もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
私はこの街の近くに居を構えた事はありませんが。
魚料理を堪能したりアリーナ及びペットアリーナで活躍したりと【ポートカプール】での滞在も長くなって来た源蔵であったが、腰を据えるという事は無く次の街へと旅立った。
それまでに歩いて来ていた街道とは違う道を行こうと、方向でいうと南へ歩く。
が、途中で東に曲がってから大回りした道は、一つになって【アクリ・テオラ】の近く辺りにまで来てしまった。
「なんだよ、結局繋がってんのかよぉ」
ぼやいた源蔵は遠くに【ヴェルニース】の街影が見えた事で、里心のようなものを抱いてしまった。
「あぶくちゃんたち、元気にしてるかなぁ。蛙ちゃんも、もふもふちゃんも、良い子にしてるかなぁ……」
思わず泣きそうになった彼だったが、「いやいや今は旅の途中だから!」と気を引き締めて、【ヴェルニース】には向かわずに再び南に折れて行く方の分かれ道に足を踏み入れた。
しばらく歩くと道は東、東に折れて行き、やがて懐かしい土の香りのする田舎街に来た。
散策しても、まさに「田舎街」と言えるような、のんびりした牧羊的な雰囲気の街だった。
「こんな田舎街にも、【ヨウィン】という名前があるんだ……」
声を掛けたトレーナーは、ゆっくりとした口調でそう言った。
どうも『トレーナー』という職業は、街ごとに必ず派遣されるものらしい。
「ついてっていい?」
その【ヨウィン】という街に入ってから、そう言って勝手に付いて来た小さな女の子がいた。
『グウェン』と名乗った彼女は無邪気にはしゃぎながら前に後ろにと彼に付き纏い、邪魔臭く思っている彼の態度には目もくれずに「あのね、赤い色が好きなの♪」と赤色の花を見付けて「わぁ、かわいいお花♪」と摘み取ったり、それを弄びながら「ざっつあ、ぷりてぃーふらわぁ」などと色々お喋りしていた。
無視していた彼だったが、構ってくれないと分かっても離れる事はせず、ひろゆきに話し掛けては一人ではしゃいでいる。
邪険にする必要もねぇかなと彼女の好きにさせていると、源蔵はある男とぶつかった。
「なんだ、ぬしは」
見た感じで言えば五十代半ばぐらいだと思われる、見上げる程の大男はねめつけるようにして無遠慮に源蔵を見回すと、馬鹿にしたようにこう言った。
「私は弱いものには興味がないのだ。フハハハハ!」
「なにをぉ!?」
彼は背を反らせて豪快に笑っている彼の背後に回りつつ胴に両腕を回し、組んだ。
が、いつものように〈ジャーマン・スープレックス〉を決めようにも、持ち上がらない。
「フンぎぎぎいぃ~~!!!」
「……。何をしようとしているかは知らんが、
筋骨隆々の大男な上にフルプレートの重厚鎧を着こんでいる彼は、恐らく相当な重量があるのだろう。
筋力には自信があった源蔵だったが、いくら踏ん張っても彼はビクともしなかった。
「……。ぜえっ、ぜえっ……!」
「弱いのぉ若造、私に勝ちたいならばもっと鍛えて来い。フハハハハハ!」
四つん這いになって息を切らせていた彼の背を、骨が折れるかと思う程平手で叩く大男。
源蔵はその勢いでべしゃっと地面に張り付いた。
それを面白がって、彼は更に豪快な笑いを響かせる。
ついでのようにグウェンまでもがきゃあきゃあと笑っている声を聞きながら、いつか必ずやり返してやる! と心に誓った彼であった。
「ポートカプール」から南へ南へと下って行くと「ダルフィ」に行けるんですが、そこは街道からかなり逸れておりますので、まだ今の源蔵さんには街道を離れて道なき道を行く勇気は無いだろうと考え、「ヨウィン」の方を先にしました。
ヨウィンに入る時に「村が見える」と表示されるので「村」の方が正解なのかもしれないのですが、住人は「田舎街」と言っていますので「街」の方を採用しました。
もしかしたら一般的には「村」なのに、住人だけが「街」だと思い込んでいるだけなのかもしれません。
「グウェン」ちゃんは意外に強いため、うっかりターゲットにしてしまうとかなり痛い目に遭います。
でも鍛えた冒険者にとっては美味しいお肉らしいです(笑)
大男さんは分かる人にはすぐに分かるでしょうけれども、分かったとしてもまだばらさないで下さい。