足取りながら、道の方に進んでいる。
こちらに気づいていないが、それはそれでいい。その背中を見送り、オメガは一人、森の奥へと消えていった。
森を抜けた先は、幸いにも人気のない道路。辺りを見渡し、物陰に隠れて座り込むオメガ。
「っ……この、外れねぇ……!」
両手でベルトを掴み、無理矢理にでも外そうと試みるも、取れる気配が全くない。一体化しているのではないか、と思わせる程隙間なく固定されている。力を込めても、ベルトはびくともしない。
「っっっっっっっ!ああっ!くそっ!!」
苛立ちを露にし、八つ当たり気味で壁に拳をぶつける。ヒビが入り、欠片がパラパラと落ちる。
一向に外れる様子を見せない。せめて、姿だけでも元に戻りたいと言うのに。もう一度ベルトを観察、どこかにスイッチでもないだろうか。そう願いながら、バックル部分を指で撫でる。
すると、一瞬だけ上にスライドし、指を離せばすぐ元の位置に戻った。
『RELEASE』
電子音声が鳴ると同時に、オメガの体に変化が生じる。全体的に変色していき、緑色の異形の姿から、元の少年の姿に戻る事が出来た。
「も……戻った……?」
両手をまじまじと見つめ、顔をベタベタと触る。近くにあったカーブミラーを見ると、バンダナを頭に巻いた自分の姿が写っていた。
元に戻れた事に、安堵の息を漏らした――――直後、激痛が走る。
「あああああああああああああああああああっ!!!」
身に付けているベルト、それが急に自らの身体を締め付け始めたのだ。ギリギリ、と万力で挟み込むかの様に、アキラの腹に食い込んでいる。やがて、一瞬だけ緑色に発光したと思いきや、そのまま肉体に吸い込まれる様にして、一体化した。
「がっ、はぁっ……い、でぇぇ……!?」
ベルトが巻かれた部分が、赤く変色。火傷したかの様に真っ赤になっている部分を押さえながら、その場で踞るアキラ。痛みで表情は歪み、必死に荒い呼吸を整える。
「なん、なんだよっ…ちくしょう……!」
悪態をつきながら、痛みを堪え、壁に背中を預ける。漸く呼吸が落ち着き、痛みも若干引いてきた。
徐に立ち上がり、壁に手を置いて支えにしながら、アキラは帰途につく。
ベルトは取り付けではなく、アークルみたいに内蔵する設定にしました。
後、更新も遅くなります。
1/5日、太牙の部分を、ゼラムに変更しました。
アナザーメモリーズの方も、近い内に、設定を色々と変える予定にしています。