戦姫絶唱シンフォギア ―錬金術と音楽の交響曲― 作:わらぶく
よろしくお願いします
ヒュパティアという錬金術師
「迷惑をかけるね、君には」
「いえ、サンジェルマンたちが居ない間、私が統制局長の面倒を見るように言われているので」
「相変わらず心配性だね、サンジェルマンは。それで、聞かせてもらおうか、結果をね」
「分かりました」
散らかったアダム統制局長の部屋の中、私ははぐれものの錬金術師捕縛の任務結果をまとめた書類を差し出した。統制局長は少しの笑みを浮かべながら書類を受けとると、中身に目を通し始める。
統制局長が読んでいる間、私は何故か部屋に置かれた鏡で自信の体を眺めていた。
手入れもせず伸びきったボサボサの青い髪。
低い身長と肉付きのよくない細い四肢、少しだけ痩けた頬は他所から見れば病人のようで。
血のように赤黒く濁った光の無い瞳は、自分でも気味悪く感じるほど。
唯一、綺麗なのは錬金術師協会から支給された黒のローブだけ。これだけが、私の気味悪さを隠してくれる。
これが、錬金術師『ヒュパティア』の哀れな体。
……私の体だ。
「なるほど。一応、聞かせてもらっても良いかな、君の口からもね」
「はい」
面倒くさい。
けれど、これも任務の内だ。
「英国に逃げ込んだ錬金術師は、アルカ・ノイズを召喚し逃亡を図りました。撃破した後に追撃、追い詰めましたがそこへ武装勢力が出現。正目的の捕縛は不可能と判断しましたので、準目的の討伐へと変更したと言う流れです」
「迷惑をかけたね、君には」
「いえ、はぐれ者共は私たち錬金術師の面汚し。最優先で消されるべき汚物です。ですが――」
「手は差し伸べる、一応は。赦すことも必要だ、改心した者にはね」
「……そこまで人が出来ているなら、ご自身の身の回りの整理をお願いします。1日私が居ないだけで、ここまで部屋を乱されると追い付きません」
「耳が痛いね、こればかりは。改善しようと思うよ、いつかね」
「はぁ……。アダムスフィアが盗まれたときのように、再びサンジェルマンたちに迷惑をかけないようにしてください」
……アダム・ヴァイスハウプト統制局長は、物の片付けが全くと言っても良いほど出来ない。私がこの人の部下になって既に何百年も経つが、何度言ってもこれだけは昔から絶対に直してくれない。
正直言ってしまうとかなり迷惑。管理は出来ないし、セキュリティはガハガバですぐ盗まれるし、部屋は散らかすし、いきなり服は脱いで真っ裸になるし。
いろんな悩みで頭を抱えそうになっていると、いつのまにか立ち上がっていた統制局長が私の側に。無駄に良い顔が近付いてくるのを、私は目を追った。
「良いんだよ、言いたいことがあれば。とても信頼できるからね、君の言葉は」
「遠慮は無しでも?」
「もちろんだ」
「なら言わせてもらいますが、統制局長はご自身の力と地位を今一度改めて認識してください! 悪用すれば国1つ容易く滅ぼす力と、今居る錬金術師たちを束ねる錬金術師協会統制局長と言う地位! それはあなたの人徳と良心、そして目指すべき理想があるからこそなのですよ! 他者を引き寄せるカリスマを持ちながら、このようなだらしないことばかり――ッ!」
私がどんな顔をして居るかはわからないが、おそらく鬼のような形相にでもなっているのだろう。これまでの不満をぶちまけるようにまくしたてながら、統制局長に詰め寄っていく。
実はと言えば、これで不満を爆発させるのはもう356回目。いや、357回目だったかな。こうやって、統制局長に不満を爆発させることが、私の長い長い人生の1つとして組み込まれた。バカみたいな問答だが、統制局長もどうせ聞いていないのでストレス発散としては丁度いい。
「わかった、わかったよ。これ以上は良くない、君の体調に」
「誰のせいだ、と――ッ」
頭に血が上がりすぎたせいか、元から貧血気味の私は体をふらつかせてしまった。統制局長が体を支えてくれたお陰で立っていられるが、このままでいるのが辛い。早くふかふかのベッドで眠りたい。
ああ、だんだん体が重くなっていく。
1度尻餅をついてしまおうと体から力を抜くと、いきなり私の体が浮き上がった。急な浮遊感に五臓六腑がヒヤッとしたが、すぐに統制局長が持ち上げているのだと理解する。
それも、以前雑誌で見たお姫様抱っこと言うやつで。
「眠るといい、ぐっすりと。運んであげよう、部屋までね」
「……お手数をおかけします」
「構わないよ、これぐらいは。世話をしてくれるからね、ヒュパティアは」
私は、暖かい統制局長の腕の中で意識を落とした。