天気の子 - Pretender -   作:マネ

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こうして、ひとつの物語は幕を閉じる

長い時間が、すぎて

束の間の夢は遠く過ぎ去り

残されたのは、わたしと、思い出だけ


でも、いつかきっとまた会える、あなたと、わたしは

べつの場所、べつの時間で

互いにそうと気づくことはないかもしれないけれど


知らない扉を開いて、もうひとつの現実に出会う

もうひとつの今日を生きよう

物語は終わっても、人生はつづく

だから、その時まで……ごきげんよう


Sarah K Zwal


会いに行くからさ

世界中さがしても……

いつか、きっと……

きっと……


by Chrono Cross


第一章「風が僕らの前で急に舵を切ったのを感じた午後」
Rainy Fish


「はい、どうも。こんにちは。アスタです。今回なんですけども、ツイッターでひそかな話題になっているレイニーフィッシュについて調査していきたいと思います」

 

 俺はテーブル越しで、相方のユノが構える小さなカメラに向かって語りかける。

 

「レイニーフィッシュって、ユノ、知ってる?」

 

「きいたことないな」

 

 ユノは台本通り答える。

 

「えっとぉ、レイニーフィッシュについてはユノから聞いたんですけども」

 

 俺はカメラに笑ってみせる。

 

「そういうのいらないから。知らないってテイのほうがおまえも進行しやすいだろ」

 

「まぁな。ツイッターとかで話題にあがってるんですよ。魚の形をした雨が降っているって」

 

「魚の形をした雨ってどういうこと? イメージつかないな」

 

「動画をみたほうが早いので、ちょっとみてみましょうか」

 

 俺はテーブルの上のノートパソコンを回転させる。

 

「こちらです」

 

 俺が指差したモニターに、ユノはカメラを向ける。

 

「ちょっとモニター、みえない」

 

 俺はテーブルの上に身を乗り出して、モニターを確認しながら、マウスを動かし、動画を再生させる。

 

 モニターの中で雨が降っている。

 

 動画が撮られた場所は大通りを一本入った裏道。エアコンの室外機が並んでいる。空き缶も転がっている。アスファルトには水たまりができていて、雨粒がアスファルトの水たまりに飛び込んでは次々に波紋を作っていく。まるで、水の花火だ。

 

「ここ、よーくみてて」

 

 俺はモニターの中の水たまりを指さす。

 

 動画の中のカメラがゆっくりとその水たまりにズームしていく。

 

 水たまりから、何か跳ねた。カメラのピントがあっていない。ただ何かが跳ねているのがわかる。少しずつカメラのピントが合っていく。魚が跳ねたようにみえる。浅い水たまりの中に魚がいるようにみえる。そんなありえない映像だった。

 

「この水たまり、深いのか?」

 

 ユノは台本通りのセリフをつぶやく。

 

「なわけないだろ。底のアスファルトがみえてるだろ」

「だよな」

 

 小指の先ほどの魚のようなものが深さ1㎝もない水たまりを泳いでいるようにみえる。浅くて泳げるわけがないのに。

 

「それは謎の飛行物体スカイフィッシュになぞらえて名付けられたらしい。だから、俺たちもそれにならって、こう呼んでいる。雨水の魚。レイニーフィッシュと」

 

 わずか30秒間の動画だった。

 

「僕たちはこれまで、学校の七不思議シリーズ、都市伝説シリーズなど、ミステリー系ユーチューバーとして、そういったミステリーを解き明かしてきました。今回は雨水の魚レイニーフィッシュ。この正体を突き止めていきたいと思います」

 

 俺は立ち上がった。

 

「さぁ、行くぞ。ユノ!」

 

「どこに?」

 

「えっ!? もしかして……………………いきなり詰んだ?」

 

 

 

 

 

         THE END

 

 

 

 

 

「いやいやいやいや、おい、アスタ、さすがにこれで終われないだろ」

 

「ユノ、どうする?」

 

「この動画を撮った人に会いに行くとか?」

 

「実は、レイニーフィッシュの動画を撮った人の中で、ひとりアポが取れたんで、昨日、ユノと二人で、この動画を撮った人に会いに行ってるんですよ。そのとき、レイニーフィッシュの動画をこのチャンネルで使ってもいいという許可も取りました。大がかりなヤラセの可能性があるんで、ツイッターの投稿者の共通点とか、いろいろ入念に下調べをして行ったんです。でも、なかなか投稿者の共通項が出てこない。投稿者の聞き取りもしてきました。結果は……成果は……」

 

 そこで俺は言葉を区切る。

 

「ありませんでした。もしこれがヤラセなら、この投稿者から黒幕に行きつけるはずなんですけど。突き崩せなかった。もしくは見当違いのことをしているのか」

 

「今の段階じゃ、黒幕には行きつけない。何か、べつのアプローチが必要だな」

 

「昨日までに、雨と魚を連想させる単語をネットで検索したんですけど、雨の日の魚の釣り方とかしか出てこなくて。その中で気になるものがひとつあったんです。Yahoo! 知恵袋に。雨の日に水の魚をみました。これって何なんでしょうっていう質問」

 

 アドリブだ。

 

「……何も気になるところなんてないだろ? その質問のどこに気になるところがあるんだ?」

 

「注目すべきは質問の内容じゃなく、その投稿日だよ」

「投稿日?」

 

 俺は人差し指と中指を立てる。

 

「二年も前のものだった」

 

 ユノの目が泳ぐ。ユノは俺の言葉にときどきこういう反応をする。

 

「……ヤラセにしては時間をかけすぎてるな」ユノは一呼吸おいて言った。

 

「一概に、時間をかけすぎだからヤラセではないってはいえないけどな」

 

「だけど予算の取り方だってこれじゃ難しいだろ。二年もかける意味を説明できるか? 期をまたぐなんて、事務的にさ」

 

「事務的に? ちょっとなに言ってるかわかんない」

 

「あ……そう」

 

「でも、これはヤラセだと思う。こんな生き物が実在するわけがないし。問題は誰が? 何のために? そして、何より、なんで、こんなにも長い時間をかけてってところだな」

 

「確かに、この時間のかけ方は気になるよな。普通の感覚じゃない。そんなことよりも、これ以上の調査は無理じゃないか? アポが取れた唯一の投稿者から何も手がかりが出てこなかったわけだし、手がかりはもう……」

 

 ユノが台本通りに立て直してきた。

 

「手がかりはあるよ」

 

「どこに?」

「ここに」

 

 俺はモニターを差す。

 

「このツイッターの動画や画像データだよ。データにはいつ撮ったのか? どこで撮ったのか? そういった情報が保存されている。それらのツイッター投稿をピックアップして、時系列でマップにプロットしていく。何か規則性がみえてくるかもしれない。ユノ、これはセオリーの範囲だよ」

 

「あぁ、なるほど。それでこの現象が雲みたいに、どこから来て、どこへ行くのか、天気図みたいにわかるわけだ」

 

「そういうこと。ユノ、俺もちゃんと考えてるんだって。俺たちミステリ系ユーチューバーだから。推理力が、ここが武器だよ」

 

 俺は頭を指さす。

 

「日本以外にもあるのかな?」

 

「それも調べてみようぜ」

 

 もちろん、調べてある。全世界で検索するも、日本以外には出てこなかった。

 

「どうやら日本だけだな。しかも、日本の一部の地域だけ」と俺。「といっても範囲が広すぎる。ツイッターアカウントから辿って、黒幕を突き止めて、ヤラセを自白させようと思っていたけど、そう単純なものでもないみたいだ。これだけの人数を口止めするのは難しいし。なんなんだ、これ。組織的犯行なら……」

 

 こんな大規模な事件で、組織的犯行なんて考えられない。管理し切れないはずだ。

 

「まるでデスノートのキラ事件みたいだ」

 

「あぁ、なんかメッセージ性を感じるな。姿がみえない存在との頭脳戦。アスタ、なんかワクワクしてくるな」

 

「デスノートでは探偵役が死ぬよな? 俺、死ぬの?」

「変なフラグを立てるなよ。アスタ、相手が俺たちより頭が良かったら、どうする?」

 

「それは想定してない。俺、俺より頭がキレるヤツに会ったことないから」

 

「はい。決め台詞いただきました。いちおう、アスタはこのチャンネル内ではそういうキャラクター設定になっています。コラボ時はボロが出る可能性があります」

 

「意味不明な説明を入れるなよ。べつにキャラ設定でもブランディングでもないし」

 

「なんで2回同じこと言った? それでアスタ、このシリーズの最終目標は?」

 

「最終目標? もちろん、レイニーフィッシュの捕獲だよ。キャッチ&リリース!」

「ガチ?」

 

「というわけで、今回はこの辺で。次回はピックアップしたデータを解読していきたいと思います。おもしろかったら、チャンネル登録、高評価、よろしくお願いします。ありがとうございました」

 

 

 

 俺は伸びをする。

 

 ユノはまだカメラをまわしている。

 

 動画の撮影はユノが借りている部屋で行っている。以前は俺の部屋で撮っていたが狭く、ユノが動画撮影用にわざわざ大きな部屋を借りたのだった。一人暮らしをはじめるとユノがユノの親に言って。大きな部屋ということもあって、俺はユノの部屋に泊まることが多かった。

 

「マップにプロットか。面倒くさいな。位置情報と撮影日確認で、画像データの解析もあるよな? こういうデータ管理、苦手なんだよな」

 

「アスタ、理系がそれを言うなよ」

 

「俺、自分が理系だとは思ってないから」

「カッコ良さげに言っても、ぜんぜんカッコ良くないから」

 

「ノエルにやってもらおうぜ。リケジョの。アイツ、こういうの得意だし。アスタチャンネルの3人目のメンバー」

 

「アイツにリケジョっていうと怒るぞ」

 

「怒らせようぜ」

 

「悪そうな顔だな。おまえって怒ってる女子、好きだよな?」

 

「そんなヤツいないだろ。小学生かよ」

 

「言ってることとやろうとしてることと、速攻で矛盾してるぞ」

 

 俺はさっそくケータイを手にとった。

 

「ノエル……ノエルっと……」

 

「アスタぁ、聞こえてますけどぉ」

 

 ノエルがユノの肩をゆする。

 

「カメラが揺れる」

「ノエル、出てくるの早いって!」

 

「そんなの知りませ~ん。台本、もらってませ~ん」

 

「おまえ、台本通りできないじゃん」

 

「アスタだって、すぐアドリブ入れるってユノ君が嘆いてたよ。それにあなたたちがあたしのアドリブに合わせるべき! ていうか、あたしって3人目のメンバーだったっけ?」

 

 ノエルが小首をかしげた。

 

「数え方にもよるね」

 

 ユノが小さく呟いた。

 

「それによりも、ノエル、その猫耳はどうしたんだ?」

「似合う? アスタがつけろって」

 

 ノエルは顔の上半分を仮面で隠している。父親がきびしく、こういう活動が禁止されている。ユノもカメラマンなので、基本的に動画に顔が出ることはない。顔出しは俺だけだ。

 

「ノエルが次の動画から出れば違和感がなかったんだよ」

「この動画の流れで、猫耳が違和感ないって、どんな展開だよ」

 

「にゃ~にゃ~」

 

 ノエルはみえない何かと戦うように構えている。

 

 

 

   ◆  ◆

 

 

 

「はい、どうも。夜ですが、改めまして、こんにちは。アスタです。動画のご視聴ありがとうございます。ご心配もおかけしております」

 

 俺はカメラに向かって、軽く頭を下げる。

 

 俺はモニターを眺める。コメントが次々に流れている。俺は今、ライブ中だ。300人が視聴中となっている。かなり増えたな。マスコミもみているだろう。彼らもみているだろう。

 

 まさか、生放送のドッキリ企画で使うはずだったトリックをここで使うことになるとは思わなかった。何時間、時間を稼げるだろう?

 

 俺を心配するメッセージが流れている。説明を求めるメッセージも流れている。

 

「俺の表情は大丈夫?」

 

 カメラマンがこくりとうなずく。本当かよ。ちゃんとアスタらしい表情を作れているのか、自信がない。

 

「いろいろあって、本当にいろいろあって、この都市伝説シリーズの動画についてはお蔵入りすることも考えたんですけど、これだけ世間を騒がせてしまったので、当事者の僕から説明が必要かなと思って、この動画をライブで配信することにしました」

 

 嘘だ。

 

 視聴者数は増え続けている。やっぱり注目度があるんだろう。

 

「今夜、今日までの件について、録画とライブで語っていきたいと思います。これが最後かもしれないので」

 

 

 ――最後って?

 

 

「だから、ぜんぶ話しておきたいと思いました」

 

 

 ――FF? FF10?

 

 

「ライブなので、もしかしたら、ショッキングな映像がうつってしまうかもしれません。そこは温かい目でみてください。僕も余裕がないので。それにこれをみてる人なら、ショッキングな映像は見慣れてるでしょ? 申し訳ないですが、心臓が弱い人は今回は遠慮してください」

 

 

 ――煽り?

 

 ――ショッキングな映像ってアレ以上?

 

 

「映ったら映ったで、こんな動画を撮ってる場合かって、怒る人もいるかもしれません。本来、僕はこんなことをしてちゃいけない状況なので。……でも、最後の一手に、必ず必要になるので」

 

 俺の目の前で、青白く輝く、半透明の人型の物体が揺らめいている。これが人の成れの果てか。

 

 これをカメラの前に出したら、いったいどうなるんだろう?

 

 何がおきるんだろう?

 

 俺はまだ判断できずにいる。こんなとき……それは考えないことにしよう。

 

「このシリーズを終わらせられたら、俺は、自分がどうなってもいいと思っています。そういう覚悟を持って、この動画を撮っています」

 

 左手に痛みが走った。表情がすこしゆがむ。

 

「真夏に雪が降るなんて、誰が想像した? これから、そんなことがどうでもよくなるくらいの出来事がおきます。夏休み、この長い夜に付き合ってください。よろしくお願いします。では、動画2本目、どうぞ」




オリジナル主人公のアスタが語った「今日まで」のストーリーの大枠は組み上がっています。それ以降の登場人物たちの思惑や行動がどういうふうに収束していくのか、あとは読み切るだけなんですが、まだまだ読み切れていません。これからです。前作のように、ぶん投げないようにします。

アスタの一人称は俺と僕を混在させています。そういうキャラ設定です。
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