もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
ネフィアに潜る事が多くなったある日、【脱出の巻物】で外へ出て来た源蔵は、やたらと風が強くなっているのを知った。
ちなみにこの世界の文字が読めるようになった彼は、ネフィア内で偶然見付けて読んだ際、その効果が便利だという事を学習して以来、【脱出の巻物】【帰還の巻物】という魔法の呪文が書かれてある巻物は利用する事にしていた。
「エーテルの風だ……」
恐ろし気な様子で現れた【ノルン】の説明を聞きながら、とにかく近くの街に避難しようと急ぐ。
あまりにも強い風なためなのか、背中を押されていつもよりも早く歩が進むのは面白いなと思った。
この風が吹くと魔物たちも狂暴になるのか、暗黙の了解のように街道付近には殆ど現れなかった「彼ら」が積極的に襲って来るようになった。
しかも『ユニーク』と呼ばれている、同じ種類だが通常よりも強い個体が多くなっている気がする。
それらをケモノであれば片っ端から愛撫し、そうでなければ無視するかあまりにしつこければプロレス技で気絶させながら進む。
幸いにと言うのか街からそれ程離れていないネフィアだったのもあったからなのか、自身には何の異常も感じずにポートカプールに着く事が出来た。
急いで帰ったせいか眠くなった彼は、宿屋でシェルターに入る事をすすめられたのを無視し、安物ベッドに体ごと投げ出すと、そのまま寝た。
ノルンに「屋内に非難しろ」と言われていたのもあって、室内ならば安全だろうと思ったのだ。
目覚めると、なんとなく視界がおかしい。
気のせいかな? と思いつつも腹の上で寝ていたよしゆきに「おはよぉ♪」と挨拶すると、「彼」は源蔵を見るなり怯え、大慌てで家具の陰に隠れて震えながら吠え始めた。
「どうしたんだよ!?」
ただならぬ様子にもしや魔物でも入り込んだかと見回したが、そんな気配は無い。
訳も分からずまぁ顔でも洗うかと洗面台の鏡を見た彼は、「ぎょええぇ~~!!!」と素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「どど、どうしたんですか!?」
慌てて支配人が駆け付けて来たので「こ、ここ、これ……」と震える指で鏡に映った自分を指差す。
が、彼は驚きもせずに源蔵に向き直り、言った。
「あぁ、エーテル病で目が四つになったんですね」
「どど、どうすりゃ良いんすかこれぇ!」
「そう慌てなさんな。エーテル病はすぐ死ぬような病気ではありません。ただし少しずつ進行して最後には死に至る病気ではありますがね。ですがそんなふうに姿が変わる事もありますので、それが嫌ならエーテル抗体のポーションを飲む事ですな。それが唯一の方法です」
いつもある事だというような感じで笑って去って行った支配人の背中を見送りながら、源蔵はこんな時のために買うのをやめてくれたんだなと、エーテル抗体ポーションを手元に残してくれたあの時の店員に感謝した。
バックパックの奥底に大事に仕舞っていたポーションを引っ張り出し、栓を開ける。
この世界の薬品が果たして自分に合うのかという思いが過ったが、意を決して一気に喉に流し込む。
と、強い酒を飲んだかのように一気に体が熱くなり、それに悶えている内にすうっと火照りが消えていった。
「……。はぁ、はぁ……」
多少喘ぎながらそろそろと鏡を覗いてみる。
目の数が、正常に戻っていた。
ホッと息を吐いてからひろゆきを迎えに行くと、尻尾を振りながら毬のように飛んで来た。
「ごめんなぁひろゆきぃ、怖かったなぁ」
謝りながら抱いたまま宿屋を出ようとすると、支配人はこう注意した。
「エーテル病は風が吹いた時だけじゃなく、病気を促すモンスターの攻撃、【エーテル】という素材で出来た武具、それと、少しずつ蓄積していくエーテル物質によっても発症しますので、いつ何時発症してもおかしくないように抗体ポーションは常に持って置いた方が良いですよ」
「分かった。心に留めておくよ」
今回自分がエーテル病になり、しかも姿が変わった事でひろゆきを怯えさせてしまったのがショックだった源蔵は、抗体を手に入れたらもし金に困っていても売らないで置こうと硬く心に誓ったのであった。
「エーテル病」というものは、「第十一文明のシエラ・テールを生きる生命体は、例外無く体内にメシェーラが存在する」という条件で、「エーテルを浴びることによって体内のメシェーラが減少/暴走して発症する」という病であるらしいです。
なので異世界の人間である源蔵さんがこの病に罹るには、「メシェーラを宿す生命体を体内に取り入れる」必要があるのだとか。
したがって、彼の場合は「食事による生命体(野菜、アピの実、肉など)の取り込みで発症した」という設定にしております。