ノエル・ド・ヴァルロワは転生者である!
前世の彼女は地球という世界で何の変哲もないチンピラだった。だがあるとき暴走するトラックの群れに轢かれ亡くなってしまったのだ!
だが何の因果か奇跡か、ハルケギニア大陸はトリステイン王国、ヴァルロワ公爵のご令嬢として二度目の生を受けた!
前世では冴えない底辺チンピラだったが今度は違う! ノエルは『お嬢様』という新しい人生を送ることを決意した!
「おーっほっほっほっほっほっほっっゲホッガホッゴホッ!」
がんばれノエル! 負けるなノエル! 今すぐのど飴を買おう!
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トリステイン魔法学院では、毎年春に『使い魔召喚の儀式』が行われている。
これは一年生たちの二年生進級テストを兼ねたものであり、この儀式によって召喚された使い魔によって、その後の具体的な属性などが決定される重要な授業だ。
召喚の呪文、『サモン・サーヴァント』がいかなる基準で使い魔を選んでいるのかははっきりしていない。一説には召喚したメイジの属性、実力などを基準に選定しているのではないかとされている。
実際の原理が何であれ、『メイジの実力をはかるには使い魔を見ろ』と言われるほど、メイジと使い魔は密接に関係してた。
今回の儀式においても、実力者たちは相応の使い魔を呼び出した。トライアングルメイジ『微熱』キュルケは火竜山脈出身と思しきサラマンダーを召喚し、『雪風』タバサは風竜の幼生(正式には風韻竜)を召喚した。
『ゼロ』のルイズは、隠された『虚無』の力にふさわしく、地球より『ガンダールヴ』の平賀才人を召喚した。
とはいえルイズの才能もサイトの正体も現在知る者はおらず、学生たちはサイトを平民として扱い、ルイズへの笑いの種の一つとしていたが。
さて、その召喚の儀式の翌日、教室には生徒の貴族たちと、召喚されたばかりの使い魔たちがいた。
生徒たちは自らの使い魔を自慢し、他者の使い魔を褒め、ルイズの使い魔には陰口をたたき合っていた。
「おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!」
そんな教室に、突如響き渡る高笑い。
教室中の生徒たちが顔をしかめた。
ルイズにすら向けられることのないどんよりとした視線の先、現れたのは一人の少女。
輝くブロンド! 孔雀の扇子! 彼女こそヴァルロワ公爵令嬢、ノエル・ド・ヴァルロワである!
「うわぁ…………」
「そこ! 私の顔を見て変な顔すんなですわ!」
こほん。とひとつ咳払い。何一つ誤魔化せていないが気にするな。気にするな!
「おはようござます皆様方! 昨日の使い魔召喚はいかがでした? ワタクシはほら…………」
傍らに立つ、丸と四角を組み合わせたような金属の塊を前に出す。
「このような見事なガーゴイルを召喚しましたわ!」
「いやソレのどこが使い魔だ!」
生徒の中から反論の声が上がる。ぽっちゃり体系の少年、マリコルヌだ。
「そーだそーだ!」
「平民呼び出したルイズより酷いじゃないか!」
「そーだそーだ!」
「ちょっと! 私をあんなのと比べないでよ!」
「あんなのとか言うなですわ!」
引き合いに出され叫ぶルイズにビシッ! と人差し指を突き付け黙らせると、ノエルはその指をそのままマリコルヌに向けた。
「あなたもですわモテ知らずのマリコルヌ! ワタクシの見事な使い魔を侮辱するのはおやめくださいまし!」
「も、モテ知らずは余計だ! それいったら君だってモテないじゃないか!」
「ワタクシはモテないんじゃありませんの。ただ高嶺の華ゆえ近づきがたいだけですわ!」
ノエルは胸高らかに事実を口にする。
その衝撃の言葉を前に、先日召喚されたばかりの少年サイトを含めた、全ての生徒たちの心は1つとなった。
「……………………?」
「ちょっとなんで皆さん一斉にクビ傾げてんですわ!?」
「いや…………言いにくいのだがねミスヴァルロワ」
バラを手にし、キザな金髪の少年が手を上げる。
「おお女タラシのギーシュ! ワタクシを口説く無謀な一人目はあなたくらいだと思っていましたわ!」
「いやそれはない」
断言された。
「…………なにがですの?」
「君を口説くのは、ないよ」
「…………ごめんあそばせ突発性難聴が。もう一度言えですわ」
「君を、口説くのは、ないよ」
一文字、一句、力を、込めて! ギーシュは否定した!
「な、な、な、何故ですのぉぉぉぉぉぉっ!?」
それはありえない言葉だった。
ノエル・ド・ヴァルロワは貴族令嬢である。皆が仰ぎ見る天下の『お嬢様』である。そう在れかしと常に心掛けてきたのである!
なのに、なのに、なのに! 口説く価値がないと否定されたのだ!
それも! こともあろうに! 女と見れば口説いて回る、あのギーシュにだ!
なんという衝撃! なんという真実! ああなぜ世界はこうも残酷なのか!
今世紀最悪の真実をこの世界で最後に知ったノエルは、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
「そんな…………この私が…………こんなことって…………」
「えっあんた今まで本気で自分がモテると思ってたの?」
何気ないキュルケの言葉が、ノエルの心にとどめを刺した!
「なぜだですわぁァァァァァァァァァァァァァ!!」
絶叫し、教室の床を殴るノエル。鍛え抜かれていない拳はすぐに赤くなった。
そうこう騒いでいるうちに新任のシュヴルーズがやってきて、教室で騒ぎ立てるノエルは叱られ、ピコピコと音を鳴らす使い魔のガーゴイルによって、支えられながら席へと移動した。
その瞳には、一筋の涙がこぼれていた。
「くっ。こうなれば日課の高笑い訓練をこれまでの三倍に…………ッ!」
決意を新たに呟くノエルに、「そういうところだよ」と指摘する、優しい人間はいなかった。