「
俺の目覚めはいつも、耳元で囁かれる甘い声から始まる。しかも年齢不詳のスキマババア.....八雲紫の声で。
「.....うるせえな八雲紫ィ!!」
いつものように右手で八雲に触れようとするが、お得意のスキマによって回避、それどころか空振りした俺の掌がそのまま床に付いて、
「クソッ、かわすなよ!まーた俺ん家の床が駄目になりかけたじゃねェか!!」
「それは仕方ないでしょ、“触れたモノを腐らせる程度の能力”の貴方に触れようなんて誰も思わないでしょう?」
ごもっともである。俺だってもし俺みたいな能力持ちのヤツと出会ったら触れようなんて思わない。
「そりゃそうだが、お前は暇なのか八雲紫?毎日毎日俺を起こしに来るようだが。」
「いや、
「.....俺はこんな妖怪だが、何だ?悪事でも働くと思ってんのか?」
「少なくとも、まだ貴方の存在を知ってから1年しか立っていないからね。と言うか貴方、よくいままで誰にも知られず生きてきたわね.....」
「..........まあな。」
生きていく上で一番楽な方法をとったまでだ。
「こんな森の奥で一人、退屈じゃないの?」
「退屈じゃない。食料集めで精一杯の毎日だ。」
「誰かと一緒に居たいと思ったことは?」
「あるさ。だがそれは
「どうして?」
「.....赤の他人であるお前に言う必要があるか?」
俺は布団から飛び出て両手を構え八雲紫を睨み付ける。触れれば腐る手を構えても尚、コイツは怯むこと無くキッパリと告げる。
「あるわね、私はこの幻想卿の管理をしてるもの。正体不明のウイルスが自分の中にあったら貴方もなんとしても駆除しようとするでしょ?」
「ハッ、俺がそのウイルスだって言うのか?馬鹿らしい.....」
俺は構えた手を下ろす。
「簡単なことさ、触れたモノを腐らせるんだぞ俺は。そんなヤツが人と会わないなんて言う理由はひとつしかないだろ?」
「自分の能力で人を傷付けるかもしれないから.....」
「“かも”じゃない。傷付けるんだよ。俺の能力を知らないヤツは必ず傷付けるどころか死ぬ。.....わかったならとっとと帰れ、お前と違って忙しいんだ俺は!」
「.....全く、素直じゃないわねぇ」
捨て台詞の様にそう言った後、スキマの中に消えていった。全く、めんどくさいヤツだ。
.....本当は、傷付けるからって理由だけで人と会わないわけじゃない。.....それを口に出す勇気がない俺もめんどくさいよなぁ
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触れたら腐る能力。
これ実は案外対策が楽な能力でな。金とかそう言った科学的に腐らないような物質は腐らせることは出来ないんだ。だから持ち手を金で作った道具なら持つことが出来る。
.....口では簡単に言える対策法だが、金なんてそこかしこに転がってるわけじゃない。掘り起こそうと思って地面に手を触れさせるだけでこの森を破壊してしまう。
.....金の甲冑とか欲しいな..........
「.....おおっ!本当だ、こんな所に家があるぜ!!」
.....ん?気のせいか? 女の声がしたんだが..........
「邪魔するぜ!」
そう聞こえたと同時に玄関の扉が勢いよく開く。その先にいた金髪の少女と目が合った。誰だコイツは。
「おー! 人が住んでた!」
「動くな!!」
俺はその少女が喋るや否や静止の声を掛ける。その少女は少しビクついたがすぐに立ち直る。
「.....今すぐ立ち去れ。さもなければ殺すぞ」
.....産まれて初めて脅迫紛いな事をしてみたのだが上手く行けただろうか。
「おっさんこの家の住人なんだろ? それは強盗が言うセリフだぜ?」
「..........もう一度言う、死にたくなけれ「悪い妖怪と見なしていいんだな!?行くぜ!恋符『マスタースパーク』ッッ!!」..え、ちょまっ.....」
その瞬間、俺の家が大爆発した。
「どうだー!私の魔法の威力は...............あれ、無傷.....?」
マスタースパークとやらの余波で充満した煙が晴れると、俺は瓦礫の山になった家を触って腐らせた。
それを見た少女は「うげっ」と声を漏らす。
「.....“触れたモノを腐らせる程度の能力”を持っててね..........何も知らない君を腐らせまいとした結果、こうなってしまったが。」
「すいませんでした。」
流れる様に土下座をする少女を見て、物を言う気も失せてしまった。
環
“触れたモノを腐らせる程度の能力”を持つ妖怪。
この小説の主人公。誰とも関わらない生活をして10年以上の陰キャ。しかし紫のおかげで知らない人相手でも案外会話が出来るようになっている。