戦姫絶唱シンフォギア ―錬金術と音楽の交響曲―   作:わらぶく

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二課との初遭遇

「さて、と」

 

 私は今、日本と言う国の首都圏に来て、何かとても大きいタワーの頂点から町並みを見下ろしていた。

 雲が空を覆い月の明かりさえ射し込まない曇天だと言うのに、見渡す限りのコンクリートジャングルから灯されている電気の光が、辺りを眩しく思えるほど照らし出している。

 

 流石は現代技術といったところか。

 こんなにぎっしりと人が詰められた所でアルカ・ノイズを放とうものなら、数え切れないほどの犠牲者が出るだろう。錬金術師協会から逃げ出した者がそんなことを起こすなんて、なんとも嘆かわしい。

 ただ、今は宿泊先の確保が最優先だ。

 寝るところがなければ、行動することさえ難しい。

 

「最初は宿探し」

 

 真っ先に向かったのは、ノイズによる災害によって人が居なくなった旧都市部。華やかな都市部とは違って、電灯が何一つ点いておらず鬱蒼とした印象を覚える。

 ここは廃墟となったビルばかりだ。誰も近寄らないところに拠点を構えても、何の迷惑にはなりはしないだろう。

 

 なんて考えていたそんな時だった。

 

 ――プルルルルルッ!!

 

 夜の廃墟街に鳴り響く電話の音。足元を見てみれば、1個の黒電話があった。今日の統制局長の気分は黒電話らしい。

 私は受話器をあげると耳に当てた。

 

「もしもし、こちらヒュパティアです」

 

『やぁ、ヒュパティア。見つかったかな、はぐれ者たちは』

 

「いくらなんでも気が早すぎます。日本に来てから来てからまだ1時間ぐらいですよ」

 

『そうか。もう見つけたかと思ったよ、仕事が早い君のことだからね』

 

「冗談が過ぎます、局長は。見つかり次第、こちらからまた連絡しますよ」

 

『信頼してるよ、長い付き合いだからね。嘘は吐かないように、決して』

 

「わかってますって」

 

 通話が切れ受話器を置くと、黒電話はぼふんと煙を出して姿を消した。

 統制局長から『早く終わらせてくれ』と言われているように感じた私は、少しだけ早足で廃墟になったアパートの一室に入った。慌てて逃げたのか、扉は壊されタンスなどの家財だけが残っているが、埃の積もり具合から見て数ヵ月は人が戻っていないようだ。

 これなら人は当分来ないだろう。

 

「……さてと、ここが当分の宿か。少しだけ改造して、住み心地よくさせてもらおう」

 

 部屋の中を全てひっくり返して家財をかき集め、最低限必要なものを組み立て作っていく。こうやって自分の宿を造り上げていくのは、任務中の少ない楽しみだ。

 作業台を作り、物置机を作ってカバンを置き、ボロボロの布を強いて簡易ベッドを作り寝床を作成。部屋にワープ先の印をつければ完成だ。これで、ワープ先にこの廃墟にいつでも飛べる。

 後はアルカ・ノイズ検知用の結晶を置けば、はぐれ者が出したアルカ・ノイズの元へと向かうことが出来る。 

 

 簡易ベッドに横になり、眠くもないが目を閉じた。少しでも睡眠をとって体を休めたい、明日からの任務のために。

 

 そう意気込んで眠り、次に目を覚ましたのは誰かに肩を揺らされてからだった。

 

「おい、起きろ。何でこんな所で寝てるんだ」

 

 男口調の女声。

 最初こそは無理やり起こされて寝惚けていた私だが、何度も揺らされていれば意識がゆっくりと覚醒してくる。目はすぐに開けなかったが、おそらくはこの部屋の主だろうと睨んでいた。

 逃げ出したやつが今さら帰って来たのかと思っていたが、考えてみれば私の方が侵入者。怒るのも当然か。

 

「おいヒュパティア、さっさと起きろ。それとも、頭に岩でも叩き込んでやろうか」

 

 ……どうして、私の名前を知っているのか。

 まだ少し重いまぶた開け私を名前を呼ぶ正体を見てみれば、なぜ知っているのかの理由をすぐに理解した。

 

「……なぜ、こんなところにいるのですかキャロル。あなたは協会で、ずっと研究ばかりしていると思っていたのですが」

 

「お節介な統制局長から、お前を補助をするように言われたんだ。お前がちゃんとファウストローブを使えるか、報告書にまとめるようにも言われている」

 

「なるほど、つまりは監視と。まぁ良いですよ、キャロルと一緒なら」

 

「そうか? 誰が監視でも変わらないと思うが」

 

「いえ、キャロルだと小さな子供がついてきているようで、少し面白いので」

 

「な、な――ッ!?」

 

 キャロルは顔を真っ赤にすると、目をつり上げて怒りの表情を露にした。

 

「オレが子供だと言いたいのかッ!? 訂正しろッ! 今すぐその言葉を訂正しろッ!!」

 

「しません。だって、私より600ぐらい年下じゃないですか。私から見れば、キャロルは身長的にも、年齢的にも子供のようなものですよ」

 

「ナリの話なら、ダウルダブラを使えばどうとでもなるッ!」

 

「あ、ダメですよ。まだ思い出に変わるエネルギーを発明できてないんですから。私のことを忘れられると困ります。また、説明するのはしんどいので」

 

「ぐぅッ……!」

 

「ふふっ♪」

 

 相変わらず、キャロルをからかうのは面白い。

 想像通りの反応を返してくれるため、見て聞いていても飽きが来ない。もう少しからかい続けてみようか。

 

「もういい! 心配して来たのがバカみたいだッ!」

 

 キャロルが腕を組んでそっぽ向いてしまった。

 からかうのは、どうやらここまで。

 体を起こし寝癖をついた髪を手櫛で直しながら、キャロルの居る方に体を向けた。

 

「すみません、つい面白くなってしまって。でも、キャロルが来てくれたことは、本当に感謝しているんですよ? ありがとうございます、わざわざ来てくれて」

 

「……ふん」

 

 むくれたキャロルもまた可愛い。

 帽子をとって頭を撫でながら機嫌を取る。ずっとやっていると手を叩かれてしまったけれど、満更でもなさそうだった。

 

「そうだ、オートスコアラーたちはどうしました?」

 

「……あいつらにもう戦闘機能は付けていない。もう二度と、傷付いてほしくないのでな」

 

「やさしいですね。後はプレラーティと――」

 

 仲直りと言いかけたところで、部屋の中が真っ赤な光で埋め尽くされた。昨日置いた結晶が光り輝き、アルカ・ノイズの発生を知らせている。

 

「……朝からとは、何ともお元気です。まだ朝食さえ食べていないのに」

 

「オレも行く。ファウストローブが無くとも、ノイズ程度弊害にもならん」

 

 ローブのポケットにある入れ物からサプリメントを3粒取り出し、瓶の水で飲み込んだ。

 

「では、行きましょう」

 

 ローブを着直し結晶を持って、廃屋から出た私たちはすぐに現場へと向かった。

 

 

 

 

 

「おのれッ! 貴様が追ってくるか、試験要員! 試験失敗で死んでいれば良いものを!」

 

「生憎と、死神には好かれているようですので」

 

 旧市街地からそう離れていない居住区に、はぐれ者共は居た。100を超えるアルカ・ノイズを召喚し、町を襲っている。まだ犠牲者は出ていなかったが、まもなく出るだろう。

 私はローブの内側に隠していた刃渡り30センチ程の小さい剣を抜くと、切っ先をはぐれ者に向け警告する。

 

「武装を廃棄し、丸腰で投降しなさい。そうすれば命だけはとりません。人としての尊厳は無くなるかもしれませんがね」

 

「堕落した貴様らの言うことなんぞ聞けるわけがないだろう! アルカ・ノイズに始末されると良い!!」

 

 更に追加で200以上のアルカ・ノイズが召喚された。

 これ以上の降伏勧告は無駄か。

 

「ならばその首を切り捨てるまで。キャロル、あくまでもはぐれ者を殺さないように援護を」

 

「任された。オレの錬金術を見せてやろうッ!」

 

 キャロルの周りに魔力が集まり始める。

 それにより、何もない空中に槍の形に変化した水が現れ始めた。

 

 それを確認した私は、剣を構えはぐれ者へと駆け出した。

 

「たかがファウストローブも使えぬ錬金術師! アルカ・ノイズの物量に轢き潰されると良いッ!!」

 

 今までこちらを見て制止していたアルカ・ノイズたちが、号令により一斉に押し寄せる。そこへ、キャロルが作り出した水槍が突撃。前衛のアルカ・ノイズたちを赤い塵へと変えていった。

 

「進め、ヒュパティアッ!」

 

「お膳立て、ありがとうございます」

 

 私は突入する。

 ローブと体を舞わせながら、剣でアルカ・ノイズを真っ二つに。

 時には突き刺し、刃の面で叩く。

 側面と上空から距離を詰めてくるのは、キャロルの水槍で貫かれていった。

 

 前面に構える無数のアルカ・ノイズの合間から、縄のように細くなったアルカ・ノイズの突撃が始まった。

 身を翻し、隙間を縫うように回避。

 キャロルからの水槍の援護をもらい、再び前進を開始する。

 

「しぶとい奴らめ!」

 

 私ははぐれ者へ一直線に向かう。

 最低限のアルカ・ノイズだけを切り裂き、前へ、前へ。

 

「チィッ! おかわりだ!」

 

 砕かれた結晶から更にアルカ・ノイズを召喚。

 少し見えていたはぐれ者の姿が、再び埋もれる。

 

「アホみたいに出して、在庫が無くなっても知りませんよ」

 

「構うものか! 貴様さえ殺せば錬金術師協会の戦力は減る!」

 

「なるほど、そうですか」

 

 辺りにノイズとはぐれ者以外の気配を感じない私は、キャロルに呼び掛けた。

 

「キャロル!」

 

「ああ、アルカ・ノイズなんぞ、全て焼き付くしてやろうッ!」

 

 束ねられたキャロルの魔力は炎へと変わった。

 私はその場にしゃがみ防護障壁で身を覆えば、辺り一面が炎で埋め尽くされていった。

 飲み込まれたアルカ・ノイズはその姿を保てず、赤い塵になっていく。

 

 たくさん居たアルカ・ノイズは消え去り、私は防護障壁を消して駆け出す。

 はぐれ者は、目と鼻の先にまで迫っていた。

 

「捉えました」

 

「き、貴様!」

 

 驚いた顔でこちらを見るはぐれ者。

 私はすぐ側まで接近し、首を掴んで地面に倒した。

 

「がは――ッ!?」

 

「捕まえました。さぁ、お縄についてもらいますよ」

 

「く、クソッ!」

 

 はぐれ者がローブの左袖に隠していたナイフを取り出す。

 もちろん、そんなものを見逃すわけがない。

 左手の平に剣を突き刺し、動けないようにした。

 

「ガッ、ガァァ――ッ!?」

 

「全く、無駄な抵抗はしないでもらいたい。次は握れないように指を切り落としますよ」

 

「ひ、人でなしがァ!」

 

「アルカ・ノイズに人を襲わせるあなたが言いますか。キャロル、足の皮膚を炙ってください」

 

「……ああ」

 

 弱火、といっても人の肌を焼くには十分。

 近付けられた火ははぐれ者の肌を少しだけあぶり、表皮を焦がしていく。

 はぐれ者の顔は苦痛に変わった。

 

「や、止めてくれぇッ!!」

 

「では、残りのはぐれ者たちを言ってください。居るのでしょう、仲間たちが」

 

「言う、言う! だからもう焼かないでくれ!」

 

「よろしい、では居場所と目的を――」

 

「ヒュパティア、避けろッ!」

 

「なっ――」

 

 キャロルに首根っこを捕まれ、仰向けに倒される。

 何だ何だと体を起こしてみれば、飛行型のアルカ・ノイズが槍になって男に突き刺さっていた。

 

 キャロルは素早くアルカ・ノイズを焼き倒したが、はぐれ者は赤い塵となって消えてしまった。

 

「情報を引き出す絶好の機会だったのですが……」

 

「仕方ない、次の機会の待てば良い。統制局長からは、期間は言われてないのだろう?」

 

「まぁそうですが。機会を逃すのは腹が立ちます」

 

「……次からはオレに、火炙りはさせないでくれ」

 

 とは言え、さっきのことではぐれ者たちが組織だって行動していることがわかった。

 後は尻尾を掴むだけ。

 それにしても、情報を吐かれそうになったら始末するとは、今回の組織はなかなかに非情。かなり苦戦しそうだ。

 

「そう言えば、気になっていたんだが」

 

「はい?」

 

 色々と考えていると、キャロルのローブの袖先を引っ張られた。

 

「なんで、あんな廃屋で過ごしているんだ?」

 

「何でと言われても、あそこが良さそうと思っただけですが」

 

「……理解した。ただ、そろそろ二課の奴らが来そうだぞ」

 

「二課?」

 

 小さなプロペラ音が耳に入る。

 それは次第に大きくなっていき、頭上に真っ黒なヘリがやって来ていた。

 

 ――Croitzal ronzell Gungnir zizzl

 

 チラリと見えた人影は、聖詠(うた)を伴って飛び降り光を纏う。

 

 白と赤のシンフォギアを着て降りて来たのは、赤い髪の女だった。警戒心を露にして、槍を構えている。

 

「その姿は錬金術師か。これは、アンタの仕業かい?」

 

「いえ、我々は――」

 

「その事は、オレから言えばわかるだろう」

 

 私の後ろから、キャロルが言葉を遮って前に出た。

 キャロルの姿を見た途端、女の顔が柔らかくなり警戒心が消えていく。

 

「お、キャロルじゃないか。と言うことは、アンタたちがアルカ・ノイズを退治してくれたんだな」

 

「ヒュパティア、シンフォギア装者の天羽奏だ。一応、味方の部類に入る」

 

「ああ、なるほど。サンジェルマンの報告書にあったシンフォギア装者の天羽奏は、あなたのことでしたか」

 

「何だい、アタシは錬金術師にも人気になってるのか?」

 

「ええ、もちろん。聖遺物『ガングニール』と『ブリーシンガメン』を同時起動することが出来るあなたは、間違いなく人気者ですよ」

 

「錬金術師相手に人気になっても、あんまり嬉しくないね。それでキャロルがさらっと言ってたが、アンタの名前を聞いてもいいかい?」

 

「ヒュパティアと、覚えていただければ」

 

 以前見た報告書には写真が付いていなかったが、なるほどこれが天羽奏か。聖遺物とブリーシンガメンを同時に操る、特異物のような存在。

 実物を見るのは、これが初めてだ。

 

 ――ピピッ、ピピッ!

 

 女の耳にある無線から、音がなった。

 

「少し待ってくれ、すぐ終わるから」

 

 女は私から目を話さないようにしたまま、無線での会話を始めた。会話は30秒ほどで終わり、女はこっちに話しかけてくる。

 

「弦十郎のダンナが、あんたたちを二課に呼んで欲しいと言ってる。来てくれるか?」

 

「受けても問題はないが、ヒュパティアに任せる。どうする?」

 

「私の一存では何とも。統制局長に聞かなければ」

 

 ――プルルルルルッ!

 

 噂をすれば何とやら。

 

「よろしいですか?」

 

「ああ、構わないよ」

 

 足元に現れた黒電話を取り受話器を耳に当てる。

 

『やぁ、困っているようだね、判断に』

 

「二課と呼ばれる組織と接触しました。基地に来てくれと言っていますが、どうしましょう?」

 

『一度協力関係になったことがあるんだよ、二課とはね。信頼しても問題ないさ、彼らの言葉は。どうするかは任せるよ、君の判断にね』

 

「……それは、出る前に言っていただきたかったのですが」

 

『てっきり知ってるかと思っていたよ、君はサンジェルマンの報告書を見たはずだからね』

 

 ……見逃していたか?

 思い返せば、報告書を見たときは体調が悪く、人の名前と概要をざっくりとしか見ていなかった。更に言えば、ブリーシンガメンの記載に目が行き過ぎて他をほとんど覚えていなかった……。

 

「……すみません、こちらの不手際です。気を付けます」

 

『いや、こちらにも非はあるよ、口頭で伝えていなかったからね。次からは、気を付けるとしよう』

 

「では、協力の方で決めたいと思いますが、よろしいですか?」

 

『構わないよ、君の意思ならね』

 

 少しため息をしながら、受話器をおろす。

 姿を消した黒電話を横目に、私は天羽奏と向き合った。

 

「では、そちらにお邪魔させていただきます」

 

「決まりだな。じゃあ、ヘリに乗っていくぞ」

 

 着地したヘリに乗り込み、外の景色を眺めながら二課の基地へと向かった。

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