もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
初見殺しのクエストですが、彼にとってはこれ程相応しいものはないと言えるかもしれません。
【戦士ギルド】へ報告に行く前に宿屋に寄った源蔵は、そこでこんな声を聞いた。
「猫はどうしてあんなに恐ろしいのだろう」
「あぁん? それは聞き捨てならんなぁ」
そんな事を言いながら目を細めて近付くと、金髪の青年(『タム』と名乗った)は怯えたようにこう言った。
「その目をやめて下さいっ! 細い目が苦手なんですぅ」
そうしてこんな事を言い始めた。
「あなた、猫は大丈夫ですか? いえね、私は猫が大の苦手なんですが、こともあろうに、私の家に大量の猫が住み着いてしまったんですよ」
彼は困り果てたような顔をして、更に続けた。
「そこで冒険者さん達に猫の退治を依頼しているものの、何故か誰も帰ってこない……。いったい、家の中はどうなっているんでしょうか。あなた、もしよかったら見てきてくれませんか?」
聞いている途中からにやけ顔になっていた源蔵は、「もちろんっ♪」と弾んだ声で答えた。
「おお、ありがたい。家は南の畑の近くにあります。中にどんな猫がいるのかわからないので、充分気をつけてください」
「おう! 任せろ♪」
源蔵はウキウキしながら彼の家に行った。
何故か地下にあった家に入ると、沢山の猫が迎えてくれた。
「あはぁ♪ もふもふが一杯いるぅ♪」
それを一匹ずつ愛撫しながら進んで行くと、扉の向こうから『ガルル……』というような低い唸り声が聞こえた。
一応気を付けながらドアを開ける。
そこにいたのはなんとライオンだった。
「わぁ♪ おっきなもふもふちゃんもいるぅ♪」
怯えるどころか大喜びで抱き付く源蔵。
いきなり抱き付かれて戸惑った相手は、撫で回されている内にやがて大人しくなって、飼い猫のように喉を鳴らし始めた。
そんなのが部屋中にいる。
しかも額に赤い宝石を飾ったような、白灰色で普通の猫よりも耳の長い、変わったものもいた。
「ニャアって言ってるって事は、君も猫ちゃんなんだよね? こっちおいで♪」
抱き寄せると、何故か彼は混乱した。
どうやら見た者もしくは触れた者を混乱させる能力があるらしい。
しかしふらふらとあちこちにぶつかったりしながらも、彼はその変わった猫を手放す事は無かった。
回復した源蔵は、壁を壊しながらやって来た大きな【猫】を見た。
それはライオンに似た体付きをしており、病的な女の顔を凶悪にしたような頭が付いていた。
背中にはコウモリのような翼が生え、尻尾はなんとサソリの尾。
そんないろんな動物が合体したかのような姿のものが、高速で移動しながら様々な猫の仲間を召喚しているようだった。
「つっかまえた♪」
目まぐるしく動き回っている「彼女(恐らく雌だろうと思われる)」を、彼はすぐ近くに寄った所を見計らって捕まえる事に成功した。
「にぎゃあっ!?」
相手はまさか捕まえられると思わなかったのだろう。明らかに驚いている。
「よしよし、良い子ちゃんでちゅねぇ。ほらほらぁ、ここ気持ちいいだろぉ♪」
戸惑って暴れていた「彼女」は、撫で回されている内にうっとりとなっていく。
「ライオンのもふもふとぉ、虫の尻尾の硬い感触とぉ、コウモリの羽のぺたぺたした感触とぉ……。一頭でいろんな触り心地を楽しめるねぇ君は。素晴らしい子だねぇ♪」
「ニャア……ァ」
すっかり身を委ねるようになったのを満足するまで撫で回し、充分に堪能してから「ちょっと待っててねぇ」とタムの家を出て行く。
「なんと、猫使いなる魔物が住み着いていたのですか」
報告すると、タムはそう言って驚いた。
「いやぁ、猫退治なんて軽い依頼ではなかったですね」
笑って誤魔化している彼に、源蔵は「そうだな、とても良い依頼だった♪」と答えた。
タムは何言ってんだこいつというような顔をしたが、気を取り直したようにこう言った。
「私の家で亡くなった冒険者さん達も、あなたのおかげで浮かばれるでしょう。どうぞ、お礼を受け取ってください」
渡されたのは二万五千五百枚の金貨と四枚のプラチナ硬貨。
それに【素材鎚】と呼ばれている物の一つで龍鱗製の物。
素材鎚とは武器の素材を変化させられるハンマーの事なのだが、しかるべき技術を持っている者でないと変化させられないという。
普通の武具は【素材変化の巻物】という魔法の掛った巻物を使えば変化させられるらしいのだが、《神器》という銘が入っている物はこの素材鎚でないと希望する素材に変化させられないのだとか。
つまり、彼から貰った素材鎚は、龍鱗という素材にのみ変化させられる道具である、という事だった。
「龍鱗という素材には火炎と冷気の耐性が付きます。悪い素材ではないですよ」
「ふぅん」
興味無さげに返事をした源蔵は、「宿屋の方が居心地が良くなったから私の家は倉庫代わりに使って良い」とタムが言うのでそこに保管して置く事にした。
気軽に受けた冒険者が屍を晒す事は数知れず……。というサブクエの一つでもあります。
ちなみにレベル25相当のものらしいのですが、とてもそのレベルでは太刀打ちできないぐらいキツイです。
ただ強いペットを複数連れていて、尚且つ「彼ら」を鍛えていれば数の暴力でレベル25以下でもクリア出来なくはないと思います。
「彼女」は『猫の神ケシー』という女の神様らしいので、「女の顔」という表現を使いました。
ですが実際(ゲーム内のグラフィック)は男女の区別が付かない凶悪な顔をしています。
見た目だけで判断すると、恐らく「マンティコア」と呼ばれている魔物の一種なんだろうと思います。