シロナさんが星人に挑むようです。(完)   作:矢部 涼

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終.これから

 最初に抱き着いてきたのは、杏だった。

 それからシロナを本物かどうか確かめるように、触り始める。

 苦笑しながら、優しく彼女を離した。くすぐったいからだ。

 

「ここは、何なんだ」

 

 桑原が涙を流しながら言う。

 そして、一匹に目を止めていた。

 ミロカロスは静かに、その視線を受け止めている。

 全員の状態が落ち着くのを待ってから、シロナは話そうとした。だがその前に、メガネがよろけながら前へと出てくる。

 

「さ、採点は?」

 

 言われても、人型は黙っていた。

 

「ぜ、絶対に誰かが、百点、取れてるはずです。だから、その、まずシロナさんを…」

 

 しばらく計算するような間があってから、声が降ってきた。

 

「百点を超えたのは、岡八郎だけです」

「百点メニュー。三番。シロナを再生」

 

 メガネと杏子が、素直に悔しがっていた。どうやら彼らの中で競争のようなものが生まれていたようだ。

 杏の手を握る。お礼を言うと、相手は当然のことだと言ってきた。本当なら自分が解放されるために頑張るべきなのに、シロナの命を優先してくれた。杏の息子にも申し訳ないと思いつつ、嬉しさが募る。

 メガネは、興奮したように早口で並べ立てていた。それを、トゲキッスが諫めている。彼らは、強い絆を結んだようだ。実際、先ほどの戦いで一番動いていたのは、彼らだった。

 桑原は既に別の方向へと向かっている。

 何かを口に出す前に、ミロカロスによって巻き付かれていた。そのまま彼は倒れ込んで、何かろくでもないことを言っているようだった。 

 ミロカロスは黙って聞いている。途中で離すことなく、可笑しそうに触角を揺らしていた。

 最後に、岡へと向き直る。

 たいして、表情は動かしていなかった。シロナの復活を口で言った時も、淡々としていた。これがまるで些事であると、考えている様子だ。

 対するシロナは、あまり冷静になれない。

 岡は不敵な笑みをした。

 

「お前って、泣き虫だったんやな。アラサーにもなって、ださいとは思わへんのか?」

「ごめんなさい。なんて、言ったらいいか…」

 

 震えながら、一歩踏み出す。既に両腕が動いていた。

 岡の姿が、少しだけ遠くなる。

 その警戒するような表情に、彼女は首を傾げた。

 

「…どうして?」

「引っかかるわけないやろ。前科あんの、わかってるか? お前の考えてることなんて、すぐにわかる」

 

 背後へと忍び寄っていた、ルカリオとガブリアス。

 彼らは同時に岡の背中をはたいた。もちろん傷つけるような勢いではないが、不意を突かれた岡はそのまま前へとよろける。

 それを拾い上げるように、シロナは抱きしめた。

 岡は最初固まっていたが、やがて手を下ろしてくる。

 

「ありがとう。貴方が生きていてくれて、よかった…」

「なあ、三秒数えたら突き放してええか?」

 

 再び、後頭部をガブリアスに叩かれていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり再会の喜びを分かち合った後、シロナは本題に入ることにした。

 彼らは最初、あまり驚かなかった。

 元から、感じていたことではあったのだろう。ポケモンという、今まで見たこともない存在を連れている女性。別世界に住んでいるのだと、少しは思っていたのだろう。

 だが、シロナ達がかなり先の未来の地球に住んでいたとは、予想していなかったようだった。それには、さすがの岡もはっきりと驚きを示してきていた。やっと見たい顔が出てきたと、シロナは内心笑った。

 

「じゃあ、帰るん?」

 

 杏は悲しそうに言う。

 寂しいのは、シロナも同じだった。

 

「その選択肢も、あるんだって」

「でも、やっぱり。そうした方が、ええよ。親とかも、いるんやろ? 姉さんは、たくさん働いてくれた。いなかったら、絶対にうちは死んでた。だから、もう解放されるべきや」

「うん…」

 

 郷愁も強まっていた。

 元の世界。

 ポケモン達が溢れている世界に、戻りたい気持ちが強くなっている。

 だがシロナは、一人一人を見つめた。

 最後に、岡に目を止めた。

 彼は手を動かしている。手前から奥に、揺らしていた。

 さっさと行け、と伝えてきているらしい。

 少し口をすぼめてから、腕を組んだ。

 

「いいえ」

 

 その言葉を、他の全員が予期していなかったようだった。

 アルセウスもまた、足を動かす。シロナの真意を測るように、顔を傾けた。

 それを一瞥してから、シロナは続けた。

 

「戻らない。ここに、残る」

 

 杏は、嬉しさと虚しさが混ざったような、複雑な表情をした。

 

「え、でも」

「だって、オカがさっさと私に消えてほしそうにしてるから。逆に、行きたくなくなった。つまり、これはオカのせいね」

 

 岡は全員の視線を受けて、憮然とした態度を取った。

 

「なんやねん」

「っていうのは、冗談として」

 

 シロナは表情を真面目なものに戻す。

 それから、人型の方に向き直った。

 

「少しは、融通が効きますよね?」

「先ほど言った危険は…」

「わかっています。だから、ポケモン達だけは、戻してあげてください」

 

 今度は、ガブリアス達が驚く番だった。シロナのそばに、全員が集まってくる。その考えを理解しようと、顔を覗き込んでくる。

 

「私は別に、こっちにいても問題ありませんよね」

 

 人型が、アルセウスに視線を向けた。

 

「はい。特に危険はありませんが」

「そうしてください」

「ど、どうして」

 

 メガネが唖然としながら尋ねると、彼女は苦笑した。少しだけ虚しさも含まれている表情だった。

 ガブリアスの腹を撫でる。ルカリオの、頭に触れる。

 

「私は、きっと忘れないから。こっちで色々と経験してきて、色々と変わった。あっちに戻っても、きっと変わらない。その違いに、苦しめられることになる」

 

 未だに、あの感覚は鮮烈だった。

 ポケモン達と共に戦った記憶。命がかかっている状況で、お互いに直接助け合える充実感。

 そして、彼らに指示を出すだけに徹することへの、違和感。

 チャンピオンとして戦っていた頃も、そうじゃなくなっても、思ったことはなかった。ポケモン達の扱いに関して、疑問が浮かんでくることはなかった。

 だが、今は違う。もう無視することはできない。

 シロナはポケモン達に触れていった。

 

「あっちの仕組みに、追い詰められる。私は、それに耐えられない。ずっと疑問を抱えながら、暮らしていくことはできない。それに、大阪も好きだから。あの街も、私の故郷。杏達ともっと一緒にいたい」

「きゅう…」

 

 体を擦りつけてきたトゲキッスに、笑いかける。

 

「ごめんなさい。勝手なこと言って。でも、私は作られた偽物なの。貴方達は、あっちに戻らないといけない。あっちのシロナに、よろしくね」

 

 主人の意思が固いと、気づき始めたようだった。

 初めはその考えを変えさせようとしていたポケモン達も、徐々に受け入れていく。

 

「わかっているから」

 

 シロナは少し表情を引き締めて、人型に向き直った。

 

「嘘、なんでしょう? 私の今の記憶を、あっちには戻せない。そんなことをしたら、何かが変わってしまう恐れがあるから。でもそういうふうにしておけば、最後まで納得させたままことが進む」

「…」

「私も、嫌。もうあっちのシロナは、違う道を進んでいる。今更私が戻っても意味はない。それは彼女を殺すことも同然よ」

「騙していたことは、」

「いいの。わかっているから。だってガンツを作ったのは、貴方なんだもの。性格が悪いことくらい、予想できるわ」

「演出などは、全て人間が勝手に考えたことですが…」

 

 それ以上聞く価値は、感じなかった。

 アルセウスへと一歩近づく。

 相手は少し沈黙してから、目をつぶった。顔を、縦に動かす。どうやら受け入れる気になってくれたらしい。

 そしてシロナは、杏達のそばへと下がった。

 ポケモン達が、前に並んでいる。 

 それから、全員が飛び出してきた。

 ミロカロスが桑原へと体を向ける。不思議そうにしている彼へと一気に接近すると、その頬に口を付けた。一瞬だけのことだったが、十分に示していた。

 桑原は妙な顔をしてから、頭をかいた。

 

「ま…、あれや。お互い、良い相手を見つけるか。また会った時、紹介し合おうや」

「フォオオオ…」

 

 ミロカロスは大粒の涙をこぼしている。

 

「スマホがないのは、残念や。記念に残しておくのに」

「フウウウ!」

 

 吐き出された水を、桑原はあえて受け止めていた。

 人型が、少し高くなった声で言ってくる。

 

「最後に、何か望みはありますか。できる限りで、叶えられますが」

 

 シロナに抱き着いた後、ロズレイドは振り返った。そして、人型の方へと歩いていく。背伸びをしながら、何かを伝えていた。

 

「それくらいなら、可能です」

 

 物体が、出現する。

 鉢のようだった。その中で、花が咲いている。赤い小さな花びらが重なっていて、少しだけ特徴的な香りがしていた。

 

「大事なものなの?」

 

 ロズレイドは頷いてから、愛おしそうにその鉢を抱きしめた。どうやら、持ち帰るつもりらしい。それくらいなら、何の影響もないようだ。

 メガネとトゲキッスが、抱き合っていた。お互いにだらだら涙をこぼしている。どこか、似ている部分のある組み合わせだった。だからこそ、良い関係を築けたのだろう。

 

「ありがとな。本当に」

 

 杏は、トリトドンを肩に乗せながら、ルカリオに抱き着いていた。その毛の生えている頬に、キスをする。

 彼は離れた後も、時折その部分を肉球で触っていた。ミカルゲに、それをしつこくからかわれている。

 岡は、黙ってカブリアスの腕を見ていた。

 

「なんや?」

 

 ガブリアスが、素早く岡の手を持ち上げる。そして強引に、自分のそれと打ち合わせた。

 

「なんなんや…」

 

 それだけで満足したらしい。ガブリアスは最後に思いっきり岡の背中を叩いてから、シロナのそばへと戻ってきた。

 様々な触れ合いを見ながら、確信する。

 やはり、ポケモンと彼らが出会ったことは、間違いなく良いことだった。少なくともそこだけは、誇ってもいい部分だった。

 

「では、転送を始めます」

 

 シロナ達の姿が消失し始める。

 ポケモン達も同じだった。

 彼女はたくさんの重みを感じる。同時に彼ら全員が飛びついてきたのだ。その様々な香りや、感触を忘れないと誓った。生きている限り、頭から離れることはないと思った。

 結局我慢できずに嗚咽を漏らしながら、最後までくっついたままでいる。

 全てが消えるまで、感謝だけを口にしていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロナはほとんど眠っていなかった。

 祖母から心配するような電話が何度もかかってきているが、それに出る気力もない。

 あちこちを飛び回って、結局またサザナミタウンに戻ってきていた。

 本当は、最高の休暇になるはずだった。チャンピオンの責務を下ろし、多少は気楽な休みを満喫する予定だった。

 だが、ビーチで眠ってしまい。砂の感触で起こされた。

 その時、気がついたのだ。

 ポケモン達がいない。

 最初はどこへ遠出しているのかと思ったが、夜になっても戻ってこないとわかって、異常を認識した。

 どこを探しても、いなかった。日数が重なっていくにつれて、シロナは段々と悪い想像を膨らませていた。

 もしかしたら、誰かにさらわれたのかもしれない。ギンガ団の残党が、自分のポケモンを狙った。

 その考えは、ほとんど当たっていたようだ。祖母にへと、妙な電話がかかってきていた。シロナ自身を偽る電話だ。

 その何者かが、元凶なのは間違いない。

 自分とそっくりな声をしているということだけが、唯一の手掛かりだった。それだけを頼りに、当てのない捜索を続けていた。

 砂浜を、亡霊のように歩いていく。

 家族が消えてしまった苦しみは、どんどん膨らんでいる。いっそ、海の中に深く入り込んでいけば、見つかるかもしれない。ミロカロスはどこまでも深く潜れるのだ。だから、溺れている自分を見つけたら、助けに来てくれるかもしれない。

 そんな捨て鉢な心は、遠くにいる集団を認めて溶かされていった。

 

「うそ…」 

 

 周りの人間も、驚いている。

 突如としてポケモンの集団が現れたのだから、当然だ。

 だがシロナは驚愕の前に、既に足が動いていた。

 

「みんな!」

 

 最初に、ミロカロスが巻き付いてくる。 

 続いて一気に、残りの全員が飛びついてきた。

 

「どこに、行ってたの…。すごく、心配した」

 

 怒りなど、湧いてこない。ただ家族が戻ってきたという実感だけが、全てを塗り替えていた。今までの悲しみも苦しみも、嘘のように消えていった。 

 全員がいることを確認してから、足取りも軽くホテルへと歩き出す。もうどこにも行ってしまわないよう、早くボールに戻してあげたかった。

 

「あれ」

 

 鞄の中から、ボールを全て取り出す。

 だが、一つだけおかしかった。

 ぼろぼろになっている。これでは、戻すことができない。確か、ガブリアスが入っていたボールだった。

 不可解な気持ちになりながら、ポケモン達が付いてきていないことに気がつく。

 踵を返すと、彼らは全員同じ方向を見ている。

 海の向こうを、じっと眺めていた。

 

「どうしたの?」

 

 シロナが尋ねると、彼らは動き出した。

 よく見れば、ロズレイドが妙なものを持っている。植物の一種のようだ。だが、シロナは今まで見たことがなかった。

 庭にでも埋めて、上手く繁殖させれば見事な花畑になるだろう。

 そんなことを考えながら、彼らの先導を始めた。

 違和感は、彼ら自身に対しても感じている。

 どこか、顔つきが違っている。だがそれは、悪い意味ではなかった。シロナから離れていた期間、何かがあったのだろう。それは彼らにとって、とても大きな影響をもたらしたようだ。

 どんなことがあったのか詳しく訊いてみたいと、シロナは浮足立った気分で微笑んだ。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だ混乱が残る街を通り過ぎていきながら、アパートに戻った。

 隣の杏子は、途中からずっと何かを考えている様子だった。集中しているみたいだったので、シロナは何も訊かずに中へと入った。

 様々なことがあった。

 ポケモンがいなくなった後も、大きな戦いがあった。

 カタストロフィ。

 巨大な人間のような見た目をした種族が、巨大な宇宙船に乗って攻めてきた。

 東京が、最も大きな被害を受けた。ガンツに関係していた彼女達も召集されることになる。色々な戦いがあったが、シロナは何とか生き残れた。

 東京チームと、上手く合流できたのも大きい。そこでようやく彼女は、くろのとまともに共闘することになった。彼らも彼らで色々と事情があったようだが、誰かを助けたいという思いは同じだった。

 そして、カタストロフィは終わった。

 黒いスーツを着た者達によって、人類の危機は回避された。

 どうやらテレビのカメラも入っていたようで、その画面にちらりと映ったシロナはかなり認知されてしまったようだ。当然一番有名になったのは敵の将軍を倒したくろのだが、彼女もまた大阪の街において、声をかけられることが多くなった。

 それに何とか対応しながら、杏との買い物を終えてきた所だった。

 翔の相手をしながら、彼女はシロナの正面に座った。

 

「今日はカレーやなあ」

「やったあ」

 

 翔がテレビの前へと走っていく。元気を完全に取り戻しているようだ。ポケモン達がいなくなったとわかった時は、大泣きして手が付けられなかった。

 その後ろ姿を見ながら、シロナは話し始める。

 

「それで、彼とはどう?」

「え、ええ?」

「来週、会うんでしょ? よろしく言っといて」

「まあ、そうなんやけど。尾行とか、なしで」

「そんなわけ」

 

 とは言いつつ、少しだけ興味があった。加藤と上手くいけば、やがて自分は邪魔になるだろう。頃合いを見て、何とか自分の住まいを確保する必要があった。

 誰かの顔が浮かんできたが、無視する。

 察知したかのように、杏は半目になった。

 

「とか言って。姉さんの方は? 昨日会ったんやろ?」

 

 シロナは頬杖をついた。

 

「誰に?」

「岡と」

「知らない。誰? その人」

 

 唇を尖らせた。その様子を見て、杏は呆れたような表情になる。

 

「また、喧嘩したん? 好きやなあ」

「とにかく、そっちの話題はなしで」

「はーい」

 

 シロナは再び仕事探しに向かおうとしたが、杏が何かを言いたげにしているのを感じていた。椅子に座り直して、杏と視線を合わせる。

 

「どうしたの?」

「ちょっと、待ってて」

 

 杏は手を向けてきてから、部屋に向かっていった。何かを探すような時間が過ぎた後、数枚の紙を持って出てくる。

 全部を、広げて見せてきた。

 

「やっと、完成したんよ。驚かせたくて」

 

 シロナは、息を呑んだ。

 全部で、八枚の絵だった。

 ミロカロス、トリトドン、ルカリオ、ガブリアス、ミカルゲ、トゲキッス、ロズレイド。

 全てのポケモンが、杏のタッチで描かれていた。どれもが明るい表情をしている。

 そして、最後の一枚。

 そこには、シロナも混ざっていた。彼女を中心にして、ポケモン達が並んでいる。幸せそうな空間だった。

 全てを胸に押し抱いた彼女は、噛みしめるように言った。

 

「ありがとう…。宝物にする」

「まだある」

 

 だが、杏は何も出してこなかった。

 

「何?」

「前の話、憶えとる?」

 

 杏は真摯な表情をしていた。

 

「えっと」

「一般誌の枠が空いてるから、載せるかっていう誘いが来てる。もちろん、読み切りっていう形になるとは思うんやけど」

「マンガね。おめでとう」

「でな、これも言ったけど、うち話考えるの苦手やん? だから、姉さんにストーリー作ってもらいたいなあって」

「でも、それは…」

 

 一度は無くなった話だった。

 別にシロナも、物語を作ったことなどない。杏と同じような状況だった。

 

「私も、上手くできるかはわからない」

「大丈夫や。よく考えたら、創作する必要はない」

「どういうこと?」

「つまり、ノンフィクションや。姉さんが体験してきたことを上手く話にする。ポケモン達の設定を詰めていけば、絶対面白くなると思う。あれやろ、チャンピオンやったか。めっちゃドラマ作れそうやん~」

 

 どうして今まで気づかなかったのか、不思議なほどだった。

 確かに、杏達にとっては新鮮な要素が多いだろう。あっちでのことは、シロナにとっては当たり前だった。常識の違う世界においては、それもまた興味の引かれる事柄になる。

 

「原作考案の部分に、姉さんの名前も載せられる。ふふ…。編集さんも絶対オーケーするはずやで。シロナっていう名前は今、ホットなんや。その知名度を利用して…注目度を……」

 

 やるべきことなのかもしれない。

 彼らは、もういない。だが、その存在が完全に消えたわけではないのだ。

 その良さを、素晴らしさを、別の形で伝えていく。悪くなかった。

 

「で、タイトルは?」

「うん?」

「大事でしょ。まずはそれから決めない?」

「うーん。どうなんだろ」

 

 杏はそれから、不思議そうに瞬きをした。

 

「姉さん?」

 

 シロナは既に俯いていた。

 これは確かに、岡に泣き虫と言われても反論できない。 

 だがそれでも、耐えられないほどの衝撃がやってきていた。

 それは悲しみではない。

 寂しさから、来るものでもない。

 

「ど、どうしたんや。姉さん」

 

 杏が立ち上がり、駆け寄ってくる。

 よろけたシロナの体を、支えていた。

 

「大丈夫、大丈夫だから…」

「いや、でも」

 

 ようやく、理解をした。

 自分が、選ばれた理由。

 アカギやあのトレーナーではなく、シロナが呼ばれた意味。

 それは、彼女が携わっていたものに関係していたのだ。

 

「なんでもないの」

「そんなわけ」

「わかっただけ」

 

 シロナは鼻をすすりながら、震えていた。

 自分の背にかかった重大な責務の重さに、慄いていた。

 それでも彼女は、深く心を動かされていた。だから、泣きながら笑う。杏に向けて、解放されたような表情を浮かべる。

 

「私の…、使命が終わったの。それが、わかっただけ」

 

 学者としての悲願を叶えた彼女は、戸惑う杏にも構わず続けた。

 

「それで?」

「ええ?」

「タイトル。マンガの。決まった?」

「いや…」

「なら、私が決めていい? ちょうどいいの思いついた」

「何や?」

 

 あの人型が言っていたことは、間違いかもしれない。

 だが可能性としては、残っている。いつか来襲してくる星人の中で、人間と共存できる存在が現れる。そして地球の生物と配合を繰り返していき、とてつもなく長い時間をかけ、やがて。

 シロナは静かに言う。

 

「ポケットモンスター」

 

 やがて来る、その時代に思いをはせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。
 書ききれたのは、読者と、素晴らしい原作のおかげです。書き溜めもないのに、一気に駆け抜けてしまいました。
 これからも何かアイディアがわいてきたら、投稿していきたいと思います。
 今まで、本当にありがとうございました。
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