とある凡人のありふれた異世界転生譚   作:悩める地上絵

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十四歳的表現とテンプレ好きな作者です。ユーモアと文才は期待しないでください。


厨二病=徹マンテンションが続く病気

地球ではないどこか

 

ときは聖歴987年。ユーベルト大陸西部にあるアルブール地方、ドレスブルク王国の王都ドレスデン、その一画。

まだ昼日中だというのに、そこは夜よりもなお昏い闇に覆われていた。あまりの異常事態に外にいた人々はパニックを起こして逃げ惑う。

(くろ)い天蓋の下にあるのは質素な借家の数々、そしてその前には喉が張り裂けんばかりに慟哭している少年の姿があった。この国では珍しい濡羽色の髪に、輝くような赫の瞳をしていたが、それ以上に目を引くのは少年の肌に浮かんだ、痣とも、咎を表す(しるし)ともとれる紋様だろう。

そして少年への天からの裁きか、はたまた落日か。天蓋(そら)が落ち、多くのものが地に呑まれた。後には、まるで初めから断崖であったかのように欠けた一画と崩れた多くの家屋、そして瓦礫の下敷きになった多くの住民たちがいた。その中には白髪(・・)朽葉色(・・・)の瞳を閉じた瞼の間から覗かせている少年の姿もあった。

 

 

聖歴989年

王都にあるスラム街の一角。

かろうじて夜露をしのげそうな軒らしきものがかかった場所で、少年―――ケイは悔恨の念に胸を押しつぶされようにして飛び起きた。

 

「はぁ、はぁ...はぁ..はぁ......」

 

苦しみを紛らわせるように胸を掻き毟る。気分が少し落ち着いてきたが安心はできない。即座に周囲の気配を探る。どうやら近くにこちらを窺っているような者はいないようだ。下手に弱みを見せれば全てを奪われる、この世界はそんなものだと理解させられ、そんな世界の縮図ともいえる場所で生きることになってはや2年。周囲の状況に気付かないほど夢を見ることなど覚えている限りはなかったはずで、同時にそんなになるような夢には一つだけ心当たりがあった。かつての、温かい日の当たるような(過去)だ。

 

元々ケイはスラムで暮らしていたわけではない。ケイの両親は冒険者だった。二人は異国の出身でコンビを組んで旅をしていた。

だがケイの母がケイを身籠り、一時的に冒険者から足を洗った。当然稼ぎは父に限られてくるが、それまで母と組んできた父は他の冒険者と組んだ仕事先でしくじり死んでしまった。ケイが生まれて間もないころのことである。

 

ケイの母は女手一つでケイを育てた。

蓄えた稼ぎを切り詰め何とか暮らしていた。まだ幼かったケイにはそのことは察せられなかったが、それでも日々の暮らしに満足し、それ以上のものなど求めなかったし、当たり前のように同じような日常(いつも)が続くと思っていた。しかしそれもケイが5歳の時に突如終わりを告げた。

 

ケイの母は、ドレスブルク王国ではあまり見かけない顔立ちにカラーリングだったが、どことなく気品が漂い、また文化の違うこの国でもかなりの美人に分類される女性だった。そしてケイという子供がいても、周囲の男から情欲の混じった視線を向けられるぐらいには若かった。

ケイの母はケイを人質に取られ、父が冒険者時代に組んでいた男に嬲られ殺された。ケイは目の前で母が、男の手によってナイフの刀身を身体に埋められるまで、ケイの命乞いをする姿を見せつけられた。

ケイは、そのときの男の顔と名前も、何よりも男の放った言葉もすべて覚えている。

 

それから間もなくのことだった。ケイがこの国、いや世界と全く異なる知識に目覚めたのは。

それまで自分たちの家だった一画がなぜかなくなり、自分が瓦礫の下に埋もれていることに気付いたときには何が起こったのか分からなかった。そしてそれまでの自分には縁もゆかりもなかった知識が降りてきたことで混乱に拍車がかかった。何よりもそれはまだ五歳の子どもには重すぎた。一晩瓦礫の下で発熱と精神を犯されるような不快感に苛まれながら過ごした。熱も少しは引き呼吸も安定し始め、何とか瓦礫のなかから這い出したときに最初にしたのは自分の状況の確認だった。

自分がかつて日本と呼ばれる国で暮らしていたらしいこと。かつての生で得た様々な知識・技能、そして最も目を瞠ったのは今の自分の精神状態だった。前の生における記憶、より正確にいえば「思い出」と呼ばれるようなものは一切なかったため、それまでの『ケイ』としての自分は残っていたが、精神のありようは当時5歳だった少年にはありえないほど冷静に自分の状況を整理し、自分の持っている技術で可能なこと、これからの行動指針、そういったものをたてた。

 

本来スラム街で子供が独りで生きていくことなど不可能だ。孤児院で暮らす最も運のいい子どもを除き、スラムに暮らす子供は、残飯を漁るか、盗みを働くか、犯罪者連中の下でそのおこぼれに与るかが普通だ。そして、命懸けで何とか手に入れた金で手に入るのも安くて固い不味いパンぐらいもので、必然的に栄養失調になる。その上、衛生面など望むべくもないのだから、加えて病気にもかかりやすい。

 

そんな中、ケイは唯一といっていい例外で、前世で得たスキルを生かして、生きるのに問題ない程度には稼いで食料は手に入れていたので、比較的血色は良い。ただそんな目立つ子供がこんな場所で目をつけられないはずもなく、実際最初の頃は何度か襲われたこともある。しかしそれら全てを返り討ちにし、またあるときに行った見せしめも兼ねた報復が功を奏したのか、今ではまず襲撃の類はない。

とはいえ安心はできない。一瞬の油断が一生の後悔になるからこんな場所にいるのだ。そしてその後悔を雪ぐためにこんな場所ではい回って生きてきたのだ。止まってしまった時計の針は回さなければならない。

ふと、頭の中に母が犯されたときのことが過った。

ケイは一瞬顔をしかめたが、頭を強く左右に振って起き上がると、空が既に赤く染まってきているのが見えた。

今手元にある金を確認すると、路地裏から歩き出した。

 

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