もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】   作:沙希斗

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「ヨウィン」でのサブクエストの一つ。
ここで「戦士ギルド」で指定してもらった事が役に立ってます。


見習い騎士×イークの洞窟

 

 

 

 大男のオッサンに負けた源蔵は、【戦士ギルド】に入って本格的に鍛えた方が良いのでは? と考え始めた。

 そもそも闘ってすらいない(彼が勝手に〈ジャーマン・スープレックス〉を決めようとして単に持ち上げられなかっただけ)のだが、自信のあった自分の筋力が通用しなかった事が悔しかったのだ。

 ここに来る前の世界でも体を鍛える事は習慣になっていたのだが、今までよりももっと鍛えるには、やはり自己流よりも専門的な所へ行った方が良いのではと思った。

 

 ちなみにオッサンには『ギルバート』という名前がある事、更には軍人であり、〈大佐〉という階級である事を住人に教えてもらった。

 けれども彼は寛大な性格らしく、大佐であるという事を偉ぶりもせずに分け隔てなく住人とも接していたので、「大佐」と呼ばれている以外にも親しみを込めて名前で呼ばれる事もあった。

 子供には「おじさん」と呼ばれて時には遊びに誘われたりもしていたようだった。

 しかし「おじいさん」と呼ばれると、子供相手でも流石に怒るらしい。

 

 なので源蔵は「オッサン」と呼ぶ事にしていた。

 ただしそう呼びかける度に「大佐と御呼びしろ!」と部下の者に窘められた。

 

 彼は寛大ではあるのだが、闘える能力のある者。すなわち軍人や戦士紛いの冒険者を見掛けるとその戦闘能力を計っては、自分よりも劣ると分かると馬鹿にするような態度を取る傾向があった。

 しかし彼らが鍛えて出直したり、それに相応しい名声を手に入れたりしている者は認め、その努力をたたえていた。

 それは大佐に就いているという、いわば職業病のようなものなのか、それとも彼が信仰しているという『地の神オパートス』の影響なのか、はたまた元から戦闘好きでそうしてしまうのか。

 そんな様子を見ながらそう思った源蔵だったが、考えるだけ野暮だなとそれ以上の詮索はしない事にした。

 

 

 

 さて、そんな中、ある家からうなされて叫ぶような声がした。

 

「イィッック! やめて、くるなぁー! イィーック!」

 

 丁度通り掛かった源蔵は、何事かと開いていた窓から覗いた。

 そこにはボロ毛布を羽織って怯えている若者がいて、彼に気が付くとハッとした。

 

「失礼しました」

 

 一応落ち着きを取り戻した彼は、「あなた……見たところ強そうですね。私に力を貸してくれませんか?」と次のように訴えた。

 

「騎士昇格のための試験で、イークの首領を討伐しなければならないんです。私には、荷が重い使命ですよ……」

 

 そう言いながら思い出したのだろう。彼はまたもや抱えた膝をガタガタと震わせながら「イーク……うわあああ、ダメだ……」と怯えた表情になった。 

 

「お願いです。私の代わりに倒してきて下さい。こんな試験、私にはできっこないんです」

 

 縋る様な眼差して見上げられたのを断ろうとしたら、「イィーック!」とまたもや彼は叫び始めた。

 そこで源蔵は思い出した。

 確か戦士ギルドの番人『ドリア』に、「イークの戦士十五匹を討伐して来い」と言われていたなと。

 

「……よし、任せろ!」

「ホントですか!? 助かりますっ!」

 

 見習い騎士『アインク』と名乗った彼は途端に顔を輝かせて「彼ら」の住居を教えると、「頼みますよ」と切実な顔をして源蔵の手を両手で握った。

 

 

 

 試験に使うという【イークの洞窟】は、街を出てすぐ西にあった。

 こんな目と鼻の先にある場所にあって、よく街が襲われないなと危惧したが、被害に遭ったという話は聞かなかったし、恐らく今は軍の駐留地になっているので相手も警戒しているのだろうと思われた。

 

 入って行くと途端に殺気が走り、イークと思われる小人が次々に出て来た。

 

「ニンゲン」

「ニンゲンキタ」

「テキ」

「コロス」

「テキコロス」

 

 多分そんな事を言っているのだろうなと口々に何か喋っているのを聞きながら息を吸い、彼はこう呼ばわった。

 

「この中で一番強ぇ奴、出て来いやあぁ~~っ!!!」

 

 洞窟全体に響き渡った雄叫びに、「彼ら」はたじろいだ。

 おずおずと顔を見合わせている内に、叱る様な声が上がった。

 

 奥から出て来たのは、赤く派手な服を来たイークだった。

 

「お前かあぁっ!」

 

 そう聞く源蔵に向けて、「彼」は何事か言いながら腕を振った。

 途端にそこにいたもののみならず召喚されたと思われる様々なイークたちが次々に襲って来た。

 しかし逸早く首領と思われる「彼」に近付いていた彼は、いきなり飛び蹴りを食らわせた。

 吹っ飛んだ「彼」は鍾乳石にぶち当たり、それきり動かなくなった。

 

「安心しろ。気絶しているだけだ」

 

 騒めく「彼ら」にそう言うと、「彼ら」は何事かを言いながら、源蔵に向かって一斉に跪いた。

 

「なんだぁ!?」

 

 困惑した源蔵に、気が付いて起き上がって来た「彼」が片言で説明し始めた。

 

「ワレラノオウ」

「オウって……、もしかして王様の事か?」

「ソウ。アナタ『るーどるぼ』タオシタ。ダカライマカラワレラノオウ」

「ルードルボというのは、お前の名前か?」

「ソウ。ワタシるーどるぼ」

「要するに、今いる王を倒せば次の王が決まるという仕組みになっているのか?」

「ソウ」

「……。うぅ~~む」

 

 イークの王になる気などさらさら無い源蔵は、しばらく考えてからこう答えた。

 

「分かった。では命令だ。これからも王はお前がなれ。それからすぐ近くにある街【ヨウィン】には、一切悪さはしない事。出来れば住人とも仲良くする事」

「オウデナイナラバ、デハ『きんぐ』トヨンデイイカ? オウニカワルヨビナガホシイ」

「源蔵で良い。そんな肩書はいらん」

「デモナマエデヨブノハキガヒケル」

「……好きにしろ」

 

 

 

「……おお、無事にイークの首領を討伐してくれたのですね」

 

 帰るとアインクはたいそう喜んで、「これで晴れて立派な騎士になれます。本当にありがとうございました」とお礼の品をくれた。

 包みの中には金貨五千枚とプラチナ硬貨三枚。それに茶色い革で作られた靴が入っていた。

 

「『★ダル=イ=サリオン』というアーティーファクトです。旅歩き、器用のステータスを上げる効果を持ち、ワールド移動の速度が速くなります。後は呪い保護も付いています」

「そんな良い靴を、貰って良いのか?」

「あなたにはそれだけのお礼をする価値がありますから」

 

 彼はそう言って、少しだけ寂しさを漂わせるような、それでも満面な笑顔を源蔵に向けた。

 

 

 

 

 




オッサン(ギルバート大佐)の細かい性格はゲーム内でも作者のホームページ内でも書かれていないんですが、「大佐」というお偉いさんであるにもかかわらずこんな田舎街まで来ている事。
後ろに控えて命令しているというよりは、むしろ自ら前線に立って戦っているようなイメージがある事。
(ただし実際に戦闘を持ち掛けると「我らは剣に頼るのみ」とか言ってたくせに銃で逃げ撃ちしやがりますが)
「ジューア解放軍」を率いてあちこち遠征に回っている様子である事などを考えると、きっと寛大で、大勢に慕われるような性格なんだろうなと私が勝手に想像してこんなふうに書きました。

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