「幽々子様、朝ごはん作りましたよー」
朝食を作り終え、幽々子様に持っていきながら考えていた。あの男の子を見つけてから一日経った。私はもうすぐ彼を引き取ることになるが、その先どうすればいいのか。妹紅は気にしなくていいと言っていたが、きっと妹紅も考えているのだろう。とにかく何をするにしても、あの子がどうしてここに来たのかをまず知らなくてはならない。妹紅と早く話し合いたい気分だ。
「あれ、妖夢食べないの?」
幽々子様に不思議そうな目を向けられ、私はあたふたしながらなんとか謝り、ご飯を食べ始めた。もう今日は妹紅に会うまで、このことを考えるのをやめようと思った。ずっと考えていてもキリがない。
「ご馳走様でしたー!やっぱ妖夢ちゃんのご飯はいくらでも入るわー♪」
「いや、早すぎますよ幽々子様、そんなに早食いすると太りますよ?あ、幽霊だから太らないのかぁ…」
「ええそうよ、だからお代わり頂戴!」
「お昼沢山作るので我慢してくださいー…」
「わかったわよぉ」
こんな日常の会話ももしかするとこの一週間で終わってしまうかもしれない。今を大切にすることが大事だと。妹紅にも伝えてあげなければならないな。
「お昼前には帰って来るのでちょっと外に行ってきますね」
幽々子様は笑顔で答えた。
「いってらっしゃい」
私は一人で、何故か分からないがもう慣れてしまった迷いの竹林の前までの道を早足で歩いていた。
彼が今何歳くらいなのかも分からないし、どのような性格なのかも分からない。私は彼を引き取るまでのこの間にできることを見つけようとした。
「おはよう妖夢」
気づけば目の前には妹紅がいるではないか。
「おはよう」
「今何か考え事してたね、きっと彼の事考えてたんでしょ」
そう妹紅に突かれ、私はこくりと頷いた。
「私たちが、彼を引き取るまでの間にできることは何かないかなって思ってて」
そう言うと妹紅はニコリと笑って人差し指を立てて言った。
「そうだろうと思っていたよ、私にいい考えがある」
「よかった、このまま何もしないのはちょっとあれかなって思ってたんだよね」
すると妹紅は笑ったまま続けた。
「それだよそれ、何もしないの」
「えっ!?」
私は思わず立ち止まってしまった。
「多分彼を引き取ってから私たちはとても忙しくなる、だから今のうちにしっかり平常を覚えるんだよ」
私は『平常を覚える』という言葉の意味がしばらくよく分からなかった。妹紅はさらに続けた。
「彼が来てからの生活は、平常ではない。あくまでも外から来たばかりの人間なんだからね。あとはあまり準備されすぎても向こうが困っちゃうだろ?」
妹紅の説明を聞いて私は朝のことを思い出した。幽々子様と話していて気づいたこと。こんな日常の会話ももしかするとこの一週間で終わってしまうかもしれない。今を大切にすることが大事。
「そうだね、私のいつもを忘れないように。幽々子様と笑顔で過ごせる日々を忘れないようにね」
妹紅は私の手を取り言った。
「人里で団子買ってきたから早く食べよう、話はそのあとだよ」
「うん」
私たちは色々な世間話をしながら妹紅の家へ向かった。
「じゃあいつも通りお茶を出すから待っててね」
そう言うと妹紅は台所へ行った。
「気楽に、か…」
今の私に、彼がプラスされるだけ。今の幸せを離してはいけない。なるほどその通りだ。妹紅をこれからも信用していっていいのかなと少し思った。とするとあの時の話は…
「よし、出来たよ」
妹紅がお茶と団子を持ってきてくれた。
「ありがとう、いただきます」
「うん、私のお気に入りだよ」
妹紅もそう言うとすぐにパクリと団子を食べ始めた。ゆっくりといつもの時間が二人の間に流れていた。
今回も読んでくださりありがとうございます!
前回と対照的に、あまり心情変化の激しくない回となりました。読みづらいかもしれません…