戦姫絶唱シンフォギア ―錬金術と音楽の交響曲― 作:わらぶく
通されたのは、学校の下にある秘密基地だった。
50人は乗れそうなほど大きなカゴ型のエレベーターに乗り地下へと降りれば、地上の学校が飾りかと思うほど立派でハイカラな通路に出た。
回りを囲む黒服たちと共に通路を進んでいけば、職員らしき男女に見つめられる。
ここの職員たちと比べてみれば、私のローブ姿が珍妙に思えてくる。それは以前の英国でも同じだった。
かれこれ、数百年は変えていないファッション。
少しは、ここの基地に習ってハイカラな服を身に纏ってみようか。
「なぁ、アンタの名前ってヒュパティアだっけ」
右斜め前を歩く天羽奏が、首と目だけをこちらに向けて話しかけてきた。
「ええ、そうですが」
「何か言いにくいんだよね。仲間の錬金術師たちからは、なんて呼ばれてるんだ?」
「ヒュパティア、もしくは実験要員と。それ以外呼ばれることは滅多にありません」
「後ろ3文字のティアで呼んでいいかい? こっちなら、まだ言いやすいからさ」
「構いませんよ、私が理解できるのなら、どうにでも」
「じゃあアンタを呼ぶときは、ティアって呼ぶ。アタシを呼ぶときは、奏で良いよ」
「わかりました」
互いの呼称を決めたところで、協会でいう統制局長室の様な大広間に着いた。席に着いている職員たちはそれぞれの情報端末と向かい合い、各々の仕事をこなしている。
忙しそうな中で、赤のシャツに背広、白のズボンを着た、いかにも屈強そうな男が私とキャロルを迎えた。
私は顔を隠していた
「ようこそ二課へ。キャロル君は以前にも会ったな」
「ああ、そうだな」
「俺の名前は風鳴弦十郎だ。キャロル君と隣の君が今回アルカ・ノイズを倒してくれた錬金術師だな。既に錬金術師協会の方から話は聞かせてもらっている。ここにいる者たちを代表して礼を言わせてほしい、ありがとう」
「礼は構いません。私はヒュパティア。アダム・ヴァイスハウプト統制局長からは、どの程度話を聞いていますか?」
「君が悪事を企む錬金術師を捕まえに来てくれたと聞かせてもらった。アルカ・ノイズを召喚し、民間人に危害を加える者はこちらとしても許せない。是非、協力したいと思っている」
そこまで話がいっていたら、こちらから説明することはほとんど無い。
「では、利害が一致したので、今回の任務では協力といきましょう。統制局長から警察につき出すよう言われているので、捕まえた後のことは任せます。ただ、こちらのすることにはあまり口を出さないようにお願いしますね」
「わかった。ただ、あまり目に余るものだったら、こちらから言わせてもらうぞ。この国にはこの国の法律がある」
「流石にそこまではしません。多少尋問だったりはあるかもしれませんが、所詮はその程度。ご迷惑はおかけいたしません」
そう言うと、風鳴弦十郎は笑顔で頷いた。
隣では、怪訝な顔をしたキャロルが疑いの目線をこちらに向けていた。
「……お前の言葉はあまり信用できないんだが」
「何を言いますか。私は基本、嘘は吐かない主義ですよ」
「どの口が――」
「ねぇ、あなた?」
「ッ!?」
突然耳元で囁かれ私は思わず、剣の柄に手を伸ばし踵を返しながら距離をとった。睨む先には、長い髪を頭上で一纏めにし団子状にした女。白衣を着てピンクのフレームのメガネをかけている。
「そんなに驚かなくても良いじゃないの~。それとも、そんなに後ろをとられるのが嫌だったかしら?」
「了子くん、客人を驚かせるのは止めたまえ」
「あら、ごめんなさい。でも少し気になることがあるのよ」
了子、了子……、もしや……。
「桜井理論を提唱し、シンフォギアシステムを作った桜井了子ですか?」
「ええ、私がシンフォギアシステムの産みの親、桜井了子よ~」
なるほど、本人はこんな気さくな人間だったのか。
桜井理論と言うのは協会で聞いたことがあったが、まさかこんな人間が考えたとは思わなかった。
キャロルは――既に知っていたみたいだ。
別に驚くこともなく平然としている。特に興味がないだけかもしれないが。
「本人を見るのは初めてです。そんな姿をしてたんですね」
「幻滅しちゃったかしら?」
「いえ、少し驚いただけです」
「まぁそれは置いといて。懐にあるもの、見せてくれると嬉しいのだけど?」
桜井了子は私の胸元に指を置くと、ニコッと笑顔を作る。
「これを貰って、どうするつもりです?」
「こっちで検査して、じっくりと調べあげたいわ。とても興味があるの」
そう言う桜井了子の目は、好奇心によって輝いていた。
それは純粋で、初めての物を見る子供のようで。
と言っても、これは自分の問題。
決断するまで、もう少しの時間がほしい。
「……すみませんが、これは自分で何とかしないといけない問題なので。もう少し待ってもらえると、こちらとしては嬉しいのですが」
「なら、任務が終わってから聞かせてもらえるかしら。良い返事を待ってるわ♪」
「あまり期待はしない方が良いと思いますよ」
「さて、話は終わったか2人とも」
会話の一区切りがついたところで、風鳴弦十郎が間に割って入ってくる。
「ええ、話の続きをどうぞ~」
笑顔の桜井了子は、手を降りながら自身の席に戻っていった。
「それでだ。君らには、部屋を用意している。この施設では、協会での暮らしと同じように過ごしてくれて良い。食堂も購買も、特に制限は無いぞ」
「協力関係となったとは言え、随分と好待遇ですね。それこそ疑ってしまうほどに」
「何、仲間ならば思いっきり迎えるのが我々流だ! 思いっきりくつろいでいっても良いぞ!」
「なら、最大限活用させていただきます」
風鳴弦十郎。キャロルがいるとはいえ、今日初めて知った私をここまで歓迎するとは、なかなかに面白い男。普通なら、警戒してもおかしくはないと思うが。
ただ、当分の拠点はあの廃屋だ。
廃屋ならある程度の改造が可能で、個人の裁量で家具やらを外に捨ててスペースを確保できる。
彼の好意を無駄にもしないため、食事やその他のことはこちらでさせてもらおう。
何と言うか、便利な場所扱いで申し訳ないと思うが。
「キャロル、あなたはどうしますか?」
「お前の監視なのに、お前から離れてどうする。廃屋にせよ、ここを拠点にするにせよ、オレはお前から離れない」
「なら、不便ではありますけど廃屋で我慢してくださいね。出来るだけこちらには滞在するようにしますので」
「別にオレのことを考えなくても良いんだが……」
「わざわざ来てくれたんです。迷惑料とでも思ってください」
「そうか。なら、オレは1つ言わせてもらおう」
「え?」
キャロルは私を睨むと、風鳴弦十郎を睨んだ。
「風鳴弦十郎」
「お、おぉ、どうしたキャロル君」
「食堂に案内しろ。こいつに朝食を食わせたい」
「キャ、キャロルッ!?」
突然のキャロルの発言に、私は面食らった。
何を言ってるんだとキャロルを見つめるが、キャロルはかまわず続ける。
「こいつは朝から何も食っていない。まともな飯を食べようとしないんだ」
「そう言うことか。奏、2人を食堂へ案内してやってくれ」
「わかったよ。2人とも、ついてきてくれ」
「ほらヒュパティア、さっさと行くぞ」
「ちょ、ちょっとキャロル。いったい何を考えて……」
「オレが見張りである限り、お前にはしっかりと食事をしてもらうからな」
そう言うキャロルの顔は、少し笑っていた。
文字量が多かったり少なかったりしますが、個人的に区切りが良いところで止めています。
もし見辛かったりがあれば、ご意見ください。