(…まさかこんな騒ぎになるなんて…皆大げさなんだよ…)
アインズは自身の告白がもたらした状況に戸惑いつつも、皆が望む支配者としての威厳を損なわないよう精一杯の演技をしていた。その甲斐あって、両の腕をゆったりと拡げ称賛を受け止める姿はシモベ達の目にはこの上なく頼もしい存在として映っていた。
(でも、NPCの立場で考えたらこんな反応になるのかもしれないな)
アインズは自身の告白が持つ意味を改めて考える。
自分はユグドラシルとモモンガという存在に全てをかけてきたとはいえ、それらが消滅しても現実世界の鈴木悟という存在に戻るだけだ。しかし、NPC達にとってはそれこそユグドラシルという世界が「全て」だった。そしてこれはこの世界に転移してから分かった事だが、NPC達はユグドラシルの時の記憶も持っている。つまり、NPC達はその時から感情を持ちある意味「生きて」いたのだ。
(もし、俺がギルドを維持する事を諦めていたら…俺があの時ログインしていなかったら…皆訳も分からないまま孤独の中でその存在を消滅させられていた、って事だもんな)
自身はアンデッドの特性を備えている故に理屈は理解してもそれ以上の感慨は持てないはずだが、歓喜に沸くシモベ達の顔を見ると心にあたたかい何かが広がっていく。
(ここで、我が至高なる力に喝采せよ!とか言いたい所だけど…悲しいかな、狙ってやった訳じゃないんだよね)
(…ま、俺がやってきた事はムダじゃなかったんだよな。今もこうして皆が喜んでくれてるんだから…)
アインズは去った仲間達がいつ復帰しても良いように一人ギルドの維持に勤しんでいた日々と、結局誰一人復帰する事なくほんの数名が顔を見せただけのユグドラシル最終日を思い出す。今まで見ないようにしていた現実を突き付けられ虚しさの中で最後の瞬間が訪れたのだが、その時仮想の存在は現実となり鈴木悟とNPC達は未知の世界で生きていく事になった。
誰の仕業かは分からないが、自分がひたすらにしがみついていた居場所を残し、仲間達との思い出を宿した
そして、今の自分は必要であれば他者の命を奪う事に抵抗を感じなくなっている。それでもなお鈴木悟としての自我を失わずに済んでいるのは他ならぬ
(俺だって
アインズは自分の妻となってくれる二人を見る。一人は何やら赤くなったり青くなったりしているが、二人とも絶世の美女と言える容姿をしている。アインズには二人の美しさとそのような美女に想いを寄せられている事に対して感動や興奮はほとんど得られないのだが、二人を見ていると「
(俺が結婚かあ…今の俺は睡眠もしないし食事もいらない。性欲は…微妙にあるような気もするけどナニが無いからどうしようもない。そんな俺と結婚して何が楽しいのか分からないけど、せめて良い夫でいられるよう努力しないとな!)
(
アインズは自身が一声「静まれ」と言えばこの騒ぎは収まるのは分かっていたが、それはシモベ達の気持ちに水を差すようで気が引ける。ここは発声してくれたデミウルゴスに任せるのが筋というものだろう…そんな思いでデミウルゴスを見ると、様子を伺うようにこちらを見ていたデミウルゴスと自然に目が合う。
(あ、デミウルゴス!皆さんの気持ちは十分伝わりました!今日はこんなもんでお開きにしましょう!)
アインズはデミウルゴスに向かってコクコクと頷く事で自らの意思を伝えようとする。そんな事をしても普通は伝わらないのだがそこはデミウルゴス、アインズ以上にアインズの意思を理解している男だ。
(ム…アインズ様から合図が…そろそろ頃合いかと思っていたが、やはりアインズ様もそう思われたか。我々の忠誠心が最高に沸き立った所で真の姿をお見せしてくださる…まさに完璧な演出ではないか!)
デミウルゴスは底知れぬ知謀を持つ主と自身の思惑が一致した事に満足しながらアインズに頷き返し、計画を最終段階に移すべく行動を開始する。アインズとデミウルゴス、二人の思惑はすれ違いながらも一周して見事に噛み合い、それぞれの中で全く別のカウントダウンが始まっていた。
デミウルゴスは一人列から抜け出してアインズと二人の妃の間に立ちシモベ達の方を向く。それを見たシモベ達は何事かが起こる事を察し、次第に声を鎮めていく。そしてデミウルゴスが口を開く。
「ナザリックに名を連ねる誇り高き者達よ、アインズ様は我々の忠誠を受け取ってくださった!今日という日の事を胸に刻み、これからもアインズ様の為に力を尽くそうではないか!」
デミウルゴスの言葉にシモベ達は拍手で答え、デミウルゴスは再び列へと戻っていく。その途中でアルベドと視線を交わし、この後の流れを再度確認しておく。
(…後は任せたよ)
(…分かってるわ。任せて)
言葉には出さずにそのようなやり取りをし、アインズを真の姿に戻すべくアルベドが口火を切る。
「アインズ様、私とナーベラルからもお伝えしたい事があるのですが、聞いてくださいますか?」
「ああ、構わないぞ。夫婦の間に遠慮は無用だからな。思う所があれば何でも言ってくれ」
(くふ~っ!ふ、夫婦…ですって!)
アルベドはアインズの口から発せられた「夫婦」の二文字に体がピクリと反応するが、ここで我を忘れて今後の流れをぶち壊す訳にはいかない。あと少し我慢すれば夢に見た生活が待っているのだ。
(…ダメよ、我慢我慢…アインズ様はすでにまな板の鯉…まずは人のお姿になっていただかないと)
アルベドはスーッハーッと深呼吸をして気持ちを落ち着かせ言葉を続ける。
「ありがとうございます、アインズ様。先程伝えてくださった真実を聞き、私達が今こうしていられるのはアインズ様が起こしてくださった奇跡のおかげなのだという事を思い知りました。そしてそのような御方の伴侶として認められた今日という日は、私達にとって創造されてからもっとも幸福な日となりました」
「今後はアインズ様の…つ!ま!…として公私に渡り支えとなれるよう尽力致します」
「そ、そうか…私が起こした奇跡というのは違うのだが…まあ良い、お前達の気持ちは有り難く受け取ろう。…しかし、恥ずかしい話だが私は現実世界でも異性との交際や結婚というのは経験が無くてな…今一つ男女の機微というものに疎いのだ」
「それ故お前達の理想の夫になれるかは分からないが、良い夫でいられるよう努力を惜しまぬ事は約束しよう。至らない所もあるだろうがよろしく頼む」
アインズはアルベドのやたらと力の入った「妻」という一言に若干引きつつも自身の真摯な気持ちを二人に伝える。他人から見たら歪んだ形かもしれないが、
しかし、アインズに女性経験が無い事を知ったアルベドはそれどころではなく喜色満面でアインズににじりよる。
「あらあら、アインズ様も初めてなのですね!その点についてはご心配なく!夜の営みについてはこのアルベドにお任せください!私も経験はありませんが淫魔としての知識は豊富に備わっておりますので!二人共初めてだなんて初々しくて良いですわね…こればっかりはナーベラルに先を越される訳にはいかないわ!初夜を前倒しにして今すぐにでもアインズ様を寝室に…」
妄想の果てに我慢の限界を越えたアルベドがそこまで捲し立てた所で「ドスッ」という鈍い音が玉座の間に響き渡る。
(アルベド、しっかりしたまえ!心の声がダダ漏れだよ!)
それはデミウルゴスの怒りの鉄拳がアルベドの背中に突き刺さる音だったのだが、強靭な体幹を誇るアルベドにダメージはない。それでも多少の刺激はあったようでアルベドに本来の目的を思い出させる事には成功する。
「…アインズ様、大変失礼いたしました。私としたことが喜びのあまりに我を忘れてしまいました。…夜の事はひとまず置いておくとして、私達からお願いしたき儀がございます。申し上げてもよろしいでしょうか?」
(やれやれ、全く世話の焼ける…)
デミウルゴスは痺れる右手を振りながらも話が本筋に戻った事に安堵し、事態の推移を見守る。
「ウ、ウム…願いか。どのようなものか察しはつくが…申してみよ」
アインズはアルベドの豹変ぶりを後ずさりしながら見ていたが、アルベドの「願い」という一言に気を取り直して答えを返す。結婚に付随してくる行事の事は自身も懸念していたからだ。
(願いっていうと結婚式とか新婚旅行とか…多分そういう事だよな。実は人間の慣習には興味ないとか都合の良い展開を期待したけど、そんな訳にはいかないか。…ハァ、気が重い…けど、これはちゃんとやってあげないとな。魔導王としての立場もある事だし)
アインズはギルメンの誰かが言っていた「式とか旅行っていうのはさ、あくまでも嫁さんとその家族の為にやるもんなんだよ」という言葉を思いだす。実際その立場になってみると確かにその通りだと思う。しかし面倒なのは事実でも二人の花嫁にとっては大切な儀式だし、この儀式をしっかりやり遂げる事で初めて「二人を大切にする」という決意を周囲に表明出来るのだ。
(何よりおざなりにやってたらタブラさんと弐式炎雷さんに合わせる顔がないしな。二人に喜んでもらえるように頑張るか!)
そんな決意に燃えるアインズだったが、アルベドから伝えられる願いとは意外なものだった。
「ありがとうございます。では、畏れながら…」
「アインズ様の現実世界におけるお姿を私達に見せていただけないでしょうか?」
「……何?それが願いだというのか?」
(…結婚式とかのお願いじゃなくて少し安心…してる場合じゃないな!…要は鈴木悟の姿が見たいって事だよな?そんなのに興味があるのか?)
アルベドは驚くアインズをよそに言葉を続ける。
「はい。お伺いした所によると、モモンガ様…アインズ様のお姿は現実世界での御身が創造されたとの事。現実世界という場所の過酷な環境に耐えながらも私達を守り導いてくださった尊きお姿を、この目に焼き付けとうございます」
「私もアルベド様と同じ気持ちでございます。何卒真のお姿を私達に見せてくださるという慈悲をお与えください」
ナーベラルも恭しく頭を下げながら同様の願いをする。
(なるほど…確かに鈴木悟が居なかったらこうはなってないからな…そういう気持ちも頷けるか。とはいえ鈴木悟の姿に戻る方法なんて…)
「そうか、お前達の願いは分かった。しかしな…」
アルベドとナーベラルの願いは理解出来るが、肝心の方法が見あたらない。「悪いけど諦めてもらうか…」その決断をしようとした矢先に、アインズはある指輪の存在を思い出す。
(…いや、アレがあったな)
(今でも鈴木悟の姿は明確にイメージ出来る。種族の変更は無理でも、外見を変えるくらいならなんとかなるんじゃないか?だけど…)
二人の願いを叶えてやりたいのは山々だが、指輪の効果はいざという時の切り札にもなりうる。ここで使ってしまって後で後悔する事になりはしないか…そこが引っ掛かってアインズは決断しかねていた。
すると、今度は守護者達が同様の願いを口にする。
「アインズ様、我々からもお願い致します!」
更にはセバスとプレアデスも続く。ここまでくると後は雪崩式で、一般メイドからそれぞれのシモベにいたるまでアインズへ懇願し始める。
(何コレ?そんなに見たいの!?…休みもいらない、褒美もいらない、そんな皆がここまで言うのも珍しいな…う~ん、じゃあやってみる…か…)
シモベ達の熱意にほだされてアインズはついに決心する。皆が捧げてくれた忠誠に自分なりに応えたいという気持ちに偽りはなく、これが自身の告白がもたらした結果であるならばそれも受け止めるべきだろう。そして大切な家族達の願いを叶える為に指輪の力を使う、それも相応しい使い途ではないか…そんな想いもあった。
「…それが皆の願いだというのであればやってみよう。ただ、もしかしたら失敗するかもしれん。それは承知しておいてくれ」
アインズはシモベ達にそう告げると、アイテムボックスから
(…俺のボーナス。今度は空振りにならないといいけど…)
そんな事を思いつつアインズは指輪の効果を発動させる。
「
その直後アインズの体は光に包まれ、シモベ達からどよめきが起こる。そして…
今回はここまでとなります。読んでくださった皆様ありがとうございます!それぞれの心理描写に時間がかかってしまいましたが、ようやく話が進みました笑
果たして願いは叶うのか?次回も読んでいただけると嬉しいです。