もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
「……。誰が全部連れて来いと言った?」
【ポートカプール】まで再び出掛け、戦士ギルドの番人『ドリア』の所へ報告しに行った源蔵は、そんな言葉で迎えられた。
何故なら証拠として、イークの戦士十五匹を連れて来ていたからである。
「いやだって、証拠が無いとと思って」
「私は『討伐して来い』と言ったはずだが? 何故首ではなく生きた個体を並べているのだ?」
「こいつらはもう俺の手に落ちている。つまり討伐したのと同じなのだ!」
「……そんな屁理屈が通用するとでも思っているのか?」
威圧のある自身のオーラを
「ワレラオウマモル!」
「オウ二テヲダシタラコロス!」
その剣幕に、流石の彼もたじろいだ。
「分かった。合格という事にしてやろう。今日からお前は戦士ギルドの一員となった。以降はギルドの規約を守り、ノルマをしっかりこなすように」
「ノルマってのは?」
「良い心がけだ。ランク昇格のためのノルマを与える。まだら蜘蛛をあと四匹討伐してからまた来い。昇進のための審査会に報告してやる」
「え~、またケモノじゃないのぉ?」
「だから我儘言うなと言うのに!」
ぐちぐち言いながらも、取り敢えず今まで通せんぼされていた地下に下りてみる。
そこには戦闘練習のための広場があり、同僚または先輩にあたる戦士ギルドのメンバーが何人かいて、体を鍛えたり立ち回りなどの練習をしたりしていた。
「見ねぇ顔だな。新入りか?」
「まあ、そんなとこだ」
「えらくペットの数が多いなぁ。しかもイークばかりじゃないか。お前はイークマニアなのか?」
「こいつらはペットじゃなくて――」
「ワレラハオウヲマモルモノダ」
「オウノタテニナルモノダ」
「どういう事だ?」
「えっと……。やっぱ面倒臭いからペットで良いや」
ギルドの中にはいくつかの部屋があり、鑑定専門の魔術師、【癒し手】と呼ばれている能力復活を担う魔術師、トレーナー、武具店が備えられてあった。
一つだけ特別な部屋があって、そこにギルドマスターが常務しているという事だ。
「挨拶しとけよ」
メンバーにそう言われて訪ねたら、女性だった。
「『フレイ』様、新入りだそうです」
近くにいた一人にそう声を掛けられた彼女は、しかし一瞥しただけで無視した。
なんだかムッとした彼ではあったが、恐らくノルマをこなしていって昇格しないと眼中には入れてもらえないのだろう。
「さて、腕試しといこうか」
戻ると広場に案内され、先輩方に囲まれた。
その内の一人が進み出て構えた。
ならばとこっちも構える。
雰囲気を察したイークの戦士たちも身構えたが、源蔵に「お前らは手を出すな」と言われて引き下がった。
「用意は良いか?」
頷くと向かって来たので胸で拳を受ける。
相手はまさかまともに受けられるとは思っていなかったという驚愕の顔になっている。
内心肋骨が折れるかと思ったがそれを隠してニヤリと笑った源蔵は、お返しだと背中に肘をめり込ませて相手の体勢を崩し、抱えて投げる。
壁にぶつかる前に空中で器用に反転した相手は、着地の足をそのまま蹴り出して戻って来た。
その勢いのまま飛び蹴りの姿勢になるのを横様に抱え、一旦頭上に持ち上げてから落とす。
激闘の様子に見ているメンバーやイークたちも興奮し、声援を送ったり熱くなり過ぎてお互いに訓練試合をやり始めたりする者も出て来たりして、賑やかになった。
結局、その決着を付けたのは先輩の方だった。
ただし惜しい所で源蔵が負けた、という勝ち方だった。
どうにか先輩のメンツを保った彼は、絶え絶えの息を無理矢理抑え付けながらこう言った。
「これからも……。この調子で、精進、するように……」
こんな風に、彼はノルマをこなしつつ、先輩方に鍛えてもらいながら【戦士ギルド】の役割を務めて行った。
ノルマがケモノじゃないのとケモノの時とでテンションが明らかに違う彼の様子にギルドメンバーは引いていたが、それよりも討伐相手を一切殺さずに手懐ける手法に呆れかえっていた。
それをノルマ達成として見るかどうかという事が会議にすら掛けられたが、必ず与えられた数は満たしているし、彼が手懐けた魔物たちは被害を起こさなくなる、という報告が入るため、彼特有のものとして特別に達成という事にしても良い、という事になった。
彼だけ特別なのはどうかとも思ったんですが、こうでもしないとノルマ達成になりませんからねぇ。
あ、昇格のためのノルマとして言われた「まだら蜘蛛四匹」は、実際に最初のノルマとして言われたものを採用しています。
ちなみに次は「ニンフ二匹」でした。