やはり俺がヒーローを目指すのは間違っていた。が、   作:おーり

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やはり俺がヒーローを目指すのは間違っていた。が、

「……やっぱ間違えたかなァ……」

 

 

 強個性なクラスメイトを睥睨して、比企谷八幡の眼差しは見る見る曇って、否腐って往く。

 

 雄英高校1年A組。

 将来的に【ヒーロー】を目指す集団なだけはあって、誰も彼もが陽気で自信に溢れている。

 つまりは、彼なりにカテゴライズする『陽キャ』の集団。

 

 そんな中に陰キャ、むしろ陰の気が溜まって生まれたと言っても過言では無い己が、某林原サン(白面のモノ)にも匹敵する己が居るのは場違い甚だしいのでは。

 そんなことを感じてしまう。

 

 

「(早くも帰りたくなって来たわ)」

 

 

 言葉にせず、八幡は内心で項垂れるように独り言ちた。

 あと林原サンは次作でヒロインに転生してっから。同じにすんなや。

 

 

「ケロ、八幡チャン、見る見る目が腐ってるわ。こうして合格出来ているのだし、もっと自信を持つべきだと思うのだけど」

 

「……蛙吹か」

 

「梅雨ちゃんって呼んで。中学まで一緒だったのに、呼んでくれないのは八幡ちゃんだけだわ」

 

 

 ぱっちりとした目の少女が、気づけば自分の机にぺたりと顔を乗せていた。

 付き合いの長さから八幡自身の内心を掌握したのだろうが、しかし、

 

 

「……いや無理だって、結局のところ俺ってイレギュラーみたいなモノだもん、個性強い上にキャラとしても腕白な子たちとどう向き合えばいいのかわからないよ……」

 

「ケロ、何処かの魔剣使いみたいなことを言うくらいなら余裕あるとおもうわ」

 

 

 両手で顔を覆って、椅子の背凭れに仰け反る八幡は中々に回復し難い心理を備えていた。

 

 しかしネタは通じた。

 自分もああいうラグナロクみたいな体内チームメイトが引っ憑くタイプの個性ならキャラが負けてないのに、と漫画のキャラを八幡は羨んでいた。

 否、憑いたら憑いたで逆らうことも窘められることも無しに身体を乗っ取られて終わりだな、やっぱスタンド系は無い方が良いわ。

 と、すぐさま思い直すのだが。

 

 

「あと、そうやって同学年のクラスメイトの『悪いところ』を見ないで『わんぱく』で評価できているところ、そういう視点が持てるのなら問題ないと思うわ。手始めに距離の測り方からやってみましょう? 先ずは梅雨ちゃんって呼んで」

 

「カウンセラーかよ蛙吹さん……。お前のそういうお姉さんなところ好感持つわ……」

 

「……不意打ちはズルいわ」

 

 

 ケロォ……、と無表情ながら微かに赤面している梅雨ちゃんがそっぽを向いた。

 可愛い。

 

 だが、そういう肝心なところを八幡は見ていなかった。

 見ていたのは、

 

 

「机から足を退けたまえ! キミは何処のチンピラだ!?」

「ハァー!? 俺様に指図すんじゃねぇよ! 何処中だテメェー!?」

 

ダ、ダイジョウブダイジョウブ、試験は通ったし個性の馴染みも順調だし、かっちゃんがいるけどこのさき平穏とは言い難いけど生きていける、ダイジョウブダイジョウブ……!

 

 

 そんな面々。

 やっぱり個性強い(確信。

 

 

「……あ。蛙吹、やっぱ俺なんとかなりそうだわ」

 

「いきなり自信回復したわね。どうしたの」

 

 

 自分寄りの陰キャを見つけて、球磨川禊を見て安堵したマイナス13組の精神に倣っただけである。

 下には下が居る。

 ガタガタ震えながら教室入り口で躊躇するモジャ髪の()()を見て、そう判断した八幡であった。

 

 失礼にも程がある。

 

 ちなみに。

 少女を見てそんなことを口走ったお蔭で、すわ一目惚れか、と勘違いを展開させつつも口には出さないで心にそっと仕舞い込んでいる異形系個性の少女が目の前に居たりしたのだが、そんな内心には終ぞ気づかぬままである。

 

 

 

  ■

 

 

 

「嘘やん」

 

 

 モジャ髪の少女が、バクゴーという発破系男子を大きく凌駕する記録を打ち出した。

 ジャージの上からでも分かる程度に体格も確かにあるので記録が伸びることは測れたが、如何にもな強個性の発露。

 記録最下位は退学、との訓告を受けて、手加減しながらでもこの調子なら、と舐めてかかっていた八幡は一気に最下位へ下落していた。

 

 

「ま、未だ……、やれます……ッ!」

 

 

 なんだか少年漫画のワンシーンのように印象強い眼差しをしていたが、脱落の気配をすぐ後ろに感じ始めた八幡にとっては背筋の凍る感触。

 自然と、何処かの雪女系個性少女を思い出していた。

 

 

『デクゥーーー!? テメェなんだその個性はァァァ!?』

 

「……次、比企谷」

「ヒェッ」

 

 

 指名され、及び腰になっていた八幡は変な声が出た。

 ひとり男子が荒ぶったりして少女に絡みかけているが、如何にもチンピラなその有様は他の生徒らによって抑え込まれて黙殺されている。

 ので、相澤先生は気にせずに、『最後のひとり』を指摘していた。

 

 

 モジャ髪の自爆少女、緑谷イズクが明かした消失ヒーロー『イレイザーヘッド』。

 かつてそう呼ばれた相澤消太は合理的な人間だ。

 それは、雄英高校の教師として赴任してからも、その性質に翳りが生まれたことなどない。

 

 一撃撃ったら行動不能に陥る個性なんて、ヒーローとして欠陥的にも程がある。

 上手く結果を残せなければ、今までに除籍退学に追い込んだ孵ら(すことに適)せなかった『生徒()』同様、彼女を退学させることも考慮していた。

 

 しかし、彼女は結果を残し。

 その上、この程度で諦めて堪るか、という『火』を点けたのだ。

 他でもない、それを見ていた、生徒(仲間)たちに。

 

 それは、ヒーローにとっては必要な、もう一つの絶対条件。

 『諦めない心』。

 前を目指して、数多くの人々に希望を与えられる『引き上げられる心理的奮起(カリスマ)』。

 謂わば、精神的なカンフルだ。

 

 だからこそ。

 それに『引き上げられなかった』生徒は、きっちりと後備を測るべきだと、そう見定めたのだ。

 

 

「お前、本気出して無いだろ。やる気がないなら、この後、帰っても良いぞ」

 

「……それそのまま退学コースじゃないっすか……。いいよ、やるよ、やってやるともさ……」

 

 

 全く覇気のない貌で、比企谷八幡は前へと進んだ。

 もっと意気込み見せろ、プルスウルトラが校訓だぞ。

 

 

 

  ■

 

 

 

 一身上の都合により、比企谷八幡はヒーローを目指す。

 それは、何も雄英高校ではなくとも達成できるだろう目標だ。

 

 しかし、彼は此処に居て、この道を歩むと決めたのだ。

 

 

『――八幡、お前、ヒーローに向いてるぞ。目指して視ろ、次はお前の順番だ』

 

 

 そう言って、『この学校』を奨めたのが他でもない『彼女』だ。

 あのひとは自分を助けてくれて、自分の為を思って此処へと導いてくれた。

 

 背中を、押してくれた。

 

 ならば、応えなければ。

 そうしなければ、その一歩すら踏み出せないと、八幡は己にそう課したのだ。

 

 だから――、

 

 

「……スロウスターターなのが嫌になるね、全力だろ……、出せばいいんだろ、出せばよォ……!」

 

 

 煽られている、と。

 それが自分の為なのだ、と。

 それを見透かしながらも、八幡は前へと進むことを、

 

 ――自らを曝け出すことを、決めた。

 

 

「変、身ッッッ!!!』

 

 

 換わる。

 

 地球の歴史の『一部』を一種の生体情報(DNA)またはウイルスのような性質へ集約し変換する『個性』、通称『ヒストリー』によって合成された強制個性付与薬剤【ガイアメモリ】。

 一度投与すれば肉体は変貌し、生来本人が備えていなかった別の個性へと進化することが可能となる薬剤である。

 それらはかつてある都市を中心に高値で取引されており、八幡はその一つを中身を知らずに使用してしまった。

 

 その結果は、かつて僅かながらに持っていた弱個性、自身が『ヒキガエル』と仮定していた『それ』との変異的な融合を果たしてしまい、――失敗。

 見るも無残なキメラが誕生し、其処から元に戻ることはおろか、普通の生活を送ることも難しいと判断された。

 

 誰もが匙を投げた、そんな中、可能性を見出した集団が居た。

 それが、【錬金戦団】。

 個性を強化、または抑制することによって人々を助け、果ては人類の進化を目指そうという科学者の集団である。

 

 一年に及ぶ治験、否、実験の果てに。

 八幡の個性は強化され、八幡自身も強くなった。だが、

 

 

『ゴ、あ、アアアアアアアアアアア!!!』

 

 

 全力を出すためには、そうなった経緯である複合異形系へと変貌する必要がある。

 本来ならばそうカテゴライズされる個性は、日頃からその身体に特徴が浮き彫りとなり、そうそう形を換えることは無い。

 

 だが八幡は人の世に馴染むために、普段からある強化素材の力を借りることにより、己を抑制して『変貌』を強いている。

 変貌するたびに彼の身体は膨張し、それを抑制する強化素材によって合成した決して破裂することの無い防護服の内側で行き場が亡くなった肉体の一部が壊死し、破壊と再生を幾度となく繰り返すのだ。

 

 

 錬金戦団の齎した結果は、確かに成功と言えた。

 強化素材――、かつて歴史の陰に埋もれていった【賢者の石】と同等とされる【核鉄(かくがね)】と呼ばれる『それ』を扱う技術【武装錬金】によって、八幡の身体は漸くの結束を収めたのである。

 しかし、

 

 

 ――そもそもが、【ガイアメモリ】の精製と拡散を促したのは、件の錬金戦団であった。

 

 

 正しくはその中の『ある一派』の独断で行われた、大々的な実験の下準備であったのだ。

 戦団の大元は、それを把握したからこそ八幡のような『被害者』をいち早く見つけ出し、個性制御実験の一環として治験に採用することが可能であった。

 

 その事実を知り、錬金戦団から脱した一団がいる。

 

 それが、八幡が今も所属しているヴィジランテ集団、【モンスター軍団】である。

 

 

『変身……完了ッ!』

 

 

 漆黒のライダースーツに見える全身武装に自らを抑し込めて、膨張と圧縮と全筋肉神経の超硬化を果たした彼は前を臨む。

 怪物の名を課せられようと、自分たちはヒーローを目指すのだと。

 

 

 

  ■

 

 

 

 一時国際指名手配にまで至った複合個性集団、それが【モンスター軍団】である。

 錬金戦団から独立したそもそもの原因は、彼らが執り行っていた『実験』の被害者が多数を占めていたため。

 当初は錬金戦団自体が犯罪集団などではなく、その技術力で以てして世に平和を齎し貧困を駆逐しようという利他的な、戦闘配備なども碌に無い科学者の組織であったことが悪名の一助となってしまっていた。

 

 彼らは自身でその名を背負った。

 怪物と、呼ぶならばそれで良し、と。

 

 その大多数の『見た目』も相俟って、世界中のヒーローたちがかつての巨悪を打ち倒すが如くに彼らを追い立てた。

 其処に大きく抵抗を見せたこともまた、名乗りの一端であろう。

 

 錬金戦団の良識派が自らの行いを明け透けにし、罪を認めたことによって彼らへの手配やヘイトは収束したが、其処に至るまでの被害は、お互いに目を覆いたくなるような結果を残してくれた。

 

 

『モンスター軍団第8位、【毒竜・アジダハーカ】。戦いは好きじゃねぇが、負ける気もさらさらねぇ』

 

 

 比企谷は、そんな自分の『所属』を明らかにしたうえで、今年の雄英受験に赴いていた。

 当然、相澤も彼のことを把握している。

 そういうビッグネームを背負うのならば、その上でヒーローを目指すのならば、決して甘いことは吐かせやしない。

 

 黒いライダースーツのような恰好に覆われて、それが八幡の鋼のような肉体を晒すように主張する。

 体格は変身前と然程変わっていないはずだが、その『変化』に何かしらの強靭化が行われたのは明らかだろう。

 個性をアシストする道具の使用は、身体測定という名目上は本来禁止されるのだが、彼に関しては『一回のみ』の許可を相澤が事前に下ろしていた。

 

 

『往くぜ』

 

 

 遠投用のボールを手にする腕に、血管のような筋が迸るように張り巡る。

 

 そのまま大きく振りかぶり、その状態での全力を、彼は示した――。

 

 

 ―ポスン

 

 

「………………」

 

『………………』

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

 

 結果は――50センチ。

 

 すっぽ抜けたボールは、八幡の手元に力無く堕ちていた。

 

 

「……お前、退学な」

 

『お待ちください相澤先生ッッ!!?』

 




書き貯めを漁ったモノなので続きは評価次第です
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