とある凡人のありふれた異世界転生譚   作:悩める地上絵

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初のオリジナル作品です。至らない点が多々あると思うのでご指摘いただければありがたいです。


-1話

“時よ留まれ、お前は如何にも美しい”

 

この時間が続けばいい。

誰もが叶うことのない理想だとは知っている。

けれど誰でも一度くらいは思ったことがあるはずだ。

 

楽しい時間を続けたい。その瞬間を繰り返したい。

 

同じような日々の繰り返し。けれど一日として同じ日などなく、その一瞬一瞬がかけがえのない(かがやき)なのだと。

 

だから、いつか終わってしまうと分かっていても、終わってもいいなんて思わないし、思いたくもない。

 

子どものときに当たり前のように同じような日々を繰り返しているように錯覚して、成長とともに日々の変化を悟ってなつかしむようになる。

 

失ったものは戻らない。起こったことは覆せない。

だからこそ一日一日を忘れずに、なくさず、大事に生きる。

それができればいいと思っていた。

 

けれど―――

 

その日常が始めから壊れていたらどうなるだろう。

守ってきたもの、失っていったものが土台から偽りのものにすり替えられていたら...

その上はどうしようもなくねじ曲がる。...そして崩れ落ちるだろう。

 

それをどうしようもなく認められなくて、築いたときの気持ちは本物なのだからと、

置き去りにしたもの、遠くにあるだけなら取り戻せるのだからと意地を張って

 

日常(その“時”)に戻るために必死に駆け抜けて……

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

西暦20××年  日本  東京 某所

 

一人の男が夜の街を彷徨っていた。

その男は端的に言ってしまえば、「異常」という言葉に尽きる。

平均以上に整った、30歳前後と思われる顔立ちに、日に焼けた浅黒い肌、髪には年齢を2回り近く多く見せる量の白いモノが見える。服装の方は、3月とはいえ日中はかなり気温の高い夏日を連日記録している中、トレンチコートを羽織り、今では少数派の紙巻きタバコをくわえている。だが、それら以上に目を引くのは男の存在感だ。男が醸し出す空気は弛緩した街の空気を無視するかのように絶えず緊張感を帯びている。

prrrr

夜の街に電話の着信音が鳴り響く。

男はコートのポケットから電話を取り出し表示を一瞥し、靴底でタバコの火を消して受話ボタンを押す。

 

「よう、ヒーロー。調子はどうだ?」

「ジェームズか。戦況はどうだ?」

電話口から聞こえてきたのは陽気だが慣れていない者には早口にも感じられるネイティブの英語だが、日本人の男は特にあわてた様子もなく、内容は物騒だが応答する。

「今は雨季だぜ。戦闘にはならねーよ。お前は休暇で日本に帰ったって聞いたが、調子はどうだ?」

「......用があって帰ってきたが、嫌な街だ。平和で頭のネジが緩みきったような連中を見ていると、俺の居場所がない気がする。俺はもう戦場にいるしかないのかもな」

 

男は少し間をおくと、自嘲するように吐き捨てた。

「そんな戦友にビッグニュースだ。俺の雇い主(オーナー)がお前さんの腕にユーロで20万出すとさ。民間のオファーでお前の歳も考えればとんでもない話だろ?さすがはオレのヒーローだよな」

ヒーローと呼ばれた男はジェームズの言葉に気を良くした様子もなく、眉間にしわを寄せて答えを返す。

「悪いが遠慮しておくよ。今の状況で軍事力も情報力も劣るあんたの側についても負けは見えてる」

「若いのに慎重だねえ。そんなんじゃあ、食いっぱぐれるぜ戦友」

「あんたは金で命を売るのか。俺に自殺願望はないんだよ」

親やそれまで世話になってきた人にも反対され、自分でも向いていないと分かっていても、この世界に足を踏み入れた。もう自分が昔の自分とは違うモノになってしまって、あのときから自分の足を動かす理由(モノ)が変わってきていても、それを捨てるつもりなどない。

そう自身に言い聞かせ、仕事を紹介してきた男に言葉を返す。

「あんたにいくつか言っておく。俺の名前は■■ヒロだ、ヒーローなんて呼ぶな。

それとあんたは俺の戦友じゃなくて商売敵だ。今はよくてもいつどこの戦場で敵同士になるかもわからない。たとえ味方同士でも、そいつを盾にしてでも、報酬(ギャラ)をいただく。あんたを以前に助けたのもそうした方が都合がよかったからだ。そんな俺たち傭兵に戦友(とも)英雄(ヒーロー)もない」

 

そう言うだけ言うと男は携帯の通話を打ち切った。ジェームズが顔をしかめているだろう場面を想像した。自分はつくづく傭兵に向いていないな、と忸怩たる思いを抱えながら。

 

このまま寝床に戻るような気分ではなかったので、男は夜更けにもかかわらず郊外へと足を運んだ。男がタバコに火を点け一服すると、ジェームズに言った言葉が脳裏によみがえってきた。そしてそれとは相反する思い、この街にいたいという思いが胸に込み上げてきた。けれどそれを否定するようにこの静かな街並みの空気が自分を追い出そうとしている気がして、男はふと夜空を見上げた。

 

戦場よりも見える星の少ない天蓋(それ)は自分の存在を照らしてくれる(許容してくれる)モノが少なくなった気がしてくる。それでも、求めたもの(日常)を手放してしまったけれど、せめてこの静かな光景を目に焼き付ける。

 

かつて望んだ日常を捨て、戦場に出るようになってまだ10年と経っていない。だが、この身は常に戦場に留まっていると言っていい。

戦時と平時の切り替えができていない。

さながら戦場のストレスに耐えるために被った仮面がそのまま自分の貌になって戻ってこられなくなってしまったようだ。

仮面を外すには自らの貌ごと剥ぐ必要があり、そんなことができるはずもない。

幸せな日常(ミライ)など思い描けなくなって、苦痛な現実(イマ)を終わらせることしか考えられなくなった自分に嫌悪感が募ってくる。

 

そんな負のスパイラルに囚われ、どれだけの時間(とき)がたっただろうか。

 

『あ......て......』

 

男の視界に何か得体の知れないもの飛び込んできた。飛行機雲の類にしてははるかに太く大きな線。先には赤く発行しているようにも見える何か。それがゆっくりと時間をかけて近付いてくる。あるいはそれは一瞬のことだったかもしれない。一つ言えることは、それが男が最後に見た光景だった、ということだ。

 

 




もう1つの作品を1年以上更新していないのに書いてしまいました....
しかもこのあまりにボリュームのない話を書いて次話投稿するのに大分間が空く予定という....(まだ1章の前半もできていないので)

アイデアがあっても文章化するのは難しいのは2次作品の方で実感していたはずなのに...
そんな無計画・無謀・無鉄砲の3拍子そろったないない尽くしの作者ですが、次話以降も読んでいただければなあ...などと恐れ知らずなことを考えています。

おれたちの戦いはこれからだ...

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