嫉妬の炎で暖を取る   作:大葉景華

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モノクロの聖女

藤丸の部屋から出て、自室へと向かうこの瞬間。 この時が落ちた聖女、ジャンヌ・ダルクオルタが嫌うものだ。

自分の生まれた意味を忘れ、女の喜びを体に刻まれる。 行為の後は所詮自分はオルタナティブ。 ただの代わりでしかないと藤丸から逃げるように退室する。 その事を藤丸は理解して、黙っていてくれる事を知っているから余計自己嫌悪に浸る。

 

(今日もアイツから逃げてしまった……。 もう何度も体を許しているというのに、私はまだアイツを……。 他人を信用出来ないんだわ)

 

カツン……カツン……と自分のブーツの音だけが廊下に響く。 時間はとっくに深夜を回っており、オルタ以外に起きてる人は夜勤のスタッフだけだろう。 そのスタッフもこんな所には来ない。 外の景色は相変わらず吹雪だ。 故郷のフランスでもここまで降ることはあまり無かった。

 

ふと、何か飲みたくなって食堂に向かう。 普段はエミヤやタマモキャットらが賑やかに食事を振る舞い、ドレイク達が酒を呑み明かすこの場所も、この時間では電気も落ち静寂に包まれている。

 

(冷蔵庫には……何も無いか)

 

自分で紅茶を入れることも考えたが、さすがに面倒くさくなり、自室の備え付き冷蔵庫の中身を思い出しながら部屋に戻る。

そのせいで失念していた。 なぜ自分が今夜藤丸の部屋に行っていたのかを。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「あら、遅かったですね。 リリィはもう寝てしまってますよ。 さっきまでは貴方とトランプをするんだってはしゃいでましたけど」

 

自室にはすでに自分がいた。 ただし本物の方の。

 

「……忘れていたわ。 今日はアンタ達が押しかけてくることを」

 

部屋の中央で幼子に膝枕しながらこちらに向いたのは自分と瓜二つの容姿をした女。 ジャンヌ・ダルク。 かつて藤丸達が赴いたオルレアンの地で戦い、そして私を殺した女。

オルレアンの地で消える時、少しほっとしていた。 もうこれでオリジナルの私には会わないと。 そう思っていたから。 しかし、私がカルデアに召喚された時。 すでにこの女はカルデアにおり、私達は相部屋になった。

結論から言うと最悪の一言に尽きる。 最初はいつこの女とマスターである藤丸を焼き殺そうかと思っていたくらいだ。いや、今でもこの女は苦手だ。 いくら拒否反応を示そうとも構わず私のテリトリーに入り込んでくる。 挙句の果てに妹呼ばわりしてくる始末。

 

「遅かったですね。 今日は出撃の予定は無かったはずですよね?」

 

あまりの衝撃に過去の追想をしていた所を、現実に引き戻される。 まずは今夜の平穏を得る事が先決だ。

 

「別に、どこに出かけていようと勝手でしょ。 それより、そのちっこいの連れてさっさと帰ってくれないかしら? もう寝たいんですけど」

 

キツい口調と目付きで突き放すも、何処吹く風で笑顔を見せる。 同じ顔でこんな表情が出来るなんて未だに信じられない。

 

「なら、折角ですし三人で川の字になって寝ませんか? 昔はよく村の同世代としていたのを覚えています?」

 

まるで効いていない。

 

「お断りです。 私のベッドは一人用です。 この部屋で寝たいならアンタ達は床で寝てなさい」

 

「なら、リリィだけでもベッドで寝かせてあげられませんか?

朝起きて、貴方と一緒に寝ていたら喜びますよ?」

 

「嫌よ気色悪い。 どうして自称過去の私なんかと寝なきゃいけないのよ」

 

いい加減にこの問答も疲れてきた。 深夜に加え、藤丸とのやり取り。 それにいつまで経っても自分に愛想を尽かさない二人。

 

「そんな事言ってあげないで。 ね? リリィはあなたが帰って来るのをずっと待ってて……」

 

「嫌って言ってるでしょ!」

 

自分の声が嫌になるくらい響いた。

 

「ほんとアンタ達なんなの!?毎日毎日絡んできて!鬱陶しいのよ! 目障りなのよ!私は所詮オルタ! アナタの代用でしかないのよ! 関わらないで!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

日が昇るまで一睡も出来なかった。 私の叫び声で起こしたリリィと白い方の私の表情が焼き付いて離れない。

 

起きなければ……今日はレイシフトの予定だ。 ノロノロとベッドから這い出し……。

 

「……これ。 アイツらが残していったトランプ……」

 

普段なら突き返すが、流石にそんな気になれず何となくしまっておく。

 

レイシフトの前のブリーフィングルームに向かうと、藤丸とマシュは既に到着していた。

 

「あ、おはよう。 よく眠れた?」

 

「別に」

 

普段なら皮肉の一つでも返す所だが。 今日はそんな気になれずつい素っ気ない返しをしてしまう。 藤丸とマシュも邪ンヌが不機嫌になるのはよくあるから特に気にすることなくブリーフィングを始める。

 

「じゃあ……今日のメンバーは邪ンヌと……ジャンヌだね」

 

「は?」

 

思わず声が出る。 すると同時にドアが開き、よく見なれた姿が現れる。

 

「すみません。 遅れてしまいました」

 

昨日の夜。 一方的に別れてしまったアイツとレイシフト……。

 

「すみません。 リリィの相手をしていたら時間が経っちゃって……」

 

「別に大丈夫だよ。 最後のちょっとした確認くらいだから」

 

「それで今日の編成は……。 私とオルタですか」

 

その言い方にカチンとしてしまい、また口が悪くなる。

 

「なんですか? 半端者のオルタと一緒じゃ不安ですか?」

 

「そういう訳じゃ……」

 

「邪ンヌ。 今日はどうしたの? いつも以上にピリピリしてるけど……」

 

藤丸が見かねて声をかけるも、邪ンヌの耳には届かない。

 

「別に、今まで通りに敵を倒せばいいだけでしょ? なら、さっさと始めましょ」

 

レイシフト用のコフィンに入る時まで、一時もジャンヌの方に目を向けなかった。

 

「じゃあ準備はいいかい? レイシフトしたら真っ先に藤丸君の安全を確保して、召喚サークルを建てられる場所の確保だよ?」

 

「うっさいわね。 早く始めなさい」

 

「……了解。 レイシフト開始。 ……気をつけてね」

 

レイシフトする瞬間。 チラリとジャンヌの方のコフィンを見ると。目を瞑り、両手を組んで神に祈りを捧げている。

 

彼女は一体何を願うのだろう。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

レイシフト先の草原に降り立つ。 ジャンヌと共にそれぞれの色の甲冑に身を包み、旗を持ち並ぶ。

 

「聞こえるかい? 返事をしてくれ」

 

「ええ、ジャンヌ・ダルク……オルタ。 いるわ」

 

「ジャンヌ・ダルク。 います」

 

いくら返事を待ってもそれ以上は無かった。

 

「まった。 藤丸君とマシュ君はどうした? そこに居ないのか?」

 

「……らしいわね」

 

「急いで探さなくては!」

 

「ああ。 少し待ってくれ……。 よし!見つけた。 ナビゲートする。 西へ五キロ!」

 

「分かったわ!」

 

「了解!」

 

二人が同時に大地を蹴り、白黒二色の風となる。 数キロなどの距離など、本気となったサーヴァントにとって瞬きの時間で辿り着く。

しかし、時すでに遅し。 たどり着いた時には戦闘は始まっていた。

 

マシュは確かに優秀なサーヴァントだ。 しかし、本質は守り。 自分諸共仲間への攻撃を守ることに特化した英霊のマシュでは囲まれた状態を突破できない。 同じくジャンヌも守りを旨とするサーヴァント。 今、この状態を突破出来るのは破壊の力を司るジャンヌ・ダルクオルタのみ。

 

「けど……この数は……!」

 

「先輩。 危険です!下がって!」

 

「マシュ! マスターを任せます! オルタは私がまも……」

「いらない!」

 

ジャンヌの動きがピタリと止まる。

 

「あんな奴ら、私一人で十分! アンタはマスターを守ってなさい!」

 

あんな奴の力なんていらない。 それに、アイツに守られるくらいなら死んだ方がマシだ!

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

もう……何体の魔獣を屠ったのだろうか。 視界が暗み、手が痺れ、膝が震える。 自分がたっているのが信じられないくらいだ。

でも私は旗を振る。 私が私である為に、アイツに私を見せつける為に。

敵からいくら攻撃を受けようとも、それ以上に敵を倒す。 私にはもう……それしかないのだから。

 

遂に終わりが訪れた。 背中からの衝撃に耐えきれず、地に膝をつく。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……まだまだぁ!」

 

吠えるが、それに応える自分の体は既にない。 あと一撃でこの体を保つ事が出来なくなるだろう。

 

眼前の敵を伏しながらも薙ぎ払う。 しかし、もうこれで終わり……。

 

「ごめん……マスター……」

 

魔獣が振り上げた腕を見つめることしか出来ず。その腕による衝撃により意識を……

 

「…………?」

 

衝撃が来ない。 うっすらと目を開けると。 そこには白い甲冑を己の鮮血で染める自分と瓜二つの容姿をした者。

 

「なん……で……? アンタ……宝具を使いなさいよ……」

 

「つい……体が勝手に動いてしまったんですよ。 無事ですか?」

 

ジャンヌの体が倒れる。

 

「危なっ!」

 

咄嗟に抱き留める。

 

「なんでなの? なんでよりによってアンタが私なんかを助けるのよ!?」

 

「……貴方は……私の大切な……妹なのですから……」

 

そう言って消えた。 ジャンヌ・ダルクとしての象徴とも言える白い旗を残して。

 

「…………」

 

「くそ! 邪ンヌ! 撤退だ! 宝具で道を切り開いてくれ!」

 

「…………」

 

「邪ンヌ? 」

 

「……嫌よ」

 

「邪ンヌさん?」

 

「アイツ! バッカじゃないの! なんであんな事言ったのに私を守って消えるなんて!」

 

それなら!お望み通りにやってやる! アンタに救われた命! アンタの理想通りに使ってやる!

 

先ずはアンタの旗! 借りるわよ!

この黒気甲冑に身を包んでから。 二度と神には祈らない。 そう思っていた。 でも、今だけは……守りたいものを守るためにこの二振りの旗を使う!

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ! 『我が神はここにありてリュミノジテ・エテルネッル』!!!」

 

白き旗に天からの光が降り注ぎ、邪ンヌとマシュ。 そして藤丸を包む。

 

「傷が癒えてゆく……!」

 

「邪ンヌ!」

 

そして、私本来の力で敵を薙ぎ払う事で皆を守ることに!

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……

『吼え立てよ、我が憤怒ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン』!!!」

 

黒き旗からは燃え盛る炎が舞い上がる。 かつて自分を焼き葬った炎を自在に操り、眼前の敵を灰塵とする。

 

しかし、宝具の連続発動のツケがやってきた。

 

「邪ンヌ!体が……!」

 

「透けてきたわね……肉体を保つ事がもう出来ないみたいね……」

 

「待ってて下さい! 今召喚サークルを設置して」

 

マシュが走り出そうとする所を止める。

 

「もういいのよ。 もう体が持たない。 次の敵が沸く前にカルデアに帰りなさい」

 

二本の旗を握りしめる。

 

「最後の最後で自分の気持ちに気がついたのよ。 この気持ちを抱きながら消えるわ」

 

「え……邪ンヌさん。 消えるって……?」

 

「霊気が足りなくて肉体を維持できなくなったのよ……。さようならマスター。 アナタとの生活はまぁまぁ楽しかったわよ」

 

視界が眩む。 今回は先程のソレとは違い心地の良い感覚だ。

今際の際になってようやっと気づいた気持ち……。 それを抱えながら二回目の眠りに着く。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

目を覚ますとそこはカルデアだった。

 

「……は?」

 

「あ、おはよ。 邪ンヌ 体調は大丈夫?」

 

「え?……え?……え?」

 

意味が分からない。 私はあの時死んだはずじゃ?

 

「あ、やっぱり分かってなかったの? レイシフト先で倒されたサーヴァントはカルデアに戻るだけだよ? 死ぬのは俺とマシュだけだよ」

 

……知らなかった……。って事はアイツも!

 

「あ! 起きましたね! もう体調は大丈夫なのですか?」

 

やっぱり! アイツも生き返っていた!

 

「うわっ! 来たな白い方!」

 

「白い方なんて言い方よして下さい! 是非お姉ちゃんと呼んでください!」

 

「絶対にやだ! 」

 

「聞きましたよ! 私の旗を振るってくれたんですよね!? これはもう実質セ」

 

「黙れ!」

 

ふと、ポケットの中のトランプを思い出す。

 

「そうだ。 これアイツに渡しておいて」

 

「これは……リリィのですか?」

 

「私の部屋に私物を置かないで。 ……キチンとその都度持って帰りなさいって」

 

その言葉を聞くと、聖女様は目を輝かせた。

 

「つまり! これからは部屋に行っても良いんですね!?」

 

「…………。 ……まぁ……たまに……なら。 許しましょう」

 

そして、あと一言言わなければならない。 ケジメとして……。

 

「あと……。 悪かったわね」

 

「……はい! 許しません!」

 

は?

 

「許さないって……え?」

 

「許して欲しいなら……仲直りのキスを所望します!」

 

は? ……は? キス!? は?

 

「何言ってるの!? 何言ってるの!?」

 

「姉妹なら、家族なら別に良いでしょ? ねぇ?」

 

「い、いや……でも、周りが見てるでしょ?」

 

周りを指さすも、スタッフは会議をする振りをし、マスターとマシュは既に逃げ出していた。

 

「……~~~~~~~~~~~~!!! 目を瞑りなさい!」

 

「……! はい!」

 

目を瞑って少し上目遣いになる。

恥ずかしさで顔から火が出そうだ。

 

何が恥ずかしくて自分と同じ顔をした女とキスを……。~~~~~~~~~!!!

 

自分とのキスは予想以上に心臓が跳ね躍った。

 

「……。 はい!おしまい! もう二度としないわ!」

 

「いいえ、まだあと一回してもらわなくてはなりません」

 

「あと一回って……。 !? まさか!? あのちっこいのと!?」

 

驚愕の声を上げると、最悪の首肯をされる。

 

「嘘でしょ!?」

 

「嘘な訳ありません! リリィも心配していたのですよ?」

 

「む……。 ……はぁ、分かったわよ」

 

「なら今日は貴方の部屋でトランプをしましょう? リリィを今呼んで来ますね!」

 

言うが早いか、部屋を飛び出して行く。

 

今夜もうるさくなりそうだ。 ……まぁ紅茶の準備くらいは……しておこうかな。

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