キュルケとタバサは回避し体勢を立て直すと、すぐさま杖を構えて魔法を放った。
二人は既に理解していたのだ。散り散りになった五人を前に、ゴーレムが誰を狙うのかを。
「ルイズ! ダーリン! 早く逃げて!」
叫びながらキュルケは何度も魔法を放つ。
だが効かない。キュルケの魔法は決して弱くない。だがゴーレムがとにかく巨大すぎた。
そしてゴーレムは二人の魔法などそよ風のように無視して残りの二人を、正確には『破壊の杖』を持つルイズを狙った。
「こちとら、ゼロのルイズの使い魔だっつうの!」
叫び、サイトが駆けだす。
その手には、ゲルマニアの錬金術師、シュペー卿が鍛えた絢爛なる剣。岩さえ切り裂くというその刃が、うねりをあげて巨大ゴーレムに襲い掛かる!
斬撃はゴーレムの足の一部を斬る。だが浅い! 両断するには刃渡りが足りない。やはり巨大すぎる!
そしてゴーレムが反撃する。『錬金』によって鋼鉄に変えられた巨大な拳が振り下ろされる。
サイトは剣で受け止めた。そして業物はあっさりと折れた。
「ナマクラじゃねえか!」
剣が悪いのか相手が悪いのか。
とにかく折れた剣で勝てる相手ではない。サイトは攻撃の手段を失い、ただ回避することしかできなくなった。
それを後方で見ていたルイズは、悔しさに舌打ちする。
自分の呪文はあのゴーレムに歯が立たない。
だが、手段は皆無ではない。
手元を見る。
小屋で見つけた『破壊の杖』だ。
「こいつで」
ルイズは『破壊の杖』をゴーレムめがけて振るった。
だが何も起こらない!
「ほんとに魔法の杖なの! これ!」
ゴーレムの攻撃を避け続けるサイトは、ふと後ろで何かをしているルイズに気付いた。
「あのはねっかえり!」
またもルイズはゴーレムを倒そうとしていた。今度は普通の杖ではなく、『破壊の杖』でだ。
だが彼女のその行動が、サイトに勝機を与えた。
「あれなら!」
サイトはルイズめがけて駆け寄ると、ルイズから『破壊の杖』を奪い取る。
そして訓練を重ねた現役の兵隊がそうするように、安全ピンを外し、リアカバーを引き出し、インナーチューブをスライドさせる。
そして肩に担ぐと、巨大ゴーレムに狙いを定めた。
サイトは自身のあまりにも自然で不自然な動作を不思議に思うが、すぐ別のことに気を取られた。
(距離が近い……)
安全装置が働き爆発しないのでは? そんな疑問が頭をよぎる。だがもはやこれしかない。サイトは強引にその疑問を振り払う。
「後ろに立つな! 噴射ガスがいく」
ルイズに警告し、彼女がそれに従ったことを確認すると、サイトは『破壊の杖』改め『M72ロケットランチャー』のトリガーを押した。
白煙を噴射しながら発射されたロケット弾頭は、迷いたがわずゴーレムに命中。強大な爆発とともに、モンロー/ノイマン効果が鋼鉄製のライナーを高速で射出する。秒速7kmで放たれるライナーは、ゴーレムを形成する土塊に液体状の振る舞いを強制した。
対戦車用として開発された携帯火器は、ノエルの砲撃にも匹敵する爆発音とともに『土くれ』フーケの巨大ゴーレムを蹂躙し、その上半身を跡形もなく消し飛ばした。
ゴーレムは撃破された。
しばらく様子を見た四人であったが、次のゴーレムが来ないことを悟ると、彼ら彼女らは勝利を喜んだ。
「え? え? 終わった? ですわわ?」
タバサに魔法で吹き飛ばされて以降気絶していたノエルは、タバサの手によってたたき起こされると、混乱したように周囲を見回す。
「ええ! ダーリンのおかげよ!」
興奮したキュルケはサイトに抱きついたまま、ノエルの疑問に答えた。
「ふーむ。杖使ったんだな。ですわ」
「それしか手がなかったからな」
「ちょっと貸していただいても?」
「良いぜ」
ノエルは『破壊の杖』をサイトから受け取ると、それを見分し始めた。
「ふーんふーんふーん。まあそうだよですわ。こういうものはそういうもの、ですわですわ」
「何が?」
「気にすんなですわ。それよりフーケはどうしたですわ?」
「さあ? でもゴーレムが出てこないってことは、逃げたんじゃないの?」
「そうかもしれませんね」
彼らの背後から声がした。
振り返ると、そこにいたのはミス・ロングビルであった。
「ミス・ロングビル! フーケの姿は見かけませんでした?」
いいえ。と首を振ってこたえると、ミス・ロングビルはノエルから『破壊の杖』を取り上げた。
「…………あー、ですわですわ」
非力なノエルはろくな抵抗もできず、ただ何かを確信したようにミス・ロングビルを見つめる。
ミス・ロングビルは距離を置くと、そのまま『破壊の杖』を構えた。
「ご苦労様」
「ミス・ロングビル! どういうつもりですか!」
キュルケが叫ぶ。
「どーいうつもりもなにもないぜ。ですわー。つまりあなたが『土くれ』のフーケなんでわね、ミス・ロングビル」
「ご名答」
「な! 彼女が?」
ノエルの言葉を聞いたルイズは驚き、タバサは無言で杖を構える。
「おっと、動かないで?」
フーケはワザとらしく構えられた『破壊の杖』に視線を向ける。
この場にいる全員が、その威力を知っていた。
「全員、杖を遠くに投げなさい」
その場にいたメイジ全員がその言葉に従う。従わないのは、既に杖を破壊されたノエルだけだった。
「おーっほっほっほ。おかしいとは思ってたですわ。かの高名な『土くれ』が、盗み出した戦利品を簡単に奪い返されるのも、自慢のゴーレムを一撃で破壊されて、その上で再びゴーレムで挑みかかったのも。つまりあなたはその杖の使い方が分からなかったんで、我々に使わせたかったのでしょう?」
「ふん。ウザったいくせに勘だけは良いみたいね」
「当然ですわ。ワタクシ『お嬢様』でしてよ」
「……それのどこが答えなんだか」
会話する二人の隙を窺うように、サイトが剣を握る手を強める。
「おっと。そこのすばしっこい使い魔くんは、その折れた剣を投げなさい」
「その必要はありませんわ」
「……なに?」
怪訝な顔をするフーケは、『破壊の杖』の砲口をノエルに向ける。
だが彼女は顔色一つ変えることなく、孔雀の扇子で優雅に顔を仰いでいた。
「まったく、最近のお嬢様ときたらどいつもこいつも、ですわ。三人も貴族令嬢がいて、どうして誰も『それ』を持ち合わせていないんだですわ」
「……あんたのくだらないたわ言は聞き飽きたんだけど?」
「ワタクシはいつでも真剣だですわ……そうだろう『セバスチャン』!」
「ピガガー!」
「何!?」
フーケの背後から、とても生命体が発するとは思えない、甲高い音声が鳴り響く!
慌てて振り返るフーケの眼前には、金属の箱を組み合わせたガーゴイルの姿!
そう、彼こそノエルの使い魔、『セバスチャン』である!
「ちぃっ!」
驚いたフーケは『破壊の杖』の引き金を押す……より先に、接近していたノエルを振り向くことなく蹴り飛ばした。
「ですわっ!?」
「ピピガガーッ!!」
「ふん」
ふざけた外見をしていようが使い魔は使い魔。主人に害が及べば冷静ではいられなくなる。
「もらったよ!」
そして今度こそ『破壊の杖』の引き金を押す。
「な、どうして!」
だが何も起こらない!
「そいつは単発なんだよ。魔法なんか出やしない」
背中を見せ、狼狽し隙を晒すフーケ。
それを見過ごすサイトではなかった。
彼は電光石火でフーケに駆け寄る。接近に気付いたフーケは自分の杖を取り出す。
だがサイトのほうが速い! フーケが呪文を唱える間もなく、その腹に剣をめり込ませた。
腹部を殴打され、気絶したフーケに、ノエルが小さくつぶやく。
「『銃砲火器を知っていたか否か』……それがお前の敗因で……『オレたち』の勝因だ……で……す……わ……」
フーケに腹部を蹴り飛ばされたノエルは痛みに耐えきれず、そのまま顔から地面に崩れ落ちた。
「……ですわ!?」
そしてその痛みでたたき起こされた。