もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】   作:沙希斗

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サブタイトルの間に「×」が付いているのは、アニメがそうなっていたからです。


レスラー×炭鉱街

 

 

 

 ラーネイレに「南に行け」と言われた彼なのだが南がどっちだか分からない。

 だが馬車でも充分に走れそうな広い街道が続いていたので、多分こっちだろうと適当に見当を付けて進んで行く。

 現代人である彼、つまり柴田 源蔵はここで『車が通れそうな』という言葉がまず思い浮かんだのだが、二人の服装やいきなり移動していた他の場所が帆船だった事から、車社会及び現代科学が成り立つ世界では多分ないのだろうと判断したのだ。

 

 

 程なくして街らしきものが見えたので、【ヴェルニース】とかいう所じゃなくてもとにかく入ってみようと街門へ。

 

 と、紋章を付けた甲冑に身を包んだ兵士らしき者に呼び止められた。

 

 確かに今の彼はレスラーとしての試合の最中に移動した(させられた?)せいもあって、周りから見ればパンツ一丁にただブーツを履いただけの変態に見えるかもしれない。

 【ケモナ―マスク】としての覆面と手袋(ケモノを模した爪の付いた物)、赤いマントは取っていたが、それ故にムキムキマッチョの裸体を惜し気もなく晒す、という格好になっており、傍から見ればガタイのやたら良い者が追い剥ぎにでも遭ったと思われるだろう。

 

 それでもしつこいぐらい入念な尋問をされたのに怪訝な目で見ていたら、兵士はこう言った。

 

「ザナンの皇子が游説に来ているのだ」

 

 その言葉通りの人だかりが街の一角に出来ており、遠目でもやたら白い肌の目立つ皇子とみられる人物が、従者とみられる者に寄り掛かりながら演説していた。

 弱々しくもたれている様子で元々病弱なのだろうとは思われたが、それを抜きにしても肌が白過ぎる。

 恐らく『白子』と呼ばれる色素欠乏症(アルビノ)なんだろうと源蔵は思った。

 

 だがいかに皇子といえど演説などには興味が無いので無視して進む。

 すると懐かしい鳴き声が聞こえた気がして思わず歩みを止めた。

 この声を聞き逃すはずがない。まさかと首を巡らせている彼の元に、遠くから嬉しそうに走り寄って来る薄茶色の小さな塊が見え――。

 

「ひろゆぎいぃ~~~!!!」

 

 彼は涙どころか鼻水まで垂らした情けない顔で、鳴きながら飛び付いて来た小型の雑種犬を抱き締めた。

 大の男が顔をぐしゃぐしゃにして大泣きしているのを見て周りが引いているが、そんな事はお構いなしである。

 

 そう、駆け寄って来たのは彼の相棒、【ひろゆき】だったのだ。

 

「じ、じんばぃじだんだよおぉ、難破じだどぎにもうじんぢゃっだのがど思っでえぇ。ほんどによがっだあぁ……!」

 

 涙声でそう訴える彼の顔を舐め回すひろゆき。

 どうやら【彼】も無事に逃げ果せて偶然にもこの街に辿り着き、彼を見付けたらしい。

 いきなり見知らぬ街にやって来て不安だった源蔵は、これで元気を取り戻した。

 

 

 ひろゆきを連れて街を散策すると、至る所にトロッコやそれを動かすレールなどが備え付けてあった。

 という事は、やはりここは【ヴェルニース】であるらしい。

 一応通りすがりの者に確認すると、「ヴェルニースにようこそ!」などと歓迎された。

 変態のような彼の格好には誰も気にするふうも無い様子。

 誰かが追い剥ぎに遭うなどという事は、この世界ではどうも日常茶飯事らしい。

 

 途中でキランと光る物が見えたので、もしや金の欠片かと拾ってみると小さなメダルだった。

 最初コインの類いかと思ったが、住民に聞くと「こんなコインは流通していない」と言われた。

 

「確か、どこかでそれを集めている人がいるとか聞いたなぁ」

 

 そんな話を聞いた彼は、ならば見付け次第集めて取って置こうと決めた。

 

 街では雑貨屋、武具屋、宿屋、魔法書や巻物などを主に扱う魔法店、酒場と交易品を扱う店、パン屋、釣具店など様々なものを扱う店が並んでいた。

 どこの街もこんなものなのかと思ったが、この街が炭鉱で栄えているから店や品揃えが充実しているのであって、店が揃ってない街もあるのだという。

 

 パンツ一丁のままでもあれなので取り敢えず着る物をと思った彼だったが、何分先立つものが無い。

 そこで「お金を稼ぐ手段はないか?」と尋ねると、こんな答えが返って来た。

 

「各街には【掲示板】があってね、そこで色んな要望や依頼を書き込む事になっているんだよ。それを見て主に冒険者がお金を稼ぐ手段にしているから、君もそれを利用すれば良いんじゃないかな」

 

 どれどれと掲示板の方に行こうとしたら、「難解なものも含まれているから今の技量に合ったものを受けた方が良いよ。でないと失敗したらペナルティーとして〈カルマ〉が下がるからね」と注意された。

 カルマというのは〈業(ごう)〉の事で、要するに盗みや殺人など悪い行いをすると下がるものの事らしい。

 よく分からないがこの世の神様が見ており、それが下がり過ぎると【犯罪者】として扱われるのだとか。

 犯罪者になると【ガード(街を護るために派遣された兵士)】に追われ、捕まって牢獄に入れられたり攻撃されて殺されたりするのだとか。

 それだけでなく一般的な店でも品物を売ってもらえなくなるらしい。

 

「分かった。注意するよ」

 

 掲示板に近付くと鈴の音と共に【ノルン】が現れて説明しようとしたが、無視して書き込みを見る。

 文字が分からないので仕方なく大体の事を彼に聞くと、こんな依頼が貼ってある事が分かった。

 

『畑を荒らす魔物を退治して欲しい』

 

 魔物という事はぁ、もしかしたらケモノなのかなぁ♪

 

 そう考えた彼は、一応注意して難易度の低いものを受けてみる事にした。

 

 

 

 

 




アニメでも最初「(召喚先の)文字が分からない」という設定になっていましたので分からない事にしましたが、第一話冒頭の「クイーン・セドナ」という船名は偶然読めたという事にしております。
言葉の違いもあるはずなんですが、ここは「お約束」にして置く事にします。

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