「なんやごついのが来たなあ」
女の言葉に、答えはしない。
今までも、人間の言語を解する星人はそれなりにいた。これは岡の推測でしかないが、奴らは隠れ潜んでいるのだ。その中には当然、人間社会に溶け込んでいる者もいる。この女も、普段は別の顔で生活しているのだろう。
Zガンを横に投げ捨てる。だいたい、その動きはわかっていた。座標を指定しなければならず、またある程度のラグがあるその武器では、この相手には通用しないだろう。連発すれば威力も弱まっていくので、そのうち攻略されることは明白だった。
スキャンが、完了される。その構造を把握した。一見不死身に近いのではないかと思うような敵だが、当然仕掛けがある。それを処理すればいつもと変わらない。首を斬り、頭を潰せば終わる。
一瞬だけ、ガブリアスの方を確認した。ちょうど蹴りで相手の体を吹き飛ばしている所だった。その機動力には目を見張るものがある。低空飛行をしながら、完全に鬼を翻弄していた。
「ねーぇ、うちにちゃんと集中してぇな」
その目に、光が灯る。
構わず、前へと進んでいった。
少しの抵抗を感じる。ハードスーツのくぼみが青白く光り、出力を上げていた。普通のガンツスーツを一瞬で破壊するほどの力。だが、この装備にはほとんど影響を及ぼさない。その輪郭が震えている。それだけの変化だった。
狐の女は、片手を頬に当てる。その動きで豊満な体も揺れた。ただ岡には透過している画像しか見えていないので、その肌などを鑑賞することはできない。
「おっもぉ。そこはどうなん?」
力が、マスクの部分に加わった。首回りとの接続部分が、確かに一番脆い。軋んできているのがわかった。完全に分離してしまえば、スキャン機能が失われる。
だがその時既に、岡は間合いに入っていた。
狐の女もまた、同時に手をかざす。彼の殴打に透明な障壁をぶつけた。ハードスーツにより強化された膂力から繰り出される攻撃であっても、止められる。拳の先が彼女の鼻先にまで到達していた。
狙いは、別にある。
掌を相手に向けた。そして弾を連射する。
その動きは予想外だったようだ。女の体に穴が開いていく。不可視の力による防護を貫通して、高熱の弾が体組織を溶かしていた。顔のほとんどが血まみれになり、上半身と下半身が離れそうになる。
辛うじて身を回転させ、女は回し蹴りをしてきた。念のためにそれを少ししゃがんでかわし、肘の刃を振るう。相手の首へと狂いなく到達した。一撃が入っても、それでやめることはない。素早く連撃を入れていく。
最後に残った肉片を殴り飛ばして、確認を始めた。
「すごい、あっという間に…」
レイカが立ち上がる。岡の方をまじまじと見つめてきた。
「貴方は、一体」
「死ぬで」
「…え」
「終わっとらんって、わからへんのか」
悩ましい息遣いが、聞こえてきた。
狐の女は綺麗な体を伸ばしながら、欠伸をしている。血がかなり失われたはずなのに、肌の色はむしろ濃くなっていた。それはより多くなった毛のせいかもしれない。素肌からの金色の光がその白さに影響を与えていた。
もはや金の毛と言ってもいいほどのものに覆われた尻尾が、生えてくる。
「情熱的やねえ。期待には、応えんとなあ」
九本の尻尾が、うねっている。彼女の髪もまたやや立ち上がってきており、不可視の力で固定されていた。その背景に、道頓堀の街並みがあるのはちぐはぐだった。はたしてこれが日常の光景なのか、おとぎ話の一場面なのか、判断がつきづらくなっている。
彼女が再生されていく過程を、しっかりと観察していた。死を恐れるのは、どの生物も共通なのだろう。それにしたって同じパターンが続いていると思っていた。前回も、こういう相手だった。つまり、再生能力の基を特定してしまえば簡単だということだ。
岡はもう一度、接近を始めた。
相手も力を行使してくる。これまで以上のものだった。さすがに歩みが遅くなる。だが、耐久値にはまだまだ余裕があった。限界がきて、ねじられるということはない。
それは女の方もう同じようだった。まだ、焦りというものが見えない。岡は足を速める。さすがにこれ以上強くなれば、面倒なことになる。この戦いが終わっても少しは星人が残っているのだ。万が一を考えなければならない。
女から、接近してくる。既に超能力はやめていた。
その両手の爪が、岡のマスクを狙っている。
「殿方のお顔、見せて?」
鋭そうな爪先に拳を合わせた。
女が、苦痛の叫びをあげる。
かなり固い感触がしたが、特に問題なく破壊できたようだ。続く殴打で、腕ごと潰す。
大きな隙が生まれた。それでも、岡は追撃をしなかった。
狐の女の背後に回る。足で、浮いている尻尾を蹴り飛ばした。
獣のような呻きが上がった。
続いて、硬質の刃で次々と尻尾達を刈っていく。相手は抵抗しようとしているようだったが、あまりの痛みで震えることしかできていない。
真に重要なのは、首や頭を攻撃することではないのだ。スキャンした所、再生は常にこの女の尻尾から始まっていた。他の力を行使する時もそこの反応が常に大きくなっていた。あらゆる力の源が、尻尾に集まっているのだ。だからそこを先に破壊してしまえば、再生もできなくなる。
五本。
六本。
そして七本目の尻尾を斬り刻んだところで、女が後ろへと飛んだ。それを捕まえようとしたが、すり抜けられる。ハードスーツの拳が超能力でややずらされてしまった。まだそれくらいの余力はあるのかと、冷静に分析をする。
「あぁ、たまらんわあ…」
女の頬が、紅潮していた。熱を持った視線が岡を撫でている。早く攻撃を再開しなければ尻尾も再生される可能性が高い。だが岡は、何かの予感がしていた。様子を見た方がいいと、今までの経験が言ってきている。
爪の欠けた手が、後ろへと伸びた。自身の尻尾を一本、掴んでいる。
躊躇いなく、引き抜いた。
「んんんうぅ」
喘ぎながら、ぼたぼたと血を落とす尻尾を前に持っていく。自分から残り少ない尻尾をさらに減らしたというのに、追いつめられている様子はなかった。むしろより、興奮が高まっているようだ。
握られているた尻尾が、変化し始めた。まず豊かな毛が短くなっていき、その量も一気に少なくなっていった。全ての毛が消失した時には、肌の光沢が強くなっている。無機質な輝きだった。丸みの帯びた形が細く鋭くなっていき、立派な刃を作っていく。
黄金の剣が出来上がっていた。派手な装飾はなく、柄と刃の部分の境界が曖昧だ。鍔がなかった。出刃包丁にも近い無骨さを持ち合わせている。
「ふぅ」
重い息を、先端部分に吹きかけた。途端、刃の形が不安定になる。細かく振動しているようだった。さらに発せられる光が強くなり、よりその筋を捉えることが困難になる。
情を煽るような動きで指を閉じていき、握りしめた。
両手で剣を持っている。
「がっかりさせんといてな?」
岡は拳をとっさに前へと伸ばしていた。
その殴打をかいくぐり、女が懐に入り込む。
即座に体を回転させ、肘の刃を振るった。
激しい金属音。
「ふんふん」
剣でしっかりと、ハードスーツの刃を受け止めていた。力を加減したつもりはない。尻尾をかなり削ったはずなのに、その膂力は増していた。というよりは、もしかすればずっと隠していただけなのかもしれない。
今までは、得意ではない戦い方を選んでいただけかもしれない。
動揺することはない。ここで止まることこそ、危機に直結する。
太い腕を、横に薙ぎ払った。
手応えはない。
しゃがんだ女の体へと、もう片方の拳を振り下ろす。
違和感。
「なるほどなあ」
離脱を選ばされていた。
すぐに自分の右腕を確認する。
今まで感じたことのない感触の正体が、はっきりと表れていた。
装甲が裂かれている。耐久に限界が来たわけでもないのに、ハードスーツの腕に傷がついていた。自分の体にまでは到達していないが、そこの部分だけは防御が裸になっている。真っすぐな斬り傷ではなかった。細かい震えが連続している不安定な形だった。
「ほら、いくで? 構えな」
脅威なのは、一つだけだ。
あの武器にさえ気を付ければ、ダメージを受けることはない。最初から全て安全に進んでいくとは思っていなかった。何しろ相手は百点に達すると考えられる星人なのだ。苦戦しないわけがない。
岡は連続で拳を弾けさせた。
「もっともっと。のんびりしてる場合とちゃうよ」
液体のように滑らかな動きをしていた。体の形自体は人間と似通っているというのに、その構造の限界を容易に超えているような速度で避けられる。さりげなく拳に足や手を擦らせて、上手く軌道を逸らしているようだった。
そして、返しに刃を入れられる。
無傷だった左手が、大きく裂かれた。
「ほらほら。さあさあさあ」
発想を変える。
拳に入り込んでいた剣を、捕まえる。地面に叩き付けて固定させた。一度女の顔を潰せば、残りの尻尾を潰す時間ができる。
しかし、掴んだはずの刃は無くなっていた。
女が、逆さに立っている。
その瞬間、片手に剣を再出現させた。
移動できるんかい、と心の中で突っ込みをしながら、足を後ろへ動かした。
「だぁめ」
刃が、一気に伸びる。急激に範囲の広がった斬撃が、マスク部分に直撃していた。
レイカが、息を漏らす。
「あ…」
岡は、鼻の先が熱くなるのを感じていた。
表示されていた副次情報が全て消えている。相手の体が透過されなくなっている。
それもそのはず。
ハードスーツのマスクが、地面に転がった。
深い傷ではない。それでも鼻が少しだけ斬られているのがわかった。出血を止めるなどという思考はわかない。そんなことをしている余裕がないからだ。
すぐにさらされた顔を、腕で覆う。
狐の女の笑い声が聞こえてきた。
「心配しなくてもええよ。そんな無粋なことはせえへん。よぉく見せて?」
ハードスーツの機能が、やや低下している。
なぜなら、相手の力に押され始めているからだ。両腕が動かされていく。守っていた顔を無理やり無防備にさせられる。
女は少し舌を出した。見せつけるように自らの唇を濡らしていく。
「予想通り。ええ顔してるんやねえ。フフフ、涎がでてまうわ。安心してな? すぐには台無しにせえへんから。まずはその不格好な衣装から引きずり出して、手足をもぐ。ゆぅっくり、すすったる。あんたの味噌、甘そうやなあ」
ガブリアスが、腕の一つに捕まっていた。すぐに抵抗して離れるが、直後横から迫ってきた拳には対応できない。塀へと叩き付けられていた。
無意識に彼女の方を気にしていたと自覚した岡は、苦笑した。
額の汗を、感じる。
久しぶりの感触だ。
緊張の方が強くなるのは、前の百点以来だった。だが、あの時はもっと酷かったと思い返す。こんなものではない。あれに比べたら、今回のは苦難にも含まれない。緊迫感も、初めて戦った時よりはずっとましだった。
機能を解放する。
背中から、大量の煙が噴き出した。それはすぐに岡と女を覆っていく。視界が白く包まれていく。岡は目をつぶって、手動による操作を行った。
狐の女が、甲高い笑いを上げる。斬撃を絶え間なくハードスーツへと注ぎ込んでいった。
「気が変わったわ。腰から下は、いらん」
拳が、落とされる。背中から伸びる管が全て斬られていく。ハードスーツの腕が破壊された。大量のくぼみから、液体がこぼれていく。
女の手が霞んだ。
光の筋がきらめき、そのスーツの腰部分に食い込んでいた。刃は止まらない。そのまま抵抗なく進んでいき、綺麗に断ち切っていた。
ハードスーツが両断され、倒れていく。
レイカは煙の隙間からそれを見て、口を押さえていた。強力な助けが入ったかと思えば、また追いつめられている。
だが彼女はすぐに認識した。
狐の女の腹から、黒い刃が突き出ている。
「う…」
「どや」
緊急時に役立つ機能だった。ハードスーツからの脱出には、二つの方法がある。背中から直接開いて出るのが一つ。そしてこういう状況においては、もう一つの方が最適だった。
スーツからやや離れた位置まで、瞬時に飛ばす。原理は理解していない。結果を把握しているだけで十分だと考えていた。上手く調節すれば、このように簡単に相手の背後へと回ることができる。
ガンツスーツに、力を込める。刀の柄を、上へと押し込んだ。
岡は気合の声を上げる。ある程度は、合理的だった。スーツの力を引き出すためには精神の集中も必要になってくる。そういう時このような方法は意外と役に立った。
おかげで、ほぼ一瞬で刃は相手の顔まで到達し、そのままの勢いで頭を抜けていった。左右に分かたれた女の上半身から血が流れ出し、後ろへと倒れていく。
息が荒くなっている。
だが、まだ終わりではないとわかっていた。
すぐに距離を取り、投げてあったZガンを拾い上げる。痙攣している狐女の体に向けて、連続でトリガーを引いた。
二発撃ったのは、完全にカバーをするためだ。まず、尻尾が最初に潰れる。下半身の一部も重力によって粉砕された。そして少し遅れてやってきた次の弾が、残りの全てを押し潰していた。
男の野太い叫びが聞こえてくる。
建物の窓から飛び出してきた大柄な男が、鬼の腕の一本に掴まっていた。そして同じような状態のガブリアスと息を合わせながら、同時に腕をもぎ取る。
鬼は明らかに苦しんでいた。その隙を両者は見逃さない。
男の方が頭に組みつき、その両目に拳を突きいれた。
暴れる鬼に対して、カブリアスが足の一本を折っていく。大きな体が倒れていくのに合わせて、男と共に頭を蹴りつけた。
こちらを見てくる。少し悔しがっているようだ。どうやら、岡よりも遅く倒してしまったのが気に入らないらしい。共に戦っていた男の肩を叩いてから、歩いてきた。
「終わった…」
まだ少し離れた所に、反応がある。転送が開始されないのは当然だ。後は消化試合のようなものだと、岡は考えていた。次にもらえる特典は何だろうか。できればハードスーツをさらに強化できるような道具がいい。やはり重要なのは防御だ。耐久に不安が残っていると、戦闘に集中しづらくなる。
ガブリアスが、膝をつく。どうやら見た目以上に傷ついていたらしい。それほど鬼の方も手強かったということだ。それを引き付けてくれたのだから、やはりガンツから支給される特典よりもはるかに役に立つ。
同じく戦っていた大柄な男も倒れ始めていた。岡にとっては、関係の無い人間だ。他にも傷ついている者がたくさんいるが、助けようとは思っていなかった。
顔に、固い感触がぶつかる。
それが地面だと気が付いた時、あたりに霧が漂っているのを視認した。
視界が、ぼやけてくる。
その中で、確かに丸い個体が見えた。大量の気体を吹き出している。
ちょうど、Zガンによる攻撃で破壊された所だった。狐女の血が溜まっている場所。彼女が確かに死んだはずの所。
『あーあ、初めてやわ。来世で会えたらええなあ』
それは毒だと、すぐにわかった。胸の苦痛が増大していく。口の端から、血が漏れ出していく。目の奥に痛みが生じた。確実に体が蝕まれている。
スーツに限界が来たわけではなかった。その防護を貫通し、直接体内に作用している。遅効性に近いもののようだが、猛毒だ。どちらにせよ、致死量に達しているのは明らかだった。
転送を。
そんな思考が湧いたが、ありえないと気づく。星人はまだ、全滅していない。
段々とまともな考えができなくなった。
だから、それは幻なのだろうと思っていた。
終わってくれという願望が表れているのに過ぎない、虚しい夢。
空から、何かが降ってくる。生物ではない。ちょうど手に収まるくらいのボールのようなものが真っすぐ落ちて、毒霧を発生させている白い石にこつんと当たった。
石が、光に包まれる。そして、開いたボールの中へと吸い込まれていった。
続いて降りてきたのは、二つ。
それらは既に揺れの止まっているボールを見ている。
「や、やった!」
「きゅいっ」
何やら喜び合っている男と白い鳥。手と翼を打ち合わせていた。
「オカ!」
気に入らない女の声が最後に聞こえて、岡は自分の意識を手離した。
◆
流れは、そう速くない。
スーツの力で体勢を整える。
そして水中でもがいている存在を見つけた。口から大量の泡を吐き出し、苦しそうに目をつぶっている。
反射的に手を伸ばし、抱えていた。足を上下に動かして、岸へと泳いでいく。
同時に、ベージュの体が高速で動いていくのがわかった。呑気に浮かんでいる桑原を拾い上げて、ジョージと同じ場所に上る。
深く呼吸をしてから、咳き込んでいるロズレイドに嘲笑を向けた。
「お前、泳げないんか」
返事は返ってこない。代わりに、赤い花の中から何かが射出された。
「ちょっ」
それは知っている。毒の含まれている鞭だ。ジョージは横に転がって、ぎりぎりでそれを避けた。いくらスーツで無効化できる可能性があるとはいえ、確実ではない。
頭がかっと熱くなったが、舌を出しているロズレイドを視界に収めると、真面目に対応するのも馬鹿らしくなった。
「恩を仇で返す植物なんて、お前くらいや」
隣では、桑原が苦しむふりをしていた。ミロカロスに対して、人口呼吸を要求している。はたして彼女相手にその表現は正しいのかと、まだはっきりとしない頭で考えた。
状況をまだ把握しきれていない。
見たことが事実なのかどうか、受け止め切れない自分がいる。
「なあ、おい」
煙草が全て駄目になっているのを確かめ終わった桑原が、半身を起こす。
「どうするんや。これから」
「…やるしかないやろ」
「ノブやん、死んでしもうた」
「油断したからや」
「いや、あれそういうレベルの問題か?」
「…」
正直、悲しさはない。それよりも自分の命の方を考えるべきだった。あの天狗のような怪物が百点なのは間違いないだろう。過去に一回だけ、遭遇したことがある。その時のメンバーの三分の二が殺された。ジョージも無傷ではなかった。手遅れになる前に、岡が決着をつけたのだ。
「岡に任せようや。どうせまたやってくれるで」
それに返事をせず、ジョージは立ち上がった。
そして、すぐに桑原の肩を叩く。
「なんや?」
めんどくさそうに顔を上げると、彼もまた表情をひきつらせた。
どうやら自分達は、船着き場近くにいるらしい。岸辺から階段を上った先。そこから、大群がぞろぞろと向かってきていた。異形の群れ。
同じく、川の方からも魚介類に似た形をしている化け物が続々と泳いできていた。そのどれもが星人なのは間違いないだろう。明らかにジョージ達を認識し、狙ってきている。
桑原が、大きく息を吐き出す。
「今回って…、あれか? ラストミッションなんか?」
「かもな」
「じゃあ、あれがラスボスか」
その指が示す先を、目で追う。
大群たちの一番後ろに、一際大きな個体がいた。一言で例えるなら、二足歩行の犬だ。それだけならシロナのペットの一匹と同じだと言える。だが、それの方が細長い顔をしていた。毛の色もクリーム色に近くなっている。古い時代の聖職者のような衣装を着ているのが、どこか不気味だった。そして何よりも、大きさが違う。身長がルカリオの三倍はありそうだった。
その肩には、小柄な存在が乗っている。
ジョージもまた溜息をついた。煙草が欲しくなったが、こちらも全滅している。
ガンツが表示していた画像と、一致している。華奢な老人だった。白い髭を撫でながら、静かに彼らを見つめている。
「逃げるか?」
「いや」
Zガンは、天狗のいた橋に置いてきてしまっている。ガンツソードと、Xガン。スーツに取り付けられていた装備を展開させ、構えた。
「やる。むしろチャンスや。あの天狗以外なら何とかなる」
「もう逃げられないわな。あーあ、やるわけね」
「同時に行くで。俺達二人…」
桑原の前に、ミロカロスが出てくる。
ジョージの肩に、ロズレイドが乗った。
まあ、こういう時だけは認めるのも仕方がないだろう。戦力としては、ありがたい。足を引っ張らない程度に雑魚を処理してくれるのは、大歓迎だった。せいぜい道具としてそれなりに働いてくれればいいと、鼻を鳴らす。
「と、二匹ならいける」
ミロカロスとロズレイドが、同時に技を繰り出す。
それが開戦の合図だった。