「ノエル、時間は? どれだけ待てばいい?」
「ん~、そうだにゃ~」
「にゃ? なんかコントはじまったぞ。猫耳はコント用か?」とユノ。
「足りないデータの補完も考えると、3、4時間あればいけそうだにゃ」
「足りないデータ?」
ユノがノエルのアドリブに反応する。俺とノエルはスルーする。
「ダメだ。待てない」
俺はノエルを睨みつける。
「1時間あれば……全体像が読み取れるデータは作れるにゃ」
「1時間、ここで待つ」
「オッケー♪」
「ここ以外にどこで待つっていうんだよ。ん? なんかこのやり取り、どこかでみたことあるな」
俺は床に座り込む。俺は膝に肘を置く。じっとノエルを睨みつける。
「その座り方、そっか。ハンターハンターのゴンとピトーのやり取りか。だから、ノエル、そんな口調なのか?」
「そうだにゃ~。ユノ君、漫画読むんだ?」
「アスタが動画のネタで使うから。ツッコミのためにね。それはともかく足りないデータってなんだ?」
「レイニーフィッシュの動向がぜんぶネットで確認できるわけじゃないから。補完は必ず必要になってくる。データをまとめるだけなら、誰でもできる。データは使えるようにまとめないと」
「それはわかるけど、そこまでの精度を担保するための基礎データを確保できるのか?」
「あたしを誰だと思っているのかにゃ? 王直属護衛軍がひとり。ノエルピトーだにゃ」
「そんな設定ないから。ネフェルピトーみたいに言うな」
「実際問題、補完できなければレイニーフィッシュを掌握することも、捕らえることもできない」
「アスタ、言うのは簡単だけど、超高難度だぞ」
「だから? できないなんてことは想定してない」
「はい。決め台詞いただきました。これでできなかったら、カッコつかないぜ」
「だから、それは想定してないって。このパーティーで不可能なら誰にもできない」
ユノはため息をつく。
「未来で、おまえの部下になる人材に同情するよ。おまえの要求にこたえられる人間なんて……」
「おまえらにだから言うんだよ。バカ」
「にゃ!」
「…………」
ユノがどんな表情をしていいか困っている。
◆
カタカタカタ……とノエルがキーボードを叩く音が室内に響いている。
「ノエル、まだ?」
「ま~だ~」
ユノはカメラを止めて、キッチンでお茶の準備をしている。ユノはお茶を入れるのがうまい。高校時代のバイト経験が活かされている。
俺は収集したレイニーフィッシュの動画をいくつか同時に再生させている。30秒、1分、3分。まちまちだ。横目に、ノエルの作業を眺める。さすがに作業が早い。センスもいいので、動画の編集はノエルに任せている。何をやらせても、かなりのレベルで仕事をこなしてくれる。ユノもノエルも将来有望だ。ノエルは少年っぽいというか、多少危なっかしいところはあるが。
俺はどうだろう?
ノエルの父さんから、ノエルの顔出し許可が得られれば、ノエルはこのチャンネルの大きな戦力になるだろうけど。ノエルの父さんにそのことを相談することそのものがかなり難しい。それに相談したとして、許可なんてまず降りないだろう。
チャンネル登録者数はようやく1500人を超えた。ここまで2年の時間を要した。想像していたより苦戦している。やっぱり、そう簡単ではない。飛び道具が必要になる。
「あれ?」
「どうかしたかにゃ?」
「なんでだ?」
「なにかにゃ?」
「カメラまわってないから、しゃべり方、普通でいいよ」
「にゃ!」
ノエルと目が合う。
「ネットにあがってるレイニーフィッシュの動画の再生時間をみてみろよ。多くが30秒前後なんだよ。長いのも少しあるけど、それはレイニーフィッシュが消えてからも撮ってるから。レイニーフィッシュが映ってる時間は俺が確認した限りでは100%、30秒前後」
レイニーフィッシュが消えてからも撮っていた動画があるから、気づくのが遅れた。
「そういえばそうだね」
「でも、ツイッターには3分間そこにいたとか、5分間そこにいたとか、まちまちなんだぜ。なんで動画だけ30秒前後なんだ?」
「……変だね。おかしいね」
ノエルの反応にわずかなラグが発生した。ユノとちがって、ノエルはこんなことあまりない。
「すべての動画はレイニーフィッシュがいなくなるまで撮影している。レイニーフィッシュの出現シーンは撮影できてなくても、最後は撮影してるんだよ。つまり、レイニーフィッシュが消える30秒前から、すべての動画が撮影されはじめているということになる」
「カメラで観測することが観測対象者に影響を与えているってこと? なんだか量子力学みたいだね」
「みたいじゃなく、そういうことだろ」
「どういうことなんだろう?」
「どういうことじゃなくて、どういう意味だぜ? これには意味があるってことだ」
「どういう意味?」
「30秒間だけ、撮影させている……?」
「意味がわかんないんだけど」
「俺だってわかんないよ。ただ一つだけ確定したことがある」
「なに?」
――これが自然現象じゃないってことだ。
30秒前後しか動画に映らない。これはあきらかなメッセージだ。
自分が人間であるという、メッセージだ。
自分とはなんだ?
誰に向けたメッセージだ?
――キラゲーム
「アスタ、顔色悪いよ」
「いろいろ考えたよ。アポが取れた一人だけが実在の人物で、あとは実在しないとかね。過去のツイートも今回のこの事件のために用意したフェイクとか。そこまでやれるやつがこんな初歩的なことを見逃すはずがない。というか、これはミスではなく、意図的だろ」
「これってたしか案件だったよね? しかも、高額案件。ハンター試験みたいなものかな? あたしたちを試験するための。でも、あたしたちを試験する意味なんてないか」
「目的がわからない。クライアントも情報をくれないし、何もきかない、が条件だったし。とりあえず『キラ』をみつけるしかないな」
「人が死なないデスノートみたいだね。アスタ?」
情報が矛盾だらけだ。わけがわからない。デスノートのLの気分だ。
「人が関わっているなら、その道のプロに依頼すればいい。なんで俺たちに依頼した? もしかしたら、このシリーズは動画にしないかもしれないな」
「あたしはリーダーの指示に従うよ」
「これは俺たちの手に負える次元じゃないかもしれない」
「アスタ、カメラまわってない」
「まわさねえよ。こんなのアップできるわけないだろ。今夜、緊急ミーティングを行う」
「うん」
「ノエル、夜、男二人のところに残るかって質問にイエスって答えるなよ」
「だって、ユノ君にはカノジョいるし、アスタはどうでもいい女の子にしか興味ないでしょ? ヘイキだよ。なんかあったら、アスタに責任とってもらうし」
「どうでもいい女の子にしか興味ないとか、人聞きの悪い言い方をするなよ」
「事実でしょ?」
「ま~た喧嘩してる」
ユノが紅茶をおぼんにのせて立っている。
「休憩しようぜ」
「ケーキ! ケーキ!」
「そんなものはない!」
「そんなぁ」
ユノがテーブルに紅茶を置く。
「アスタ、何かわかったのか?」
「レイニーフィッシュ生物説がなくなった。これは人為的な現象だ」
「この段階で? これだけの情報で? それはさすがに論理が飛躍しすぎだろ。いったい、どんな推理をしたんだ? その推理を聞かせてもらおうか」
「休憩だ」
「あれ~、1時間でやるって約束は?」
「あんなのコントだろ。編集編集」