ふと、目が覚めた。敵の襲撃があったわけでもないし誰かに呼ばれた訳でもない。
ただ、目が覚めた。
「今何時かしら」
横で寝顔を見せるAN-94を横目に見ながらAK-12は現在時刻を確認した。どうやらいつもの起床時間より一時間近く早くに起きてしまったらしい、この時間ではシミュレーターポッドも使えないし食事だって取ることもできない。思わずAK-12は毒づいた。
「なんとも半端な時間だこと…、指揮官をからかいにでも行こうかしらね」
この時間であれば指揮官は既に起きて仕事の準備をしているはずだ。
AK-12とAN-94はとある作戦の後に今の指揮官の所へと配属された、彼女らはI.O.P.や16Labの技術提供の元で正規軍によって開発された戦術人形だ。指揮官がなぜ彼女らを引き抜いたかは分からないが噂によればかなりの物好きらしく、彼の基地には数多くの戦術人形が常駐しており彼を慕っている戦術人形は後を立たない。
「あの指揮官の何がそんなに良いのかしら、私にはまだ分かりそうにないわね。」
少しばかりの皮肉を混ぜつつ殺風景な居住エリアを抜けて指揮官のいる執務室へと向かった、朝早いこともあり他の戦術人形とは出くわすこともなかった。
「指揮官、起きてるかしら?」
扉をノックしながら声をかける、返事はすぐに帰ってきた。
「ずいぶん朝早いじゃないか、入ってくれ。」
扉が開きAK-12は部屋へと入る、指揮官から好きな所に座れと言われたのでソファに座ることにした。
「コーヒーを出そう、砂糖は必要か?」
「砂糖は要らないけどミルクは欲しいわ。」
「わかった、少し待っててくれ。」
指揮官がコーヒーを作ってる最中に改めて指揮官の部屋を見回してみる、散らかってはいるが机の周りだけは流石に綺麗に整頓されていた。
「机の周り以外も綺麗にしようとは思わないの?」
「俺はこれが気に入ってるんだ、しばらく改善はしないつもりだぞ。ほら、コーヒーだ」
指揮官からコーヒーを受け取り口につける、ほんのり暖かくまろやかな風味が口の中に広がった。
「コーヒーをいれる腕は一級品ね、指揮官?」
皮肉を呟いてみた、指揮官をからかうのは最近の楽しみだ。
「俺の指揮が二級品って言いたいのか?心外だな。」
指揮官もいつもの事だと言わんばかりにおどけて見せた。
「まぁいいわ、折角来てあげたんだから気の効く話でもしてよね。」
「押し掛けてきただけだろうに…まぁいい。」
指揮官は少し迷ったようにコーヒーを啜ってから話し始めた。
「次の作戦は厳しくなりそうだ、うちの基地にも招集が掛かった。」
「作戦?」
「あぁ、他の基地との合同作戦になる予定だ。」
そう言って指揮官は私に端末を手渡してきた。
エクスカリバー作戦と、画面にはそう書かれていた。
「随分と壮大な名前なのね、エクスカリバーだなんて。」
エクスカリバー作戦と呼ばれている作戦の情報を確認しながらAK-12は呟いた。
「あぁ、今回のエクスカリバー作戦は鉄血の連中が占拠した軍事基地の奪還らしいんだがその軍事基地に隠されていた核弾頭がエクスカリバーと名付けられているらしくてな、上層部も捻りの無い名前をつけるもんだ。」
指揮官が私の方を見ながら肩をすくめて毒づいた。
「上層部は無能ばかりの癖に、なんでこういう難度の高い作戦ばかり持ってくるのかしらね?」
「さぁな、お前達人形を使い捨ての駒としか見てないんだろう。いつ壊れてもバックアップがあるからってな。」
指揮官は少しばかり苛ついているようだった。あれこれ話しているうちに戦術人形達の起床時間となり、戦術人形達の声で外が騒がしくなってきていた。
「昼頃にエクスカリバー作戦の詳細をお前意外の戦術人形達にも展開する、コーヒーのおかわりはいるか?」
いつの間にかコーヒーを飲み干していたみたいだ。
「必要ないわ、AN-94を起こしにいかないと。」
「それもそうか、また早起きしたらいつでも来るといい。コーヒーをご馳走してやる。」
「そうするわ、また後でね。」
AK-12は執務室を後にし、戻る途中に色々な戦術人形に出くわしたのできっちり挨拶を交わしながら自分の部屋へと戻ってきた
「AN-94、起きてたの?」
「うん、おはよう12。」
AK-12が部屋に入った瞬間、オロオロして周りをキョロキョロしていたAN-94に笑顔が戻った。
「私がいないくらいでオロオロしちゃダメよ94、他の戦術人形に示しがつかないわよ?」
冗談めかしてAK-12が呟く。
「ごめんなさい12、でも不安で仕方なかったの…怖かった。」
俯きながらそうAN-94がそう呟いた。
「朝早く起きちゃったから指揮官をからかいに行ってただけよ。心配かけてごめんなさいね、94。」
そう言いながらAN-94の頭を撫でてやった、嬉しそうな顔に戻ってくれて何よりだ。
「さて、朝食に行きましょうか。今日は何が食べられるかしらね?」
「今日はレトルトのカレーだった気がするな、多分だけど…」
カレーか、カレーであればあそこの食堂でもまだ美味しい部類に入る。
「なら今日は当たりね、さぁ行きましょうか。」
AN-94と手を繋いで食堂に向かう、他の戦術人形達はその姿を横目に見ながら気になっている様子だった。
早々に食堂に到着した二人は手近な椅子を探してそこに腰掛けた。
「私が持ってくる、12は待ってて。」
AN-94が席を立って食事を取りに向かった、その姿を見つめていると後ろから声をかけられた。
「あら、正規軍からリストラされた負け犬人形じゃない。ここの居心地はどう?」
姿を見ずとも分かる、このクソみたいな喋り方を私にしてくる戦術人形は一人しかいない、404小隊のUMP45だ。
「負け犬はどっちかしらね、傭兵の真似事の次は指揮官の忠実な犬に鞍替えしたの?UMP45。」
わざと煽り返すような口調で答えた、UMP45は答えない。
「今は朝食なのよ?喧嘩なら後で買ってあげるから今は大人しくしてなさい。」
バカにしたように続けて話すと舌打ちをしながらUMP45も席についたようだった。
「お待たせ12、待った?」
「いいえ、いいタイミングよ。」
AN-94が首を傾げた、何のことかわからないと言わんばかりに。
「気にしなくていいわ、冷める前に食べましょう。」
そうして食事を終えた二人は自室に戻らずシミュレーターポッドへと向かっていた。
「今日はどんな訓練をするの?12となら何だって頑張れるよ。」
AN-94が自信満々そうにAK-12に語りかけた。
「今日は昼頃に招集がかかるからあんまり時間がないの、いつも通りのシミュレーション形式でいい?」
AN-94は静かに頷き、手慣れた動作で二人ともシミュレーターポッドに入り込み目を閉じた。
四方を白い壁で覆われた空間、まさにシミュレーターといった感じの景観を見ながらAK-12が話し始めた。
「今回の難易度はいつもより少し高めよ、エリート人形が出てくるようになってる。確か…スケアクロウとか言ったかしらね。」
「スケアクロウ…あのビットで攻撃してくる奴だよね、データで見た。」
「そうそう、それよ。他はいつも通りの雑魚どもだから気にしなくていいわ。」
その言葉を皮切りに敵のホログラムが現れ始めた。彼等はホログラムなので何も言葉を発してこないし、エリート人形でさえ無言だ。それが逆に不気味なのだ。
「戦闘開始」
二人のシステムが戦闘モードに切り替わっていき、無機質なただ敵を殺すだけのマシーンとなった彼女達はとても強く。お互いをカバーしあい無言で次々と頭を撃ち抜いていく姿は正規軍の無人機そのものだった。
視線の先に死体の山が出来上がりつつあったその時、最後の増援としてスケアクロウがホログラムとして実体化された。
「94、あいつを倒せばシミュレーションはとりあえずのクリアよ。」
空になったマガジンをリロードしながらAK-12が呟いた瞬間、AN-94の左脚が無くなっていた、スケアクロウのビットの射程を侮っていたようだ。
「なっ…!?」
AN-94はパニック状態に陥り、太ももから下が無くなった左脚をただ見つめていた。AK-12はすぐさまAN-94を安全なところまで運びこんだ。
「落ち着いて94、ここはシミュレーターポッドだから。落ち着いて。」
それしか言えなかった、シミュレーターとはいえバディの左脚が無くなってしまったのだ。少なからず自分もパニックに陥ってしまったと思う。
しかしそれと同時に沸々と沸き上がる殺意があった、バディをこんな目に合わせたスケアクロウを殺したい、そんな殺意が。
「ここにいて94、5分で殺してくるから。」
そう言ったAK-12は目を開き深度演算を開始した。普段AK-12は目を閉じているが感情が高ぶると今回のように深度演算モードに切り替わるようになっている。
深度演算を開始すると自身のリミッターが外れ通常時よりも高いスペックを発揮できるようになる。その分ボディへの負荷も高くなるので活動限界はだいたい10分ほどであった。
「ごめんね12…いつも足を引っ張っちゃって。本当にごめんなさい…」
AN-94が涙を流しながらAK-12に向かって呟いた。
「気にしなくていいのよ、行ってくるわね。」
AK-12は素早くカバーからカバーへの移動を繰り返しながらスケアクロウのビットを確実に撃ち落とせる距離まで肉薄しビットを破壊した。
「深度演算ならこんなものよね…後は本体だけよクズ人形。」
惨たらしく殺すためにわざわざナイフを抜いたAK-12はスケアクロウに向かって飛び掛かる、スケアクロウも予想していたと言わんばかりに応戦するが激怒したAK-12の前では鉄血のエリート人形もおもちゃ同然だった。
「これで終わりよクズ人形が」
スケアクロウの首にナイフを突き立てて回路や配線を1つずつ切り離しながら、最期は勢いよくナイフを引っこ抜き真っ赤な鮮血を浴びたところでシミュレーターは終了となった。
シミュレーターポッドから出てすぐにAN-94は自分の左脚がちゃんとあることを確認してほっと息を吐いた。
「もっとしっかりしないと…12に迷惑をかけたくない。」
「一緒に頑張っていきましょう、そのために私たちは一緒なんだから。」
シミュレーターでこんな結果じゃ、久しぶりの実戦はどうなることやら。少しばかり不安になったところで指揮官からの招集が掛かるのだった。