ようやく別の連載が完結したので、こっちに集中していきたいと思います。とりあえずコンスタントに投稿できればなと、ゆるく決意してます。
あと、一応閲覧注意です。
騒がしいのは、住宅街の一角にある公園のような場所だった。
到着したシロナは、一瞬棒立ちになる。
「うえ、気持ち悪いわー」
「右行ったで! さっさと撃てや」
「きんも」
一番近い所で、特徴的な三人組が戦っている。全員、サングラスをかけていた。巨大な細長い虫を相手に動き回っている。虫の方は、既にぼろぼろになっていた。所々の肉が抉れ、妙な色の体液を飛び散らせている。
サングラス達は、シロナにとって理解しがたい何かを生物に向けていた。それほど大きくない、筒のようなもの。ちょうど手の部分でほぼ直角に曲がっている。指先で小さなトリガーを押し込んでいた。するとその筒全体が光り、聞いたことのない駆動音を鳴らす。
先端の方は四隅が突出していて、穴が開いていた。バツ印にみえなくもない。その口が虫に定められている。
他方では、さらに大きなエンジン音が響いていた。見れば、円状の妙な黒いバイクが遊具の間を走り回っている。搭乗者はかなり若い男だ。少なくとも、シロナより一回りは年少だろう。彼は何やら興奮した様子で、サングラスが持っているのと同じような道具をあちこちに向けながら移動していた。
受容が、大事なのだ。思考を停止してはいけない。
そう思っていても、彼女は理解するのにまだ戸惑っていた。まるで、わからない。本当に自分は別世界に来てしまったのだ。何一つとして、馴染んだ光景がない。
中には、あの黒スーツをだらしなく着崩している者もいた。恰好だけで言うなら、一番おかしい。茶色く染めた長髪の男は、脱いだ部分をぶらぶらと揺らしながら、飛びついてくる幼虫を避けていた。そして、握っている黒い剣を一閃させ、一匹ずつ確実に斬り刻んでいる。上半身を晒しながら。
「おいおい」
声が、かかる。
ジョージと先ほど呼ばれていた色黒の男が、物珍しそうに歩いてきていた。彼の持っている道具は、かなり大きい。持ち手が二つの筒の間にはめ込まれていて、後ろからは管がいくつか伸びている。
見もせずに標的へ何かを撃ち込む仕草をした後、シロナに近づいた。
「姉ちゃん、死ぬで。星人に挟まれとる」
轟音が、直後鳴り響いた。
彼に向かってきていた虫の大群が、全て潰されていた。地面に円の形のへこみがはっきりとできていた。不可視の何かが、とても重い何かが降ってきたみたいだ。
そしてそれを引き起こした道具がルカリオに向けられているとわかった時、さっと体中の血の気がなくなっていくのを感じた。
「ま、待って!」
杏が、慌てた様子で前に出てきた。ジョージが握っている黒い道具が、下げられる。
「あ?」
「な、なんか勘違いしとるかもしれんけど、この子たちは違う」
「いやいや、意味わからへん」
「この姉さんがな、飼ってる奴だから! ペットなんや」
「そうなん?」
ジョージは興味深そうな顔になった。ルカリオとガブリアスの両方を見つめてから、手を伸ばしてくる。
「お手」
言われたルカリオは腕を組みながら黙っていた。目を細め、何をしているんだと相手を眺める。ガブリアスも憮然として、男を睨みつけていた。
「可愛くないペットやなあ」
さきほどから繰り返されている用語の意味が、シロナにはよくわかっていなかった。だが、あまり良くない印象を受ける。この子達は自分の家族なのだと、訂正をしようとした。
だが、開きかけた口は途中で止まる。
まだ戦っている者達以外全員が、ぞろぞろと集まってきていた。
「ジョージ、なに悠長に話しとんねん」
刈り上げている短髪の男が、同じ両筒の武器を抱えながら佇んでいる。その周りに、女性二人もついてきていた。どちらも、髪を長く伸ばしている。シロナ達を見る目は、あまり良いとは言えなかった。
「それもさっさと殺ろうや」
「ペットらしいで」
「は?」
「この姉ちゃんが、飼ってる」
シロナの方を見ると、短髪の男は大げさに溜息をついた。かなり呆れているようだ。
「くだらん。薬でもやってるんやろ。転送されてきた時から、おかしい奴やった。鵜呑みにしてどうする」
サングラス組の一人、髪をストレートに長く伸ばしている男が、バツ印の道具を持ち上げた。
「おかしいやろ。なんで犬が二足歩行しとんねん。どうせ星人や。早い者勝ちやな」
「話を、聞いて!」
シロナは冷や汗をかいていた。明らかに状況がまずい方向へと転がっているのはわかる。このまま黙っていれば、この者達と敵対してしまうのは確実だ。まだ状況もよくわかっていないのに、その選択肢を取らされるのは避けたい。
見た所、子供はいない。ほぼ全員が成人している。ならば、論理的に話せば少しは理解してくれるはずだった。
怪訝そうな顔をする短髪に、視線を合わせる。
「証明をするから」
「あん?」
「この子達は、貴方達の味方。それを今から証明する。そこにいる残りは、私達に任せて」
幸いなことに、その提案を真っ向から切り捨てようとする輩はいなかった。全員がこれからシロナが何をするつもりなのか、興味があるようだった。
その、まるで観客のような態度に違和感を覚える。本当に、楽しむ気持ちの方が大きいようだった。彼らは今まで、命がけの戦いをしていたはずなのだ。ルカリオとガブリアスに向かって、殺意をほのめかす発言もしていた。なのに、すぐに切り替えて見物を始めている。
自身に落ち着くよう言い聞かせながら、彼女は前へと進んだ。
察知した虫の一体が、かなりの速度で張ってくる。大きな、芋虫の姿をしていた。体全体は濃い緑色で、牙のびっしり生えた丸い口から液体を垂らしている。それにも怯まないよう心掛けながら、発声の準備をした。
何となく、直接触れない方がいい気がしていた。そういう感覚には従うべきだ。今までも、それによって助けられた時の方が、多かったのだから。
「ルカリオ、はどうだん」
武を修めているポケモンが、青と黒の色を含んでいる肉球をかざした。その先の空間から、突如として青白い光球が形成されていく。人間の頭二個分ほどの大きさにまで肥大すると、即座に放たれた。
ほぼ完璧な軌道、速度で、緑の虫に直撃する。すぐにその体へと大きな穴が開いた。血と考えられる青い液体があたりに飛び散る。
「うおっ」
「なんだあ?」
「ど、ドラゴンボールやん! 犬がかめはめ波しよった…」
もちろん、シロナは油断していない。彼女の指示を、ルカリオは正確に理解していた。まだ動く元気のある相手にむかって、追加を撃ち込んでいく。
どうやら、かなり生命力のある虫のようだった。体の一部が欠損しても、まだ俊敏に動けている。今度は飛んでくる光球の軌道から逃げるようにして、横へと這っていく。
だが、無意味な行動だった。はどうだんは急カーブしていき、避けたつもりでいる虫に再び炸裂していく。今度こそ致命傷を負った相手は、すぐに動かなくなっていった。
この技は、必中だ。必ず当たるということ。逃れることはできない。
これで十分に証明できたのかもしれないが、念には念を入れる必要がある。まだ、ルカリオの方しか働いていないからだ。彼らはそこを突いてくるかもしれない。シロナにとっては、このわけのわからない敵も、黒スーツの男達も同じ枠組みに入っていた。自分達を脅かすかもしれない存在。
「下がってて!」
まだ虫を潰している半裸の男と、バイクで走り回っている少年に向けて叫んだ。彼らは最初無視をしていたようだったが、ガブリアスが前に出てきたのを見て、何かを察したらしい。すぐに横へと離れていった。
残りは数匹だ。大小それぞれの、色も形状も異なる虫達がある程度一か所に固まっていた。少し都合が良かった。ただし悠長にしていれば、すぐにこちらへ襲ってくる。あまり接近されると、力を発揮することができない。
シロナは、少し不安になった。容赦をするつもりはないが、はたしてこの場所を破壊してもいいのかと。だが、迷うことはやめていた。たとえどんな状況になっても、躊躇わず選択をし続けることが肝要だった。
目配せをしてきた、一番付き合いの長いポケモンにむかって、鋭く指示を出す。
「ガブリアス、りゅうせいぐん!」
それは祈っているようにも見えた。
ガブリアスは両手を合わせて、力を集中させる。そして彼女の体内から、赤い光が飛び出してきた。どんどんそれは大きくなっていき、仰ぐような体の動きによって空へと撃ち出されていく。
光はさらに膨張する。そして、構成している要素が一変していった。実体を持ち始める。徐々に岩石が発生していき、大きな光を覆い尽くしていった。
出来上がった岩は、いくつかの欠片へと分かれていき、ほぼ同時に降り注いだ。それは暴力の雨だった。受けた存在は、ひとたまりもないだろう。
しばらく、土煙が上がり続けていた。シロナは意識を張り詰めさせながら、そこから何が飛び出してきても対応できるようにする。ルカリオ達も、油断なく煙が晴れるのを待っていた。
もはや公園は、廃墟へと変わり果てていた。
虫はほとんど生き残っていない。
まだ辛うじて体を残している一体が、口を大きく動かした。そこから、人間が吐き出される。黒スーツを身に着けていない、普通の男性だった。シロナには見覚えがある。彼女と同じく、初めてこういう状況に巻き込まれた者の一人だった。
既に、何をすべきなのかはわかっている。男性は、かなりの血を流していた。すぐに処置をしなければ、手遅れになってしまう。
「大丈夫ですか!」
走り出しながら、憤慨も大きくなっていた。傷ついている人がいるというのに、周りの男達は動こうとすらしない。たとえどんな事情があるにしろ、彼らと深くは関われない気がした。どう考えても、シロナと根本的に食い違っている。
男性は、震えながら這いずってくる。頭から血を流し、何かを言葉にしようとした。彼女はとにかく彼を助け出そうと、息絶えた虫を通り過ぎる。
満身創痍の男は、叫ぼうとしたらしかった。だが、結局何を言いたかったのかわからなかった。言葉の代わりに、その喉が大きく裂かれる。派手な赤色をした虫が数匹シロナに向かって飛び出してきた。
今度ばかりは、彼女も怯んだ。気が抜けていたせいもある。もう全滅したのだと、すっかり思い込んでいた。
彼女の長い金髪が、ぶわりと舞い上がる。かなりの風を受けて、大きく流れていた。
シロナは、ほっと息をつく。
彼女を抱いているガブリアスは、完璧な着地をした。もう、公園の敷地外に出ている。
マッハポケモン。
その呼び名に恥じぬ動きしたのが嬉しかったのか、シロナに向けて得意げな笑みを向けてきた。まだ心臓がばくばくと鳴っていたが、家族に助けられたとようやく実感できて、泣きそうになる。自分の情けなさに対する怒りも、混ざっていた。
「ごめんね。ありがとう、ガブリアス」
爆発音がした。
シロナは生暖かい感触に包まれる。妙な臭いをかぎ取る。
憶えはあった。
彼女が小さかった頃だ。まだ進化前の、フカマルだったそのポケモンが、何かのはずみで指の一本浅く切ってしまったことがあった。その頃から応急処置について熱心に学んでいたシロナは、すぐに手当てをした。その時わずかにかいだ、血の臭いが充満した。
「ガブリアス?」
目の前の視界が開けている。抱きしめられているのだから、相手の顔で前が見えないはずだった。
大きく、呼吸をする。それでも力が抜けて、その場に座り込んだ。
ガブリアスの体から、赤い虫が出てくる。それもまた、ほとんど欠損していた。自分の身を爆発させたことで満足したのか、全ての個体が息絶える。
落ち着いて。
シロナは自分に言い聞かせる。
こういう時は、どうするんだっけ。
まだ働こうとしない頭で、次の行動を決める。シロナは懐からモンスターボールを取り出した。開いた口をガブリアスに向けながら、操作をする。
すぐに、持っていけばいいのだ。彼女は自分の考えに自信があった。もはや正常ではない精神状態で、ポケモンセンターのことを思い浮かべる。きっと、治してくれるはずだ。
何も起きない。
何度ボールを動かしても、体を戻っていかなかった。既に三分の二ほどが欠損しているガブリアスは静かに転がっていた。おびただしい量の血が、シロナの膝を濡らしていく。
悲鳴が上がる。
杏は、出会ったばかりの年下の女性は、別にガブリアスの方を見ているわけではなかった。その瞳はすぐに虚ろになっていく。何も映さなくなっていく。
「なんや、結局星人やんけ」
彼女の胸を潰したルカリオは、口の端から涎をこぼした。そして、鳴き声を上げる。それは、今まで一度も聞いたことがないようなものだった。明らかに異常な吠え方をして、はどうを操る頼れるポケモンが動き出した。
やめて、と思った。シロナは周りの音が全て遠くなっていくのを感じていた。
男たちが、何度も道具を使う。
ぎょーん、と駆動音が重なっていく。
「速いぞ」
「これじゃ当たらん、あれ使えあれ」
「何点?」
「……出た。五十五。まあまあや」
「欲しいなあ。ちょうど一回クリアーできそうやねん」
「知るか、早い者勝ちや。にしたって今回は小粒やな。ボスでこれかいな」
耳に、衝撃を感じる。
シロナは気が付くと、自分が塀に叩き付けられているのがわかった。呼吸が止まる、涙が出てくる。そして、片耳がもぎ取られていることに気がついた。
からん、と付けていたピアスが落ちて、砕ける。かなり思い出のある品だった。売ってはいない。シロナが個人で店に頼んで作ってもらったものだ。ルカリオの耳を模したもの。これで彼とお揃いになると、喜んでいた記憶がよみがえってきた。
ルカリオは唸っていた。シロナの耳を横に投げ捨てながら、笑う。
どこか様子が違っていた。彼の目は焦点が合っておらず、耳穴から細長い触手が飛び出している。だらりと垂れ下がった舌は変色していて、そこから小さな目が生えていた。
博士の。
シロナは血の感触を頬で感じる。
博士の教えが、今こそ役立つ。
思考を止めてはならない。諦めてはいけない。
あらゆる物事に対して、受容、整理、分析の順で臨むこと。
受容。
ある寒い冬の日。遭難しかけたことがあった。その時シロナはまだ子供だったから、同じくらい未熟なポケモン達と何とかして助け合うしかなかった。
木の実を、フカマルと分け合った。その時の思い出は、ガブリアスとなった今でも大切にしてくれていた。定期的に、彼女とシロナは同じ木の実を分け合って、時間をかけながら食べていた。
受容。
殺している。
殺した。
ルカリオが、人を殺した。
知り合ったばかりの女性は、目を開いたまま息絶えていた。ルカリオの容赦のない拳は、臓器を完全に破壊していた。
受容。
ガブリアスの頭がない。どうして?
目を覚ましてくれない。ボールに、戻ってくれない。自分は、嫌われたのだろうか。パートナーとして、認めてくれなくなったのだろうか。
受容。
子供みたいで恥ずかしいと、考えていた。
まるで子供だ。突拍子もない悪夢に情けなく参っている。段々と呆れてきていた。こんなことが、あるはずがない。夢に決まっている。さっさと目覚めればいいのに。シロナは、自分の寝坊癖が再発したのかと危惧した。いつまで妄想を真面目にとらえているのか、情けなく思った。
受容。
目の前のポケモンだったものが止まる。足が震え始める。
「わう…くううん、うう…」
ルカリオは、自身の手を何度も殴りつけていた。血が出ても、繰り返していた。やめてほしい、とシロナは強烈に思った。そんなに苦しそうに泣いていたら、こっちも悲しくなってきてしまう。
胸に熱いものが込み上げてきた。
「ルカリオ」
「くううん、くうううん……」
「ルカリオ、頑張って! お願い、戻ってきて。正気にもどって…」
彼女は、我慢ならなくなって、抱き着こうとした。その肌に直接触れて、力を分けてあげたかった。とにかくそれだけを考えていた。
首が、落ちる。
男達が悔しそうに声を漏らした。
「おいおい、結局岡に美味しい所もってかれたやん」
ルカリオの切断された頭に向かって、バツ印の道具が使用された。
肉の弾ける音がする。
シロナは下を向いて、吐いていた。涙も一緒に流れていった。同時に、体の全ての機能が溶けて、地面に沈んでいくようだった。
「画像と、全然ちゃうな。しょうもな」
目だけを上げて、確認する。
ばちばちと音を出しながら、男が出現するところだった。
細目の男だ。癖のある髪の毛をそのままにさせていて、日焼けしたような肌は眼光の鋭さを少しも和らげてはいなかった。血に濡れている黒い剣をしまうと、シロナを一瞥する。
そして踵を返し、通りの奥へと歩いていった。
オカ、と呼ばれていた男が見えなくなるまで、彼女は顔を上げ続けることができなかった。目の前が歪んでいく。体全体が、押し潰されるようだった。
放心しているせいで、自身に起きている異常にも驚かなかった。両足は、既に消えている。その消失はどんどん上へと侵食してきて、やがて視界が移り変わっていった。
シロナは壁に寄りかかりながら、膝に顔をうずめていた。
前にも聞いた、抑揚のない音声が響いている。何やら色々な内容を含んでいるようだったが、何も頭に入ってこなかった。
「おいガンツ、どないなっとるんや」
オカという男が、黒い球体を蹴っている。それに対して他の者達がからかいを浴びせているが、まるで遠い世界のように感じた。特典、という言葉がルカリオを殺した男の口から発せられる。その意味も、わかろうとしなかった。
さらに事態は進行していく。
さいてん、というものが始まったらしい。シロナは耳を塞いだ。強く両手を顔の側面へと押し込んだ。それでも、耳障りな音声は入り込んでくる。完全に遮断することはできない。
「姉ちゃん、筋良いな。三十点ゲット」
黒スーツを着ている者達しか、生き残っていなかった。前よりも随分と部屋の中は広くなっている。
どうやら、終わったようだった。男達は続々と扉の外に出ていく。ジョージが話しかけようとしてきたが、途中で止めていた。つまらなそうにシロナを見降ろしてから、短髪の男と談笑しながら出ていく。
最後に残ったのは、バイクに乗っていた若い男だった。シロナを数秒眺めてから、足を動かし始める。
「はあ? わけわからん!」
サングラスの一人が、憤慨したように戻ってきた。
若い男が怪訝そうに尋ねる。
「なしたん?」
「玄関、開かへん。まだ俺ら、閉じ込められてる」
陽気な音楽が、鳴った。
それに悲鳴を上げる余裕もない。シロナはひたすら床に視線を落として、夢が覚めるのを待っていた。サザナミの海岸の音がやってくるのを待っていた。
黒スーツ達が全員戻ってくる。彼らのほとんども、あまり状況を理解していないようだ。
「嘘やろ。連続か」
「今まであった?」
「いや。おい岡、こんなパターンもあんのか?」
ジョージに訊かれると、癖毛頭の男は肩をすくめた。
「さあ、知らん」
再び、球体から声が流れていく。
シロナはさらに聴覚から逃げた。前にいた、今はもう死んでいる者達のように、情けなく怯えることはしない。だが、彼女はそれ以上の逃避をしているかもしれなかった。あらゆる感覚を拒絶したがっていた。
音声が耳を通り、何も残さず流れ落ちていく。
そのはずだった。
『この方をヤッつけに行ってくだちい。
ぽけもん』
世界が、ばらばらになっていく。
ひどい頭痛が彼女をぎりぎり正気にとどまらせていた。
「今度は五体か。……ん?」
シロナは、顔を上げる。
そして前を見た。