これは、そんな2人の最後の1日
※賛否あるとは思いますが、温かい目で読んでくださると嬉しいです
「花丸ちゃん、一生のお願い!」
「ずら!?」
「一日だけ、隼人君を貸して欲しいの!」
「!?」
「……」
「……」
「……良いよ♪」
「ホントに!?」
「うん。果南ちゃんの、一生のお願いだもん」
「花丸ちゃん……ありがとう!」
━━━━
私は松浦果南!浦の星の3年生。家業のダイビングショップを手伝いながら、スクールアイドルをやってるんだ♪……って、みんな知ってるよね
そんな私なんだけど、好きな人がいたんだ。ううん、正確には……今も好き、かも知れない
彼は1年生の時からクラスが一緒で、アメフト部に所属している自称ぷにマッチョな男の子。普段は優しくて、部活中はカッコ良い。そんな彼のことを、知らず知らずのうちに好きになっていた。結構仲は良かったし、良い感じになれるんじゃないかな?ってちょっと期待しちゃってたんだけど、ある日を境に……ね
……
2年前
「果南、この前のライブで歌えなかったって聞いたんだけど……」
「うん……」
「俺、何ができるかわかんないけど、その……」
「ありがと。でも隼人君は関係ないんだから、気にしないで」
「!!」
「私は大丈夫だから……」
「そっか。関係ないよな俺なんか……」
「えっ?」
「すまん!俺がバカだった。じゃあな」
「えっ、あっ……!」
……
そんなつもりじゃなかったんだけど、不用意な一言で隼人君を傷つけてしまった……
その日は急に土砂降りになって……大粒の雨、私のなかの涙みたい
その後は、目に見えて仲が悪くなった訳じゃないけど、なんとなく……ね
諦めたと自分では思ったんだけど、一度抱いた気持ちは簡単には消えなかった。最後の思い出に隼人君を遊びに誘いたくなって、花丸ちゃんに無理を言って……ホント、花丸ちゃん心の広さには感謝しなきゃ
……
落ち着いて考えりゃあ、果南に悪気がなかったことくらい直ぐにわかる。俺に気を遣わせないようにって思ったんだろう。でもあの時は、なんかショックでな……情けねぇ。果南だって傷付いていたハズなのに……
降り始めた激しい雨に、俺の弱い心は強く打たれ、全ての罪を流して欲しかった
その日の雨は、止むことを忘れてしまったかのようで……
━━━━
卒業式は終了し、受験等の日程もほぼ終わったこの時期、進学や就職など次の進路に向けて準備している者が多い。忙しさについては個人差があるだろう。そんな中、果南は例の彼に電話を掛ける
「もしもし~」
『はいはい~、電話とは珍しい。どした?』
「急なんだけど、今度空いてる日にさ、遊びに行かない?」
『え?あぁうん。あっ、でも……』
「大丈夫!花丸ちゃんには許可取ってあるから!」
『お、Oh。了解だ』
「ふふっ♪良かった」
『うむ。予定確認したら連絡するわ』
「うん、ありがとう。急にゴメンね?」
『大丈夫だ。じゃあ後程~』
「じゃあね!」
通話が終了。かなり押せ押せだったが彼を誘うことは出来た。が、その後に動揺してしまう
「さ、誘っちゃった!どうしよう!?」
……
「一応、花丸ちゃんに確認しとくか……」
メッセージアプリで聞いてみると、確かに果南から話があったようだ
『だからその日は、果南ちゃんのためにも気兼ねなく楽しんでね!』
『わかった。ありがとう!なんかお土産買ってくるね~』
『それは楽しみずら~!』
『おうよ!じゃあおやすみ~』
『おやすみなさい』
まるで菩薩のような御心の広さである
「ふむ……。まぁ、楽しみましょうかね」
(正直、果南ちゃんからお話があった時はとてもビックリしたんだけど……。自分も隼人さんのことが好きだったのに、マルのことを応援してくれた。ちょっとモヤモヤはするけど、果南ちゃんのことも大好きだから。一日だけ……ね♪)
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当日
「うぅ、なんか緊張する……」
彼を誘ってからずっと気持ちが落ち着かない果南。待ち合わせ場所にかなり早く着いてしまった。放課後一緒に帰ったり、お店で2人になったりということはあったが、こうして2人だけで遊ぶのは初めてだ。見方を変えれば2人の初デートとも言える
「あれ?果南早いな!」
「あっ、おはよう!///」
早く来てくれて助かったと思ったが、寧ろ更にドキドキしてしまう
「ハハッ、ちょっと緊張するな」
「ふふっ、そうだね」
「んじゃあ、とりあえず行くか!」
「うん♪」
それでも、彼の笑顔を見ると幾らか落ち着いた気がする。最初で最後になるであろう今日の逢瀬、悔いのないように楽しみたい。流石に手は繋がないが、寄り添って歩けるだけで嬉しい
……
その後は、ファミレスやゲームセンター、水族館などを巡って一日を満喫した2人。気付けば夕方になっている。しばらく海岸通りを歩き、スペイン広場に似ているような階段に並んで腰かけて今日を振り返る
「今日はありがとう。無理言ってゴメンね?」
「いやいや。楽しかったからOKだ!」
「ふふっ♪ 私も楽しかったよ。ありがとう♡」
「あ、あぁ/// こちらこそ、誘ってくれてありがとうな」
「うん……♪」
今日は本当に楽しかった。心からそう思える。しかし……
「こうやって会えるのは、今日で最後だね……」
「まぁ確かに、そうなっちまうかもな……」
果南はダイビング留学、隼人は東京に本校がある大学へ進学する。そうでなくても、今日は特別許可が下りているからこそである。こうして2人きりで出かけることはもうないだろう
「でもまぁ、同窓会とかで会えるだろ!うん」
「そ、そうだね。その時は幹事よろしくね!」
「マジか!まぁ構わんけどな」
「うん!」
「「……」」
雑談を続けたいが言葉が出てこない。ならばいっそ、秘めた想いを打ち明けてしまおう
元々は"諦めた時に"胸の奥に秘めたままにしておくつもりだった。実らないことは分かっている。迷惑をかけるだろうことも分かっている。好きになった彼と、大好きな後輩が幸せになってくれるならそれで良いと思っていた。しかし、卒業してもう会えなくなってしまうと思ったら伝えずにはいられなくなった。だから彼を誘ったのだ
「ねぇ……大事な話があるんだけど、聞いて、くれる?」
「ん? おう」
しかし気持ちを固めたつもりでも、いざ言うとなると躊躇ってしまう。改めて深呼吸し……
「果南?」
「あの、私ね……1年生の時、隼人君が好き、だったんだ……」
「!!」
「ゴメンね?こんなこと言われても困るだけだよね。でも……どうしても伝えたかったんだ……」
「そうか……。ありがとう言ってくれて。でもまぁ……な」
「うん……。私の分まで、花丸ちゃんをよろしくね……!」
「あぁ……わかった! しかしまぁ……」
「?」
彼もまた、胸に秘めておこうと思っていたのだが、そうも言っていられなくなってしまった。数瞬目を閉じてから、口を開いた
「実はな。俺も1年の時、果南のこと好きだったんだ」
「!?!?」
「えっ、ホントに……?」
「おうよ。こんなこと、嘘で言えねぇって」
「そっか……」
「うん……」
「私たち、お互い好きだったんだね……」
「そういうことになるな……」
「「……」」
「やっぱり、あの時私が……」
「……いや、俺が深入りして、勝手に落ち込んだだけだ」
「でも……」
お互いの真意がここで明らかになった。もちろん嬉しさはあるが、それよりも後悔が募る
あの時の言葉が、或いは受け取り方が少し違っただけで、もっと違う未来があっただろう。一緒に夏祭りに行ったり、大学生になっても忙しい中デートに行ったり……
エメラルドグリーンの初恋は、ここで終わりを告げる
「なんで私は、すれ違ってばっかりなのかな……?」
「……それは、相手を思ってのことだから、悪いことじゃないんじゃないか?」
「そうかな……?」
「あぁ。少なくとも、俺はそう思う」
「うん……。ありがとう。隼人君は、優しいね」
「いや、相手に嫌われたくないだけで、優しくなんかないよ」
「ううん。少なくとも、私はそう思う」
「ハハッ、そうか。ありがとう」
「「……」」
「ねぇ……」
「ん?」
どうしてももう一つ、さよならの前に……
「最後にさ、ハグ……しよ?」
「……!」
「さよならのハグ。ダメ、かな……?」
「いや……ダメじゃない」
「あっ……」
一瞬考えたようだが、彼は強く優しく抱きしめてくれた。果南もゆっくりと抱き返す。隼人の腕の中はとても暖かく、本当の恋人同士になっているように錯覚してしまう
「なんか私、凄い幸せ……。ホントは、ダメなのに……」
「……上手く言えないけど、今だけは……良いんじゃないか?」
「うん……」
あの頃の2人が望んでいたハグとは違う形になってしまっただろう。それでも、今だけは……
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「もう、良いのか?」
「うん。これ以上は、ね……」
「あぁ……そうだな」
(それになんか、もう戻れなくなりそうだったしね……)
ほんの数秒のハグだったが、これで充分だ
「まぁ、色々あったけどさ……俺、果南に出会えて良かった。ありがとう、果南……!」
「こちらこそだよ……ありがとう、《隼人》……」
様々な想いが、瞳から溢れそうになる。そんな泣きそうな顔で微笑む2人を、夕焼けが優しく包み込む
結ばれなかったとしても、傷つけあうことがあっても、別れるためだけに出会った訳じゃないと、そう思える。きっと2人の出会いは、遠い日の奇跡だったから……